ガンダムSEED Re:   作:とーふ@毎日なんか書いてる

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第126話『ざーんねん。僕の勝ちだね』

 クルーゼの家で楽しい夜を過ごし、翌朝になってからアカデミーを訪れたキラは、シンとレイ、クルーゼと別れ、ラクスと二人でアカデミーの管理官と面会をしていた。

 シンとレイは入学の手続きをすると家では言っていたのに、慣れた様子で鞄から制服を取り出しており、既にアカデミーの生徒である事が分かる姿であった。

 が。キラはどうせカガリからの指示だろうと何も言わず彼らを見送る。

 

「ご足労いただきありがとうございます。ご連絡いただけましたら迎えの者を送りますので、次回からは是非ご利用下さい」

「いえいえ、そんな」

「キラ」

「ん? どしたの? ラクス」

「キラがアカデミーへ来る際に何かあった場合は、彼の責任問題となりますので、次回からは甘える様にして下さい」

「あ、なるほど。そういう事情があるのね。分かりました。次からはお願いします」

「ありがとうございますキラ様。ラクス様も私の至らぬ説明に補足をありがとうございます」

「いえいえ。直接お話出来ない事情もありますものね」

 

 ラクスはふわりと慈愛の女神らしい微笑みを浮かべ、管理官をねぎらう。

 そして、これからの予定について話をするのだった。

 

「まずはキラ様にご挨拶をしていただければと思います」

「挨拶って言われても……特に言う事は無いんですが……どういう挨拶をすれば良いのでしょうか?」

「どの様な物でも問題ありませんよ。輝かしい戦歴を語って頂いても構いませんし。プラントを守る重要性を語って頂いても構いません」

「んー。そういうのは苦手なんだよなぁ……」

「そういう事でしたら、私の方からキラ様の素晴らしさを伝えるという形式でも構いませんよ。キラ様は横で立っていて下さればそれで……」

「いや! それはそれで何か微妙な気持ちになるんで! 自分で話します!」

「はい。その方が良いかと思います」

 

 管理官はニッコリと笑い、近くに控えていた者を呼んですぐに全員を集める様にと伝えた。

 そして、キラに再び微笑んでから「では行きましょうか」と言葉を向ける。

 

「え!? もう!?」

「はい。折角ですし。ご挨拶が終わってから特別講習という事でモビルスーツでの実戦訓練などを見せて頂ければありがたいです」

「……自信無いなぁ」

「キラ様の腕であれば多少緊張していたとしても訓練生には負けないでしょう」

「いや、そっちの心配では無くて……挨拶の方ですね」

 

 キラはポツリと愚痴をこぼしたのだが、管理官はニコリと笑ってキラの泣き言を流してしまうのだった。

 

 

 それから。

 あれよあれよという間に、キラは白い隊長服に着替えさせられ、貰った覚えのない勲章を大量に付けながら挨拶をする事になった。

 

『えー。はじめましてー。本日はお日柄もよくー』

 

 現在訓練中の訓練生だけでなく、教官らも含めて多くの者が詰めかけているモビルスーツの実戦場で、キラは緊張で頭が真っ白になりながら必死に言葉を紡いでいた。

 今までも何度かこういう機会はあったが、常にオーブ行政府が用意した原稿を読んでいるだけであり、キラ自身が何か考えて喋った事はない。

 まぁ、戦争中に戦争を止める為、各国と交渉する為に喋っていた言葉は全てキラの中から生まれた言葉であるが、それは必要があるから頑張っただけの話であり。

 必要とは思えない挨拶で何かが出てくる様な事は無かった。

 

『えー。私はですねー。まぁ、前大戦でモビルスーツに乗って戦った訳ですが、モビルスーツは頑丈な様に見えて、実はそんなに硬くなくて……』

『あーいや、何を言いたいかといいますと。格闘戦は整備の人に怒られる可能性が高いのであまり多用しない方が良いと……あ、違うな』

『いや、違くてですね。生き残るためならあらゆる手段を講じるべきでして。例え突拍子もない動きであっても、必要であれば行動する事が大事であると私は考えております。はい』

