長い試用期間も終わり、遂にセカンドステージの機体とミネルバを正式に配備する事となった。
その為、ギルバート・デュランダルはキラを呼び出し、誰にも声の届かぬ場所で密談を始める。
「ここまでご苦労だったね。キラ」
「そうですね。盗ませる為の機体を試験するのは複雑な気持ちでしたよ」
「ハハハ。そう言わないでくれ。私だって何も起こらないのなら、それに越したことは無いんだ」
「でも、部隊は動いているんですね?」
「あぁ。メイアの部隊が、ミラージュコロイドを使用しながらプラントの防衛圏内へと侵入した艦を確認した様だ」
「その艦は?」
「セナ君から貰った情報の通り、第81独立機動群、通称ファントムペイン。秘密結社ロゴスに所属する非正規特殊部隊の宇宙艦『ガーティ・ルー』だろう」
「はぁ……という事は」
「うむ。その艦は真っすぐにアーモリー・ワンへと向かっているとの事だ。実に困った物だね。彼らは」
溜息を吐きながらも、どこか楽し気な顔をしているデュランダルに、キラは気分を酷く害しながらも再び問いを投げかける。
「例の新型フリーダムを貸していただけるのなら、僕が無力化しますが」
「前も言ったが、アレはニュートロンジャマーキャンセラーを搭載している。戦争が始まっていない状況では使えないさ。それに、あの機体を管理しているのは『ファクトリー』だからね。プラントとは無関係の組織だよ」
「欺瞞ですね」
「地球連合も同じことをしているし。オーブも核動力の機体は保有しているだろう? これは私の悪というよりは、人の業というべきだろうな」
「あぁ言えば、こう言う」
「政治家とはそういう仕事だよ。キラ」
「であるなら、その政治家としての力を使って、部隊を動かせば良いでしょう?」
「悪いが、それは出来ない」
「何故!」
「彼らも追い詰められているのだよ。キラ。地球でのアズラエル派の支配力は凄まじい。もはやジブリールが自由に動かせる部隊はそれほど多くは無いのだ」
「……」
「今回の作戦が失敗すれば、彼らはプラントへの核攻撃を始めるだろう。ミラージュコロイドを使ってね」
「それを防ぐために、ミラージュコロイドを探知する為のレーダーだって開発したでしょう?」
「確かにね。だが、それも確実ではない。出来る事なら、私は確実な手段を取りたいのだよ。分かるだろう? キラ」
「……まぁ」
デュランダルの言葉に頷きつつも、キラはどこか不満げな顔をしながら頷く。
しかし、そんなキラの幼さをデュランダルは微笑ましく思いながら、笑みを浮かべて言葉を続けた。
「彼らという火種を残せば、世界はいつまで経っても平和にはならない。私達はコーディネーター、ナチュラルという枠を超えて、真に平和の世界を目指さねばならないのだよ」
「はい。分かっているつもりです」
「であれば良かった。奴らは新型を奪ってすぐに本部へと連絡をするだろう」
「そして、僕たちはそれを補足次第、敵の艦を制圧。ジブリールの存在を世界に示す。という事ですね」
「そういう事だ。そして、幸いな事に、ジブリール氏の捕縛まではセナ君も我々に協力してくれるらしい」
「セナが!?」
「あぁ。先日アーモリー・ワンに到着した様だ。君は忙しそうだったから、落ち着いたら連絡をすると言っていてね」
「まったく、セナは……こっちに来るなら連絡してくれれば良いのに」
「姉想いなのだろう。まぁ、こうして話を聞いたのだから、存分に話をすれば良いさ」
「そうします! じゃあ、僕はコトが起きるまでセナと一緒に行動しますよ」
「あぁ。その方が良いだろうな。インパルスについては先にミネルバへ移送しておこう」
「お願いします!」
セナの話を聞いてからキラはドタバタと部屋を出てゆき、そのまま廊下を走って行った。
その元気な様子に、デュランダルは笑みを零しながら、キラが出て行った方とは別の扉へ向けて語り掛けた。
「君の妹は実に元気だな。ラウ」
「……それがキラの良い所さ」
白い仮面を付けた男、ラウ・ル・クルーゼは笑みを浮かべたまま部屋の中に入ると、デュランダルの正面に座る。
キラはデュランダルと真向いは嫌なのか少しズレていたが、クルーゼはデュランダルの友である為、その様な行いはしない。
「本当に、似ていない兄妹だね。君たちは」
「あの子は私よりもずっと優秀だよ。君やセナの企みは打ち砕いてしまうだろう」
「おや? その言い方では私の味方はしてくれないのかい? ラウ」
「悪いが私は常にあの子達の味方だよ。今回はセナが君に協力するからね。こちら側に居るだけさ」
「それは何とも、困った物だな」
困ったなと言いながらも笑みを崩さないデュランダルにクルーゼは笑う。
「困ったという割には楽しそうじゃないか」
「それはそうさ。実に面白い。誰も彼もが必死に今を生きていると思い込んで、たった一人の少女に踊らされているのだからな。これを愉快と言わず、何と言うのかね」
「……」
「私の研究は間違っていた。だが、正しかった。まさか十数年越しに証明されるとは思わなかったが」
「新たなる人類、か」
「かつてファーストコーディネイター『ジョージ・グレン』を生み出した男は、コーディネイターの存在が、人類に大いなる革新をもたらし、人類全体を進化させると考えて居た様だが、実際には進化した人類の模造品たる我々が、本物を作り出してしまったのだ。そういう意味では彼女は生まれた瞬間から、世界にとってのイレギュラーという事になる」
「ギル……」
