オーブ連合首長国代表首長 カガリ・ユラ・アスハはプラントへの定期視察が拒否されている件について抗議を行うべく、遂に代表自らプラントへと向かう事となった。
議長と直接話をする為に、現在のプラント最高評議会議長ギルバート・デュランダルがいるというアーモリー・ワンへと来たワケだが。
「会えない!? 会えないとはどういう事だ!」
「いえ、ですから。議長もお忙しい方でして。明日には新造戦艦の進水式典もございますし」
「ユニウス条約で決定した中立国であるオーブからの視察を拒否し! 新造艦の推進式とはな! どういうつもりだ!? えぇ!?」
怒りに震えるカガリを、隣に居た護衛件意見番のアスランが止めようとしたが、それでカガリが止まる事もない。
先の大戦を乗り越え、何とか平和を掴んだと言うのに、軍備を拡大し続けるプラントと連合に、カガリの怒りは日に日に強くなっているのだ。
「とにかく! 直接話をせねば分からぬ事もあるだろう! 議長の時間が空くまで私は帰らんからな!」
「も、もう一度確認して参ります!」
カガリの勢いに押され、外交官をしていた男は別室へと駆けていった。
その背中を見ながらカガリは鼻を鳴らし、腕を組みながら用意されたソファーへと、やや乱暴に座る。
「カガリ」
「なんだ。また文句か? 帰ってからにしてくれ。そういうのは」
「そういう訳じゃないが。もう少し言葉と態度を改めろと言ってるんだ。ウズミ様はもっと丁寧な物腰だっただろう?」
「フン! お前はお父様の大人しい所ばかりを見ていたからそう言うんだ。残念だが、あの人も激しい時には激しかったよ」
「ったく。お前は」
「それに。飴ならキラとセナがたっぷりくれているだろ。なら、私は鞭であるべきだ。オーブが容易い国だと思われてはたまらないからな」
「それだとお前が狙われるぞ。お前を殺せば、キラとセナは操りやすいと思われてな」
「フン! 望むところだ。二人が狙われるよりは私が的である方がやりやすい。ギナも……」
話の途中であったが、カガリは話を中断しソファーから立ち上がって風の無い夜の水面の様な落ち着いた表情に切り替わった。
「やぁ、これは姫、遠路お越し頂き申し訳ありません」
「やぁ。議長にもご多忙の所お時間を頂き、有り難く思う」
先ほどまでの激昂はどこへ行ったのか。
議長を呼びに行った者もかなり驚いた顔でカガリを見ていた。
しかし、カガリはそんな者へと視線を送ることもなくジッと、デュランダルを見据える。
「御国の方は如何ですか? 姫が代表となられてからは実に多くの問題も解決されて、私も盟友として大変嬉しく、また羨ましく思っておりますが」
「まだまだ至らぬことばかりだ。近海で妙な騒動があったり、条約で定められた視察を断り続ける国があったりとな」
さらりと嫌味を差し込みながら言葉を返したカガリにデュランダルは笑みを浮かべたままスルリとかわしてゆく。
「それは大変申し訳ない。こちらもドタバタしていた物でね」
「ほー。それは申し訳ない事だ。次の戦争の、準備かな」
「代表!」
「やめろ」
カガリの言葉にデュランダルの側近をしていた男が怒りのままに声を荒げるが、デュランダルがそれを制してカガリへと視線を向ける。
燃える様な瞳で、激しい怒りを内に秘めながらここに立っている少女を。
とてもじゃないが、キラと同じ年齢とは思えないな。とデュランダルは内心で笑いながらカガリへと再び言葉を返す。
「我々は戦争がしたい訳ではありませんよ。『代表』」
「では何故視察を拒否する」
「現在プラントでは非常に重要な機密を取り扱っており、他国の者を……例え中立国であり、事実上の平和維持装置である貴方方にも公開出来ぬモノがあるのです」
「……ジェネシスでは無いだろうな」
「まさか! それこそまさかですよ。そういう物を探したいのであれば、プラントの周辺宙域の調査はすぐにでも許可を出しましょう」
「大量破壊兵器は保持していないと?」
「無論です。現在は戦時中ではない。それに、私達は先の大戦で議長であられたパトリック・ザラ氏の様な強硬派でもない。ナチュラルであろうと、連合であろうと協調出来るのであれば、したいと考えております。可能であれば、の話ですが」
カガリに攻撃されながらも、それを受け流し、今度は責める側へと転じたデュランダルはジッとカガリを見ながら反応を見る。
が。やはりというべきか。
オーブで太陽の様だと称される少女は、何一つ揺らぎを見せぬまま、真っすぐにデュランダルを見据えて言葉を投げかけた。
「無論、連合とプラント両国が互いに協調を望むのであれば、我々も尽力しよう。だが、その為にはまず意志を示して貰いたい物だな。貴国も、連合も。その為の第一歩が視察の受け入れなのではないですか?」
「まったく。仰る通りです」
「では……」
「ならば、私も一つの真実を語りましょう」
「……?」
「オーブより申し入れられていた視察を断っていたのは、ある人物がそれを拒否する様に進言していたからなのです」
「ある人物? 議長である貴方よりも立場が上の人間が?」
「えぇ。いますとも。何せその御方は地球を……いや、世界を救ったお方ですから」
デュランダルが勿体ぶって示した人物に、カガリの表情がここにきて僅かに歪んだ。
その様子に、やはり妹が弱点かとデュランダルは笑みを深める。
「キラが、その様に議長へ進言したと?」
