暗い宇宙を切り割いて、破滅をもたらす光が世界を輝かせた。
しかし、その光は人々の希望とはならず絶望で宇宙を染め上げる。
『艦長!』
『回避ー!』
『間に合いません!!』
『アズラエル様!』
『……っ!』
地球連合軍の艦隊の中央部を切り割いたジェネシスの光は、多くの宇宙戦闘艦を誘爆させ、多くの命を散らしてゆく。
そして、地球連合軍艦の約半数を宇宙のゴミへと変えた。
『これが……ジェネシス』
『これほどか』
そのあまりにも凶悪な威力に味方であったハズのZAFTの兵士すら、呆然と宙域を見つめている事しか出来ないのであった。
しかし、そんな彼らに一つの声が降り注ぐ。
『我等……勇敢なるザフト軍兵士の諸君』
『傲慢なるナチュラル共の暴挙を、これ以上許してはならない。プラントに向かって放たれた核、これはもはや戦争ではない! 虐殺だ!』
『このような行為を平然と行うナチュラル共を、もはや我等は決して許すことは出来ない!』
その声に、ユニウスセブンから続く怒りを思い出したZAFTの兵士たちは怒りのままに武器を持って撤退を始めた地球連合軍艦を追う。
『クラズドビッツ! 応答せよ!』
『LSSをやられてるんだ!緊急着艦の許可を!』
『艦長……!』
『大佐!』
「うろたえるな! 残存艦の把握を急げ! 旗艦ワシントンはどうなっている!」
「ワシントンの識別コード消滅しています」
「クルック、及びグラントも応答ありません」
「くっ!」
「アズラエル様。一度撤退を!」
「あぁ……! 分かってるよ! 撤退だ!」
「信号弾撃て! 残存の艦隊は現宙域を離脱する。本艦を目標に集結せよ!」
「アンチビーム爆雷発射!」
「取り舵40!」
『うおぉぉ!』
『よくも再び核など!』
『逃がすものか!』
撤退しようとしている地球連合軍の部隊に対し、ZAFTの兵士たちは攻撃を繰り返し、一つ、また一つと命を散らしていった。
その行為に何の疑問も持たないまま、ただ憎しみのままに彼らは銃口を向け、憎しみと銃弾を放っていた。
しかし、そんな行為をキラが許すはずもなく、キラはミーティアから分離したフリーダムを加速させ、地球連合軍へと迫るZAFTの部隊の武装やメインカメラを狙撃する。
「止めろ! 戦闘する意志の無い者を!」
『邪魔立てするなぁぁああ!!』
「くっ!」
『キラ様と言えど、この憎しみ! 止めさせはせん!!』
メインカメラが破壊されようと、憎しみに支配されている彼らは止まらず、ひたすらに地球連合軍を追う。
そんな彼らにキラは強い悲しみを覚えながらも、武装を破壊して動きを止めようとするのだった。
しかし、憎しみの連鎖は止まらず、ZAFT兵は撤退する地球連合軍へと向かった。
次から次へと部隊が、宇宙艦が、モビルスーツが集まり、その憎しみは海の様に押し寄せる。
全てを破壊する為に。
『フリーダム! ジャスティス! 戻れ! これ以上は無理だ!』
「でも!」
『キラ! お前まで飲まれるぞ!』
「それでも! 僕は!」
キラは目尻に涙を浮かばせながら、それでもと叫び、ひたすら迫りくるモビルスーツを止めようとした。
機体に被弾しながら、それでもと。
そして遂に、キラが抑え込んでいた波がフリーダムを超えてその向こうへと流れ込んだ。
「あぁ……! 駄目だ!」
『ナチュラルがぁぁああ!!』
『う、うわぁぁああ!!』
だが、地球連合軍へと迫るZAFTのモビルスーツは不意にその動きを止めた。
そして、その機体だけでなく、続く多くのモビルスーツが動きを止め、宙域に漂い始める。
「……これは!?」
何が起きたのかと周囲を見渡すキラの前に現れたのは白亜の機体。
輝く様な虹色の光を放ちながら舞い降りた天使……『ホープ』であった。
『争いを止めて下さい』
「セナ!」
『この声は、セナ様!?』
『何故、奴らの味方をするのですか!?』
『ナチュラル共の味方をするのか!』
多くの怒りを小さな体で受け止めながら、セナは言葉を繰り返す。
『憎い、許せないと銃を向け、撃った先に得られる者など何もありません』
『奴らは核を撃ったのだぞ!』
『そうだ! 殺されるべきだ!』
