ODR
それは、ミヤビ・オト・キオウが始めた一つのプロジェクトである。
正式名称『オーブ外務省外郭団体国際協力機構管轄団体組織国際災害救助隊』はオーブ国籍者の海外における生命財産の保護を目的とする組織である。
が、彼らの目的は大きく分けて二つある。
一つはODRという組織の名前を世界に広める事。
これは、セナ姫やキラ姫という個人だけでなく、オーブという国が中立という立場から人道的な支援や援助を行い、世界的な立場を確立する事にある。
一応体裁としてオーブ国籍者の~と謳っている以上は、まったく関係のない組織や国に向かう事は無いが、多少でも関わっていればお手伝いしますよ。という様な意思表示である。
そして、もう一つは、この活動を通じてエクリプスというモビルスーツの実戦データを獲得する事であるのだが。
データを取得するという部分に関しては実のところ、そこまで大きな目的ではない。
何故なら、彼らの目的は……ODRの活動を通じてエクリプスの実戦データを取っていると各国に思わせる事が目的なのだ。
そう。
かつての大戦で、オーブは地球連合軍と戦争になった。
さらに、その大戦が直接の原因ではないが、オーブの主導者であるウズミ・ナラ・アスハという人物を失った。
その衝撃はあまりにも大きかった。
オーブという国そのものを破壊してしまう程に。
だが、それでもオーブが崩壊せずに済んだのは、ウズミ・ナラ・アスハという偉大な男が遺した三人の娘たちの存在が大きい。
ウズミから直接教えを受け、代表として前に立ち、皆を導く事を決めた太陽の様な少女、カガリ・ユラ・アスハ。
そんなカガリを裏から支え続け、宇宙の向こうにあるプラントとオーブを繋ぐ架け橋として静かにオーブを支える月の様な少女、キラ・ユラ・アスハ。
そして、一度は戦争となった地球連合軍や大西洋連邦との国交を取り戻し、世界中の苦しむ人々へと手を差し伸べ続ける星々の様にオーブと世界を照らす少女、セナ・ユラ・アスハ。
三人が居なければ政治は行く先を失い、連合か、プラントと繋がった者達がオーブを乗っ取り内部崩壊した事すらあり得た。
だからこそ。オーブ国民は、そして彼女たちを守りたいと願いながらも、守られ続けてきた者達は彼女たちを守る為の力を求めた。
それがエクリプスであり、ODRであった。
ODRの真なる目的。
それは抑止力である。
世界にオーブという国を強く印象付け、二度とオーブを焼かぬ様に。
二度とオーブを照らす光を失わぬ様に。
彼女たちに守られた者達が、考え、実行した――最悪の組織である。
「タツミ! 生きてる!?」
『はぁ……はぁ……うん。生きて、る』
ナウル島にある工場区へと向かっていたエクリプスは、中から飛び出してきたアンティファクティスが所有するモビルスーツ『ジングラディエイター』との戦闘に何とか勝利し、満身創痍のエクリプスのコックピットで荒い呼吸を繰り返しながら、破壊された『ジングラディエイター』を見据えていた。
だが……。
そんなエクリプスに、海中より現れた新しいモビルスーツ『エールカラミティ』が出現し、多数の弾丸をぶつける。
「っ!」
そして、すぐに戦闘が始まるかと思われたのだが……エールカラミティは海上に浮かんだままそれ以上の動きを見せなかった。
しかし、エクリプスが動き出そうとした瞬間に右手をスッと前にだし、エクリプスの動きを止める。
「……?」
『やぁ! はじめまして、エクリプスのパイロット』
「っ!?」
『あれ? 聞こえていないかな? オープンチャンネルで話しかけているんだが……』
「え、あ、えっと……はじめまして?」
『あぁ、良かった。繋がったみたいだね』
軽い調子で話しかけてきたエールカラミティのパイロットにタツミも思わず返事をしてしまう。
今日という日までエクリプスで人助けを積極的にやってきた少年だ。
基本的な性質としてお人よしなのである。
『俺の名前はジョエル。ジョエル・ジャンメール・ジロー』
「えっと、僕は」
『バカ! 言わなくても良いの!』
呑気に敵と自己紹介を始めようとしたタツミをミヤビは怒鳴りつけ、何が目的なのかとジョエルという男について考える。
敵対している筈の相手と呑気に話を始めるなど正気ではない。
いや、正気ではない者達ならミヤビもよく知っているのだが……あぁいうお人好しとはどこか違う空気を感じていた。
『ふふ。まぁ、こちらが名乗ったのだからそちらも名乗れ。なんて言うつもりは無いよ。ただ……そうだね。エクリプスのパイロット。君に一つ提案があるんだ』
「……提案?」
『そう。大事な提案だ……君にはその機体を降りて貰いたい』
「……!?」
『あぁ、勿論君には一切危害を加えない。邪魔なのはその機体だけでね。むしろ君には敬意を払っているんだ』
「何を言って……!」
『ここまで俺達を追ってきたのなら分かるだろう? その機体は少々邪魔なんだ』
「アンタ達がやってきた事は僕も見て来た。……いったい何を企んでいるんだ!」
『うーん。それは言えないなぁ。同志ならそれも言えるんだが、君は違うしな』
「なら受け容れられない。エクリプスを手放すつもりはない!」
「なるほど」
ジョエルは小さく頷き、エールカラミティが手に持っていた『空戦用複合兵装「アドラー」』を振り回し、勢いよくエクリプスへと叩きつけた。
それは、スラスターを取り付けられたウォーハンマーの様な打撃武器であり、エクリプスは打ち付けられた衝撃で近くにある小島まで吹き飛んでしまう。
