オーブへと届いたプラントや世界の危機を伝えるメール。
その差出人を調べていたキラたちは、メイリン・ホークという少女の存在を知ったのだが……。
「んー。なんていうか。普通の家だねぇ」
「そうだな。特に目立つ所もない。ごく平均的な民家に見える」
「見えるっていうか。まんまそうなんじゃないの? どうする? 強行突入でもする?」
「バカな事を言うなよ。ディアッカ。ここでそんな事をして、何も無かった時にどうなるか。分かっているんだろう?」
「そりゃ分かってるさ。冗談だよ。冗談」
「ったく」
「でもよ。実際見てるだけじゃしょうがないぜ? どうにか中に入らないとよ」
おどけた様に笑うディアッカにイザークは眉間に皺を寄せながら苛立ちを示す。
しかし、ディアッカのいう様にエレカから見ているばかりでは何も生まれないのは確かだった。
何かしら、家の中に入る手段が無くては……。
「んー。あのさ。ちょっと聞きたいんだけど」
「なんだ? キラ」
「いや、ラクスってさ。プラントじゃ有名人なの?」
「有名。なんてモンじゃないぜ? シーゲル・クライン元議長が居なくなってからはクライン派の旗頭はラクス様だし。そうじゃなくても、歌姫としての活動で有名だからな」
「ナルホドね。じゃ、ラクス。ちょっと協力して貰っても良い?」
「え? えぇ。
キラは後部座席で隣に座っていたラクスの手を握り、エレカの外へと出た。
無論、キラもラクスも似合わない大きすぎるサングラスを付けながら、だ。
「お、おいおい! 何するつもりだよ。キラちゃん!」
「ちょっとね~」
ディアッカの質問にも答えず、キラはスタスタとホーク家へ向かってゆく。
ラクスも特に抵抗せず、キラに従って歩き続けた。
その姿に、ディアッカとイザークは焦りながらエレカを飛び出したが、既に遅く、キラはホーク家のチャイムを鳴らした後だった。
『はーい。どなたですか?』
「こちらメイリン・ホーク様のご自宅で間違いないでしょうか?」
『え、えぇ。メイリン・ホークは間違いなく我が家の人間ですが』
「実はメイリン様にあるビッグな企画が当選しましてー」
『ビッグな企画ぅ? 申し訳ないですけど。ウチはそういう勧誘とか受けてないんで……「なんと! ビッグな企画というのは! あの! ラクス様とお話出来る企画です!」はぁ!? はぁぁぁあああああ!? め、めめめ、メイリン!! 大変! 大変よ!! 急いで降りて来なさい! メイリン!!』
モニターの前で、隣に立っていたラクスのサングラスを取りながらニシシと笑うキラは、イザークとディアッカに対してドヤ顔をした。
ラクスはキラのやり方に苦笑していたが、ディアッカとイザークは胃がキリキリと痛むのを感じていた。
ラクス様である。
シーゲル・クライン元議長の娘にして、『あの英雄』キラ・ユラ・アスハが親友と公言している存在であり、平和の歌姫という看板を背負いながら、プラントの為にエターナルで飛び出したお姫様だ。
そんな御方にこんな扱いを出来るのは古今東西、キラ・ユラ・アスハだけだろう。
そして、当然の様にラクスを利用してホーク家の扉を開かせたキラは、中から飛び出してきた赤いショートカットの髪をした少女を見て、ニッコリと微笑む。
おそらくはデータで見たメイリンの姉ルナマリアだろう、と。
「おま! お待たせしました! 申し訳ございません!」
「あーいえいえ。メイリン様は?」
「あの! 今、準備をさせているので! まずは家に上がっていただければと! 狭い家で申し訳ないんですけど! ど、どどど、どうぞ!」
「はーい。ありがとうございまーす」
「失礼しますわ」
「あー! もう! 本当に! 何の遠慮も要りませんので! 汚い家ですが! どうぞどうぞ!」
ルナマリアによって家の中に無事侵入する事に成功したキラは、ニコニコと微笑んだまま軽く周囲を伺った。
が、特に怪しい物は見つからず、ルナマリアに案内されるまま、リビングのソファーに座る。
