シン達がセカンドステージシリーズの機体を動かし始めてから一ヵ月ほど経過した。
その間に行われたいくつかの模擬戦により、シンはその実力をリーカ達に見せつけ、マーレを除く者達からは無事仲間として受け入れて貰っていた。
しかし、やはりというべきか。
マーレだけは何があろうとシンを認める事は無かったのである。
「どうすれば良いんすかね」
「あんまり気にする事も無いんじゃない? あぁいうタイプは何やっても認めないわよ」
「その通りだ。お前はよくやっている。それで十分だろう? 全ての人間と親しくする必要は無いんだ」
アーモリー・ワンにある食事処で、シンは夕食を食べながらリーカ達に愚痴っていたのだが、リーカ達は明るい笑顔で気にするなと言うばかりである。
だが、シンにとって自分の実力を認めさせる行為は、キラを認めさせる事と同じ意味である為、諦めるという様な選択は無いのだ。
「それよりも、よ! アレ。どう思う?」
「アレ?」
「キラちゃんとウィリアム少年よ。キラちゃんは完全に子供扱いしてるけど、ウィリアム少年はかなり気持ちが向いていると見たわ」
シン達が飲み食いをしているテーブルからやや離れた席に座り、キラやタリアと共に食事をしているウィリアムを見て、リーカは少々はしたない妄想を走らせ始めた。
その様子にコートニーは呆れた様な息を吐きながら肩をすくめ、シンはかつての自分を見ている様な気がして、微妙な顔になる。
「ほら、口元拭ってるキラちゃんに嫌がってるでしょ。アレはきっと、自分は子供じゃないってキラちゃんにアピールしてるのよ」
「そうっすかね? ただ、自分の事は自分でやりたいだけだと思いますけど」
フォークで大きめに切った肉を頬張りながらシンはへッとリーカの言葉を否定した。
その様子に、リーカは先ほどまでよりも笑みを深めてシンを見る。
「おやぁ? お姉ちゃんが取られちゃって寂しいのかにゃあ? シンちゃんは」
「違いますよ! そういうのじゃないっスから!」
「そうね。そうね。お姉さんはよく分かってるからねぇ」
ニヨニヨと微笑みながらシンの頬を突くリーカに、シンはうっとおしいと腕を向けて、再びキラを見た。
お世話をするのが楽しいという様な様子で、ウィリアムの相手をするキラと、嫌では無いのに、それを遠ざけようとする……やはりかつてのシンとよく似ていた。
まぁ、ウィリアムはシンとは違い、理知的で、イタズラ好きの子供であったシンとは大きく違っていたが。
「もう今は、そういう感情とか無いんで」
「あら。そうなの? それは残念。でも今は、って事は?」
「まぁ……昔はそりゃちょっとはありましたよ? でも、キラさんは遠い人なんすよ」
「遠い?」
「そうか。シンはオーブの出身だったな」
「うんん? どういう事?」
「プラントではキラ・ヤマトと名乗っているが、本名はキラ・ユラ・アスハ。オーブの元代表首長ウズミ・ナラ・アスハの娘だ」
「あぁ~。つまり、お姫様って事かぁ」
「人類が宇宙へと進出しても、身分や立場という物は消えないからな。旧態依然と言われても、人類はやはり社会階層からは逃れられないという事だろう。平等ではあっても、まとめる者。指導者が必要なようにな」
「そうねぇ。確かに、キラちゃんが親しく接してね。って言ってくれるから普通に接することが出来るだけで、本当はお話するのも難しい立場ですものね」
リーカは人差し指を唇に当てながら、かつて起こった少年の悲劇。
そして、これから起こるであろう少年の悲劇を想う。
悲しいが、これが世界という物なのだ。
立場がある人間にはそれ相応の相手が必要という事だろう。
「でも、騎士とお姫様の物語なんて、旧世紀から沢山あるじゃない? 憧れも恋も、コーディネーターになったからって消える物じゃないわ」
「確かにな。だが、それで言えば酷く残酷な話だが彼女には相応しい騎士が居るだろう?」
「キラちゃんに相応しい騎士?」
「現在のプラントを作り上げたと言っても過言ではない。黄道同盟の中心人物。ザラ派の筆頭。パトリック・ザラの息子」
「あぁ~。アスラン・ザラかぁ。確かにねぇ。ジャスティスとフリーダム。並んでいると絵になるものねぇ」
「パトリック・ザラが狂気の道へ走り始めた時、アスラン・ザラがプラントに囚われていたキラを奪い、ラクス様と共にプラントを脱出したのは設計局でも有名な話だ」
「まぁ、ロマンチック! お姫様の為にお父様と敵対してでも正義の道を進んだのね。素敵だわ。まさに現代のロマンス小説じゃない」
「プラントを離れたアスラン・ザラがオーブへ向かったという噂もあるし。二人の間に何かあったのかもしれないな」
「何も無いっすよ! なーにも! 何一つ! これっぽっちも!」
「なーに。怒ってるの。シンちゃん」
「別に! 何も怒ってないっスけどね!」
イライラとしたシンが半ば叫びながらグラスをテーブルにドン! と置いた事で何だろうかとキラがシン達のテーブルに向かってくる。
「どーしたの? 喧嘩?」
「あー。違うの。アスラン・ザラの話をしてたら、シンちゃんが」
「あー。なるほど。シンはアスランが嫌いだからねー。しょうがない。よしよし」
