キラがファウンデーション王国に囚われている頃、世界では大きな動きが起ころうとしていた。
セナが各国に連絡を取り、停戦会議に関する議会を開いたのである。
そして、それに参加する為にカナーバも作戦行動中のZAFTや連合の艦隊を抜けて、会議の場であるナイロビへと降り立っていた。
『本日はお集まりいただき、ありがとうございます』
『そして、本日は私から皆さんのお願いが一つありこの議会を開かせていただきました』
『あの戦いから三か月。未だ世界は停戦という一つの終わりすら迎えられていません。それは何故でしょうか』
いつものセナらしくない、ハッキリとした責める様な口調に、議会に参加していた者達はざわざわと騒ぎ始める。
それに議長は静粛にと言葉を荒げるが、やはり静かになる事は無かった。
しかし、そんな中であっても、セナは変わらず静かな表情で議会の会場を見つめながら言葉を重ねる。
『私はただ、平和を望んでいます。そしてそれは地球、月、コロニー、プラント。この地球圏に生きる全ての人が同じ様に望んでいる事でしょう』
『皆さんは如何でしょうか? 平和を望んではいないのですか?』
「無論、我らも平和を望んでいますとも。しかし……プラントがいつまでも合意しない状況では、ねぇ」
「一方的な停戦案など飲めるはずもない!」
「この様に言われてしまえば、我らもどうしようも無いですからな」
カナーバの言葉を、嘲笑うように弾いた男の言葉に、セナは僅かに瞳を細めた。
そして、突き刺すような言葉を男に向ける。
『国力による強制的な軍縮で、プラントを弱らせ、次に起こした戦争で、今度こそプラントを滅ぼす……そういう計画ですか?』
「な、なにを仰るのか!? 例え、セナ様といえど、その様な暴言は」
『私に嘘は通用しませんよ』
キンと輝く虹色の虹彩に貫かれ、男は言葉をグッと飲み込んだ。
まるで蛇に睨まれた蛙の様に、動く事すら出来なくなる。
『改めて言います。私は戦争を望んでは居ません。そしてそれは世界中の力なき者達が皆、同じことを考えて居ます』
「しかし、セナ様。例え望んでいたとしても、それが叶うという事はありますまい。つい数か月前まで殺し合いをしていた相手を信じる。というのは非情に難しい事です。特にコーディネーターは地上を壊滅させ、ナチュラルを滅ぼそうとしていたのですから」
「それは地球連合も同じであろう。核ミサイルによるプラントへの総攻撃。忘れたとは言わせんぞ」
「それは、ZAFTによる隕石落としがあったから……!」
『はぁ……この様な議論を続けていたのですね。その様に、終わらぬ議論を続けていて、起こったのが先日のテロ事件です。事件は地球連合とZAFTが協力する事で無事被害もなく終わる事が出来ましたが、また同じ様な事件が起きた時、それを防げるか。それは分かりません』
『私達は同じ人類です。手を取り合う事が出来ます』
『無論、いきなり手を取り合い仲良くする。等と言う事は出来ないでしょう。しかし、互いに存在する事を認める事は出来る筈です』
「セナ様! セナ様の仰る事はよく分かる。しかし、ハッキリと言いましょう。信用が出来ないのです。セナ様はキラ様と共に戦場に向かった! では見たでしょう! あの、ジェネシスという兵器を!」
『えぇ。確かに見ました』
「あの様な兵器を作るコーディネーターを野放しにすれば、次、いつ地球が撃たれるか分からないのです!」
『では、どうなれば安心ですか? プラントが消えれば安心ですか? 一つの集まりが無くなり、同じ国の中で生活する様になったコーディネーターを貴方は信用出来るのですか? ジェネシスを作る事が出来る人が紛れた世界を、貴方は許容できるというのですか?』
セナは問い詰める様に言葉を並べる。
威圧的な輝きを瞳に秘めながら。
そして、その圧力にその男もまた口を噤んでしまうのだった。
『思考を辿れば、その先にあるのは、やはり戦争しか無いでしょう。敵は全て滅ぼすと。一度止まった戦争を再度繰り返す事になります。しかし、それでは何も変わらない』
「では、セナ様はどの様にすれば良いとお考えなのでしょうか!? まさかセナ様自身がコーディネーターを監視すると……!」
『良いでしょう』
「なっ!?」
挑発する様に発した言葉にセナはゆるやかに頷いた。
そして、小さく笑みを作りながら言葉を繰り返す。
『私がプラントへ行く事で皆さんが安心できると言うのであれば、頷きましょう。私は世界が平和になるのであれば、何も問題はありません。どうでしょうか。カナーバ様』
「わ、我々としてはそれで不平等な条約を避けられるという事であれば何も問題はない」
『では問題なしですね』
たった一つの失言をからめとって、おそらくは想定していた場所に落とし込んだセナに、会場にはざわめきが広がっていく。
が、これを面白く思わない人物が、扉を開け放ちながら会場に乱入した。
「僕の居ない場所で、随分と面白い話をしているじゃないか。セナ」
『……アズラエルさん』
「おやおや。都合の悪い人間が来た。とでも言いたそうな顔だね。まったく。テロ事件で忙しい最中にやってくれるよ。だけど。僕が来たからには君の企みもここまでだ。さ。話し合いを続けようじゃないか」
アズラエルは悠々とカナーバが座っている場所から遠く離れた真正面の椅子に座ると、足を組みながらセナに笑いかける。
セナは自分の作戦が失敗した事を悟って小さくため息を吐いた。
地球にコロニーが落ちて来るとなれば、アズラエルは確実に迎撃の為に宇宙へ上がる。
その隙にカナーバを連れ、議会を強引に開催させ、一気に停戦条約の調印まで進もうと考えて居たのだが。