キラの隣にはラクスが座り、ソファーの後ろにはディアッカとイザークが立つ。
何かあった際にすぐ二人を助けられるよう、警戒は怠らずだ。
「いや、もう。本当に、すぐ来させますので! 申し訳ございませんが、どうか、どうかごゆっくりとしていただけますと」
全身にびっしょりと汗をかきながら、ルナマリアは必死にラクスへと説明をしつつペコペコと頭を下げていた。
そんな姿に、ラクスは申し訳なさを感じつつも、こんな状況を引き起こしたキラへと少しばかりイタズラの気持ちが芽生える。
愛する相手とは一緒に地獄へ落ちたいタイプのラクスは、自分ばかりペコペコとされている状況が気に入らず、キラも巻き込む事にしたのだ。
まぁ、問題は……その行動によって被害を受けるのはキラではなくルナマリアだ。という事なのだが。
「どうぞごゆっくりと準備していただけるとありがたいですわ」
「そ、そそそ、そう言っていただけますと! 私どもも助かりますというか、何といいますか!」
「いえいえ。これも全てキラが突然訪ねて来た事が原因ですから」
「……キラ?」
妙に聞いた事がある名前だな。とルナマリアが首を傾げた所で、ラクスはさっとキラのサングラスを奪い取った。
鮮やかに。
キラがラクスにした様に。
「ひぅっ!?」
そして、キラの顔を見た瞬間、おそらくルナマリアの心臓は一瞬動きを止めた。
「あー! もうラクス! 僕のサングラス取らないでよー!」
「
「もー。まったくもー」
「キ、キキキ、キ、キラ様!?」
「あー、うん。君の知っているキラ様と一緒かは分からないけど。キラです。プラントじゃキラ・ヤマトって名乗ってるよ」
「あ、あわわ、あわあわ、め、メイリンーン! 急いで来なさい! ホントに! 本当に大変な事になってるから! メイリーン!!」
腰を抜かして、ソファーから崩れ落ちながらも、ルナマリアは必死に床を這って部屋を出ながら叫ぶ。
その姿は年頃の少女としてはあまりにも残念な姿であったが、彼女に普通である事を求めるのは難しいだろう。
何せ、プラントを救った英雄が二人。突然家にやって来たのだ。
核ミサイルが撃たれた時以上の衝撃かもしれない。
それから。
やや時間が掛かって、二階より髪を弄りながら精一杯オシャレをしたメイリンと、汗だくでドロドロのルナマリアが一緒に降りて来た。
その姿は対照的であり、なんだか物悲しさを感じる様でもある。
「あ、あの! は、はじめまして! メイリンです! ラクス様とキラ様にお会いできるなんて感激で!」
テレテレと微笑むメイリンに、隣に座っていたルナマリアはどこか胡散臭い物を見る様な目を向けていた。
が、キラたちは特に気にすることなく、ラクス、キラという順番で握手をする。
しかし、パッとすぐに手を離したラクスとは違い、キラはニコニコとしたままメイリンと手を繋ぎ続けた。
「え、と……? キラ様?」
「メイリンちゃん。一つ質問良いかな?」
「え? あ、はい。大丈夫です」
「オーブにメールしたのは……君だね?」
「っ!?」
「ラクス。どう?」
「えぇ。どうやら真実の様ですわ」
「やっぱり。じゃあ理由とか、聞かせてくれると嬉しいんだけどなぁ」
「え、あの、え? なんで……!」
「なんで分かったか。理由は簡単だよ。君のメールを追いかけたの。どこから送られてるのかってさ」
「……! じゃ、じゃあ。キラ様が?」
「うん。僕が調べた。そして見つけたよ」
「……本物だ」
「うん?」
キラの言葉に、メイリンは怯えるでもなく、キラを真っすぐに見つめながら呟いた。
瞳をキラキラと輝かせながら。
「本当に! キラ様は噂通りの方だったんですね!?」
「ウワサ?」
「はい! 掲示板の友達がみんな言ってました! キラ様とセナ様は幼い頃から、プラントや大西洋連邦のメインコンピューターに侵入してる異常者だって!」
「メ、メイリン!? アンタ! なんて事言うの!」
