模擬戦も無事終了し、キラはマーレと共にアーモリー・ワンへと帰還した。
そして、お疲れ様と抱き着いてくるリーカに微笑みつつ、これからの予定を話そうとしたのだが、その前にアビスから降りて来たマーレに腕を掴まれてしまう。
「わ」
「細い腕だな」
「ちょっと失礼よ! マーレ。あなた、キラちゃんに負けたんでしょ!」
「分かっている。別に何かしようって気はない。ただ少し気になっただけだ」
「う、うん?」
「キラ。もっと飯を食え。今のお前は細すぎる」
「は、はぁ」
「女の子にいきなり失礼な男ね! どういうつもり!?」
「フン。キラを認めてやってるだけだ。お前ならば俺の相手に相応しい」
何やら話が見当違いな方に飛び出したなと感じつつ、アカデミーでこの手の接触には慣れていた為、はいはいとキラは軽く流してリーカと共にシン達の元へ向かう。
そして、デュランダルが来ている事に気づいて、露骨に嫌な顔をしながら隣に立っていたタリアへと視線を向けた。
「タリアさん! こっちに来てたんですね!」
「えぇ。ミネルバの調整と、新任の隊長さんの様子を見にね」
「あー、はは。これはお恥ずかしい所を」
「まったくね。貴女も野蛮人じゃないのだから、言葉で解決する方法を考えなさい」
「はい。ごもっともです!」
いきなり始まってしまったお説教に、キラは頭をペコペコと下げながら、何とか話を逸らす術はないかと考える。
そして、思いついた話を早速タリアに向けて放った。
「そ、そういえばウィリアム君は……!」
「露骨に話を逸らしたわね」
「ま、まぁまぁ。良いじゃないですか。ね?」
「はぁー。まったくしょうがないわね。ウィリアムならこっちに来てるわ」
「あれ! でもウィリアム君には学校があるんじゃあ?」
「ちょうど長期の休みで家に居たのよ。それで私も久しぶりに家でゆっくりしようと思っていたのに。どこかの誰かに呼び出されてね」
「あー。どこかの誰かさんに」
キラはジトーっとデュランダルへと視線を向ける。
その視線のドロッとした感情にデュランダルはいつもの余裕の笑みを浮かべたまま話を逸らすべくキラとタリアを放置してシン達の方へ向き直った。
その情けない背中を見ながら、キラはタリアに再び話しかけた。
「じゃあ、とりあえず仕事が終わったらウィリアム君の所へ?」
「そうしたいのはやまやまなんだけど、どこかの誰かから誘われててね。ウィリアムを連れて行くワケにはいかないし」
「はー。じゃあ僕がタリアさんの代わりにウィリアム君の相手をしましょうか?」
「そうしてくれると助かるわ」
「ハッ! キラ・ヤマト。粉骨砕身! 頑張らせていただきます!」
キラは敬礼をしながら、無駄にキリっとした顔でタリアに応える。
が、直後にへにゃりと表情を崩して、ややタリアにとって耳が痛い事を告げた。
「でも、僕は所詮代わりですからね。ウィリアム君はママと一緒に居たいと思いますよ」
「……分かってるわ」
「本当に?」
「分かってる。嘘じゃないわ。貴女に散々怒られたものね。同じ過ちを繰り返すつもりはありません」
「……」
どこか納得が出来ないという様な顔をしているキラに、タリアはキラにだけ聞こえる声で囁いた。
「正直な所、便利なのよ。適当に相手をしているだけで、色々得だから」
「と言いますと?」
「ミネルバの艦長とか、貴女を隊長に据えるとかもね。私の実績じゃあここまでの物は得られなかったわ。だから利用出来る物は何でも利用したいの」
「……僕としてはタリアさんなら実力で艦長になれたと思いますけど」
「そう言ってくれるのは嬉しいけどね。そこまで自惚れてはいないわ。それに!」
タリアはスッとキラから離れて穏やかな笑みを浮かべたまま言葉を続けた。
「何が何でも私は生きて稼いで、あの子の元へ帰らなきゃ。その為には利用させて貰うわ。ミネルバも、貴女もね。キラ」
「それはもう。存分に」
「という訳だから。今日の所はお願いね。キラお姉ちゃん」
「はいはい。艦長命令とあれば! 従わせていただきます! っと、あ! ちょっと良いですか? タリアさん」
「何かしら」
「僕の弟みたいな子が居るんですけど、その子も一緒に連れて行っても良いですか?」
「それは構わないけど。ウィリアムに変な事を教えないでよ?」
「ま。そこは心配要らないですよ」
なははとキラは笑い、一応信用しているキラの言葉にタリアは「分かったわ」と頷くのだった。
そして話も終わりとばかりにキラはデュランダルたちの元へ向かう。
「おや。隊長と艦長の話は終わった様だね」
「えぇ。お時間を取らせていただき。ありがとうございます」
「いや。構わないさ。では後はお願いできるかい?」
「はい」
キラはデュランダルから場を受け継ぎ、リーカ、マーレ、コートニー、シンの順番でテストパイロットを見つめた。
それから大きく深呼吸をして再び口を開く。
「では改めまして。僕はキラ・ヤマト。君たちには、これからセカンドステージと呼ばれる機体を預けたい。そして、試験運用をして問題ない事が確認されたら、実戦配備という様な流れになるよ」
「……」
「そして、まぁ何も問題が無ければそのまま正式なパイロットって感じかな。何か質問は?」
全員が無言のまま首を横に振るのを確認して、キラはうんと頷いた。
そして、それぞれに機体の仕様書と確認項目等が記載された資料を手渡してゆく。
「じゃあ、リーカさんは、ガイア。はい。よろしく」
「うん。よろしくね!」