アズラエルが思っていたよりも早く議会へ来てしまった。
これではプラントが不利な条約を覆す事は難しいだろう。
アズラエルは決してその様な事を認める事は無いのだから。
しかし、セナはアズラエルが現れたとしても怯まず言葉をぶつけようとした。
『では、先ほどお話もありました通り、私がプラントへ行く事で……』
「僕は反対だ。セナ」
『っ! り、理由をお聞きしても?』
「理由? 決まっているじゃないか。君がプラントへ行ったところで何の意味も無いからさ。地球じゃ君の信奉者も多いだろうけどね。プラントではどの程度の物か知れた者じゃない」
『しかし、キラお姉ちゃんはプラントを護った英雄としてラクスさんと一緒に信仰の対象とされている様ですが』
「キラはね。そういう事もあるだろう? だが、君はキラじゃない」
『……私がお姉ちゃんであれば、良いと?』
「良いとは言わないね。君であれ、キラであれ、小さな個人の力など無に等しい。大きな波の前では飲み込まれるだけだ。監視するっていうのはね。中立の立場で、それなりに力を持った組織じゃないと意味が無いんだよ」
『なら……』
「うん?」
「ならば! オーブ連合首長国がその役目を担おうじゃないか!」
セナの言葉に合わせるように一つの声が議会に響き渡った。
その声はハッキリと明瞭な……そして確かに力を持った強い声であり。
アズラエルにとっては非常に面倒な人物の声であった。
「私、カガリ・ユラ・アスハが! 先の大戦で最後まで中立を貫いたオーブ連合首長国が! プラント、地球双方を監視し、絶滅戦争へと繋がる大量破壊兵器が認められた場合にはそれの破壊に全力を注ぐと約束しよう!」
「チッ……厄介な」
「無論、異議があるというのなら聞こうか! 私も妹の願い同様に平和を求めているからな!」
快活に笑うカガリに、アズラエルは舌打ちをしながらため息を吐いた。
今まで国際社会において、キラやセナという目立つ妹たちに隠れてきたが、大戦を超え、カガリはウズミの意思を継ぐ新たなる獅子として目覚めつつあった。
何かと世話のかかる妹の心配をし、自分に出来る事と考えて、ウズミの理想、そして政治について勉強し続けてきた日々が、ここに来てセナにとって最高のタイミングで芽吹く。
アズラエル自身が吐いた言葉で、アズラエルは自分を苦しめる事となった。
セナとの問答の中で、中立かつそれなりに力を持った組織と返したが、オーブという国はそれら全てを満たした国であるのだ。
しかも王族にはナチュラルもコーディネーターも信用しているキラやセナが居る。
これをひっくり返すのは至難の業であった。
故に、アズラエルは仕方ないかとカガリの……いや、セナの意見を認めてやる事にした。
ただし、当然ながらタダで認める様な真似はしない。
「分かった。オーブが中立の立場で監視するというのであれば、認めよう」
「アズラエル理事!」
「良いから。ただし、条件付きだ」
「条件? なんだ?」
「どうせセナの事だから、プラントに行くつもりなんだろう? だが、それは認めない。セナは大西洋連邦で貰う。それが条件だ」
「貴様……!」
強い苛立ちを感じたカガリがアズラエルを睨みつけるが、アズラエルは知ったこっちゃないと鼻で笑う。
「別に僕は認めなくても良いんだけどね。どうする? 大西洋連邦には、コーディネーターとナチュラルの問題も多く残ってるけど? ハーフコーディネイターの問題、とかね? 別に僕は全部掃除して、火種を無くすって方向でも良いけどさ。セナはどう思う?」
『はい。私は構いません。私が必要なのであればプラントではなく、地上へ』
「セナ!」
『カガリお姉ちゃん。これは必要な事です。それにキラお姉ちゃんとも約束しました。地上は、私が守ると』
「じゃ、決まりだね」
『いえ。アズラエルさん』
「うん?」
『一つだけ訂正をさせて下さい。私が守るのは地球です。大西洋連邦ではありません』
「……はぁ、分かったよ。ただし基本は大西洋連邦。それは譲れない」
『……仕方ありませんね。分かりました』
セナとアズラエルは互いの合意点を見つけ、ひとまず話し合いは解決となった。
そして、この日に決まった物事をカナーバは最高評議会へと持ち帰り、その際に同行したセナの説得もあり、評議会の決定は多少の反発はあれど素直に決定へと至った。
それから年を超え。
C.E.72年3月10日。
開戦時の悲劇の地であるユニウスセブンにおいて、地球連合とプラントとの間に正式に停戦条約が締結された。
これにはオーブ連合首長国が立ち合い、両国は平和へ向けて本格的に歩み始める事となる。
だが、戦争が終わっても完全な平和の世界になった訳ではない。
未だ世界には多くの火種が残っているのだ。
それに、過去の世界では存在した条項が一つ消されている事も気がかりである。
その条項は、『MS、MA、宇宙戦艦の数は人口、GDP、失業率等のパラメーターにより算出される。』というモノであり、これによってプラントは苦しめられる事となったが、その代わりに争いは少しずつ小規模な物へと移行していったのだ。
だから、これがどう転ぶか、それはセナにも分からない。
「これから忙しくなりそうですね」
「なに。セナ様は何も心配は要りませんとも。この私。セナ様の忠実なる騎士。ネオ・ロアノークがお傍に居ますから」
「頼もしい事です」
セナは折角だからと用意された、ネオと同じく黒く染められた大西洋連邦の軍服を身に纏い、月から地球へと移動するガーティ・ルーの中から蒼く輝く地球を見下ろすのだった。