キラがプロヴィデンスを連れ、遠くへ去ってからすぐにラクスは自分を取り戻し、強く手を握りしめてからエターナルとクサナギを前に進ませた。
「ZAFTは直ちにジェネシスを停止しなさい!」
「ええい! 取り舵20!」
「核を撃たれ、その痛みと悲しみを知る
ラクスがどれほど叫ぼうと、ZAFTからの攻撃は減らない。
ただ憎しみを胸に銃を撃つばかりだ。
「同じように罪無き人々や子供を。これが正義と? 互いに放つ砲火は何を生んでいくのか、まだ解らないのですか!?」
「ジェネシス、射程距離に入ります!」
「フェイズシフトとて無限じゃないんだ! 主砲照準!てぇ!」
そして、遂にジェネシスの付近へとたどり着いたエターナルとクサナギが主砲を撃つが、表面を軽く傷つけるばかりで巨大なジェネシスはほぼ影響を受けていない様だった。
そんな様子を報告として受けていたヤキン・ドゥーエ指令室のパトリックは、ラクス達の行動を鼻で笑う。
「フン。ラクス・クラインらが? 無駄な事を……! 既にジェネシスの準備は完了した! 急げ! 照準入力開始、目標、北米大陸東岸地区!」
「っ!? 議長! この戦闘、既に我等の勝利です。撃てば、地球上の生物の半数が死滅します。もうこれ以上の犠牲は……!」
「必要ないと? そういうつもりか! 貴様は!」
「っ!」
「忘れたのか! 血のバレンタインを! ボアズへ放たれた核を! その上で、奴らを見逃せと! 貴様はそういうつもりか!」
パトリックの護衛として共にいた特務隊のユウキ隊長へ向けて、パトリックは懐から取り出した銃を向ける。
そして、オペレーターへ向けて叫んだ。
「どうした!? 照準入力を始めろ! これで全てが終わるのだぞ!? 奪われた日の事を思い出せ! もう二度と奪われぬ為には、必要な事なのだ!」
「……っ! ジェネシス照準、目標、地球大西洋連邦首都、ワシントン!」
「お、おい……!」
「私は、弟をユニウスセブンで殺された……! プラントには父さんも母さんも居る! 奪われない為には……!」
「そうだ。それで良い! 全軍に避難勧告! この一撃で、全てを……」
終わらせると叫ぼうとした瞬間、一発の銃声がヤキン・ドゥーエの指令室に響いた。
その銃声に、誰もが指令室の入り口を見れば、そこには一人の男が立っていた。
そう。この場所まで誰にも邪魔されずにたどり着けた男……。
「もうこれ以上は、何も奪わせんよ。パトリック……」
シーゲル・クラインであった。
「……っ! シーゲル! 貴様……!」
「ラクスも頑張っているのだ。私が見ているだけという訳にもいかんだろう?」
左肩を撃たれ、血を流しながらも銃を構えるパトリックにシーゲルは悲しい目を向けた。
かつての同志がここまで闇に落ちてしまえば、決して良い気持ちにはなれないだろう。
「貴様まで! 私の邪魔をするのか!」
「私だからこそ、止めに来たのだ。パトリック。正義を胸に、自由を求めた我らが同志の凶行は見逃せん」
「貴様には分からんだろう! レノアを、愛する者達を奪われた! 私の気持ちは!」
「分からんさ。だからこそ、君に間違っていると言える」
「私が、間違って、いる……だと!?」
怒りのままに銃を構えるパトリックと、静かな表情で銃を向けるシーゲルの、凍り付いた様な時間は、指令室へと飛び込んできた一人の男によって壊された。
「父上!」
「……アスラン」
「っ!? これは!」
「アスラン……! 貴様までも、私の邪魔を……! 分かるだろう! お前には! 奪われた苦しみが、踏みにじられた絶望が!」
「……父上。俺は」
「レノアの復讐を、私は!」
「父上! 母上は、俺に父上を止めて欲しいと願っていました!」
「……なに?」
驚愕に満ちた瞳でパトリックはアスランを見据える。
だが、アスランは何も揺るがない顔でパトリックを見つめ返すのだった。
「バカな……レノアが、レノアは赦すと、奴らを赦すつもり、なのか……? あれだけ苦しんで!」
「分かりませんか。父上」
「何が!」
「母上は、いつも俺たちの幸せを願っていた。父上には憎しみではなく、自分と共に……居て欲しかったんですよ」
「――!」
パトリックはアスランの言葉に項垂れ、近くにあったコンソール近くにもたれかかった。
おそらく、パトリックにとってそれは、最もつらい言葉であっただろう。
だから、アスランもシーゲルも、パトリックの辛さを理解し、ため息と共に意識を外していたのだが。
『総員速やかに施設内より退去して下さい』
