キラやレイと共に議長から話を聞いた通り、インパルスとセイバーを除く新型……アビス、ガイア、カオスが地球連合の秘密部隊によって奪取された。
ここまでは想定通りである。
だが、シンが聞いていた話と違うのは、三機を奪取した連中がキラとセナを攫ったという点である。
「くそっ! なんでこんな事に!」
シンはアビスと大胆に接近戦をしつつも、コックピットへの直接攻撃をしない様に意識しながら『エクスカリバー レーザー対艦刀』でアビスを追い詰める。
敵のパイロットは、それなりにやる様だが……キラに直接指導され、ヤキン・ドゥーエという地獄の戦場を生き残ったシンにとってはそれほど強いとは思えない相手だ。
だが、腕でどれだけ圧倒していようと困難な戦場はある。
それがまさに今、ここにある戦場だった。
『シン! 命令は捕獲だぞ! 解ってるんだろうな! あれにはキラ様やセナ様が……』
「分かってますよ! でも、このまま何もしないってワケにはいかないでしょ!?」
奪取されたモビルスーツは三機。
連れ去られた人質は二人。
一応どれか一機にはキラもセナも乗っていない計算になるが、それがどの機体か分からない以上、その思考に意味は無い。
やるべき事は三機全てを無傷で捕獲する事であるが。それが容易い事ではない事くらい、シンにも……そして、シンに通信を繋いできた新造艦ミネルバの副官であるアーサー・トラインもよく分かっていた。
そして、それはミネルバの艦長であるタリア・グラディスも同様である。
「だいたい! 何でこんなことになったんです! キラさんとセナが! なんでこんな! 簡単に! 敵にっ!」
『今はそんなお喋りしてる時じゃないでしょ! 演習でもないのよ! 気を引き締めなさい! 強奪部隊ならば外に母艦が居るはずです。そちらは?』
『フン! グラディスに言われずとも分かっているわ! ハーセルとフーリエを出せ!』
『指令! ハーセル被弾!』
『フーリエにミサイル接近、数18』
『なに!? どこからの攻撃だ!』
『不明艦捕捉! 数1、オレンジ25、マーク8ブラボー、距離2300!』
『そんな位置に!』
『ミラージュコロイドか!』
『地球軍なのか!?』
『熱紋ライブラリ照合、該当艦なし!』
『迎撃! 艦を出せ! モビルスーツもだ!』
『指令! 敵のモビルスーツ! 急速接近!!』
『ぐわぁぁあぁああ……!』
シンは通信から聞こえて来た叫び声に意識を僅かに向けながら、アビスへの意識も外さない。
当初あった焦りも、周囲の反応が激しいからか少しばかり落ち着いて来た。
『アーサー! アーモリーワン管制室はどうなってるの!?』
『通信切れました。おそらく攻撃を受けたものと思われます』
『くっ、港を押さえられたか。ならばあの三機。どうあっても外へ出すワケにはいかないわ! シン!』
「分かってますよ!」
タリアの叫び声を聞きながら、シンはアビスへと接近して、アビスが手に持っていたビームランスを両断した。
そして、コックピットへの影響がない両肩の武装を破壊しようと迫る。
だが、そんなシンに爆炎の中から黒い機体……ガイアが迫ってきてインパルスへとぶつかった。
「うわぁっ! くそっ! ガイアか!」
アビスとの戦いに集中していたシンは横からの乱入者にインパルスを動かしながら攻撃をかわす。
だが、ガイアは何も気にした様子もないままビームサーベルを振り回しているのだった。
しかも、ガイアの向こうからはアビスとカオスが迫って来ていた。
三対一。
絶体絶命のピンチである。
だが……。
『シン! 大丈夫か!?』
『ちょっと、シン! 大丈夫!?』
『シン! 無事か!? 状況を説明しろ!』
「レイ! ルナ! って、アスラン!? なんでここに居るんだよ!」
『そんなことはどうでも良い! 状況を説明しろと言っている!』
「どうでも良くないだろ! ここはプラントだぞ! オーブじゃない!」