怒るシンをなだめる様に短い黒髪を撫でて、ふふと微笑むキラに、リーカとコートニーは不思議そうな顔を向けた。
「なんか、思っていたよりもキラちゃんって、アスラン・ザラと親しいのねぇ」
「うん。だって、幼馴染だもん」
「えぇ~!? そうなの!?」
「そう。結構仲良かったよ? まぁ、僕はいつもお説教されてたけどさ」
「キラ!」
「はいはい!? どうしました? タリアさん」
「これから議長が来られるそうよ」
「はぁ。なるほど。ごめんね。お話はこれくらいで。僕また戻らなきゃ」
「う、うん。無理しないでねー」
「ありがとう!」
笑顔で手を振りながら再び離れてゆくキラに、リーカは、はぁー。と納得したような息を吐いた。
「幼馴染だって。戦争で離ればなれになってしまった二人……! あぁ、なんて悲劇なの!」
「オーブは中立ではあったが、地球の国家。完全な敵対とまではいかずとも、それと似たような状況だったからな」
「そんな中でも平和を諦めずに訴え続けた姫様と、その心に幼き日の想いを取り戻した敵国の騎士! 良いわぁ。かなり好きかも」
「……そんなんじゃないよ」
「ん? なんか言った? シンちゃん」
「何でもない!」
シンはリーカに問われながら、近くにあった飲み物を飲み干して、かつてオーブ近海で行われた戦いを思い出していた。
平和を願って手を伸ばしていたキラの手を振り払い、キラの愛する妹セナと、キラ自身を殺そうとした男……アスラン・ザラ。
今はオーブで軍人をやっていて上官だから。
キラやセナ。カガリに忘れろと言われたから。
シンはアスランに、あの時の憎しみをぶつける事はないが……それでも忘れたワケでは無いのだ。
あの時の喪失感を、消し去った訳でもない。
傷は未だにシンの中に残っている。
「……ほう? 中々面白い事になっているじゃないか」
「うん? 貴方は」
「あぁ。突然すまないな。実はこちらにセカンドステージのパイロットが居ると議長に聞いてね」
リーカ達の背後から現れた男は銀色の短い髪を靡かせながら、不敵な笑みを浮かべていた。
そして、自分の胸に手を当てながら名乗る。
「俺はシュラ・サーペンタイン。これから君たちと同じ様にミネルバに乗艦する予定だ」
「っ!」
「そうなの!? よろしくね。私はリーカ・シェダー」
「あぁ、よろしく」
「私はコートニー・ヒエロニムスだ」
「し、シン・アスカ」
「ほぅ。君がシン・アスカか。話は聞いているよ」
「え!?」
初めて会った筈の男からその様に言われ、シンは驚きながらマジマジとシュラと名乗った男を見る。
が、特に怪しい所はなくZAFTの黒い軍服がそこにはあるだけだ。
「レイ・ザ・バレルは君の親友だろう?」
「え? あ、はい!」
「彼もミネルバに乗艦するんだ。そこで話を聞いてね。それに前、キラが君の事を話していた」
「き、キラさんも!?」
「あぁ。まだ幼いが、強く優秀な戦士だと。あのアスラン・ザラにも負けない強さを持っているとな」
「……キラさんが」
「やったじゃない。シンちゃん」
「良かったな」
「う、うん」
「ふふ」
シュラはどこか照れているシンを見ながら笑みを零し、遠くでデュランダルと話をしているキラへと視線を移した。
そして、次なるシュラの行動を察知した少女がシュラに近づいてくる。
「シュラ」
「あぁ。分かっているさ。イングリット。我らが隊長殿にも挨拶をせねばな」
シュラの近くにやってきた長い青髪の少女、イングリット・トラドールの合図でシュラはシンたちの元を離れ、キラの所へ向かった。
そして、キラに抱き着かれ、わたわたとしている姿をシンたちに晒しながら、第一印象は好意的に受け止められる。
「なんだか面白い人みたいね」
「マーレとぶつからなければそれで良い」
「あー。確かに。でも、彼がモビルスーツに乗るのなら、いずれぶつかるんじゃないかしら」
「どちらが勝っても良いが、早く終わる事を祈るだけだ」
「お話中、失礼するよ」
「っ! 議長!」
「これは、失礼しました!」
リーカ達が酒を飲みながら適当な話をしていると、酷く聞きなれた声が届き、リーカ達はデュランダル議長の存在に気づいた。
そして、立ち上がり敬礼をしてから、近くの椅子に座る議長を受け入れる。
「そう固くならないでくれ。今日は君たちと話をしに来ただけなんだ」
「話、ですか」
「そう。君たちの事はキラ君から報告で聞いていてね。君たちさえ良ければ正式なパイロットとしてお願いしようと考えているんだ」
「自分は問題ありません!」
「私も!」
「お、俺も、頑張ります!」
「そうか。それは良かった。ミネルバはこれから行われる式典の後、正式に配備となる。パイロットは隊長にキラ君を置き、副隊長にシュラ君、そして君たち三人とマーレ君。それにレイ・ザ・バレル、ルナマリア・ホークの二名を加えた体制だ」
「ルナも! で、ありますか」
「あぁ。シン君はアカデミーで同期だったか。彼女とは」
「は、はい!」
「心配せずとも、彼女も優秀なパイロットだ。君たちとも問題なく作戦を行える筈だ」
「はい」
「セカンドステージの機体も式典では発表するつもりだ。よろしく頼むよ」
「「「ハッ!」」」
そして、シン達はデュランダル議長が去ってから正式な配属祝いに乾杯をするのだった。