ボギーワンから飛び出したブラックナイトスコードの中ではキラがボギーワンに戻ろうと騒ぎ、暴れていた。
それをシュラがどうにか抑えながらイングリットへと帰還命令を出す。
「シュラ君! セナを助けるって約束!」
「そんな約束はしていないだろう! イングリット! ミネルバへと戻れ!」
「イングリットさん! ボギーワンに戻って!」
キラとシュラからの命令にイングリットはため息を吐き、ひとまずはミネルバへと向かう。
しかし、キラにはバレない様に攻撃を避ける為に仕方なく退却している様に見せながら……だ。
だが、そんなキラ達の動きを目ざとく見つけたネオ・ロアノークがリュニックのビームサーベルを構えながら真っすぐに突っ込んできた。
そして、咄嗟にシールドを構えたブラックナイトスコードにぶつかる。
「チッ!」
「きゃあ!」
『どこへ行くつもりかな!? キラ姫!』
「くっ! ネオ・ロアノーク!」
キラは二人乗りで普通のモビルスーツよりもコックピットが広いとはいえ、三人も収容している狭いコックピットの中で悪態をついた。
そして、半ば強引にブラックナイトスコードの機体操縦を奪うと、そのままネオ・ロアノークと戦闘を始めた。
「ちょっと借りるよ! シュラ君!」
「き、キラ姫!? 何をっ!」
「ごめんね! ココで、コイツを落としたいんだ!」
キラはモニターの向こうに映る宇宙に溶けて消えそうな漆黒のモビルスーツ、リュニックを見据えながらブラックナイトスコードのビームサーベルを展開してリュニックに突撃した。
「貴方の理想に、セナを付き合わせる訳にはいかない!」
『ふっ! 何を言う! 全てはセナ様のご意思だ!』
「セナが争いを求めているとでも言うつもりか!?」
『そうだ!』
「ふざけた事を!」
『何もおかしな事はない! 君だって思った事はあるだろう! 考えた事があるだろう! 争いを起こす者が全て消えてしまえば! 世界は平和になると!』
「そんな物! 平和とは言わない!」
『理想ではそうだ! しかし、その様な形でなければ、この世界の争いは止まらない! 憎しみは消えないのだ! それはキラ姫も分かっている事だろう!』
「くっ!」
『世界は争いを求めている。憎しみに飢えている! それが世界の本質だ! 人間の業は、破滅を求めているのだ! そう! 一度滅びなくては変わらん! この世界は!』
その強い憎しみは、確かに世界へ向けられていて。
その怒りが、ネオ・ロアノークという男の憎しみが、キラの中である人物と繋がる。
「まさか……! 貴方は」
『僅かな情報だけで私の正体を見抜いたか。やはり貴女も聡明だな』
「もし、僕の考えている通りなら! 貴方の目指す先に、未来は無い!」
『知っているとも、分かっているとも! だが、私には進む以外の選択肢は無いのだ』
「ネオ・ロアノーク!」
『ラウ・ル・クルーゼの様に救われたいとは思わん! 私は、この世界を破滅させる事で、全てを救いとするだけだ!』
「そんな事!」
『ならば、止められるか!? 既に新しい絶望は放たれたぞ!』
「なに!?」
キラが、ネオの言葉に反応した瞬間、イングリットから報告がキラに渡る。
その報告は信じられない様な物であったが、通信の向こうから聞こえるネオ・ロアノークの高笑いが、この報告を真実の物としていた。
「軍事衛星ボアズが、動いています!」
「ボアズ!? どこに!?」
「ち、地球です……!」
「っ!?」
『さぁ。どうするキラ姫。我らに構っている暇が無くなったな! 確かにボアズは地球軍の核攻撃で要塞としての役割を失ったが、それでも残された部分ですら地球を壊滅させるには十分な大きさだ!』
「ここまでするのか! 貴方たちは!」
キラは怒りのままにブラックナイトスコードを操り、ビームサーベルをリュニックに振り下ろす。
そのあまりの早さにネオは反応出来ず、リュニックの片腕を失ってしまうが、それでも彼の嘲笑は止まらない。
『私を殺すか!? それも良い。だが、争いの火種はもう止まらない! 世界を破滅させ! 次に起こる戦争は、全てを滅ぼすまで止まらないだろう!』
「くっ! このぉ! っ!? 機体が」
「だ、駄目です。姫様。機体が限界です。各部に異常発生!」
「……!」
『ふっ! 貴女がどれほど強くとも、機体が追いつかぬのであれば無意味だな。では私達はこれで失礼するよ』
「待て! 逃げるな!」
「姫。もう機体が動きません!」
「シュラ君……! くそっ! イングリットさん! ミネルバに通信を!」
「は、はい!」
キラはイングリットにミネルバへと通信を繋いで貰おうと、叫ぶ。
その勢いにイングリットは少し焦りながらミネルバへと通信を繋げた。
「ミネルバ! 聞こえる!?」
『キラ! 無事だったのね!』
「急いでジャスティスを射出して! まだセナが捕まってる! 僕が助けに行くから!」
『なんですって!?』
「だから、早く……!」
『悪いが、その指示には従えないな。キラ君』
「その声……! デュランダル議長」
『ジャスティスは核動力の機体だ。ユニウス条約を考えれば、使用する事は許可できない』
