様々な事があったが、無事動き出したインパルス計画にキラはシンやレイと共に参加する事となった。
が、キラはシンを巻き込んでしまった事を心から後悔する事になる。
「へー! これが、インパルスって機体の設計図ですかー! 私も動かしてみたいなー!」
「でも、この機体はキラ様が乗るんでしょ? アタシやルナは無理なんじゃない?」
「量産するかもしれないじゃない。そしたら私達でも乗れるでしょ」
「なるほど! ルナってば天才!」
キャッキャッとパソコンの前ではしゃぐ女子二人。
そして、その横で堂々とシステムに侵入し、データを引っこ抜いているルナマリアの妹であるメイリンをみて、キラは深い、ふかーい溜息を吐いた。
「やれやれ」
「き、キラさん! ごめんなさい!」
「申し訳ございません。キラさん。俺がちゃんとシンを見ていれば」
「良いよ。やらかしちゃった過去より、未来を視よう」
「はい……!」
しょんぼりとしているシンは、まるで子犬の様であり、そんな様子のシンを責める事は出来ず、キラは小さく笑みを浮かべながらシンの頭を撫でた。
褒められている訳では無いため、喜ぶ事はないが、先ほどよりは気持ちを持ち直しているシンを見て、キラも微笑みを浮かべる。
無論、そんな行動はシンの為とはならないのだが、怒る役はアスランがやってくれるだろうし良いか。とキラは遠く離れたオーブの地に居る親友へと問題を丸投げした。
そして、「怒るのはおしまい」と、欠片も怒っていないだろうに、話を切り替える。
「ルナ! アグネス! メイリン! こっちにおいで!」
「は、はーい!」
「はい! すぐに行きます! キラ様!」
「あー、ちょっと待ってください。今、良い所で」
「メイリン! アンタ! 早く来なさい!」
「いひゃい! いひゃい! 頬を引っ張らないでぇー!」
ワイワイぎゃいぎゃいと騒ぎながらもキラの元へ集まり、互いに小突きあいながらも整列した。
そんな彼女たちを見て、キラはコホンと一つ咳ばらいをしてから大事な話をする。
「さて。君たちはプラントの存続に関わる様な重要な機密を知ってしまったワケだが」
「……ゴクリ」
「このままタダで返すワケにはいかない。それは分かるね?」
普段とは違う、キラの言葉と怖い顔に、シン達は震えあがったが、続くキラの言葉は普段と何も変わらない。
どこか気の抜ける様なモノであった。
「という訳で。僕の権限で君たちには新型モビルスーツのテストパイロットをして貰う」
「「「お、おぉー!?」」」
「ここで成績が良ければ、正式なパイロットに選ばれるかもしれないね」
「「「おぉー!!!」」」
「しかし、インパルスの正式なパイロットはキラさんになるのでは?」
「まぁ、一応今はその予定だけど、僕にはセイバーに乗って欲しいっていう人が居たり、フリーダムに乗って欲しいという人が居たり、色々面倒な状態になっててね」
「インパルスに乗ることが出来る可能性も、セイバーに乗ることが出来る可能性もあると」
「そういう事。レイは察しが良いね」
レイの確認に、キラは微笑みを浮かべながら頷き、レイによくできました。と頭を撫でる。
それをどこか誇らしげな顔をしながら受け、レイは分かりました。と頷く。
「はいはいはーい! キラさん! 質問です! しつもーん!」
「はい。メイリン!」
「新造艦に、その新しいモビルスーツは乗るんですか?」
「まー。そうなるね。新造艦……あー、まぁ名前はもう言っちゃっても良いか。新造艦ミネルバにはインパルス、セイバー、カオス、アビス、ガイアが乗る予定だよ。後は僕の機体次第ではフリーダムかなぁ」
「おぉー。それで、お姉ちゃん達も頑張れば同じ船に乗れると」
「そういう事だね」
「じゃあ、もう一個、質問です! 私はどうすればミネルバ二乗れるんでしょうか!」
メイリンが高く手を上げながら投げかけた質問に、キラは酷く残念そうな顔をした。
そして、大きなため息を吐き、メイリンを見つめる。
「え、え……。そんなに私はダメダメな子、なんでしょうか? 無理? 希望も無し?」
「いや、メイリン。君は、非常に不本意だけど。放置すると何をしでかすか分からないっていう理由から、僕の直属の部下という事になるそうです。ミネルバに僕が乗るなら、オペレーターだね」
「えぇー!? やったー!」
「嬉しいのは良いけど、あんまり僕も怒られる様な事はやらないでね? 情報関係の仕事にイザーク……あぁ、いや。僕の苦手な人が就いたみたいでさ。事あるごとに怒られるんだよ……」
「えぇー。キラさんカワイソー。どうします? その人の弱みとか握ります?」
「だーかーら! それを止めろってキラさんは言ってるんでしょうが!」
「いひゃいいひゃい! いひゃいよ! おねえひゃん!」
前途多難だな、と思いながらキラは胃の辺りを抑え、うぅ……とうめき声を上げた。
そして、そんなキラを心配そうにシンは見つめ、何が何でもインパルスのパイロットになり、キラを支えなくては! と心に決める。
それから。
シン達は、インパルスに乗るべくシミュレーションなどで挑戦し続けていたのだが。
