空より舞い降りた三機の悪夢は、その圧倒的な火力によって、戦場に存在するあらゆるモビルスーツを破壊してゆく。
その勢いに、セナは慌てて味方機の情報を三人に共有するのだった。
「み、皆さん!? エクリプスと二号機は破壊してはいけませんよ!?」
『わーってるって!』
『他は全部やって良いんだろ?』
『ですね!』
「本当に大丈夫ですか……?」
酷く不安になりながらセナは問いかけるが、特に返事はない。
やはり不安はどうやっても拭えないのであった。
そして、三機の猛攻によりアンティファクティスのジョエルが呼び出した多数の量産型モビルスーツはあっという間に約半数が破壊され、その残骸が海や山に散らばってゆく。
その中で、セナは破壊されたモビルスーツの状態を解析し、このモビルスーツが全てヤキン・ドゥーエでナイトメアが使用したモビルドールシステムである事を見抜く。
「……これは、全て無人機ですね? いったい、どこからこのシステムを」
『なんだ! 知らないのか! セナ・ユラ・アスハ!』
「貴方は色々と知っていそうですね。ジョエルさん」
『当然だ! このシステムは私が託された物だからな! コーディネーターを殲滅する為に!』
「コーディネーターを?」
『そう! コーディネーターは全て、自然の摂理に逆らって生まれた存在だ! 生きていてはいけない!』
「……その思想は」
『全てのコーディネーターはナチュラルに恭順し、彼らの役に立つ事で初めて存在することが許される! 貴女の様に! 貴女の姉の様に!』
「私たちは誰かに従う為に生きている訳ではありません」
『ふはっ! はは! よく言う! ブルーコスモスの盟主! アズラエル様に! カガリ・ユラ・アスハに恭順しているでは無いか! 使い勝手の良い道具であるからこそ! お前も生きている!』
「お前……も?」
セナはジョエルの言葉に僅かな違和感を覚えつつも、周囲の地図を確認して目を見開いた。
「まさか! 貴方の狙いは!」
『気づかれたか……だが、もう遅い!』
セナは目視は出来ないが遥か上空を見上げた。
ちょうどセナ達が居る頭上よりも遥かな上空。
衛星軌道上に存在する軍事衛星から多数のミサイルが地上へ向けて放たれたのだ。
「オルガさん! クロトさん! シャニさん! エクリプスとミヤビさんを守ってください!」
『はぁん?』
『なに?』
「頭上から雨の様なミサイルが降ってきます! 衝撃に備えて下さい!」
『バカ! それを早く言えって!』
『さぁ、どうする! セナ・ユラ・アスハ! フェイズシフト装甲を持つお前やタツミ君やGATに乗る彼らは助かるだろうが、あの船のコーディネーターはどうなるかな!』
「まったくもう! 私はキラお姉ちゃんの様な狙撃技術は無いんですよ! アズラエルさん!」
セナは文句を言いながらもアズラエルへと緊急通信を繋ぎ、一方的に要件を告げる。
「アズラエルさん! 新型の軍事衛星借りますよ!」
『は!? なに!? なんだって!?』
アズラエルは突然繋がったセナとの通信に優雅な気持ちで飲んでいた高茶を噴き出しながら問いかける。
が、セナからの答えは無かった。
その代わり、別の緊急通信がアズラエルの元へ入り、アズラエルは「またか」と文句を言いながらも通信を繋げる。
『アズラエル様! 開発中の衛星が何者かにジャックされました!』
『あぁ、そう。犯人ならもう分かってますよ』
『は?』
「サテライトシステム起動! 送電システムは……月面から!? 急いで急いで……! 月面からのエネルギー受信確認! 照射範囲指定! 発射!!」
セナは人間離れした速度でキーボードを叩き、全ての準備を終えると再び空を見上げた。
そして、西の空がパッと輝き、放たれた光がセナの頭上を照らし、それに多数のミサイルがぶつかって大空に大量の花火を作り出すのだった。
そのままジョエルが使用した軍事衛星をハッキングし、ミサイルを撃てない様にしてから軌道を変え、地球へと落とし、大気圏との摩擦熱で焼く。
「……はぁ、これで何とか助かりましたね」
『終わったのなら、しっかりとした報告が聞きたいものだね。セナ?』
『システム復旧……。なるほど衛星をジャックしたのはセナ様でしたか。まだ試射もしておりませんでしたが、どうでしたか?』
「はい。とても良い性能かと思います。一応私が設定したデータと、撃った記録を送りますね」
『おぉ、ありがとうございます。助かります』
「今回は緊急だったので、エネルギー充電が十分ではありませんでしたが、これなら地上へ落ちる隕石も狙撃出来るかと思います」
『それは素晴らしい情報ですね。開発部の者達も喜ぶでしょう。では、私はこれで』
「はい。ではまた……あー、私もこれで失礼……」
『出来ると思うのかい? セナ』
「出来ませんよね。ですが、少し待ってください。こちらの状況が落ち着いたらまた繋ぎます」
『分かったよ。一時間以内だ。良いね?』
「努力します」
『返事は、イエスかハイだ。良いね?』
「……はい」
セナはアズラエルとの通信が切れた事を確認し、はぁとため息を吐いた。
咄嗟の問題は解決したが、長期的な問題は生まれそうだな。という気持ちだ。
だが、しかし。
今、この場所で守りたい者は守ることが出来たのだ。