 

 正直な所。

 キラの言っている言葉の意味は何となくは理解出来るものの、大きな部分で何が言いたいのかサッパリ分からない挨拶であった。

 が、あの『キラ・ユラ・アスハ』である。

 

 プラントへ放たれた核を止める為に奮闘し、最後には自由の名を冠した機体で、真実コーディネーターの自由を掴んだ英雄だ。

 未だ地球との諍いはあるが、それでも彼女の尽力が多くの希望をプラントにもたらした事は確かで。

 

 その圧倒的な実力は、ヤキン・ドゥーエでの激戦を知る者たちの中では今もなお強く記憶に刻み込まれている。

 ジェネシスを巡る戦いでは、ZAFTのトップエースである『ラウ・ル・クルーゼ』とほぼ互角の戦いを繰り広げたという噂もあるくらいだ。

 

 そんな人の言葉である。

 意味は分からずとも、何かしら意味があるのだろうと、皆考えていた。

 そして、キラの言葉から何かを拾った一部の者を除いて、キラの挨拶はよく分からないと言う結論を残したまま終わり。

 キラは折角だからと訓練兵と模擬戦をする事になった。

 

 使用するのは、プロトジンと呼ばれる、キラも開発を手伝った初期型のジンだ。

 

 

「うん。懐かしい」

『キラ様。ご準備はいかがでしょうか?』

「はい。問題ありませんよ」

 

 コックピットの中からキラは微笑み、両手でギュッと操縦桿を握った。

 パイロットスーツに着替えるのは面倒だからと軍服姿のままであるが、余裕の笑みは一切崩れていない。

 

『では、始めましょう! 最初の者! 搭乗しろ!』

『は、はい!』

 

 そして、最初の訓練兵が緊張したままモビルスーツに乗り込んだ。

 モニター越しにも酷い緊張が伝わってくる。

 パイロットスーツを着ているというのに、ガチガチで手は震えていた。

 

『よ、よろしく! お願いしますっ!』

「ふむ」

 

『では! はじめ!』

 

 キラは緊張したままの訓練兵がペイント弾の装填されたマシンガンを引き抜き、それを撃つのをジッと見ていた。

 だが、緊張のし過ぎなのか撃つのが早すぎて弾はキラのジンに掠る事すらしない。

 そして、キラもジッと動かずに彼の動きを見ていた。

 

『あ、あれ!?』

「君」

『は、はい!』

「落ち着いて。基本的な動きはシステムがサポートしてくれるから、君は判断するだけで良い」

『は……はい』

「必要なのは、どういう動きをモビルスーツがするのかちゃんと理解する事だ。マシンガンを撃つ為にはどうする?」

『えと……銃を持って、構えて、照準をつけて……撃つ、ですか?』

「そう。よく出来ました」

『ひゃい!』

 

 ニッコリと微笑むキラを正面から見てしまった哀れな少年はドクドクと早くなる心臓の音と、顔に熱が集まるのを感じながら、裏返った声で何とか返事をした。

 哀れ、少年の情緒はキラによってグチャグチャに破壊されたが、それでもキラは止まらない。

 

「じゃ、今度はゆっくりやってみよう。何事も基本は大事だよ。はい。最初から」

 

 キラが耳に付けたイヤホンマイクから吐息と共に柔らかい声が少年の耳に直接届けられており、少年はもはやまともな思考が出来ないままキラの言われるまま銃を構え、そして照準にジンが入っている事を確認して、撃った。

 が、その瞬間、視界からキラの乗ったジンの姿は消えており、どこへ行ったのかと周囲を見渡した少年の耳に届いたのはキラのやや幼い、悪戯好きの少女の様な声だ。

 

「ざーんねん。僕の勝ちだね」

 