シンは久しぶりに会ったアスランと言い争いをしながら、アスランよりも前に出て、ガイアに切りかかる。
そして、アスランもシンに動きを合わせて、インパルスを狙うカオスをヴァレンティーナと共に牽制するのだった。
アビスにはレイとルナマリアが対応し、五人は協力しながら三機の行動を少しずつ狭めてゆく。
『どちらにせよ、戦闘が起きているのならば、止めなくてはいけないだろう!?』
「それは、俺たちがやるって言ってるんだ! 部外者は引っ込んでろ!」
『ここにはオーブの代表も居るんだ! そんなワケに行くか!』
「俺だけじゃ信用できないって言うのか!?」
『あぁ』
「っ! 舐めるなぁぁあああ!!」
シンは勢いよくガイアを倉庫まで突き飛ばし、『エクスカリバー レーザー対艦刀』を構えたが、すぐにレイから通信が入る。
『シン! キラさんとセナが乗っているのを忘れたのか!』
「あっ! しまっ!」
『変わらないな。シン! 力を振るうばかりが強さじゃない! そう教えただろう!?』
「分かってるよ! そんなことは! アンタが横からゴチャゴチャ、ゴチャゴチャ言うから悪いんだろ!」
『人のせいにしていても成長は出来ないぞ』
「分かってるって、言ってるだろ!!?」
キラやセナが攫われたと聞き、アスランから久しぶりにお小言を大量に貰って、シンの苛立ちは限界に達していた。
色々な事がシンの周りでグルグルして、戦いにすら集中出来ない。
そんなシンは戦い方もいつもより荒くなっており、それをまたアスランに言われるという悪循環に陥っていた。
あまり良くはない状況である。
あるが、レイやルナマリアからすると少しばかり余裕のある戦場ではあった。
確かにキラとセナが誘拐はされているのだが、殺すのではなく誘拐という手段を取った以上、向こうにキラやセナを傷つける意図は無いのだろうし。
人質としないのは、そういう目的で攫ったワケでは無いからだろう。
だから、焦る必要はなく、逃げ場のないアーモリー・ワンの中でエネルギーが切れるまで囲み、最終的に捕縛すれば良い。
そう考えて居たからこそ、シンたちの話を聞くだけの余裕があった。
『レイ。アレはいったい何なワケ?』
『さぁな』
『さぁな。って、なんか知ってるんでしょ? アスランって、まさか前大戦の英雄アスラン・ザラじゃないでしょうね? まさか襲撃予想してたって事は無いと思うけど。キラさん達もなんかタイミングよく攫われてるし』
『俺は何も知らん。後でシンに聞け』
『はぁー。ったく。そうするわよ! キラさんにも聞かなきゃいけない事がありそうだしね!』
『そうだな。その為にも……』
『まずは、目の前のコイツを叩く!』
ルナマリアはビームトマホークを片手に、アビスの攻撃をかわしながら超接近戦を仕掛けてゆく。
ちょうど、シンがアビスのビームランスを破壊していた為、近接戦闘はかなりやりやすい状況であった。
だからこそ、心の余裕があり、ルナマリアは更に前へと焦る必要のない戦いの中でザクを前進させていた。
それが未知の危険を踏むとも知らずに。
『ルナマリア!』
『えっ!?』
アビスへと後一歩を迫った所で、ルナマリアはコックピットの中に響いた警告音にスラスターを一気に吹かせて後退した。
何か異常が発生し、詳細が分からない時にはまず後退。
それはキラの教えであり、その教えを何よりも大事にしていたルナマリアは即座に後退した事で命を何とか拾う事が出来たが、右腕は地面から突如噴き上がったエネルギーの奔流により破壊されてしまう。
『ビーム砲!? 外から!?』
『シン! レイ! 外に逃げるつもりだぞ!』
「アンタに言われなくても分かってるよ! レイ!」
『あぁ!』
「ルナは大丈夫か!?」
『私は大丈夫! アイツ等をお願い!』
「分かった!」
『ヴァレンティーナ! 伏兵の可能性もある! カガリを頼む!』
『あぁ。任せとけ! と、おい! そこのモビルスーツのパイロット。大丈夫か!?』