「私は、君と同じ様に世界に絶望していた。全てを失い、世界の終わりを知ってしまった日からな。しかし、終わるだけだった世界で、今、何かが起きている。これを楽しむな。というのは無理な話さ」
「それで? これから君はどうするつもりなのだ」
「私も全容を把握している訳では無いがね。まずはアーモリー・ワンへの襲撃と、モビルスーツの奪取。そして、地球への『ボアズ』落下」だ」
「核攻撃で残った部分か」
「その通りだ。それでも十分な威力となるだろう。最悪は地球にある国家の半数が消滅する」
「……凄まじいな」
「しかし、それで終わりではない。ジブリールはこれを機とみてプラントとの戦争を再開させる。それが彼女の罠だとも知らずにね」
「作戦は理解した。では私は、君の指示で動こう」
「助かるよ。とは言っても、今の所、君に頼みたいことはアーモリー・ワンから離れて貰う事だがね」
「まぁ、そうだろうな。適当な任務を回してくれ。後は元私の部下も連れて行く。二コルなどは中々に勘が良いからな。襲撃に勘づくかもしれん」
「分かった。では、少々離れた場所で地球連合軍に動きアリ。という事で君たちを向かわせよう」
「あぁ」
クルーゼは話は終わりだと、デュランダルの部屋を後にしてそのまま去って行った。
一人残されたデュランダルは巨大なガラス張りの窓へと向かい、そこから見えるアーモリー・ワンの風景を見据える。
慌ただしく式典の用意をしている人々は、これから起きる悲劇など何も知らず、昨日と同じ明日が来ると信じているのだ。
「実に滑稽な話だ。所詮。全ては定められた運命だと言うのに」
デュランダルはため息を吐き、今度はテーブルに置かれた電話の方へ向かった。
そして、あれから変わらず愛を向けている女性へ電話を繋ぐ。
「あぁ。タリアかい? 実は頼みたい事があってね。あぁ、いや。それほど大した話ではないさ。ミネルバの調整を早めて欲しい。あぁ、そう。そうだよ。式典までは時間があるがね。すぐにでも出られる様にしてくれると助かる。あぁ、そうか。明日はウィリアム君と出かける用事だったのか。それは申し訳ない事をした。彼にはこちらから部下を送り、丁重に自宅まで送り届けよう。すぐにでも向かわせるから。明日はよろしく頼むよ」
電話を切り、怒りをぶつけて来たタリアを愛おしく思いながら、デュランダルは笑みを深めた。
「本当に。よろしく頼むよ。タリア。彼女の計画は君の生死を気にしていない。君の愛する子供もね。だから……」
デュランダルは深くため息を吐きながら電話を握りしめていたが、再びいつもの様子を取り戻すと椅子に座り、議長としての仕事を始めた。
溜まっている仕事を片付ける為に。
デュランダルがクルーゼと話をしていた頃。
キラはデュランダルの居たホテルを飛び出して街を走っていたのだが、その途中で見慣れた子達を見つけて足を止める。
「あれれ? ルナ! それにアグネス!」
「キラさん!」
「キラさぁぁあああん!」
「あらあら。アグネス。どうしちゃったの」
キラはアグネスを抱きとめて、泣きじゃくっている理由を聞くが、その問いにはルナマリアが応えてくれた。
「いや、ほら。アグネスってキラさんの隊に配属されなかったじゃないですか。それで……」
「私! アカデミーで2位だったんですよ!? 2位! なのに、ミネルバの配属じゃなくて! なんでー!」
「いやー。なるほど。それは申し訳ない事をしたなぁ」
「ん? キラさん、何か知ってるんですか?」
「知ってるっていうか、何というか。最初はアグネスもミネルバに配属させましょうかー。って話になったんだけど。反対されて」
「誰に!!」
キラの言葉に、噛みつく様な勢いでキラに抱き着いたままアグネスは叫んだ。
その勢いに顔を逸らしながらキラは事情を伝える。
「アグネスのお父さんがさ。娘をそんな危険な場所へはやれないって言って……! じゃあ軍本部ですねって」
「あー。アグネスのお父さんって評議員でしたもんね。ならしょうがないか」
「あぁぁあああ!! パパのバカー!」
泣き崩れるアグネスを慰めつつ、キラはルナマリアに話しかける。
「そう言えば、ルナの機体はどうなったの?」
「ガナーザクウォーリアですね」
「あら。射撃は得意になったのかな? ルナマリア君」
「いやー。それが全然」
「それで、なんでガナーにしたの」
「いやー。ガナー装備見たら、遠距離戦闘が得意だって思うじゃないですか。そうして接近してきたたころを、こう! ですよ」
「なるほど」
「まぁ。アカデミーではほぼ通用しなかったんで、突っ込んで殴ってましたけど」
「……」
ルナマリアの何とも言えない話に、キラは苦笑しながらこれからは無茶しないでね。とだけ告げておいた。
そして。
「そう言えば、レイ君は?」
「シンと一緒に男二人でご飯食べに行きました。二人だけで話したい事があるーとか何とか言って!」
「仲が良いねぇ。二人は」
「アカデミーの絆はどうしたんだ。って感じですけどね! 私は!」
「あのくらいの子は男の子同士で居るのが楽しいんだよ。その内、ルナの魅力にも気づくって」
「いや、そういうんじゃないですって!!」
ニシシと笑いながらキラが言った言葉に、ルナマリアは動揺しながら叫ぶが、ルナマリアと一緒にアグネスもバッと顔を上げて酷く驚いた顔をルナマリアに向けた。
「え!? ルナって、あいつらのコト好きなの!? どっち!? まさか山猿!?」
「違うって言ってるでしょ!」
キラはアハハと笑いながらルナマリア、アグネスと共に食事を食べに行き、これから起こるであろう事件へと心を決めるのだった。