 キラはニッコリと笑みを浮かべながらジンを高速で動かして、訓練兵の少年が登場するジンのコックピットにマシンガンを突きつけていた。

 圧倒的な速度と正確性と繊細な動きを全て持たせて動いたジンに、少年は何も出来ないままジンから降りる事になった。

 が、彼の脳裏に焼き付いた強烈なイメージはこれから長い間彼を苦しめる事となる……が、彼はその事を友人に語る度に嬉しそうな顔をしており、友人も彼の幸運を羨ましがるのだった。

 

 それから。

 最初の少年との戦いを見ていた訓練兵たちは緊張などしていては何も出来ないと気合を入れ、キラへと挑んだが、誰一人としてキラと『戦い』になる者は居なかった。

 

 そして、やや退屈し始めてきたキラの元へ、ある刺客がやってくる。

 

「ん?」

『レイ・ザ・バレルです。よろしくお願いします』

「なるほど。相手はレイか。面白そうな子が来たね」

 

 キラはペロりと唇を舌で舐め、ふふっと笑みを浮かべたままレイのジンを見据えた。

 

『では、始め!』

 

 教官の合図と同時にスラスターを吹かせ横に飛び込んだレイは動きながらマシンガンを構えてキラのジンを狙い撃つ。

 が、キラは最小限の動きでそれらをかわし、『真っすぐ』にレイのジン目掛けて飛び込んでくる。

 

「ほら! 隙だらけだよ!」

『くっ!』

「攻撃している間は安全。なんてのは戦場じゃ通用しない!」

 

 マシンガンの攻撃で僅かにズレてゆく合間を抜けてゆくなんて芸当が出来るのはトップエースの中でも限られた者だけだろうが、キラにはそんな理屈は通用しない。

 キラには出来る。

 そして、クルーゼも出来る。アスランも出来る。

 

 ならば、出来る者はそれなりにいる。という考えである。

 だから、それをレイにも押し付けるのだ。

 お前もそれが出来るはずだ。そして、相手がそうやって来る事を想定しろ、と。

 

 シンに鬼だ悪魔だと言われたアスランよりも酷い指導であるが、レイは負けじとくらいついていくのだった。

 その戦いは既に訓練兵の戦いを遥かに超越していたが、二人は何も気にせずに模擬戦を続け。

 レイは敗北してからも、どこか爽やかな様子でモビルスーツから出るのだった。

 

「いやー。強い強い。凄いね。レイ」

「いえ。結局勝てませんでしたから」

「アッハッハ。そうそう。その意気だよ。負けない気持ちが大事ってね」

 

 キラは少し休憩とモビルスーツのコックピットから出て、上着を脱ぎながら笑う。

 汗だくのシャツを少し乾かす為であったのだが、その姿に先ほどまで爽やかな笑顔を浮かべていたレイの顔が青ざめた。

 そして、急いでキラの元へ向かう。

 

「キラさん! 上着を!」

「ふぇ?」

 

 レイは急いでキラに上着を羽織らせて、そのまま笑顔のまま怒りを示しているラクスの元へと連れてゆくのだった。

 そんなアクシデントがあり、キラとの模擬戦は急遽中止となったのだが……キラの操縦技術に圧倒されていた者たちは、レイとの模擬戦である程度満足しており、特に反発意見も無いまま解散となった。

 

 唯一納得出来ていない二人を除いて。

 

「えー!? 中止!? そりゃないよ! 次は俺だったのにさぁー!」

「諦めろ。シン」

「そりゃレイは散々やったんだから良いじゃんか。俺は全然だったんだぜ!?」

 

「本当ね。まったくいい迷惑だわ」

「うん? なんだよ。お前」

「ルナマリア・ホークだ。シン。何度か模擬戦もしただろう?」

「あぁ」

 

 レイの言葉に思い出したとシンは頷きながら、何か用かとルナマリアを見つめ返す。

 だが、ルナマリアの怒りはレイへと向いており、シンに用はないとでも言うようであった。

 

「ようやくキラ様と直接お話出来る機会に恵まれたのに……」

「フン。お話、か。悪いがこっちはお前の事情に興味は無いんだ。ルナマリア」

「なんですって~!?」

 

