かつて起こった戦争は、平和を訴え続けた姫たちにより、一つの終わりを迎えた。
オーブのキラ・ユラ・アスハ、セナ・ユラ・アスハ。そしてプラントのラクス・クライン。
彼女たちは戦後もその名と共に一定の人気と信頼を集め、少しずつではあるが、世界を争いのない物へと変えていった。
だが、そんな彼女たちが命をかけてでも求めた平和も、ネオ・ロアノークという男にとってはあまり価値のない……酷くどうでも良いモノであった。
ある男のクローンとして生まれたネオにとって、己とは生まれた時より虚無であり、セナに名付けられる事で自己と生きる意味を得た。
だから、セナの騎士という地位を求め、それに相応しい行動をしていただけである。
ジブリールの傍に居たのも、ジブリールがセナを殺そうと考えていたから、イザという時に自分の手でジブリールを始末しようと考え、傍にいただけだ。
しかし、セナがネオの近くから消えてしまった事で状況は一転する。
ジブリールに大きな利用価値が生まれたのだ。
再び戦争を起こす必要がある。
それも、前の大戦とは比べ物にならない程に大きく、悲惨で凄惨な戦いを。
セナが、自分だけの力ではどうする事も出来ず、ネオに助けを求める様な大戦争を起こす必要があるのだ。
そう考え、ネオはジブリールの指示を受けながらモビルスーツの奪取へと向かい、ある協力者の手を借りてキラやセナを攫う事にも成功していた。
だが……。
「ナスカ級撃沈」
「左舷後方よりゲイツ、新たに3!」
「アンチビーム爆雷発射と同時に加速20%、10秒。1番から4番、スレッジハマー装填、モビルスーツ呼び戻せ!」
「彼らは?」
「まだです」
「ふむ……」
「失敗ですかね? 港を潰したといってもあれは軍事工廠です。長引けばこっちが保ちませんよ?」
「だろうな。どうやら初めてのお使いにはまだ早すぎた様だ。私が出る。艦を頼むぞ」
「ハッ! ご無事で!」
「誰に言っているんだ? イアン」
「無論。これから大佐が連れて来るであろう姫君が無事であることを祈っているのです」
「何も問題はない。私が出るのだからな」
ネオは顔の半分を隠した仮面をそのままに口元だけで笑い、艦橋から格納庫へと真っすぐに向かった。
そして、既に用意されている愛機に乗り、そのまま出撃をする。
「ネオ・ロアノーク。リュニック! 出撃する! 戻ってくるまで、沈むなよ!」
リュニックはカタパルトに乗り、勢いよくガーティ・ルーを飛び出すと、迫ってきているゲイツへと向かった。
ビームサーベルを抜き、加速しながらゲイツへと接近し、途中で急制動をかけて腰に装備していたビームライフルを抜いて、接近戦の準備をしていたゲイツ三機を正確に撃ち抜く。
「平和ボケをしているな。まぁ、その方が動きやすくて助かるが」
さて、と呟きながらネオはアーモリー・ワンを真っすぐに見据え、リュニックに搭載されたセナにも伝えていないシステムを起動させ自らの感覚を拡張してゆく。
そう。
サイコフレームと呼ばれるZAFTが開発した未知の金属を秘密裏に入手した連合軍が作り出したサイコシステム。
それにより、ネオはコロニーの内部に居るアウル、ステラ、スティング……そして彼らよりも大切なセナ、キラの居場所を正確に見つけ出した。
そして、背中の大型ビーム砲を展開するとそれでアウルへと迫る敵モビルスーツへ向けてその主砲を放った。
毒々しい赤色の閃光はコロニーの外壁に着弾し、そのまま外壁を食い破って内部まで貫通する。
何かの偶然か、もしくはパイロットの腕か。
狙った機体は一部が破壊されただけで撃墜とはいかなかったが、アウルたちが逃げる隙と通路だけは作ることが出来たのだ。
十分な戦果だろうとネオは頷く。
何よりも大切なのはセナとキラの確保であるのだから当然だ。
「さて。どうやら面倒な連中に目を付けられたようだな」
ネオはコロニーの中から飛び出してきて、母艦であるガーティ・ルーへと向かう三機を見送りながら彼らを追うように出来た三機のモビルスーツへと視線を向ける。
そして、特に面倒そうな機体へとまず先ほどと同じ様にビーム砲を構え、撃った。
「っ! これをかわすか!」
ネオは完全に意識がアウルたちへ向いているだろうと考え、死角からアスランの駆るザクを狙い撃ったのだが、アッサリとかわされてしまい思わず声を上げてしまう。
力量はキラと同等であろうと考え、口元に笑みが浮かんだ。
戦士としての本能か。
いや、それほどの強者がセナの近くにおり、それが失われたとすれば穴埋めの為に自分という存在の価値がセナの中で更に高まるだろうという考えだ。
その素晴らしい考えに、ネオはすぐにでも緑色のザクを落とそうとしたのだが、ZAFTのザクから通信がネオに入る。
『お前が指揮官だな!』
「あぁ。その通りだ。それで? それがどうした」
『お前を捕縛する! 貴様らが攫ったキラ・ユラ・アスハ、セナ・ユラ・アスハは世界的な要人だ。このままでは世界の敵となるぞ!』
「フン! 脅しのつもりか!?」
『なに!?』
驚愕する相手パイロットに嘲笑を向けながら、ネオは冷静にアウルたちを追って飛んで行った二機のモビルスーツを見やった。