『そうであったとしても、ジェネシスを撃ってしまったあなた方も同様の罪を背負っています。どちらが悪いという事はありません』
セナはハッキリと告げる。
誰もが直視したくないであろう事実を。
『この戦場にいる全ての者が等しく罪人なのです。誰にも、人を裁く権利などありはしません』
そして、地球連合軍が撤退した事を確認してからホープは地球連合軍が去った方へと、通常のモビルスーツでは決して追いつけない早さで去ってゆくのだった。
己が為すべき事の為に。
宇宙要塞ヤキン・ドゥーエ周辺宙域から離脱した地球連合軍は、残存戦力の把握を急ぎながら月へと増援と補給の依頼をしていた。
「くそっ! コーディネーター共め!」
「……ジェネシスですか。厄介な兵器を作られましたね。地球を直接攻撃出来る兵器とは……なんと野蛮な」
「まったく! ふざけた話だ! 連中は結局最初から和平なんて考えてなかったのさ!」
「我らは大きな過ちをしてしまったのですな。連中が言葉の通じる種族である等と……! 最初から全て滅ぼしていれば良かった。キラ姫やセナ姫の言葉すら、奴らにとっては利用価値のある時間稼ぎだったという事なのでしょう」
「サザーランド大佐! 部隊の最編成にはどれくらいの時間が掛かる!」
「三時間ほど頂ければ……!」
「では、頼む……! 月からの増援は遅れるが、我々が先に先制攻撃だ」
「承知いたしました」
「アレは破壊しなくてはならない……! 絶対に! 地球が撃たれる前に!」
アズラエルは宇宙の向こうに見える巨大な兵器を見据えながら言葉を荒げた。
強く激しい憎しみに身を焼きながら。
そして、そんなアズラエルに通信士から報告が届いた。
「艦長! アズラエル様! セナ様より通信です!」
「セナ様から?」
「繋げ!」
「は、はい!」
ややしてからブリッジの前方にあるモニターにセナが映る。
報告にあった『ホープ』という機体に乗っている姿で。
『お久しぶりです。アズラエルさん。サザーランドさん』
「あぁ。そうだね。でも、残念だけど、今は再会を喜んでいる余裕は無いんだ……! 話はプラントを全て消してからだよ」
『アズラエルさん。停戦をしては下さいませんか?』
「なに……?」
アズラエルは不愉快という言葉を顔に貼りつけながら、モニターのセナを見やった。
以前から何度も聞いていた言葉ではあるが、久しく聞いた言葉に苛立ちが募る。
「そんな事出来る訳が無いだろう!? あんな物を見せつけられて! 戦うなだって!?」
『ジェネシスの事は、私が何とかしますから。どうか……! 戦わない道を』
「セナ。僕は今こんな状態だけどね! 気付かないとでも思ったか?」
アズラエルはやや荒い口調でセナを責めた。
その言葉の矛盾を。
「さっきの警告。本当はもっと早く出来たのだろう? でもギリギリになったのは、ギリギリまでジェネシスを止めようとしていたからじゃないか?」
『……!』
「しかし、それが出来なかったから、君は直接僕らにメッセージを送った。そうだろう?」
『それは……!』
想像していたよりも冷静に指摘するアズラエルにセナは言葉を詰まらせてしまった。
そして、それはアズラエルの言葉が正しいという事の証でしかない。
「良いかい? セナ。連中は君やキラが考えている様な『良い人たち』って奴じゃないんだよ。人類の敵だ!」
『そんな……! 人は分かり合う事が……!』
「あぁ! 分かり合ったよ! 長く争っていた地球の国家は、コーディネーターという人類共通の敵を倒す為に一つとなった。そして、今、ここで! 命をかけて戦っている!」
アズラエルの言葉にセナはそれ以上何も言えず、グッと言葉を飲み込んでしまう。
そして、そんなセナにアズラエルはある男へ指示を出した。
「ネオ・ロアノーク! 仕事だ! セナを捕獲しろ」
『了解』
『っ!?』
地球連合軍艦隊から少し離れた場所で通信をしていたホープは、宇宙が揺らめく気配を感じて、スラスターを吹かせた。
が、相手のモビルスーツも決して鈍くはなく、ホープに接近してその姿を晒すのだった。
「これは!? ミラージュコロイド!」