それは良しとしようと、セナはミヤビの元へ向かうのだった。
ホープをナウル島の整備施設に降ろし、周囲を警戒しながら降りたセナは慌てて走って来たミヤビに強く抱きしめられた。
それはセナが潰れてしまう程の力で……セナは呼吸が出来ないとミヤビを叩き、何とかギリギリの所で解放して貰えるのだった。
「はぁ……はぁ……死ぬかと、思いました」
「セナ! もう! 心配させないで!」
「申し訳ございません。こうでもしなければ、ミヤビさんが二号機を動かしてくれないと思いまして」
「……どういう事?」
「私が行くとなれば、ミヤビさんはより成功する確率の高い方を選ぶでしょう? 例えそれが、核動力で動く機体を開放する事だったとしても」
「……」
「な、なんだよ……それ? 核動力? 二号機が?」
セナの言葉に、支えられながらエクリプスから出てきたタツミが青ざめた顔で問いかける。
その顔から、タツミが何も聞かされていなかった事を察し、良い機会かとオーブの事情を話す事にした。
「タツミ・ホーリさんですね。今回はオーブの事情に巻き込んでしまい、申し訳ございません」
「そんなのは、良いから……! 二号機のこと、聞かせて欲しい」
「はい。そうですね。お話するべきでしょう。ODRについて何も聞いていない貴方には」
セナはふぅと一息吐いてからゆっくりと口を開いて、オーブの事情を語り始める。
「先の大戦でオーブの本土が攻撃され、オーブはウズミ・ナラ・アスハという指導者を失いました。その為、現在のオーブはかつての力を失っています」
「かつての……力?」
「中立国という立場。そして、オーブを攻めるとリスクがあると諸外国に思わせる……心理的な防壁という名の力です」
「……心理的な防壁」
「はい。例えばイライラして誰でも良いから殴りたい。と考えている人が、見るからに鍛えられている軍人を襲うでしょうか? 答えはノーです。殴り掛かれば殴り返されてしまう可能性があります。そう冷静に考える事が出来るのなら、この行動は行いません。そしてこれは国家という単位でも同じです。まぁ、国家はイライラして戦争を仕掛ける様な事はない訳ですが」
「ですが、物資がない。生きて行く為には仕方ない。理想の為には仕方ない。と、人は様々な理由を用意して、自己の利益の為に戦争を仕掛ける事が出来ます。そして、この世界においては、ある種、酷く身勝手な理由で大きな戦争が起きました。種族による戦争です」
「コーディネーターと、ナチュラルの戦争」
「そうです。そして、オーブという国はコーディネーターもナチュラルも暮らす国。火種は諸外国よりも多いと言えるでしょう。だからこそ、オーブは攻撃されない為に、力を誇示する事にしたのです」
「……それが」
「エクリプス」
セナは話を途中で止めてからスタスタと歩き、ほぼ全壊状態のエクリプスを見上げた。
オーブの理想と理念と……狂気が詰まった機体を。
「タツミさんは不思議に思った事はありませんか? ミラージュコロイドとフェイズシフト装甲。この二つを兼ね備え、高機動で動き回るエクリプス。何故こんなにも燃費の悪い。非効率な機体を作ったのだろう? と」
「それは……まぁ、はい」
「そう。貴方の想像は正しい。そして、各国の首脳陣や技術者もこう思うでしょう。この機体は不完全だ。オーブは何故完成させないのだろう、と」
「完成……?」
「核動力」
「っ!」
「無限のエネルギーと呼ばれる核動力を使えば、エクリプスは最大の能力を発揮する事が出来ます。そして、完全となったエクリプスはミラージュコロイドで高速移動しながら……あらゆる国へ」
「オーブが宣戦布告された瞬間に。先制報復する事が出来る。これこそがオーブの作り出した悪魔の機体か、と各国は知るでしょう」
「そうね……それこそが、私達の考えた抑止力。精一杯の防衛策よ。この火薬庫みたいな世界で生きる為の……ね」
セナとミヤビが語ったODRの真実に、タツミは沈痛な面持ちで顔を伏せた。
当然だろう。
彼は心の底から、この活動を通じて、人を救おうとしていたのだから。
しかし、ふたを開けてみれば国家同士でけん制し合う為の極秘作戦でしか無かった。
しかもプラントを落とし、大戦を始めるキッカケとなった核兵器をちらつかせながら、暴力的な手段で敵国を威圧する物だ。
タツミの感じる失望感は大きいだろう。
だが、それでも。
彼は受け取った大きなものがあるから。
追いかけ続けてきた背中があるから。
顔を上げて、セナとミヤビをジッと見つめた。
どの様な事をやってでもオーブを護ろうとする姫様達を。
「一つ聞かせて下さい」
「はい。なんでも」
「ODRは、僕たちのやっていた事は、全て嘘だったのでしょうか」
「いいえ」
タツミの言葉をセナは強く否定する。
そんな事は決してないのだという様に。
彼が今日までやってきた人助けは何も違わない。
純粋な善意と、彼らの願いによって成し遂げられていた。
その全てに嘘は一つも含まれていない。
だから……。
それならば、とタツミは顔を上げる。
「なら、僕は変わりません。ここで逃げるつもりもありません。戦います。それが多くの人を助ける道なら」
そのタツミの言葉に、セナとミヤビは笑みを浮かべて頷いた。
先ほどの混乱で逃げてしまったアンティファクティスを追う為に。