「マーレさんは、アビスね」
「任せておけ」
「そして、コートニーさんはカオスっと」
「あぁ。了解した」
「そして、シンはインパルスね」
「はい!」
「「「え?」」」
「うん?」
シンにインパルスの仕様書を渡した瞬間、何故かリーカ達が三人そろって疑問を口にしていた為、キラは首を傾げながらその疑問を受け止めた。
そして、小首を傾げた可愛らしいキラに、マーレから激しい言葉が飛ぶ。
「ま、待て!? インパルスはお前の機体だろう!? キラ!」
「違いますけれども。インパルスはシンの機体だよ」
「納得出来ん!!」
「いや、だからさっき模擬戦やったでしょ。もう一回やる?」
「俺は! キラには確かに敗北したが、そこの小僧には何一つ負けていない!」
「いや、だから。適正なんだって。またこの話するの?」
「俺がアビスに相応しいのは分かった! だが、その小僧がインパルスに相応しいのは何故だ! このプロジェクトは、インパルスが中心なのだろう!? ならば最も強い者が乗るべきだ!」
「言いたいことは分かるけど。僕はシン君が最も相応しいと思ってる。今は、マーレさんの方が強くてもね」
「いずれ……! 俺がその小僧に負けると言いたいのか!」
「可能性はあると思ってるよ。今、ここに居るパイロットの中なら、シン君が一番強くなるだろうね」
「バカ……な!」
「えーと? でもキラちゃんの言い方だと、キラちゃんよりも強くなるって言ってるような」
「うん。そう言ってる」
「っ!」
「姉バカって言われちゃうかもしれないけどさ。シン君はいつか僕よりも強くなるよ。そしてZAFTの誰よりもね」
「……!」
シンは庇う様に前に立つキラを見ながらキュッと強く拳を握りしめた。
キラが無条件に肯定してくれる言葉は嬉しい。強い喜びを感じる。
否定ばかりのアスランとは大違いだ。
しかし、それと同時に強いプレッシャーでもあった。
信頼に応えられなければ、キラ自身の評判にも繋がってくるのだから。
応えなくては。
信頼に、応えなくては。という想いがシンの中で燃え上がった。
応えたいという気持ちが、シンの中で強い力に変ってゆく。
「ならば戦わせろ!」
「意味ないって。今はマーレさんの方が強いんだから。僕が言ってるのは将来性。そして、それはインパルスという機体とも上手く合致する」
「チッ!」
「ガラが悪いなー。僕としては仲良くやって欲しいんだけど」
「いやー。キラちゃん。それは難しいわ。だって彼の実力を私達は知らないもの。まだアカデミーの学生だものね」
「赤服で卒業するのは確定ですよ?」
「でも、実戦を経験していないのでしょう? なら、いくらキラちゃんの言葉でも信用は出来ないわ」
「うーん」
「ヤキン・ドゥーエの戦場に居たキラちゃんなら分かるでしょう? 生半可な実力じゃあの戦場は生き残れなかったわ。あの戦場を経験したかどうかでも、実力は大きく違ってくるもの」
「それに関しては同意見だ。しかし、真に実力があるという事なら、いずれそれも分かるだろう」
何とも微妙な反応にキラは肩をすくめるが、確かにいずれ分かる事かと言葉を飲み込んだ。
そして、今日のところはそれぞれ実際の機体に慣れてもらうという事と、パイロットと機体の調整を行い、解散となった。
テストパイロットとしての顔見せも終わり、シンはキラと共にアーモリー・ワンの中を歩きながら考え事をしていた。
考えて居るのは、他の機体のパイロットに言われた言葉だ。
「シン君? シーン君?」
「っ! き、キラさん!? はい!」
「どうしたの。暗い顔しちゃって。レイ君たちと離れ離れになったのが寂しい?」
「あ、いえ! そういう訳じゃないんですけど!」
「うん」
「ただ、ちょっと不安になってきちゃって。インパルスのパイロット……俺で、良いのかなって」
「良いも何も。僕がお願いしてるんだけどね?」
「っ! でも、それは! それは……俺が、キラさんの、オーブの関係者だからで」
「本当にそれだけだって思ってる?」
キラは歩く足を止めて、シンに振り返りながら問うた。
その視線はいつもよりも鋭く、少しばかり怒りが込められている様にも思う。
だから、シンは小さく首を横に振った。
「シン君。不安になる気持ちは分かるよ。期待されるっていうのは重い物だ。よく分かる。僕もそうだしね。でもさ。今、シン君の前にあるのはチャンスだ」
「……チャンス」
「そう。チャンスだよ。シン君の事を下に見ている人たちに、俺だってやれるんだぜ! ってガツンと力を見せて、評価を変えさせるチャンスだ。本当の君を認めさせるチャンスだ」
「でも」
「そんなに落ち込まないの! 君だってヤキン・ドゥーエの戦場を生き残ったじゃないか。プレッシャーなんかに負けるな。少年。君の事は他の誰よりも僕が知ってるんだよ? それは信用出来ない?」
シンは不安と迷いが入り混じった顔で首を勢いよく横に振った。
そして、キラはそんなシンの涙を指で拭い、微笑みながら頭を撫でる。
「なら、僕と一緒に頑張ろう。僕は間違ってないって証明して。僕はそんな君を、信じ続けるからさ。ね?」
痛い程大きな信頼に、シンは涙を拭って大きく頷いた。
その瞳の強さに、決意に燃える赤い瞳に。
キラは微笑みを浮かべながら口を開く。
「じゃ、今日はお祝いだ。ウィリアム君も連れてどこかへ食べに行こう!」
「はい!」
そして、シンは迷いも悩みも捨て去って、キラと共に歩み始めた。
とりあえずはウィリアム少年が居る場所へ。