『お会いする日を楽しみにしておりましたよ。セナ様!』
「貴方は!」
ストライクとほぼ同じ見た目をした漆黒の機体は、ミラージュコロイドを解除しながらホープの両腕を掴んだ。
そして一気にスラスターを吹かせて近くにある小さな岩の塊へとホープを叩きつける。
「あうっ!」
『くははは! いけない! いけませんねぇ! ピンチですよ! セナ様! 戦場に出てくるから!』
「わたし、は……!」
『姫君は騎士に命じて安全な場所にいなくては! この様に! 危機に陥ってしまう!』
漆黒のストライクは勢いに任せてホープを掴みながら、また別の岩に叩きつけて、衝撃を中にいるセナへと与え続けた。
例え、ホープが核動力とフェイズシフト装甲でダメージを受けずとも、セナは生身の人間であり、無事というワケにはいかない。
「……ぁ」
『ふふ。少々やり過ぎましたかね。ですが、これで私の力が分かった事でしょう。これからは……何!?』
黒いストライクに乗っていたネオは、ホープのカメラアイが光った事に驚きを示す。
既にセナは意識を失っているはずであり、機体が勝手に動くワケが無いからだ。
だが、先ほどまで緑であったカメラアイが赤く光った瞬間から、ホープの動きが明確に変わる。
『これは、なんだ……? セナ様? いや、違う。誰だお前は!』
『私は、この子の意思を尊重する者だよ』
『セナ様の騎士は、私だ! 貴様ではない!』
『騎士を自称する割には、姫を護れもしないのか。情けないな』
『黙れ!!』
ホープは、ネオが怒り生まれた隙にストライクのビームサーベルを奪うと、そのまま右肩へと突き刺した。
そして、動きを鈍らせてから左腕を蹴りつけて一気にスラスターを吹かせて戦場から離脱するのだった。
気絶したセナを乗せたまま。
『待て! 卑怯者め! 私の姫君を!』
それから。
セナの説得があっても、地球連合軍は変わらず部隊を整えて、再度の総攻撃に出るのだった。
全ての戦いを終わらせるために。
今度こそ、コーディネーターを滅ぼす為に。
そして、プラントもまた、同じ様に最後の戦いへと向かっていた。
「ミラーブロックの換装は?」
「あと1時間ほどであります」
「急がせろ。地球軍に動きは?」
「未だありません」
「ふん、月基地にも戻らずまだ頑張っているか」
「奴等も必至でしょうから。あの威力を見た後でわ。おそらく補給・増援を待っているのでしょう。こちらから仕掛けますか?」
「のようなことをせずとも二射目で全て終わる。我等の勝ちだ」
「では地球を?」
「月基地を討たれてもなお奴等が抗うとなればな」
パトリック・ザラはラウ・ル・クルーゼと言葉を交わしながら、冷徹に宙域図を睨みつける。
どれだけ強がっていても、数で劣るZAFTは不利である事に変わりは無いのだ。
故に、確実に作戦を成功させる必要があった。
ミス一つなく、徹底的に。
だからこそ、パトリック・ザラは最も信頼できる腹心でありながら、最も警戒すべき男へと振り返った。
「クルーゼ」
「ハッ!」
「このまま我らが勝利すれば、キラ姫とセナ姫は地球へと向かうだろう」
「でしょうな。彼女たちは傷付いた者達を放っておけない」
「ならば、戦争が終わる前に、二人を確保しなくてはなるまい。プラントでな」
「えぇ。それがよろしいかと」
「……ならば、次の戦闘。貴様も出撃しろ」
「ハッ!」
「例の機体はお前の為に作った機体だ。例えフリーダム、ホープであろうと押し負ける事は無いだろう」
「承知いたしました」
そして、クルーゼはパトリックに一礼してから宇宙要塞ヤキン・ドゥーエの格納庫へと向かい、その機体に乗り込む。
ここまで積み上げてきた全てを現実のものとする為に。
「理論はお解りと思いますが」
「あぁ」
コックピットへ乗り込んで、機体の意思が伝わってくるのを感じながら口元を歪めて笑う。
「サイコフレーム、ドラグーンシステム。使ってみせるさ」
『クルーゼ隊長! 地球連合軍が!』
「あぁ。私も出よう。……ラウ・ル・クルーゼだ! プロヴィデンス、出るぞ!」
そして、クルーゼの為の機体。プロヴィデンスは戦場へと飛び出して行った。