大宇宙へと飛び出したエターナルであるが。
まだ敵の姿がハッキリと見えてない以上、やることは調査からになる。
「しかし、どうする? 姫様方。プラントが狙われているという事なら、プラント周辺宙域を見張るか?」
「うーん。そこはプラント防衛軍が居ますし。そちらに任せても良いと思います」
「そうですわね。
「私達にしか出来ない事、というと、アレですか?」
「アレ、ですか? 隊長」
「そう。アレだよ。アレ。なぁ、アイシャ」
「そうねぇ。ZAFTの正規軍には出来ない。地球連合軍の制宙域への強行調査。かしら?」
「えぇ!? 地球連合軍の制宙域に行くんですかぁ!?」
「え!? え!? それって凄い危険なんじゃないですか!?」
「うん。危険だよ。もしかしたらいきなり撃たれちゃうかも」
「あわわ、あわわ」
キラの答えに、オペレーター席に座っていたメイリンは動揺しながら悲鳴の様な声を上げた。
ダコスタ達もそれは同様であったが、ラクス、キラ、バルトフェルドが当然の様に受け止めている事から、この決定は揺るがない。
「しかし、地球連合軍の領域と言っても広いぞ? 何処へ行くんだ? キラ」
「ひとまずはオペレーション・メテオの為に設立されたという前線基地へ行きますか」
「オペレーション・メテオ? 隕石落としか?」
「そう。どうも最近あの作戦がまた動いているみたいなんですよね」
「なるほど……アレはザラ派の作戦だったしな。ザラ派の連中が利用するのもおかしくはないか。デブリ帯で擬装されている基地も、地球連合軍は見つけていないようだからな」
「では、その場所へ参りましょう。何かあるかもしれません」
「ですな! では、艦をそちらへ向けろ! ボルテールへ我々の進路を送ってやれ。後は向こうが判断する」
「はい!」
エターナルは、バルトフェルドの指示により、滑るように宇宙を駆け、地球連合軍の領域に堂々と侵入しながらデブリ帯へと向かって行った。
無論、このような行動を地球連合軍が見逃すはずもなく、三隻からなる先遣調査隊がエターナルへと接触したのだが……。
『どういうつもりだ! コーディネーター! 今は停戦中の筈だぞ! この様に堂々と!』
「申し訳ございません。艦長さん」
『こ、こここ、これは! キラ様がご乗艦でしたか!』
「はい。少々調査をしたい事があり、こちらへお邪魔しております。どうやらテロリストが地球を狙っていると聞きまして」
『なるほど! その様な輩が! 地球を守ろうと奮闘するキラ様のお心には、いつも助けられております! しかし、我らも軍人! 可能であれば、キラ様と共にテロリストの排除を!』
「いえ。エターナルは高速艦でして、かなり足の速い戦艦になります。付いてくるのは難しいかと」
『そ、そうでしたか……! それは何とも悔しいお話ですな。地球連合軍でも高速艦を建造するべし! と上層部に掛け合います! 次こそキラ様と共に行ける様にと』
「あ、あはは……えと、頑張ってください?」
『はい!』
「それで、あのー。実はお願いがありまして」
『はい! どの様な事でも! キラ様のご期待に応えて見せましょう!』
「は、はい……! それでですね。地球か月が狙われている可能性が高いので、監視の数を増やしていただけると……」
『承知いたしました!! ネズミ一匹通さぬ様! 監視体制を強化させていただきます!! 月基地へ連絡を取れ! 第七、第八艦隊の出撃準備をさせろ! キラ様のご命令だ! 急げよ!』
「いや、あの! すぐに何かが起きるかは分かりませんので……!」
『問題ありません! 皆、キラ様に救われた身! 多少の無茶は通して見せましょう! では!』
「あー、あー……切れちゃった」
「ふふ。人気者ですわね。キラ」
「勘弁してよ……プラントでも地球でも、だなんて……僕の居場所が無くなっちゃう」
「ふははは。どっちもキラ姫様が来るなら、大歓迎だと思うがな!」
「もう! バルトフェルドさん!」
バルトフェルドの言葉にキラはぷんすか怒りながら文句を言っていたのだが、不意に衝撃がエターナルを襲った。
キラは咄嗟に座っていたラクスを支えつつ、モニターを睨みつける。
「なんだ!?」
「これは、攻撃を受けています! デブリの影からモビルスーツ!」
「敵か!」
「熱紋照合! これは、ゲイツです!」
「僕が出ます! 地球連合軍艦は!?」
「既に退避しております!」
「分かりました! ではエターナルも退避を!」
キラはブリッジを飛び出して、すぐに格納庫へと向かった。
時間が無くパイロットスーツを着ている余裕も無かったが、今は気にしている余裕が無い。
何せ、振動は絶え間なく続いているのだ。
「き、キラ様!? この振動は!?」
「攻撃されてるんだ! ルナマリアはジャスティスに乗ってて」
「出撃ですか!?」
「しなくていいよ! 危ないから! コックピットの中に居る方が怖くないでしょ! だから乗ってて!」
「は、はい……!」
ルナマリアはキラに言われるままジャスティスのコックピットへと入り、それを見送ってキラはいい子だと微笑んだ。
そして、すぐにフリーダムのコックピットへと飛び込んで、システムを起動させる。
「フリーダム。システム起動。状況は!?」
『あまりよくは無いな! 母艦は見えないが、モビルスーツは次から次に出てくるぞ!』