突然とんでもない言葉を吐き出した妹に姉であるルナマリアは悲鳴の様な声を上げた。
だが、メイリンは憧れのアイドルに出会ったファンの様に止まらない。
「しかもモビルスーツのOSの基礎設計とかもやってて! コーディネーターとナチュラル両方のOSを作ってて! 技術さえ進歩すれば、倫理観とかどうでも良いタイプのホンモノだ! って! 世界一イカれた天才だって! モガモガ!」
「黙りなさい! メイリン! 何さっきから失礼な事口走ってるの!?」
「あはは! 面白い子だねー」
「本当に!! 申し訳ございません!! 普段はこんな子じゃないんです! 多分、ちょっと興奮しすぎて、よく分からない事を言っているだけで! 決してキラ様を貶めようとかそういう考えは無いんです!」
「あぁ、大丈夫だよ。全然怒ってないから。むしろ、ちょっとメイリンちゃんの事が気になってきたくらいかな」
「えぇ……?」
「まぁ! キラ? 良くないですわね」
「ら、ラクス。浮気とかじゃないから。単純にね。人間としての興味って奴だから」
キラは冷や汗を流しながらラクスに言い訳をするが、ラクスはニコリと微笑むばかりであった。
笑っているのに、強い威圧感を感じ、キラはさらに寒気を感じる。
だが、逃げる事は出来ないと、から笑いをするのであった。
そして、キラとメイリン。
両者が落ち着いてから再び話し合いが始まった。
「う、うん。まぁ色々あったけどさ。今日来たのは……メイリンちゃんに話を聞きたかったからなんだ」
「私に、ですか? でも、私程度が知っている事はキラ様もご存じなのでは?」
「それがそういう訳にもいかなくてね。最近はハッキングをしてると妹のカガリに怒られるしさ。プラントにも侵入してないの」
「当たり前だ! バカ者!」
「あいた! ってな感じでイザークにも怒られちゃうし。だからさ。君が掴んだ情報を僕は知らないんだよ」
「なるほど……では、その情報をお伝えすれば?」
「うん。そうして貰えると助かる」
「……」
「メイリンちゃん?」
キラの言葉にメイリンはうーんと唸ってから黙り込んでしまった。
そして、キラに一つの提案をする。
「協力しても良いですが、一つ条件があります!」
「条件?」
「アンタ! 条件とか言える立場だと思ってるの!? 犯罪よ!? アンタ犯罪者として今疑われてるのよ!?」
「いたた! お姉ちゃん! 首! しまってるから!」
「今すぐ捕まらないだけ感謝しなさい! さぁ! 吐くのよ! 早く!」
「う、ぐぐ……く、くるしぃ」
「ちょ、ちょっとルナマリアちゃん。駄目だよ! 殺しちゃ!」
「大丈夫です! すぐに吐かせるので!」
「そうじゃなくて! あぁ! もう!」
キラはソファーから立ち上がるとルナマリアに向かって走り寄り、脇を勢いよくくすぐる。
「きゃはははは、や、やめ、止めて下さい! キラ様!」
「止めるから。メイリンちゃんを離してね」
「わか、分かりましたから!」
ルナマリアはキラにくすぐられ、必死に身をよじりながら、メイリンを解放した。
そして、荒い呼吸を繰り返しながら、ソファーにグッタリと倒れ込む。
「よし!」
「……キラ?」
「ち、違うんだよ! ラクス! これは、そういうアレじゃなくて!」
「そういうアレ?
キラは必死にラクスへと言い訳をしていたが、ラクスの機嫌が直らない事を察し、話を逸らす為にメイリンへと視線を向けた。
「メイリンちゃん! 条件について聞かせて貰おうか!」
「けほっ、けほっ、は、はい! そのですね!」
「うん」
「私も! キラ様のお手伝いをさせて下さい!」
「それが条件?」
「はい! 是非ともキラ様のすばらしさを間近で見させていただければ! と」
「まぁ、それくらいなら?」
キラは一応イザークとディアッカへと確認を取り。
二人が頷いたのを見てからメイリンに微笑んだ。
その反応にメイリンは満面の笑みを浮かべながら頷くのだった。