『え、えぇ……! でも動けないわ。悪いけど、ミネルバまで連れてってくれる!?』
『ミネルバか。そりゃちょうどいい。私もそこに用があったんだ』
ヴァレンティーナはルナマリアの言葉に頷き、ミネルバが外へ出る前にとさっさとルナマリアのザクを抱えて少し離れた場所に見える宇宙艦を目指すのだった。
ルナマリアとヴァレンティーナがミネルバを目指していた頃、ミネルバの艦橋はザワザワとクルーの声で騒がしくなっていた。
「お姉ちゃん!? お姉ちゃん! 大丈夫なの!?」
「どうしたの! メイリン!」
「コロニー外からの攻撃でルナマリア機被弾! ミネルバへ向かっているとの事です!」
「ルナマリアが被弾?」
「何ぃ!? 勝手な事をするな! そんな指示は出して無いぞ!?」
「どうしたの! アーサー!」
「艦長! シンとレイが敵を追って外へ行くと」
「なんですって!?」
「状況はどうなっている!」
「議長!? それに、貴女は……」
「緊急時にすまない。私の事は気にしないでくれ。それよりも、モビルスーツが奪われ、暴れていると聞いた。その状況を伺いたい」
カガリの冷静な言葉に、タリアは帽子をやや深く被り目線を半分ほど潰してから重い言葉で状況を伝える。
キラとよく似たキラの姉であるオーブの代表……カガリ・ユラ・アスハにとっては最悪の情報を。
「現在、我が軍のモビルスーツが三機、奪われ、彼らは外からの攻撃により空いた穴から外へと脱出。そして、モビルスーツの他に、オーブ連合首長国より客人として来ていた『キラ・ユラ・アスハ様』『セナ・ユラ・アスハ様』の二名が誘拐されております」
「なに!?」
「という事は、キラ君達も外へ?」
「えぇ、その可能性が高いです。議長。どうしますか?」
タリアが真っすぐにデュランダルを見ながら問うた言葉は、指示を求めている訳ではない。
既に、行動としては決まっているが、デュランダルにその行動をしても良いか確認しているだけだ。
「あぁ。君の思うように進めてくれ。責任は私が取る」
「承知いたしました。アーサー! 艦を出すわ! ミネルバ発進準備!」
「えぇー!?」
「頼む」
アーサーは驚きつつも、艦長であるタリアも議長であるデュランダルも意志は変わらないと判断して、自分の席に向き直り、発進準備を始める。
「ルナマリア機はどうなったの?」
「既に収容完了しています」
「分かったわ」
「ミネルバ、発進シークエンススタート」
「本艦はこれより戦闘ステータスに移行する」
「SCSコンタクト、兵装要員は全ての即応砲弾群をグレードワンへ設定」
「議長と代表は早く下船を」
「タリア。今は一秒でも時間が惜しい。そうだろう?」
「それは……そうですが。他国の代表もおられますし」
タリアはチラリとデュランダルからカガリへと視線を移す。
だが、カガリも変わらず大きく頷くだけだ。
「私の事も気にしないでくれ。我が国の妹たちが面倒を掛けているのだ。私が行かないという訳にもいかん」
「……わかりました。では、お付き合いをお願いします」
『システムコントロール、全要員に伝達。現時点を以て、LHM-BB01、ミネルバの識別コードは有効となった。ミネルバ緊急発進シークエンス進行中。A55デフロック警報発令。ダメージコントロール、全チームスタンバイ。第2、第5チームは突発的船殼破壊に備えよ。ゲートコントロールオンライン。ミネルバリフトダウン継続中。モニターBチームは減圧フェイズを監視せよ』
「発進ゲート内減圧完了。いつでも行けます!」
タリアは最後の報告にキッと前を見据えながら気合を入れた。
ミネルバという艦の艦長として、先日までタリアの愛する息子に気を掛けてくれた年の離れた妹の様なキラの事を考えながら、真っすぐに指示を出す。
「機関始動。ミネルバ発進する。コンディションレッド」
そして、タリアの指示でミネルバはどこまでも暗く闇が広がる宇宙へと飛び出してゆくのだった。