フリーダムに乗り込んだキラが出撃してすぐに目撃したのは多数の『ZGMF-1017M2 ジンハイマニューバ2型』であった。
通常のジンよりも限定的な環境での高い機動性を持つその機体は、フリーダムが出撃したのを確認するとすぐにパッと花火の様に部隊を分けた。
フリーダムを相手にするよりも、エターナルを先に落とそうと言うのだろう。
「やらせるか!」
キラは即座に移動するジンを狙い打とうとするが、向こうはフリーダムとまともに戦うつもりが無いらしく、キラのフリーダムに対しては何も反撃をせず、ただ回避に徹している。
こうなってしまえば、いかなキラと言えど狙い打つのは難しく、高い機動性と、高いパイロット技能によってジンはフリーダムの攻撃をスイスイとかわしてゆくのだった。
「ラクス! エターナルを下げて!」
『しかし、それではキラが孤立してしまいます!』
「エターナルが落とされるよりはマシだよ!」
『そうさせる事が敵の狙いかもしれません! バルトフェルド艦長。艦の維持は可能ですか?』
『そう簡単ではありませんがね! やりましょう!』
『キラ。そういう事ですので。エターナルを囮にしながら、制圧してください』
「もう! 自分勝手な事ばっかり!」
キラは通信モニターの向こうで微笑むラクスを見ながら文句を言い、エターナルへと攻撃を仕掛けようとするジンを狙撃する。
流石にエターナルを攻撃しようとした隙を突かれては、いかにエースパイロット級の腕を持っているとはいえ防ぐ事は難しい。
キラはこのまま不本意ながらも、エターナルを狙う敵を攻撃しようとしていたのだが、そのまま終わる様な容易い相手ではなく、ジンの中から一機が斬機刀を腰に差した鞘から抜きながら突っ込んできた。
咄嗟にキラはシールドで斬機刀を防ぎながらも、ビームサーベルで攻撃しようとするが、向こうもシールドで受け止めてしまう。
『その腕! やはり変わっておらぬ様だな! キラ様!』
「その声! サトーさんか!」
『短い時間であったが! 覚えていて貰えるとは! 嬉しい限りだ! しかし! 我らの計画は邪魔させん!』
「計画!? ユニウスセブンを落とす事が!?」
『その通りだ! この墓標! 落として焼かねば世界は変わらん! ナチュラル共に思い知らせてやるのだ! 我らの戦争は、未だ終わってはいないのだと!!』
「ふざ、けるな!!」
キラの心には純粋な怒りがあった。
サトーの気持ちも分かる。
彼は恋人をユニウスセブンで失い、戦友を先の大戦で失った。
未だ彼の心には憎しみが強く根付いているのだろう。
終わらない悲しみが今も吹き荒れているのだろう。
だが、この場所は、例えどの様な理由があろうとも触れてはいけない聖域なのだ。
ナチュラルにも、コーディネーターにも!
触れて欲しくないという気持ちがキラにはあった。
ここは多くの魂が眠る場所なのだ。
その場所を荒らす事は、例え何者であったも許せない事であった。
「ユニウスセブンには! 今も多くの人が眠っているんだ! その場所を荒らすことは、許さない!」
『くっ!?』
「憎むのなら、核を止められなかった僕を憎めばいい! 貴方たちの憎しみで! 死者を利用するな! そっと眠らせておいてよ!!」
『ぐっ! やはり、一人ではキラ様を抑えきれんか! だが! お前たち! 今の内だ!』
「なっ!? なにを!?」
サトーはフリーダムの腕を掴み、自分の機体にビームサーベルを押し付けながら味方に向かって叫ぶ。
自分がキラを抑えている内に、エターナルを撃てと。
その狂気に満ちた行動に、キラは急ぎサトーから離れようとするが、彼の強い執念はフリーダムに絡みつき、フリーダムの動きを制限した。
無論、サトーを殺せばエターナルを護れるが、キラはこの期に及んで、まだ命を奪う事に強い恐怖があった。
命が零れ落ちる感覚を幼いころから何度も味わってきたから。
それがキラのトラウマになり、動けないのだ。
母と慕っていた人を、セナを。
大切な人の命が消えていく感覚がキラの心を強く縛り付ける。
『きゃっ! こ、この!?』
『ルナマリアさん! 無茶はしないで下さい!』
『お姉ちゃん! きゃあ!』
ジャスティスで何とかジンに対抗しようとしているルナマリアの悲鳴と、エターナルで姉の心配をしながら叫ぶメイリンの声を聞いて、キラは酷く久しぶりに精神が研ぎ澄まされてゆく感覚を覚えた。
そして、頭の中に響いた……おそらくはこの世界で最も信頼出来る人の声に従い、機体を動かす。
