アーモリー・ワンの襲撃から戦いに戦いを重ね。
隕石落としを防いで地球へと降下したミネルバはようやくの落ち着きを取り戻す事が出来た。
「おぉー! ここがオーブ連合首長国ですかぁ」
「あぁ。そうだ。ここまで長旅ご苦労だったな。上陸許可はすぐに出そう。ただし、こちらも機密データには触りたくないから、管理者は交替で艦に残ってくれると助かる。調整をさせてくれ」
「ご配慮ありがとうございます」
「いや。構わないさ。前にも言ったが、貴艦の功績を考えればこの程度は安い物だ。本来なら表彰状なども送りたい所なのだが、この状況ではな。そこは許して貰いたい」
「いえ! 地球の状況は理解しております」
「すまない。その分、オーブでは自由に過ごしてくれ。ある程度ならば融通も利かせよう」
「感謝しています」
タリアはカガリに頭を下げ、アーサーやキラと共にミネルバからミネルバが停泊しているドックへと降りる。
そして、整備員たちをカガリが紹介しようとしたのだが……。
「カガリぃ!」
「……ユウナか」
「もう! よく無事で! ほんとにもう君は心配したんだよぉ!」
「それは悪かったな。それで? 私に何か用か?」
「用かって、国家元首が戻ったのだから、それを出迎えるのは当然だろう?」
カガリの腰に手を回そうとして、それをカガリに弾かれ、ユウナは少し不満そうな顔をしながらカガリの後ろに居るキラを見やり、目を輝かせた。
「キラぁ~! キラじゃないか!」
「あ、はは。ユウナさん。こんにちは」
「ユウナさん。だなんて、他人行儀な呼び方は止めてくれ! ユウナって呼んでくれよぉ」
「ま、まぁ。それはまた後程」
どこか苦手そうな気配を纏わせているキラに、タリアとアーサーは少し驚きながらオーブという国の姿を見る。
タリアとアーサーはプラントの人間であり、この様な場に、おそらくは似つかわしくない人間を寄越しているのはどういう事かと。
だが、直接何か悪意をぶつけられているという訳でも無い為、ひとまずは何も語らずジッと流れを見据えているのだった。
「これユウナ! 気持ちは解るが場をわきまえなさい。ZAFTの方々が驚かれておるぞ」
そしてそんな中、薄いゴーグルを付けた、壮年の男がユウナという青年を呼び戻し、スッとタリア達を見て、目を細める。
が、すぐにカガリへと視線を戻して胡散臭い笑みを浮かべた。
「お帰りなさいませ代表。ようやく無事なお姿を拝見することができ、我等も安堵致しました」
「大事の時に不在ですまなかった。留守の間の采配、有り難く思う。被害の状況などどうなっているか?」
「沿岸部などはだいぶ高波にやられましたが幸いオーブに直撃はなく、……詳しくは後ほど行政府にて」
そして、カガリはウナトと行政府へ行く事になり、後の事はキラに任せると告げて、ユウナに手を引かれるままドックを去ってしまった。
そんな国の恥部ともいう様な物を見てしまったタリアは恩を感じている国に、失礼な事は考えるまいと帽子を深く被る。
だが……。
「いやぁーでも、凄かったですねぇ」
「アーサー!」
「っ! は、はい! 申し訳ございません!」
「……ごめんなさい。キラ。バカにする様な意図は無くて」
「大丈夫。分かってますよ。オーブも、色々と難しい所でして」
「……そうみたいね」
「あーと、暗い話をしていてもしょうがないですね。仕事は手早く進めましょう。マリューさん! マリューさーん!」
「はいはーい! あら。キラちゃん。この艦に乗ってたの?」
「まぁー。そうですねー。というかマリューさん。戻るの早いですね」
「ま。慣れたモンよ。それで? そちらがこの艦の艦長さん、かしら?」
「えぇ。そうね。ミネルバの艦長。タリア・グラディスです」
「私はこの艦の修理と整備の責任者。マリュー・ラミアスです。よろしくお願いしますね」
「……マリュー・ラミアス?」
「あら、もしかしてお名前ご存じでした?」
「えぇ。聞いた事がありますね。元地球軍。第8機動艦隊所属、アークエンジェルの艦長さん……かしら?」
「えぇー!? えぇぇえええ!?」
「やっぱり偽名の方が良かったんじゃないですか?」
「まぁ、そうねぇ。でも、まぁ私はキラちゃん達に比べたら無名だし、良いかなぁーって。それにミネルバの艦長さんだしね」
「随分と信用されている様で。喜べば良いのでしょうか?」
「さぁ。これからの情勢次第では敵となる事も味方となる事もあるでしょうから。今は何も」
「……まぁ、そうですわね」
「では、自己紹介もこんな所で、ミネルバ修理方針についてお話させて下さいね」
