南アメリカ合衆国に降り立ったセナとネオは、ネオの乗機である『リュニック』で南アメリカ合衆国と地球連合の争いに介入した。
既に話は通っていたのだろう。
地球連合軍はセナの名を聞いてすぐに撤退し、戦場には切り裂きエドこと南アメリカ合衆国の英雄エドワード・ハレルソンと、地球連合軍の特殊作戦部隊大佐ネオ・ロアノーク、地球の救世主セナ・ユラ・アスハのみが残される形となった。
しかし、最初にネオがエドへ語り掛けた以降……両者の間に言葉はない。
戦場には静寂だけがあり、その奇妙な静けさは、今にも新たな戦いが始まってしまいそうである。
だが……。
「聞こえなかったのか? エドワード・ハレルソン。セナ様が降臨されたのだ。跪いて感謝をするべきではないのか?」
『悪いが……救世主殿の出番はねぇんだ。帰ってくれねぇか?』
「……なんだと? セナ様の意向に逆らうというのか? 貴様は……!」
ネオはエドの言葉に強い怒りを感じ、ビームライフルをエドの駆るソードカラミティへと向けた。
そして、エドもネオの強い殺気を受けて、ソードカラミティの『15.78m対艦刀「シュベルトゲベール」』を構える。
緊迫した二人の様子に、焦ってセナは声を掛けようとしたのだが……セナが口を開くよりも早く、二人のすぐ近くにあった草むらが激しく動き、一機のモビルスーツが姿を現した。
「何者だ!?」
『新手か!?』
「……あれは」
ネオとエドは現れたモビルスーツに反応し、銃口を向けるが、セナはその見覚えがある機体に目を細める。
そして、ネオの手に自身の手を重ねて静かに首を振った。
アレは敵ではないと。
『わ、わりぃ! 別に戦闘に介入しようなんて気はねぇんだ。ただちょっと熱中しちまって』
『熱中?』
『あぁ。俺はジャーナリストなんだが……エース同士の戦いっていうのかな。その気迫に飲まれちまってよ。つい』
『は……はーっはっはっは! 面白い奴だな! お前は!』
乱入した形になってしまったモビルスーツ……アウトフレームのパイロットはコックピットから顔を出しながらエドとネオに謝罪する。
そんな姿に、先ほどまでの緊張を吹き飛ばしたエドは青年と、ネオたちに向けた先ほどよりも親しみを込めた笑顔で告げた。
『……とりあえず、お話合いって奴をしたいんだが……受けてくれるかい? セナ姫様』
「はい。私としても大変ありがたいお話です」
『へぇへぇ。変わらないな。アンタは。分かった。キャンプに案内しよう!』
エドの言葉にネオはかなりの苛立ちを感じていたが、セナがネオの手に自身の手を重ね続けている事もあり、ひとまずは怒りを身の内に押し込む。
優秀な騎士は姫君の願いを叶える者だ。
例え、その願いがどれほど無謀な物であっても……。
と、自分の考えに酔いながら、エドが示したキャンプ場所へと向かい、彼に誘われるままリュニックを飛び降りた。
「ようこそ。南アメリカ合衆国へ」
そして、エドに案内されるまま一つの建物に入ったネオとセナ……そしてジャーナリストという青年はひとまず握手をしながら挨拶をする。
「俺はエドワード・ハレルソン。とは言っても、ここに居る奴は全員知ってるかな?」
「はい。初めまして……でしょうか。セナ・ユラ・アスハと申します」
「セ、セナ!? セナって、あの! セナか!?」
「あのセナというのが、どなたの事を指しているかは分かりませんが、一応セナと名付けられています」
「アスハって言ってたし。本物かよ……」
「……貴様。セナ様に」
「ネオさん。駄目ですよ。怖い顔をしては」
「承知いたしました」
顔の半分を隠すような仮面を付けながら怒りをあらわにしていたネオは、セナの言葉でアッサリと怒りを消し、恭順の意を示した。
そして、不遜な態度を隠さぬまま青年とエドに名乗る。
「私はセナ様の騎士。ネオ・ロアノークだ。別によろしくしなくても構わない」
「……やっぱり、アンタがネオ・ロアノークか。上官殺しの狂犬。確かによろしくはしたくねぇな」
「貴様とはどこかで会ったか? エドワード・ハレルソン」
「いや、初対面さ。ただ、噂は嫌でも聞こえて来るんでね」
「なるほど。ならば一つだけ訂正しておこう。私は上官を殺した事などない。全ては『事故』だ」
「へぇへぇ。事故。事故ね。俺も精々事故らない様に気を付けるとするよ」
「あぁ、そうだな。セナ様への口の利き方には精々気を付ける事だ」
ネオの言葉にエドは肩をすくめながら、肯定を返すのだった。
そして、最後の一人……ジャーナリストの青年へ自然と視線が集まる。
「あぁ、悪い悪い。俺の番だよな。大物ばかり集まってるから緊張しちまったぜ。俺はジェス・リブル。フリーのジャーナリストだ。南アメリカ合衆国で独立戦争が起きてるっていうんで、取材しに来たんだよ。南米の英雄。切り裂きエドにさ」
「ふぅん」
エドはジェスの言葉にあまり興味がない様な反応を示しながらソファーにドカッと座った。
そして、ちょうど部屋の外からやってきた男が持ってきた袋を受け取る。
「おー! ありがとよ! ちょうど腹が減ってたんだ。お前らもどうだ? 食うか?」
「なんだ。ソレは。セナ様に妙なものを食べさせたら許さんぞ」
「妙なモンじゃねぇよ。ハンバーガーだ。知ってんだろ? ハンバーガー」
「ハンバーガー……だと!? その様な下賤な物!」