そして、よほど腕に自信があるのか、緑色のザクは一機でリュニックを止めるつもりらしいと鼻を鳴らす。
「くだらない話だ。世界が敵? その様な物、生まれた時からそうであったとしか言い様がない!」
『どういう事だ!』
「さて、どういう事だろうな。貴様ごときに話す必要性は感じない。そして!」
ネオは接近戦を仕掛けようとするザクを蹴りつけ、スラスターを全開に吹かせながら真っすぐにアウルたちを追ったモビルスーツへと大型ビーム砲を放つ。
その光は二機を落とす事こそ出来なかったが、足を止める事は出来た様で、三機は無事、母艦へと戻った様だった。
それを見て、ネオはやや安堵しながら脱出か、撃破か、どうするかを思考し……。
『大佐。戦艦と思しき熱源接近中です。類別不明、レッド53、マーク80デルタ。既にモビルスーツは三機収容しました』
「そろそろ潮時か。撤退の準備を始めろ」
『承知いたしました』
ガーティ・ルーの艦長、イアン・リーからの通信にネオは即座に撤退を指示し、自らも逃げる準備をする。
だが、当然の様にインパルスやザク2機はネオを逃がすつもりなどはなく三機での戦闘を仕掛けてくるのだった。
「やれやれ。困ったものだ。もはやお前たちに用など無いというのに」
ネオは面倒だと言わんばかりにため息を吐きながら迫りくる三機を見やり、その攻撃の隙を縫いながら宇宙をあちらへこちらへと動き回る。
そして、その間も聞こえ続けている敵機からの声に怪訝そうな顔をした。
「これは……どういう事だろうか。共鳴現象? 向こうの機体も同じシステムを詰んでいるのか? もしくは適正かな」
『シン! 回り込むぞ』
『あぁ! レイ! 俺はこっちから行く!』
『分かった!』
「しかし、私の専門では無いし。後で報告として上げておくとしようか」
『大佐。準備は出来ましたが、大佐は』
「構わん。このまま行け。問題はない」
『ハッ。しかし、どうやら敵も中々な高速艦の様で……』
『ミサイル接近!』
『取り舵! かわせぇ!』
「チッ。このまま素直に逃がしてはくれないか。ならば、両舷の推進剤予備タンクを分離後爆破! アームごとでいい! 連中の鼻っ面に喰らわせてやれ! 同時に上げ舵35、取り舵10、機関最大!」
『了解しました! 大佐は!』
「私の事は気にするな! ちゃんと付いていくさ」
『ハッ!』
敬礼するイアンにネオはフッと笑いながらスラスターを全開にし、ガーティ・ルーの方へと向かって突き進む。
当然、それをインパルスたちが見逃すはずもなく、ネオの駆るリュニックを追いかけて来るのだが。
ネオはリュニックに装備されていたセナお手製の爆弾を一つ、インパルスの先に切り離しておとしていった。
『これは!? 爆弾か!? レイ! アスラン! インパルスの後ろに! フェイズシフトで抑えこむ!』
『駄目だ! シン! それは……! くっ』
『うわぁっ!? な、なんだ!?』
炸裂した瞬間に、閃光とリュニックの後方へ向けて強力な電子ジャミングを放ち、回復するまでの数秒シン達はインパルスの動きを止めてしまった。
ネオはインパルスの足が止まった事を確認し、急加速する前のガーティ・ルーへとアンカーを伸ばし、即座にミラージュコロイドを展開する。
シン達の機体が自由を取り戻した時には既に遅く、リュニックの姿はミラージュコロイドで消え、ガーティ・ルーもミネルバの動きを止めてから加速を始めている所だ。
その光景にシンは強い苛立ちを感じ、コンソールを殴りつけるが、遠く離れた場所へと移動しているネオには既に関係のない話であった。
無事ガーティ・ルーへと帰還したネオは早速医務室へ向かい、スティングとステラが抱えているキラとセナへと視線を向ける。
傷一つなく、綺麗なままの姿で眠っている二人に、ネオは笑みを溢れさせながら、スティング達の頭を撫でて、その労をねぎらった。
「よくやったな。アウル。スティング、ステラ」
「おう!」
「まぁ楽な仕事だったな」
「わるい奴らから、セナ達を助けて、きたよ」
「あぁ、本当によくやった。これで素敵な世界になるぞ」
「うん」
「さ。疲れただろう? 『ゆりかご』へ行きなさい」
「はぁーい」
笑顔で連合軍が作り出した装置へと向かう子供達を見ながら、ネオは更に笑みを深めた。
ここまでは全て順調。
全てはここからだ、と。
「大佐」
「あぁ。彼女たちも『ゆりかご』へ。調整を始めるとしよう」
「……しかし、良いのでしょうか? キラ様とセナ様に、その様な」
「仕方ないだろう? このまま平等な社会、平和な世界となったら、世界はコーディネイターの物になってしまうぞ。それでも良いのか? キラ様やセナ様も奴らに奪われてしまう」
ネオの言葉に、研究員の一人はグッと言葉を飲み込む。
顔には強く恐怖の色が浮かんでいた。
「だから、姫様方には我らの傍に居て貰わなければな……」
「……承知いたしました」
『ゆりかご』へと運ばれていく二人を見てネオは心の中で安堵の息を吐きながら、世界の行く末を思った。
これから始まるのは、誰も経験した事のない地獄の様な世界になるだろう……と。