合体、戦場での装備変更を目的としたシルエットシステム、破損状況からの部品交換を目的とした分離合体など。
本来のモビルスーツパイロットよりも明らかにやるべきことが多い機体に、一人、また一人と根を上げていった。
そして、この機体に乗るくらいならセイバーの方がマシだとそちらの座を目指して戦いを続ける。
だが、そんな中でも一人、シンだけはいつまでもインパルスのシステムへと挑戦を続けるのだった。
「頑張ってるね。シン君」
「っ!? き、キラさん!?」
「少しは休憩しなさい。はい。飲み物」
アカデミーがそこまで忙しくない日は、シミュレーションでインパルスに乗る特訓をしていたシンに、キラは飲み物を差し入れながらシミュレーターの中からシンを引っ張り出す。
そして、荒い呼吸をしながら椅子にもたれかかっているシンに語り掛けるのだった。
「シン君はさ。どうしてそんなに頑張るの?」
「それは……キラさんの……傍に居たいからです」
「それが理由なら、僕が言えば多分同じ艦に乗れるよ?」
「駄目です! それは!」
「うん」
「俺は、違うんです。ただ、守られているのが、嫌で。何も出来ないのが、嫌で。どこか、俺の居ない遠い場所でキラさんが傷つくのが嫌なんです。守られているばかりの自分が、嫌なんです」
「男の子だね、シン君は。そういう子は好きだよ」
「……キラさん」
「でも、無理はして欲しくないかな。シン君はまだ若いんだしさ。僕くらいなら、すぐに追い越せるよ」
「キラさんくらいならって……キラさんより強い人なんて俺、知らないっスよ?」
「こらこら。アスランの事を忘れちゃ駄目だぞ」
その名前が出た時、シンは反射的にムッとしながら何か反論を言おうとしたが、他でもないキラの発言の為、一回弾き飛ばしたい気持ちを飲み込んで、冷静に思考する。
アスラン・ザラという男について。
しかし、出て来る結論は同じだった。
「やっぱり……アスランより、キラさんの方が強いッスよ」
「そう? じゃあ、シン君はまだ本当のアスランを知らないんだね」
「本当の、アスラン?」
「そう。アスランが本当に強いのはね。覚悟を決めて、自分がやらなきゃいけないって決めた時だよ。僕は迷ってしまう様な状況でも、アスランなら迷わない。いつだって正しい答えを出して、どんな時でも真っすぐに進んでいくんだ。それがどんなに困難な道でもね」
「……」
「だから、シン君が迷った時はアスランを見て。アスランが真っすぐに前を見ながら進んでいるなら、それはきっと正しい道だから」
「……アスランって、そんなに凄い人ですか? オーブに居た時は、あんまり良い所見た事ないですけど。俺にはすぐ怒鳴ってくるし」
「シン君の事は……もしかしたら弟みたいに思ってるのかもね」
「ウゲー。アスランがアニキとか絶対に嫌っス」
「アハハ。アスランはいつも空回りだなぁ。でも、それがアスランの良い所なのかもしれないね」
「キラさん」
「シン君。これだけは覚えておいて。僕やセナは絶対に正しいワケじゃないんだ。間違える事だってあるし。正しい道が分かってても進めない時もある。だから、僕たちを盲目に信じる事は駄目だ」
「……はい」
「これから戦争が始まるのなら、余計に、ね」
「また、戦争が始まるんですよね」
「そうだね。デュランダル議長が言ってたことだけど……僕もその気配は感じてる。地球に居る、セナもさ」
キラの諦めたような、疲れたような言葉に、シンはキュッと唇を噛みしめながら拳を握りしめた。
思い出すのは先の大戦の事だ。
あと一歩間違えていれば失われたかもしれないキラやセナの事。そして、家族や親友であるレイの事を想う。
「だからさ。シン君。君は君の中にある正しさを大切にするんだよ」
キラはシンの固く握られた右手を柔らかく包み、微笑みかける。
「何が欲しくて、君は力を求めたんだい?」
「俺は……家族や、大切な人を護りたくて」
「そう。なら、それが君にとって何よりも大切なものだ。それを見失っちゃいけないよ」
「……分かりました」
キラの言葉はシンの中に深く静かに染み込んでいって、根付いた。
ちょっとやそっとの事では揺らがない。魂の奥に刻み込まれる。
そして、それはシンに大きな勇気を与えて、次へと挑戦する気持ちを燃やしてゆく。
疲れている体を引きずりながらも、真っすぐにキラを見て真っ赤に燃える瞳に、キラはフッと笑みを零した。
「その気持ちがあれば、何も心配は要らないね」
「はい!」
「じゃあ、これから僕の背中は任せたよ。インパルスのパイロット。シン・アスカ君」
「っ! じゃあ!」
「正式に決まったよ。シン君。デュランダル議長も君に任せたいってさ。他の議員さんや開発者さんもね。満場一致だって。凄いね! シン君!」
「ありがとうございます! 頑張ります!」
「うん。期待しているよ」
そして、キラは座っていたシンの頭を撫でて、軽く抱きしめながら、おめでとうと囁いた。
その言葉に、シンは大きな達成感と感動を感じて、疲れと共に意識を闇に落としてしまうのだった。