「っ!? なんだ!?」
「パトリック! まさか!」
「もはや……全て終わりだ。だが、平和は作らねばならん」
「まさか!」
アスランは急いでパトリックが最後に触っていたコンソールへと向かう。
そして高速でキーボードを叩きながら、状況を確認して、苛立ちのままにコンソールを叩く。
「くそっ!」
「どうしたんだよ。アスラン!」
「ヤキンの自爆シークエンスに、ジェネシスの発射が連動している!」
「なんだと!?」
「えぇー!?」
「こんな事をしても、戻るものなど何もないのに!」
アスランは苛立ちのままに、そのままヤキン・ドゥーエの指令室を飛び出した。
そしてカガリと、何が何やらと分からないまま、シンとレイもカガリたちについてゆく。
そのままアスランたちは急いで自機に飛び込んで、ヤキン・ドゥーエから飛び出した。
『おい! どうするつもりだ!』
「内部でジャスティスを核爆発させる……!」
『ええ!?』
カガリが戸惑った様な声を上げる前に、ジャスティスは全ての砲撃を、ジェネシスの管理用の入り口へと叩き込み、そこを破壊しながら中へと飛び込んだ。
そして、狭い通路を加速しながら進んでゆく。
『そんなことをしたらお前は……!』
「それしか方法はない! お前は戻れ!」
『アスラン!』
「駄目だ!!」
『……! アスラン!』
「カガリ。キラとセナを頼む……!」
アスランはジャスティスに装備されていたリフターを切り離すとストライクルージュの進行を遮り、遺言の様な言葉を残しながらひたすら内部へと向かうのだった。
そして、ジェネシスの内部にたどり着き、構造を調べながらここで問題ないと自爆の為のコードを入れてゆく。
自分が犯した罪。
父であるパトリックの犯した罪。
全てを償う機会が来たと……どこか救われた様な気持ちで、アスランは終わりの時を見据えた。
カガリは言った。
キラもセナも恨んではいないと。
だが、それでも……アスランはずっと抱えていたのだ。
二人が許しても、カガリやカリダさんやハルマさんが許しても。
死ぬなと言っていたとしても。
アスランは他でもない、自分が許せなかった。
何故キラの言葉を信じてやれなかったのか。
セナの言葉の真意を探ろうとしなかったのか。
思い出せば後悔ばかりだ。
だから……アスランはようやく罪を償えると……静かに深呼吸をして目を閉じた。
だが……。
『アスラーン!!』
「……? カっ! カガリ!」
『駄目だ! お前!!』
「……!」
『逃げるな!!』
モニターの向こうで大粒の涙を流しながら訴えるカガリの姿が見える。
いつかの時、見せて貰った、キラが自分を助けようとした時と同じ。
真っすぐに自分を見つめる瞳に、アスランは心を強く締め付けられた。
『生きる方が……! 戦いだ!』
「……!」
アスランはカガリの真っすぐな言葉にただ、ただ……己の不甲斐なさに震える。
そして、ストライクルージュから少し遅れてやってきた少年達によってアスランは、顔を上げた。
『カガリさん! もうヤバいっすよ! ここ! なんか動き始めてる!』
『ジェネシスが撃たれようとしているんだ』
『はぁー!? じゃあここに居たらヤバいじゃないっっすか! 早く逃げないと!』
『あぁ、だが……』
カガリはシンの言葉に頷きながら、ジャスティスの中に居るアスランを見やる。
それだけで問題がアスランにあると一瞬で察したシンは叫んだ。
いつもの様に。
生意気な少年の言葉で。
『だー! もう! なにウジウジしてるんっすか! さっさと逃げますよ!』
「いや、ジェネシスを止める為にはジャスティスを自爆させないと……!」
『ならさっさとセットして! ほら! さっさと脱出しないと! 何ちんたらやってるんっすか! このノロマ!』
『いや、シン。おそらくだが……彼は脱出するつもりがないんだ。ここで罪と共に』
『はぁー!? バカなんすか!? アンタ! それでウチの姫様方を泣かせて! 何様のつもりなんっすか! そんなんだから、姫様にデリカシーがないって言われるんっすよ!』
「その話は今、関係ないだろう!」
『へいへい。そうですか。ま、良いですけどね。アンタがこのまま死んだら、墓石に書いてやりますよ! アスラン・ザラ。デリカシーがなさ過ぎて死亡ってね! セナにもそう伝えてやろ! キラさんは大笑いするだろうなぁ』
「お前!」
『おっと時間がないや。さっさとここから逃げなきゃ! 行こうぜ! レイ!』
『あぁ』
「待て!」
アスランは怒りのままに、コックピットから飛び出し、そのままストライクルージュに飛び移った。