「でも! セナが!」
『落ち着け! キラ! お前も報告は聞いたんだろう? ボアズが地球へ向かっている。落ちれば地球は壊滅的な被害を受ける。ミネルバも急いで現地へ向かわなくてはいけないんだ』
「でも……! でも、セナが!」
『子供じゃないんだ! 我儘を言うな! セナが殺される様な事態にはならない。それは確かだ。ならば、今優先するべき事は何か考えろ! お前も、オーブの姫だろう!? オーブの民を見殺しにするつもりか!? プラントは、この事態に対しすぐに動き出してくれている! その想いを、お前が踏みにじるのか!?』
「……! 了解」
キラは、唇を噛みしめながらカガリの言葉に頷いた。
そう。そうなのだ。
キラも、理性では分かっている。
だが、かつてセナを失ってしまった絶望が、悲しみが……セナから離れる事を、こうして奪われる事を良しとしていないだけなのだ。
「姫様。機体をミネルバへ向かわせます。よろしいでしょうか?」
「……うん。ごめん。イングリットさん。我儘を言っちゃって。シュラ君も」
「構いませんとも。私もその御心の願いを叶える事が出来ず、申し訳なく感じております」
「……っ!」
シュラの言葉を受けながら、キラは強く手を握りしめて涙を流す。
苦しい、苦しいと、胸は痛めつけられていた。
そして、そんなキラを見守りながら全ては計画通りだとシュラは笑い、イングリットは少しだけ後ろめたい思いを感じながら目を逸らした。
生まれた役目を果たすため。全ては計画の為とは言え、心優しい少女をいたずらに傷つける行為に何の意味があるのか。
イングリットは分からず、答えの見えない暗闇の中で小さくため息を吐いた。
「……オルフェ」
キラの嗚咽が響くコックピットの中でイングリットが小さく、助けを求める様に呟いた声は誰にも届かず、暗い宇宙の中に消えていった。
だが、その想いは確かに宇宙へと放たれて、どこかへと流れていくのだった。
ミネルバへと戻ったキラ達を待っていたのは、格納庫で行われていたいざこざであった。
そこまで多く戦闘が行われたワケでは無いが、モビルスーツが帰還した後の争いは、整備員たちにとって見慣れた光景である。
その為、彼らは争う二人を放置して、機体の整備に向かうのだった。
「なんで撤退なんだ! セナがまだ敵艦の中に居るんだろ!?」
「それどころでは無くなったんだ! お前も! 通信は聞いただろう!?」
「でも! 助け出すのに、一時間も要らない!」
「その一時間で間に合わなくなるかもしれないんだ! オーブが消えても良いのか!?」
「っ! そ、それは! でも!」
「シン君!」
「っ! キラさん!」
「ごめん。僕がもうちょっと上手く出来てたらセナを助けられたんだけど」
「いえ! そんな! 違います! キラさんは、敵に捕まってて、だから……! 俺たちがやらなきゃいけなかった事で!」
「その通りだ。シン・アスカ」
「副隊長!」
「お前は!? シュラ・サーペンタイン!?」
アスランと喧嘩をしていたシンに、ブラックナイトスコードから降りて来たキラは声をかけて、喧嘩を止めようとしたのだが、シンの代わりに新たなる火種が降りて来た事で、今度はシュラとアスランの間で火花が散る。
しかもその火種は先ほどまでのシンとアスランの言い争いとはまるで違う物だった。
「何故お前がここにいる!」
「何故? 妙な事を聞くじゃないか。アスラン・ザラ。我々ファウンデーション王国はプラントと友好関係を築いていてね。その一環として技術共有などもしているのさ。俺のブラックナイトスコードもプラントと、我がファウンデーション王国の技術が合わさった機体なのだよ」
「……! それが、何故キラと共に居る」
「それこそ理由を問うのも愚という物だろう。新型のモビルスーツのテストデータ収集。俺がここに参加していておかしな事など何もない。むしろ、この場にオーブの軍人である貴様がいる方が不自然だ! アスラン・ザラ!」
「俺は……オーブの代表を護るために、乗り、モビルスーツを借りて戦っていただけだ」
「ほう! ならばもはや不要だな。このまま艦を去れ」
「出来るか!」
「出来ない? 妙な事を言うじゃないか。貴様に出来る事など何も無いだろう!」
「なに!?」
「キラ姫様を救出したのは、この俺だ! 貴様ではない! キラ様の騎士たる、この俺なのだ!」
「……!」
「もう、言い争いはそれくらいにして貰えるかな?」
「ハッ!」
「……キラ!」
「良いから。今は一刻を争う事態だって、君も分かってるだろ? アスラン。下らないお話は後。今はボアズを何とかする方が先。シン君も、良いね?」
「はい……! ごめんなさい。キラさん。俺」
「良いよ。ぶつかって、泣いて怒って。そして成長するんだよ。シン君」
シンの頭を撫でて、キラはブリッジへと向かった。
これから始まる作戦の為に。
地球を守る為に。
そして、イングリットとシュラもそれについて行き、シュラはキラの後ろについて行きながらアスランへと嘲笑を向けて、鼻を鳴らす。
そんなシュラに、アスランは強い怒りを覚えながら拳を強く握りしめるのだった。