ボアズへと撃ち込まれた多数の核ミサイルと、メテオブレイカーがちょうど良い相互効果を生み出し、ボアズは細かく砕かれた。
だが、それでも地球へと向かう隕石は多数あり、ミネルバの艦長タリアは一つの決断をする事になる。
「モビルスーツに帰還信号! ミネルバはこれより大気圏に突入しながらの隕石破壊を行います」
「えぇー!? し、しかし! 大気圏に突入しながら主砲を撃てば、例えミネルバでも!」
「リスクがあるのは承知しています! ですが、隕石がもし都市部へ落ちた場合、数百万人が死ぬことになるのよ!」
「う……!」
「キラやセナがここに居たのなら、同じ事を言ったでしょう! 一人でも多く救える決断を! と」
「っ! 了解しました!」
タリアの言葉に、ブリッジのクルーは勇気ある決断を下し、タリアの指示に従って主砲を展開したまま大気圏突入の準備を始める。
そして、そんなミネルバのブリッジで、ある報告がタリアにされた。
「艦長!」
「オーブ所属艦アークエンジェルが、主砲を展開したまま大気圏へと突入する様です!」
「……そう。分かったわ! ならば、本艦はアークエンジェルの後方に付き、背面の隕石を破壊します! アークエンジェルへと打電!」
「了解しました!」
「まったく。あの子達に影響されたバカは他にも居るのね」
「艦長! アークエンジェルより返信。健闘を祈る! との事です!」
「分かったわ。代表。そういう事ですので、本艦より退艦を」
「そう言ってくれるのは嬉しいがな。この状況から逃げ出したのでは私はオーブ国民に笑われてしまう。このまま降りてくれ。今は一秒でも時間が惜しいだろう?」
「……分かりましたわ。ではミネルバ! 降下準備開始!」
『総員に告ぐ。本艦はモビルスーツ収容後、大気圏に突入しつつ艦主砲による破片破砕作業を行う』
『各員マニュアルを参照。迅速なる行動を期待する』
アーサーの言葉が艦内に響き、ミネルバはゆっくりと地球へ向けて降下を始めた。
その間にも主砲は近くにある隕石へと放たれており、一つ、また一つと隕石を砕いている。
「降下シークエンス、フェイズ2」
「艦長! インパルスとジャスティスがミネルバから離れてゆきます!」
「何ですって!? 何かトラブル!?」
「いえ……! それが!」
『艦長! キラさんのセイバーが地球に落ちてるんです! 俺、行きます!』
「シン!」
『すまない。グラディス艦長。キラの周囲に隕石が多すぎる。俺もシンと共に行きます。俺たちの事は気にせず離脱を』
「いえ! 私達はアークエンジェルと共に降下しながら隕石の破壊作業を続けます! あなた達は早く隕石群からの離脱を!」
『っ! 了解した! シン! 行くぞ!』
『えぇ!? 待ってくださいよ!』
ジャスティスとインパルスはミネルバからの通信を切ると、そのまま隕石群の中へと突入し、その奥に居るであろう落ちてゆくセイバーの元へと向かった。
それを確認しながら、タリアはアークエンジェルにも警告を出して、攻撃命令を継続しつつ考える。
あのキラが、おそらくは意識を失った状態で地球へと落ちているという状況に、タリアは強い不安を感じた。
前大戦の時、ラウ・ル・クルーゼの駆るプロヴィデンスとキラのフリーダムがぶつかり合う光景を見た時から、タリアの中でキラの実力を疑った日はない。
世界で一番強いパイロットと言われても納得するだろう。
しかし、そんなキラが、気絶するほどに追い込まれたという事態が、タリアには信じられない様な事態だった。
勝ったのか、負けたのかは分からないが。
もし、キラが負けていたとするなら……世界は恐ろしい事になってしまうかもしれない。
そもそもの話として、議長と同等かそれ以上の警備で守られていた筈のキラとセナが攫われた事からしておかしいのだ。
そして、タリアの予測通り、敵は隕石落としのどさくさに紛れて、キラを狙ってきた。
セナは既に敵の手の内だ。
もしかしたら、考えている以上に世界は最悪な方向へと進み始めたのではないかとタリアは嫌な想像を巡らせていた。
「艦長! 巨大なボアズの破片を発見!」
「タンホイザー起動。照準、右舷前方構造体」
「タンホイザー照準! 右舷前方構造体!」
「てぇっ!」
だが、今はまだ何も決められないと、タリアは静かに思考を止め、隕石の破壊に注力するのだった。
そして。
C.E.73年10月3日。
ZAFT、地球軍、オーブ軍の協力の下、行われた地球へと向けて落下するボアズの破壊作戦であるが。
巨大な小惑星として地球に落下する事は防げたが、破壊する際に生まれた多数の破片が地球へと雨の様に降り注いでしまう。
無論、アークエンジェル、ミネルバ。
そして配備されていたサテライトシステムによるビーム砲の狙撃。
それらの尽力もあり、被害は当初の予測から考えればかなり抑えられた事になる。
だが……。
後に『ブレイク・ザ・ワールド』と呼ばれる事になるこの事件により、地球は未曽有の大被害を受ける事となった。
『繰り返しお伝えします。巨大隕石の破砕は成功しましたが、その破片の落下による被害の脅威は未だ残っています』
『破片の落下地点は残念ながら未だ特定できません。今すぐ政府指定のシェルターに避難して下さい』