《そうだ。無理に殺さずとも良い。その翼は……キラの願いを叶える為の力だ。私の意識に合わせるんだ》
「……うん。ありがとう。ラウ兄さん」
『なに!?』
「展開! 撃ち抜け!」
サトーは目の前で起こっている事が理解出来ず叫んでしまった。
フリーダムのコックピットが一瞬虹色の輝きに包まれたかと思えば、サトーのジンが謎の力によって弾き飛ばされ、浮かびあがる様に宇宙を飛び上がったフリーダムの翼が本体より離れ、青色の独立した攻撃機となってサトーの仲間を緑色の閃光で貫いたのだ。
無論、キラの願い通り、誰も命を奪われてはいない。
武装やメインカメラ、腕部や脚部を撃ち抜かれただけだ。
『す、すごい……! これが、キラ様の力』
『キラ……!』
『まさか! この様な事が! ドラグーンシステムだと!?』
「サトーさん。投降してください。ここで命を落としても何も生まれない」
『だとしても! このままクライン共が作る偽りの平和で……! っ!?』
「……? サトーさん? サトーさん!?」
突如として、会話の最中に黙ってしまったサトーにキラは声をかけるが、サトーからの返事はない。
まさか何か機体の異常かとキラはジンに近づいたのだが、そんなキラの耳に聞こえてきたのはサトーの笑い声だった。
『ふははははは! そうか! まさか、このような事になっていたとはな! まさに道化ではないか!』
「何を言って」
『キラ! ボルテールから緊急通信です!』
「え!?」
『現在、廃棄予定だったコロニーが一つ! 地球に向かって加速していると!』
「まさか!? 地球に落ちるまでの時間は!?」
『あと三時間程です』
『ふ、ふはははは! メイアめ! 我らの計画には従わぬと言っておきながら、我らを利用するとはな!』
「くっ!」
『さぁ、どうする!? 今から最大船速で向かえば間に合うかもしれぬ! だが、我らをこのままここに残せば! 我らはユニウスセブンを地上に落とそう! 今度こそ! 確実に!』
キラはメイアの言葉を思い出しながら、操縦桿を強く握りしめる。
『お前の持つ刃は! 敵を殺す為のモノだ! 殺さなければ守れない!』
「違う……! 僕は」
『キラ? 今、コロニーを破壊する為の艦隊をイザークさんが要請していますから』
「駄目だ。それじゃ間に合わない。僕が行く。ラクスはサトーさん達の回収と拘束を」
『フリーダムでどうすると言うのですか!? ここは地球連合軍と協力して破壊を!』
「それじゃ! また戦争になる! コーディネーターのテロリストがコロニーを落としたと知られれば、戦争は止められない!」
『キラ……!』
「ミーティア強制リフトオフ。フリーダムとのドッキング」
『キラ! 駄目です! 一人で向かっては!』
「ルナマリア。エターナルをお願いね」
『キラさん!?』
そして、キラはミーティアとドッキングした後、ミーティアの加速力で地球へと向かった。
ボルテールから送られてきたコロニーの位置を確認し、とにかくフリーダムを急がせる。
「……この位置からじゃ、ギリギリか」
フリーダムの中でキラは小さく呟いてから、遠く宇宙の彼方を見据えた。
そして。
キラが一人でコロニーを破壊する為にミーティアで地球へ向かったという話は、すぐにボルテールへと伝わり、イザーク達は焦りながら本国に艦隊を動かす様に要請していた。
だが。
「動かせないだと!? 動かせないとはどういう意味だ!」
『そのままの意味です。ジュール隊長。現在プラントは地球連合軍と停戦状態。この状況で艦隊を動かせば再び戦端が開かれます』
「どの道コロニーが落ちれな同じことだ! ならば一人でも多くの人を救わねば!」
『落ちると言っても地球ではないですか。地球連合軍の戦力が一人でも多く削れるのならば、それはコーディネーターにとっても有利な条件となります。それに……今回の事件はテロリストが起こした物ですからね。天罰の様な物でしょう』
「バカを言うな!! その様な戯言が通じるものか! 地球連合軍は今度こそプラントを滅ぼす為に来るぞ!」
『とにかく、艦隊は動かせません。こちらからは以上です』
ブツンと切れてしまった通信に、イザークは怒りを示してテーブルを強く叩いた。
「くそっ!」
「落ち着いてください。イザーク。怒っていても何も生まれませんよ。シホさんも怖がってますし」
「わ、私は……! その、大丈夫なので!」
「落ち着いていられる状況か! コレが! ふざけた事ばかり言いおって!」
「まぁ、戦争が終わってまだ三か月だからな。連中の中じゃあまだ地球連合と戦争してるのさ」
「それで? どうしますか? イザーク」