 バチっと視線をぶつけ合いながら睨み合う二人にシンはヤレヤレとルナマリアと共に居た妹へと事情を聞くのだった。

 彼女たちが少し前にキラと共に戦った時の話を。

 そして、キラを一人で戦わせてしまったという後悔から今日という日まで訓練を続けてきたルナマリアの日々を。

 

 

 レイとルナマリア。

 シンとメイリンがそれぞれ言葉を交わしている頃、キラはラクスにお説教をされながらショボンとしていた。

 

「まったく。キラは無防備すぎますわ」

「ごめんなさい……」

「キラはもう少し外からの目を気にする必要がありますわね。その為に色々と教えたい所なのですが、(わたくし)もこれから忙しくなりますから……」

「うん。分かってる。僕一人でも色々気にしてみるから……」

 

 肩を落としながらラクスに心配させまいと言葉を返していたキラであったが、そんな二人の居る部屋にノックが響き、許可を出す事である男が部屋に入ってくる。

 その人物はカナーバより議長の座を受けたばかりの男……ギルバート・デュランダルであった。

 

「お話中、失礼するよ」

「えと、貴方は」

「私はギルバート・デュランダル。初めましてかな。キラ・ユラ・アスハ君……いや、ここではキラ・ヤマトだったね」

「あぁ、貴方がデュランダルさん! 初めまして! セナの事で大変お世話になった様で」

「いや。構わないさ。むしろ助けられて良かったと逆にこちらが安堵しているくらいでね」

「なるほど」

 

 キラは突如として入って来たデュランダルとも普通に会話をし、何か用事があるのかと首を傾げた。

 その様子にデュランダルは軽い笑みを浮かべると、一人の少女を部屋に招き入れた。

 

「いや、今日はただの挨拶で来たのだがね。ちょうど良いからと彼女を連れて来たんだ」

「……! 君は」

 

 デュランダルが部屋に招き入れた少女は、ラクスに瓜二つの少女であり、その姿にキラもラクスも目を見開いて驚く。

 

「わ、私! ミーアって言います! その、ラクス様の代わりに広報活動? みたいな事をやるって聞いてます!」

「どういう事ですか? デュランダルさん」

 

 ミーアの登場でキラの目が一気に鋭くなってデュランダルを見据えた。

 その雰囲気にミーアは一瞬怯えた様な顔になったが、それを安心させる様にキラはミーアに微笑みを返す。

 

「いや、誤解をさせたらすまないね。彼女は別に囮だとか影武者だとか、そういう物じゃないんだ」

「と言いますと?」

「ラクス嬢は追悼慰霊団の代表であったり、アイドル活動をしていたりと政治の分野以外でも活動の幅が大きくてね。我々クライン派の旗頭としてラクス嬢に動いて頂く以上、表舞台に立つのは難しくなるんだ」

「それをミーアさんにやらせる、と?」

「そういう事だね。だが、これは……」

 

 ジッとデュランダルを見つめながら言葉を積み重ねるキラに、ミーアが焦った様に言葉を向けた。

 

「あ、あの! その! 私、やらされている訳じゃないんです!」

「えと、ミーアさん?」

「私、その、前の大戦でキラ様やラクス様にお助け頂いて、それで、私にも出来る事があるって聞いて、それで……! その、だから」

「……」

 

 キラはどうしたものかと考えて、ラクスへと視線を投げる。

 ラクスはそんなキラの視線を受けてニッコリと微笑んだ。

 

「ミーアさん」

「は、はい!」

「もし、嫌になったらいつでも止めて良いですからね」

「ラクス」

(わたくし)は、ミーアさんの身に危険が及ばないのであれば何も問題ありませんわ」

「……ラクスが良いのなら、良いけどさ。本当に良いの?」

「はい。確かに、(わたくし)が全く顔を見せないという事で皆さんが不安になるというのも、分かる話ではありますから」

 

 ラクスの言葉に、キラは一応納得し、分かりましたと頷いた。

 少しずつ降り積もる不信感をその心の中に溜めながら、表面上は大人しく従うのだった。

 今はまだ、確証がないから……と。

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