そしてカガリが開いたコックピットの中へと飛び込む。
「時間がない。脱出するぞ! シンの根性も叩きなおさないと……!」
「ふっ、あははは。もう、良いのか?」
「あぁ。すまない。カガリ。俺はまた間違えた様だ」
「いいさ。人間だ。生きていれば間違いなんかいくらでもする。直していけばいい。少しずつでもな」
「……あぁ」
それから急いでジェネシスを脱出したストライクルージュは爆発に巻き込まれる事は無かったが、ジェネシスが破壊される影響をもろに受け、機体を激しく痛めつけられる事になる。
だが、それでも、フェイズシフト装甲が機体を守ってくれ、中に居た二人は何とか無事生き残る事が出来たのだった。
アスランとカガリはジェネシスが破壊され静まり返った宙域を見つめる。
既に戦闘は行われていない様だった。
そして、そんな静かな戦場で一つの声が響き渡った。
それは、プラントのクライン派と呼ばれる穏健派が、強硬派であるザラ派をクーデターにより抑え込み、発している放送だった。
『……ザザ……宙域のザフト全軍、ならびに地球軍に告げます』
『現在プラントは地球軍、およびプラント理事国家との停戦協議に向け、準備を始めています。それに伴い、プラント臨時最高評議会は現宙域に於ける全ての戦闘行為の停止を地球軍に申し入れます』
それは、おそらくアスランとカガリが長い間待ちわびていた言葉だった。
だから、二人はその言葉に深い喜びを感じ、抱き合いながら涙を流す。
ようやく、長い戦いは終わったのだと。
そして、それは二人だけではない。
ジェネシスの近くまでたどり着いていたアークエンジェルでもまた、放送に耳を傾け、それぞれの思いに目を伏せる。
「アズラエル様」
「あぁ。僕は約束は破らない主義でね……停戦を受け入れよう」
「あぁ……!」
アズラエルの言葉に、マリューもまた、長くこの時を待っていたと静かに涙を流した。
「お姉ちゃんは!?」
「キラは!?」
だが、フレイとセナの叫ぶ様な声にハッとなり、宙域を見つめた。
「フリーダムの反応は!?」
「ありません!」
「そんな……! キラちゃん……!」
ずっと長くこの時を待っていたであろう少女が、助からなかったのかと皆が絶望に打ちひしがれた時、セナが両手を握りながら祈る。
「お姉ちゃん……!」
そしてその声に、祈りに応えるかの様に、キラのロボット鳥、トリィがアークエンジェルの中から飛び出して宇宙の中を飛び始めた。
遠く、遠くへ。
多くの者の想いを乗せ、戦場の先に居る……キラの元へ。
「キラ……!」
エターナルのブリッジから戦場を見つめていたラクスも。
「キラさん!?」
「……!」
ムラサメから外に出て、宇宙を見つめていたシンやレイも。
「キラ……」
「キラは!?」
ストライクルージュのコックピットからトリィを見つけたアスランとカガリも。
光を背負いながら飛ぶトリィをただ、見つめ、その後を追った。
「……あぁ」
戦場から外れ、ほぼ原形の残っていないフリーダムのコックピットから外に投げ出されたキラが、様々な瞬きを見せる宇宙を見つめながら声を漏らす。
死ぬつもりだった。
死んでも、ジェネシスを止めるつもりだった。
だが……。
「兄さん。見える?」
「あぁ。見えているよ」
プロヴィデンスのコックピットから飛び出してきて、キラに逃げろと叫んだのはラウだった。
どれだけ人類を憎んでいても……彼はやはりどんな時も家族を愛していたのだ。
「確かに、世界はさ……兄さんのいう様に綺麗な物じゃないと思う」
「……」
「憎しみも恨みも消えない。戦争だって、きっとまた起こる」
「……キラ」
「でもさ。……それでも。僕は、この世界で兄さんに会えたから。セナに会えたから。父さんや母さん、お父様にお母様。ラクスやカガリ、アスラン。数えきれないくらいの多くの人に会えたんだ。だから……どんな世界でも愛おしいんだよ」
「そうか。……すまなかったな。キラ。君の気持ちをもっと早く聞いておけば良かった」
「いいよ。兄さんが何もしなくても、きっといつかはこうなってた。だから、良いの」
「キラ……」
「僕たちの兄さんに戻ってくれれば、僕はそれだけで良い」
ラウの手を握りながら、キラは涙を溢れさせながら笑う。
その笑顔に、ラウは小さく息を吐いて、あぁと頷いた。
そして、キラは遠くから飛来する小さなトリィと、その向こうに見えるストライクルージュに顔を上げた。
希望が、未来を連れてきてくれたと。
「さぁ、帰ろう。僕らの家に」