「えぇ。彼女は姉を巻き込みたくないからと」
「どういう意味かな。議長」
「何。簡単な話ですよ。以前よりプラントの情報を盗み出そうとしている勢力がおりましてね。タイミングよく事件でも起きてしまったら代表が疑われてしまうでしょう?」
「つまり、その犯人が特定されるまでは視察を受け入れられないと?」
「そういう話です」
ニコリとデュランダルが微笑んだ様子に、カガリは内心でキラに確認しなきゃなと考える。
そして、再び別方向から攻めるべく口を開こうとしたのだが、その前にデュランダルへ慌てて駆け寄って来た男が目に入った。
「失礼」
何か急ぎの用だろうとカガリはデュランダルからスッと離れ、デュランダルも手だけでそれに礼をしながら話を聞くべくそちらへと寄った。
そんなデュランダルを目で追いつつ、カガリはアスランへと口を寄せてキラの話をしようとしたのだが……。
「何!? どういう事だ!」
「……?」
「申し訳ございません。議長。すぐに捜索隊を派遣したのですが」
「すぐにでも探し出せ! 彼女たちを失ってからでは何もかもが遅い!」
カガリはこれまで何を言われても冷静だった男が酷く焦った様な様子を見せている事にやや驚きを覚えつつ、何か緊急事態ならアスランでも貸そうかとデュランダルへと近づいた。
「議長。何かトラブルですか?」
「いや……これは申し訳ない。こちらの事情で」
「構わないさ。それに貴国とは友好関係にある。何かあるのならこちらも手を貸すが」
カガリの言葉にデュランダルは少し考える様な仕草をしており、決断を下すことが出来ていない様だった。
その様子に、カガリはいったい何が起きているんだと思考を巡らせる。
しかし、そんなカガリにアスランの反対側に居た少女がカガリの肩を掴みながら叫んだ。
「やばいぞ! 代表! 戦争が始まる!」
「え?」
その少女、ヴァレンティーナ・ビノンの言葉にカガリは何を言っているのかと返そうとしたのだが、直後響いた爆発音に、カガリはヴァレンティーナとアスランに押し倒されて地面に強く体を打ち付ける事になった。
そして打ち付けた体を押さえながらなんとか立ち上がると、デュランダルも多くの護衛に巻き込まれながら叫んでいる。
「なんだ! 何が起きた!」
「六番ハンガーの新型が! 何者かに奪取されました!」
「なんだと!?」
カガリはその言葉に、やや離れた場所で炎上している倉庫街を見やった。
そして、爆炎の中に立つ三機のモビルスーツを。
その姿はかつてオーブのコロニーであるヘリオポリスでG兵器が奪取された時に酷似していた。
最悪はこのプラントが、崩壊する。
「代表をシェルターへ。エヴァンスは!?」
「おいおい、ヤバいぞ! 代表!」
「カガリ!」
カガリは現在が緊急事態という事を即座に理解して、すぐに打てる最強の手を一つ議長に提示する。
「避難も良いが! まずは対処だ! 議長! モビルスーツは余っているか!?」
「何を言っているんだ! カガリ!」
「まさか、代表自らモビルスーツに?」
「いや、それも良いが。私の護衛はモビルスーツも一流なんだ。モビルスーツが余っているのなら、鎮圧に力を貸したい。コロニーが崩壊してはユニウスセブンの二の舞になる!」
「……! 血の、バレンタイン」
「承知いたしました。誰か代表の護衛にモビルスーツを!」
「すまないな」
「待て! カガリ、お前はどうするんだ!」
「私は……」
どう答えるか考えていたカガリであったが思わぬ場所から助力が飛んできた。
それは、この場でカガリと同じくらい失われてはいけない命であるプラントの最高評議会議長ギルバート・デュランダルである。
「であれば代表は私と共にミネルバへ」
「ミネルバ?」
「えぇ。明日進水式を行う予定だった新造艦です。このアーモリー・ワンで最も安全な場所でしょう」
デュランダルの言葉に、カガリはサッと不安そうな顔をしている二人の護衛を見て、即座に頷いた。
その方が二人も安心して戦えるだろうからと。
「分かった。では、私もミネルバへ行こう。アレックス。ヴァレ。そっちは任せたぞ。市民を守ってくれ」
「……あぁ。分かった」
「代表。無理すんなよ」
「それはこっちのセリフだ。必ず無事に戻ってこい」
そして、カガリは急いでデュランダルと共にミネルバへと向かい、アスランとヴァレンティーナは案内されるまま緑色のザクへと乗り込んだ。
初めて扱う機体だというのに、二人とも何ら迷いを見せる事もなく起動させ、暴れているモビルスーツへと向かう。
「ヴァレンティーナ。一機ずつ仕留めるぞ」
『分かった。まずはどれから行く!?』
「一番手前の奴だ!」
『あの青い奴だな! りょーかい! じゃあ、私が前に出て……っ! と、待て! アレックス! 何か来る!』
「なんだ!?」
アスランはヴァレンティーナに言われるままモニターに映った何かを見て目を細めた。
それは今まで見た事のない戦闘機で、そして合体する事で一つのモビルスーツとなるインパルスであった。
しかも……。
『キラさんとセナを連れ去ったのはお前らだな! 逃がすもんか!』
「この声! シン!? それに、キラとセナだと!?」
『お、おい! どうすんだよ! アレックス!?』
「あの赤い機体を援護する! まずは状況の確認だ」
何がどうなっているんだとアスランは舌打ちをしながらビームライフルを構えてシンの駆るインパルスへと駆けるのだった。