「前線基地がありそうですね。分かりました。フリーダムで迎撃、調査を行います」
『キラ。どうか無理はなさらず』
「分かってるよ。ラクス。じゃあ、行ってくる。キラ・ヤマト。フリーダム! 行きます!」
フリーダムはエターナルのカタパルトから外に飛び出すと、まずはビームサーベルを両手に持ち、エターナルに接近しようとしていた機体の武装を破壊する。
横を通り過ぎる一瞬で破壊されたモビルスーツは、そのまま宙をさ迷い、流されていった。
キラは破壊したモビルスーツへは目を向けず、右手のビームサーベルを格納しつつ、ビームライフルに持ち替えて、次から次へとゲイツの武装を破壊するのだった。
しかし、そんなキラの戦闘を止めようと、一機のカスタムゲイツが接近戦を仕掛けてきた。
キラは咄嗟にビームライフルで腕部や脚部を破壊しようとするが、ビームは弾かれてしまう。
「っ! ビームコーティングか!」
キラはビームライフルでは駄目かとビームサーベルを抜いて、ゲイツの攻撃を受け止めた。
『ふ、ははは! 相変わらずだな! キラ』
「その、声は! やっぱりメイアさんか!」
『なんだ。もう私だと気づいていたのか。驚かせて、油断した所を攻撃しようと思ったのだがな!』
「貴女は!」
キラは一瞬機体を引いてから、突っ込んでバランスを崩したゲイツカスタムの攻撃をかわし、関節にビームサーベルを向ける。
そして、腕を斬り落としてから機体を蹴りつけた。
「貴女では僕に勝てません」
『だろうな! だが……それがどうした!』
「なに……?」
『お優しいキラ様がコックピットを狙わない事はよく知っているよ。ジンを開発していた時から! 変わらない!』
「っ! そんな機体で」
『こんな状態だから、やれるのさ! 攻撃出来ないだろう!?』
メイアは傷つき火花を散らしているゲイツでなおもキラへと攻撃を仕掛ける。
片腕があれば十分だと槍を振るい、キラへと迫った。
腕の立つメイアの猛攻に、キラは何度か攻撃を仕掛けようとするが、コックピットを守るつもりのないメイアにキラは迷ってしまう。
『あの時と同じだな! キラ』
「あの、時……!?」
『血のバレンタイン。あの時、私もあの戦場に居た』
「っ!?」
『そして、お前が乗ったモビルスーツを見た! あれだけの力を持ちながら! 核を撃ち落とす実力がありながら! お前は! ナチュラルの命を惜しんで! ユニウスセブンへの核攻撃を許してしまったんだ!』
「ぼ、ぼくは」
『ユニウスセブンには……私の家族が居た。多くの同胞が、あの場所で! あの時! 絶望を知った!』
「……!」
『我々は、クライン派の売国奴共が謳う薄っぺらい平和など認めない! 奴らの言葉に真実はない! 正義も自由も! 我らが願った理想はどこにもない! そう! 我々は、あのような悲劇を生み出す者達を打倒するために行動を開始した血盟の同志だ!!』
メイアの言葉に、心を強く痛めつけられているキラは、何も言い返す事が出来ず、ただ言葉で殴られ続けた。
そして、そんなキラにメイアはかつて共に過ごしていた時の様な穏やかな声で語り掛ける。
『後悔しているのだろう? ならば共に来い。キラ』
「なにを……」
『お前の力と、我らの力を合わせれば、今度こそ勝てる! ナチュラル共に屈する事など無いのだ!』
「僕は、平和を望んでいる!」
『コーディネーターが差別されない! コーディネーターだからと殺される事のない世界こそが平和な世界だろうが! それとも! このまま、殺された同胞が踏みにじられ続ける世界が! この欺瞞に満ちた世界が! 平和だと! そう言うのか! お前は!』
「くっ」
『お前の妹、セナを撃ったのは誰だ! それを助けたのは誰だ! 思いだせ! キラ! クラインの軟弱者どもに絆され、忘れたのか! お前は、お前の持つ刃は! 敵を殺す為のモノだ! 殺さなければ守れない! 違うか!?』
「違う! 僕は、誰の言葉でもない、僕自身の意思で! 誰にも死んでほしく無いだけだ! メイアさんだって!」
『生ぬるい……! その様な考えでは何も守れない。また失うだけだ! 殺さなければ! 殺せなければ! 何も守れはしない!』
メイアはフリーダムの目の前に一つの爆弾を投げるとそれを起爆させた。
咄嗟にフリーダムはシールドを構えるが、閃光弾であったそれは、周囲にいるモビルスーツのモニターを数秒間使えなくさせる物である。
無論、それでキラが落とされるという様な事は無いが……次にフリーダムのモニターが回復した時、戦場には何も残ってはいなかった。
「……逃げたか」
キラは一人呟きながら深くため息を吐いてシートにもたれかかった。
重い。
泥よりも重いものがキラの中に積もってキラの体に不快感を与えている。
「血の、バレンタイン……」
キラは何年経とうと変わらず、あの時引き金を引けなかった事を後悔し続けているのだった。
『キラ? キラ!? 大丈夫ですか!?』
「……あぁ、うん。ごめん。僕は無事だよ。フリーダム。帰投するね」
『……キラ』
ズルズルとキラの足元に現れた亡者がキラの足を掴んで、暗闇に引きずり込もうとしている様な感覚を覚えながら、キラはエターナルへと帰還するのだった。
未だ、戦場はキラにとって地獄である。