「どうするかだと!? 行くに決まっている! ボルテール! 目標は地球だ!」
「いやいや、単艦で地球に向かう気かよ。沈められるぜ?」
「だが、あのバカは一人でも向かっている! 例え死ぬとしても、コロニーを破壊するつもりだ!」
「……キラさんなら、そうでしょうね」
「困ったもんだぜ」
「とにかく! 急がせろ! 何としてもコロニーを破壊するんだ! そうでなくてはまた戦争が始まる!」
イザークは怒りのままに叫び、ボルテールを動かした。
一方その頃、プラントでは。
イザークの想像以上に混乱し、荒れていた。
何せコロニーが地球へと向かっており、それが落ちれば再び戦争が始まるのだ。
市民は恐怖に怯え、軍部は警戒態勢を敷きながら次なる戦争の準備をしていた。
そんな状況では、穏健派であるカナーバもそこまで重要視されず、カナーバの護衛に立つ特務隊は最低限の数まで削られてしまった。
議長という立場だというのに、雑な扱いをされてしまいカナーバは議会があるビルの前で深くため息を吐いた。
これからエレカで移動しなくてはいけないのだが、想像よりも厳しい状況に足が止まってしまう。
「この様な状況では、仕方のない事か」
「議長! その様な事は!」
「良い。私ではシーゲル様の様にはうまく出来ん。こういう事態になるとよく分かる。あの御方の様にはいかんな」
「カナーバ議長……我らは」
「伏せろ!」
議員と議長の話を遮って、静寂の中叫んだクルーゼはカナーバを地面に倒しながら銃を構えた。
その瞬間、先ほどカナーバが居た場所に銃弾の雨が降り注ぐ。
「て、敵襲!」
「議長を急いで車の中へ!」
クルーゼは襲ってきたテロリストに防弾仕様の車を盾にしながら撃ち返し、カナーバ達を車の中に押し込んだ。
そして、自身も車に飛び込んで急発進させる。
「どうやら狙われているのは議長の様だ。コロニー落としを仕掛けて、意識を宇宙へ向けてからの襲撃。慣れているな。メイア・シヴァの作戦か」
「ら、ラウ・ル・クルーゼ! すまない! 助かった」
「いえ。礼ならば護衛に私を選んだキラへ……そして、残念ながらまだ終わってはいません」
「なっ!? あれは! ディン!? バカな! プラント内でモビルスーツを動かすなど!」
クルーゼが動かすエレカには一機のディンが迫っており、銃弾を放ちながらエレカへと迫る。
だが、クルーゼは驚異的な運転技術により、銃弾を全て避け、さらに路地裏などを通りながら上手くディンの攻撃をかわしてゆくのだった。
そんな状況にカナーバらは言葉も発せないまま激しく動き回る車の中で翻弄され続けていた。
しかし。
「チィッ!」
クルーゼが走らせるエレカの前にはもう一機のディンが現れ、エレカへと銃口を合わせる。
流石に挟み撃ちはどうにもならないとクルーゼが何とかカナーバだけでも助けねばとエレカを急制動しつつ更なる細道へと突っ込ませようとした時、目の前にいたディンが横からビームライフルで貫かれ、爆発した。
「っ!?」
「な、なんだ!?」
そして、それと同時に背後に迫っていたディンもビームクローで貫かれて、爆発する。
クルーゼはそれを確認してからエレカを停車させ、クルーゼ達の前に降り立った二機のゲイツを見上げた。
「まさか、君に助けられるとは思わなかったな」
「ラウ! 大丈夫!?」
「あぁ。助かったよ。レイ……それと、オーブに居た少年か」
「あ、どうもです。レイのお兄さんですよね?」
「あぁ。ラウ・ル・クルーゼだ。君は……」
「あ! 俺、シン。シン・アスカって言います!」
「そうか。助かったよ。シン。しかし、二人はどうやってモビルスーツを……」
「それならば、私が頼んだのさ。ラウ」
「……ギル。そうか。助かったよ」
「いや。大した事はないさ。カナーバ議長を守らねばならない緊急事態であったし。信用できるパイロットは少なかったものでね」
レイが乗っていたゲイツのコックピットからレイと共に降りて来た男、長い黒髪に、どこか胡散臭い笑みを浮かべたギルバート・デュランダルは、笑みを浮かべたままクルーゼと握手をして、ボロボロの姿でエレカから降りて来たカナーバへと視線を向けた。
「では、議長。参りましょうか。地球へ」
「地球、だと!?」
「えぇ。どうやら全てを見通していた天使が、停戦会議に参加されるようです。此度の争いも全て何とかすると仰っていました」
「……天使?」
カナーバの疑問にデュランダルは深く笑みを浮かべてその名を返した。
「セナ・ユラ・アスハ様が地上でお待ちですよ。議長」