しかも、その衝撃はフェイズシフト装甲を突き抜けてパイロットへと重大なダメージを与えていた。
それから、エールカラミティは何度もアドラーをエクリプスに叩きつけ、その度にエクリプスのフェイズシフト装甲はエネルギーを食いつくしてゆく。
しかもそれだけでなく、中に居るタツミはフェイズシフト装甲を貫通してくる衝撃により、大量の血を吐いてしまうのだった。
タツミの体が深刻なダメージを受けているという警報が艦内に鳴り響き、ミヤビは悲鳴の様な声を上げる。
こんなハズでは無かった。とは言わないが、想定していた中でも最悪に近い状況が今、目の前で広がっていた。
「タツミ!」
『お姫様。こっちの準備は完了した』
「っ!」
『発進の許可をくれ。コイツはお姫様の許可が無きゃ動かない』
「それは……! でも!」
『良いのか? このままじゃ、タツミは死に、エクリプスは破壊される。そして、セナ様も……殺されるぜ?』
「……」
『今度こそ、守りたかったんじゃないのか?』
その言葉に。
ケンが放った言葉に、ミヤビはあの時……キラとセナが死んだと聞かされた時の絶望を思い出していた。
そうだ。泥を飲み込む覚悟で始めたのがODRだ。
こんな所で逃げてたまるか、と熱が入る。
「お、お嬢様!」
「良いわ! 全責任は私が取る! エクリプス二号機! 起動!」
『ありがとよ……アンタならそうするって思った』
「……フン。それより、分かってるんでしょうね?」
『あぁ、タツミも、セナ様も殺させないさ……絶対にな』
ケンはエクリプス二号機の中で小さな笑みを浮かべ、遂にその禁断の機体を起動させた。
そして、即座に機体を出撃させ、エクリプスとエールカラミティの元へ向かう。
『タツミ!』
『け、ん……?』
『おや……? アレは、エクリプス、か?』
戦場へと高速で到達したエクリプスは落ちていたジングラディエイターの装備を掴み、勢いよくエールカラミティに叩きつけてエールカラミティを後退させる。
『くっ!』
『す、すごいパワーだ……!』
『当然だ。この機体は』
「えぇ……エクリプスとは中身からして別物なんだから」
そして、あっと言う間にエールカラミティを撃退し、ボロボロのエクリプスの前に降り立ったエクリプス二号機であったが……何故かビームサーベルを抜き、エクリプスに攻撃を始めてしまう。
「な、何してんのよ! ケン!」
『ケン!? どうして!』
咄嗟にエクリプスを動かして攻撃をかわしたタツミであったが、二号機の猛攻は止まらない。
タツミが叫ぶ声も届かず、ミヤビの声も届かず、ケンはひたすらに、今日という日まで共に過ごしてきた友へと刃を向けた。
『どういう事だよ! ケン! 僕が何かしたのか!? なんで!』
『だから』
『何か考えがあるのか!? 教えてくれ! どうしてこんな事を!』
『わからんやつだな!』
ケンは苛立ちを叩きつける様に、ビームサーベルを振り回し、エクリプスの腕を斬り落とす。
そして、驚愕に染まるタツミへと突きつけた。
『こういう事だ』
「は……」
『俺とお前は最初から敵同士だったんだよ』
「そんな……!」
絶望するタツミをケンはジッと見つめていたのだが……不意にアラートが鳴り響き、空を見上げた。
こうなる前に、全てを終わらせるつもりだったのに、と悔しそうに歯を食いしばりながら。
『こちら、セナ・ユラ・アスハ。戦闘を中止して下さい』
「セナ!? 駄目よ! オーブに帰りなさい!」
『そういう訳にはいかないでしょう?』
セナの登場に、まだ武装の残っていたジングラディエイターと、多少の遠距離武器があるエールカラミティがホープへ銃口を向け、放つが……ホープはスイスイと攻撃を避けてゆく。
『どうやらお話合いには応じて下さらない様ですね。システムも外部から接続できない様になっていますし。私対策ですか』
『その通りだよ! セナ姫! そして、君が来るのなら、歓迎会をしなくてはな!』
『エールカラミティ……。それに多数のモビルスーツ。連合……ZAFTの機体もありますね。どこから入手したのでしょうか』
『応える義理はないね!』
『それもそうですね。では、こちらも実力行使といきましょうか』
『一人で何が出来る……!? 空、いや、宇宙か!』
どこに隠れていたのか、多数のモビルスーツを呼び、セナへと猛攻をかけていたエールカラミティのジョエルは鳴り響くアラートに上空へと目を向けた。
そして、落ちて来る一つの降下ポッドへと、『580mm複列位相エネルギー砲「スキュラ」』を撃つ。
だが、放たれたスキュラは内部に発生した特殊な力場により空の彼方へと弾き飛ばされてしまうのだった。
『これは……!? ゲシュマイディッヒ・パンツァー!? という事は』
『誰だよ! 俺を撃とうって奴は!』
『へへっ! いっぱい居るねぇ! 撃滅!!』
『全部ぶっ壊して良いんだろ!? オラァー!』
そして、お返しだとばかりに撃ち返されたスキュラを緊急回避し、ジョエルは冷や汗を一つ流した。
ソードカラミティと酷似した機体。
いや……プロトタイプとして先に生まれたのは向こうなのだから似ているのはエールカラミティの方なのだが。
その様な些細な事を気にしている余裕など、既に無い。
降り立った三機のGATシリーズは、前大戦で生まれた連合の強力なモビルスーツなのだから。
GAT-X131 カラミティ
GAT-X252 フォビドゥン
GAT-X370 レイダー
ナチュラルとは思えない程強力なパイロットが駆る悪夢が三機……戦場に降り立ったのだった。