あらゆるメディアが地球に住まう全ての人に避難を呼びかけ、地球に住まう人々は死の恐怖から逃げまどい、助けを求めて叫び、届かない助けを願う。
『現在赤道を中心とした地域が最も危険と予測されています。沿岸部にお住まいの方は海から出来る限り離れ高台へ避難して下さい』
『政府の指示に従ってください! 海沿いは危険です! すぐに高台への避難を!』
死者、行方不明者の正式な数は分かっておらず、数千万から数億人にも及ぶと考えられている。
特に赤道付近は落下した破片によって多大な被害を被り、ローマ、パルテノン、上海、北京、ゴビ砂漠、ケベック、フィラデルフィア、大西洋北部地域には大量の破片が落下。都市部では大規模な水害が発生し、北京に至っては地図から消滅してしまった。
他にも大西洋連邦のサウスカロライナからメイン州一帯が水没、スリランカやフォルタレザが大津波に襲われる、サルドバル市全域が水没等その被害損失は天文学的なものとなった。
国際緊急事態管理機構は地球全体に非常事態を宣言し、同時に地球連合軍及び各国の全軍に、災害出動命令を発令した。
この事件により、地球に住まう人々は平和の世界からいきなり地獄へと叩き込まれたワケだが……そんな中である噂が静かに囁かれる様になってゆく。
それは……『隕石落としはコーディネーターの起こした事件である』という噂だ。
しかも、これはタダの噂ではなく、ある明確な証拠と合わせて世界中に広まった為、その悪意を止める事は誰にも出来ないのであった。
その証拠とは、地球へ向かうボアズで隕石破壊を邪魔するZAFTのモビルスーツ、ゲイツであったり。
先の大戦でZAFTが起こした『オペレーションメテオ』の作戦指示書であったりした。
それらがどこから流出した物なのか。ZAFTも調査を行ったが、結局犯人は見つからず、プラント側としては正式に事件への関与をお否定したが、それで被害を受けた人々の感情が収まる事は無かったのである。
世界がその様な事になっているとは知らず、ミネルバは荒れた海上の上で、今日も今日とて嵐が収まるのを待っていた。
隕石落としの影響か。発生した激しい嵐は世界中の海を荒らしまわっており、さらに発生した強力な磁場によりレーダーもまともに使う事が出来なかった為である。
そんな中でも落ちてゆくインパルスとセイバーを回収出来たのは運が良かったが、ジャスティスはインパルスにセイバーを託したまま、どこかへと落下してしまったらしい。
シンはあの日から医務室に居るキラの傍で落ち着かない日々を過ごしているのだった。
「ほら。落ち着きなさいって。シン」
「いや! でも!」
「大丈夫。アスランなら何とかしてると思うよ。ね? カガリ」
「あぁ。大方どこかの島に不時着でもしてるだろうさ。ジャスティスは単独で動ける機体だし。心配は要らないだろう」
「あー。島ね。うんうん。そうかもね。で、どこかの国のお姫様とイチャイチャしてたりして」
「キ~ラ~!?」
「わ! わ! 冗談だって! ごめん!」
「許さん!」
ベッドの上で暴れているキラとカガリを見ながら、ルナマリアは呆れた顔で笑い、不安そうな顔をしているシンの方へと視線を向ける。
シンは拳を握りしめながら、俯いて、キュッと唇を締めていた。
そして、そんなシンにカガリを落ち着かせたキラが声を掛けた
「シン君。そんなに心配しなくてもアスランなら大丈夫だよ」
「……! でも! でも! 俺が、俺がちゃんとレーダーを見てなかったから、俺にぶつかりそうな隕石を庇って」
「まぁ、それはシン君の失敗だね。次からは気を付けましょう。で、終わる話だよ。まぁ。アスランからはながーいお説教があるかもしれないけどさ」
「……でも!」
「何か罰が欲しいって言うなら、後で僕が地獄の特訓をしてあげる。泣いて、もう止めて下さいって言っても止めない、モビルスーツのシミュレーションバトル。良いね?」
「はい! お願いします!」
「ちょ、シン……! 正気? アレをやるつもりなの……?」
「ルナもやりたいなら良いけど」
「いえいえいえいえいえ!! 大丈夫です! 間に合ってます!」
「そう? まぁ、やりたくなったら言ってよ。僕も、強くならなきゃいけなくなっちゃったし」
「まだ強くなるつもりなんですか?」
「うん。そうだね。僕もまだまだだって思い知らされたから」
ルナマリアはキラの言葉に顔を青ざめさせていたが、レイは冷静にキラへと言葉を向ける。
「報告にあったモビルスーツですか」
「うん。ミラージュコロイドとは違う技術だと思うけど、レーダーにもカメラにも映らない。多分電子機器を通すと見えなくなるんだと思う。目視する以外に見る方法は無かったね」
「そんな化け物機体と戦ったんですか?」
「うん。負けちゃったけどね」
「いや、目視だけで戦って生き残っている方が怖いんですが……」
「諦めろ。ルナマリア。キラさんに常識は通用しない」
「アハハ。まぁ。そんなに持ち上げられても困るけどさ。アレは多分敵対するつもりだろうしね。何とかしないと……これからの戦いで困る事になるからさ」
「これからの戦いって……まだ何かあるんですか?」
「まだ何かって、決まってるじゃない」
「え?」
キラは疑問を向けて来るルナマリアに、酷く落ち着いた目で見つめ返しながら言葉を続けた。
おそらくは最悪の事実を。
「戦争が、始まるんだよ」