「はい。よく知っています。いただけるのですか?」
「あぁ。ちょっと多めに買ってきて貰ったからな。ホレ。姫さん」
「ありがとうございます」
セナはネオの言葉を完全に流し、エドから笑顔でハンバーガーを受け取る。
そして、それを見ていたネオも渋々エドからハンバーガーを受け取るのだった。
酷く不満そうな顔をしているが、ニコニコと嬉しそうに笑っているセナの機嫌は損ねたくないのだろう。
「アンタは……どうやら噂とはちょっと違うみたいだな。姫さん」
「そうなのですか?」
「あぁ。救済の天使。セナ姫様と言えば。その神々しいお姿に近づく事はおろか、見る事すら出来ない。傷ついた民衆へ差し出される手は天使の様な美しい物だった……! みたいな、神話がよく聞こえて来るぜ」
「それは……ちょっと恥ずかしいですね。はむ」
ハンバーガーを小さな口で食べながら恥ずかしそうにしているセナは、どこからどう見ても普通の可愛い女の子であり。
女神だー、天使だーという噂話からは随分と遠い存在の様に思えた。
だが、こちらの方が好みだなとエドはハンバーガーを食べながら笑う。
何故なら、こうして普通の少女の様にしている姿は姉であるキラとそっくりだからだ。
「しかし……そうしてると姫さんはキラちゃんによく似てるんだな」
「お姉ちゃん?」
「……キラちゃんだと……? キラ姫様。だろうが……」
「ネオさん。落ち着いてください。キラお姉ちゃんはそう呼ばれることが嬉しいんです」
「……承知いたしました」
事あるごとに暴れようとするネオを諫めるセナを見ながらエドがガハハと豪快に笑い、セナが聞きたがっているであろう姉の話をする事にした。
「キラちゃんと会ったのはよ。エイプリルフールクライシスの後の事だった。ニュートロンジャマーキャンセラーを南アメリカ合衆国まで持ってきてくれてな。食糧支援とかもしてくれて……よく覚えてるぜ。子供達に囲まれて、戦争中だってのに、楽しそうに笑ってたよ。多分子供達を不安にさせない様にしてくれてたんだな
「お姉ちゃんらしいです」
「まぁ、だからこそ……って訳じゃないんだが。二度もアンタら姉妹に助けられる気はねぇんだ。俺は」
「私は、自分に出来る事をやっているだけです。恩を売っている訳でも、何か対価が欲しい訳でもありません」
「知ってるさ。キラちゃんも同じことを言ってたからな」
エドはジュースを飲み、ふぅと一息吐いてからセナを鋭い目で見据える。
その瞳には確かな意思が込められていた。
セナを拒絶する確かな理由が存在していた。
「だからこそ……だ」
「だからこそ、ですか?」
「そうだ。一度キラ姫様に助けられ燃料危機を脱し、条約締結で国土を取り戻すチャンスを手に入れた俺達だが、それにはセナ姫様が関わってたという。そして、実際に独立戦争を始めたらセナ姫様が助けに来てくれる」
「それの何が気に入らない。良い事ばかりではないか」
「そりゃ! アンタみたいな姫様の信奉者はそうだろうさ。だが、こんな事ばかり続いたら俺たちは姫様方無しじゃ何も出来ない人間になっちまう。自分の足で立てなくなっちまう。例え、そうなった未来の方が幸せなんだとしても。俺は俺の足で歩くべきだって思ってるんだよ」
「……なるほど」
エドの言葉にセナは一定の理解を示した。
そして、ならばどうするべきかと思考する。
「フン。随分とご立派な事を言うじゃないか。エドワード・ハレルソン」
「これでも人間やって28年だ。それらしい事も言うさ」
「あぁ、確かに。それらしいな。言葉の響きは良いが。それだけだ。現実がまるで見えていない」
「ほー。姫さんの忠犬は何が気に入らないんだ?」
「情勢だ。南アメリカ合衆国はセナ様の力がなくては現状維持すら難しい状態だと私は考えている」
「その根拠は?」
「南アメリカ合衆国は元々プラント寄りだった。が、キラ様とセナ様が撃たれたというニュースが流れた際に、過激派がクーデターを起こし、親プラント派の議員を殺害し、政権を奪い取り……地球連合軍の一員となった。終戦した現在はプラント派と連合派はほぼ同数であるが、バランスとしては連合派の方が強い」
「だからなんだってんだ」
「この戦争で独立を勝ち取ったとしても、戦争が起きればまた連合の一部へ逆戻りというワケだ。まぁ、その前に内部崩壊する可能性の方が高いかな。君の国も火種は多く存在する様だからな。ならば、犠牲の少ない方法でひと時の平穏を手にする方が健全だと思うが?」
「それで連合の操り人形になれってか!」
「それこそが、弱者の生きる唯一の方法だ。この国はオーブの様に強国ではあるまい。国外で人気の高い姫様方を囮として、モビルスーツを開発する様なしたたかさも無いしな」
ハッキリと事実を並べるネオに、エドは酷く不快そうな顔をしながら強い言葉と視線をぶつける。
が、ネオは特に気にした様子も見せないまま語り続けた。
「そもそもだ。セナ姫様の温情なしで、勝てるつもりか? 連合に。お前一人で」
「……勝つさ」
「何の根拠もない。ただの強がりだな。国が焼かれて、友が死んで、何も残らない焦土になってから。こんな筈じゃなかったとでも言うつもりか? その時には既に何もかもが手遅れだというのに」
フッと笑うネオの言葉に、エドはギュッと両手を握りしめて、少し外すと部屋を出て行ってしまうのだった。