マリューはニッコリとタリアへ微笑みながら告げ、タリアはオーブという、何が飛び出してくるか分からない国に、内心でため息を吐くのだった。
キラやセナもそうだが、前大戦で英雄的な活躍を見せた三隻同盟のアークエンジェルの艦長が飛び出して来たのだ。
地下から核動力のモビルスーツが飛び出してきてもおかしくないだろうな、と。
そして、タリアは何だかんだと思いながらも、同じ女性艦長という事でマリューとはそれなりに親しくなり、機密は守りつつもミネルバを完全な状態で修復させてゆくのだった。
一方。
タリア達と別れ、行政府へと向かっていたカガリたちは、関係者しかいないエレベーターに乗った瞬間に、先ほどまでの雰囲気を霧散させ、いつもの状態に戻り、言葉を交わし始める。
「状況は?」
「あまり良くはありませんな。連合は、各国に声を掛け、再び前大戦と同じ地球連合を作ろうとしております」
「アズラエルは?」
「動いてはおりますが、先の事件で世界中にかなりの被害が出ておりますから、現在は反プラント、反コーディネーターの意識が強いです」
「まったく。厄介な事だな」
「しかし、ボアズ落下事件で、ZAFTのモビルスーツが使用されていたという事実がありますし。実際に前大戦ではZAFTが隕石落としをやっておりますからね。こればかりは自業自得としか言い様がありません」
「それはそうだろうな。最悪は……というよりも戦争が始まるのは確定か」
「えぇ。既に水面下では動き始めております。我々セイラン家にもジブリールより連絡が入りました」
「そうか」
ウナトの言葉に、カガリは腕を組みながら考える。
ウズミならばこの局面で、どう動いただろうか。
キラなら? セナなら?
カガリ・ユラ・アスハはどう動くべきかと。
「カガリ」
「なんだ? ユウナ」
「僕らが動く方が早いんじゃない?」
「例のプランか? しかしな。それでは軍への被害も大きいし。何よりもお前たちが危険だ」
「大を活かす為に小を捨てる判断をするのも代表の務めですぞ」
「だろうが。私はあのキラとセナの姉でね。甘いと言われようが、この考えを改める気はないよ」
カガリは肩をすくめながら到着したエレベーターの外へと出て、歩きながら言葉を交わす。
「しかし、ミネルバがオーブへと入港したのは絶好の機会。アークエンジェルはすぐにでも動かせます」
「あぁ……だが」
「何か懸念点が?」
「ギルバート・デュランダル。奴の考えが読めん」
「でも、その為にも布石は打ってるんでしょ? さっきの僕の演技もそうだけど」
「まぁ、な。一応プラントには私がオーブを制御出来ていないという風には見せている。熱意だけの若い代表だとな。しかし……あの男はどうにもそれを見透かしている様な気がするんだ」
「ふぅん。僕はデュランダルとは直接会ってないから何とも言えないなぁ。未だにプラントは、キラとセナにオーブが依存してるって思ってるんだから大丈夫だと思うけど」
「まぁ、確かに。私の考えすぎかもしれん。だが、油断は出来ん。ムドウの件もそうだが。オーブにまだ裏切者が居る可能性は否定できないからな」
「……何かあったのですか? 代表」
「ボアズ落下事件の際。使われたモビルスーツはモビルドールシステムで動いていた」
「「「!?」」」
「ま、まさか! アレはセナ様とキラ様が全てのデータを封印したモノですぞ!?」
「だが、シンとレイが言うには間違いなくモビルドールシステムだったそうだ。誰か、アレを流出させた奴が居る」
「信じられない様な話ですが……という事は、キラ様やセナ様に近しい人物?」
「しかも、オーブが隕石で消滅しようと気にならない人物、ですか」
「あぁ。その通り。考えうる限りの最悪だ」
カガリはウナトたちを見ながらハッキリとそう告げた。
そして、厄介な事だと再度呟いてから次の話に移ってゆく。
「そういえば。ジャスティスはどうなった?」
「えぇ。全て問題なく。データの抽出は完了しております」
「そうか」
「そして、ファクトリーと連絡を取り、新型ジャスティスの開発を始めました。既に新型フリーダムはほぼ完成という所ですが」
「流石、仕事が早いな。助かるよ」
「しかし、まさかフリーダムとジャスティスが必要となる様な事態が起きるとは……」
「私も思いたくはないが……ラクスの話では可能性はかなり高いらしい。新型のジェネシスも開発中との事だ」
「……変わりませんなぁ。プラントも」
「連合も月で大量破壊兵器を作っているみたいだしね。父上」
「だからこそ。私達オーブは中立であらねばならない」
「はい」
「えぇ。代表の仰る通りかと」
「我々の動き次第では、世界は最悪な方向へと転がり始める。皆。気を引き締めろ」
「「ハッ」」
そして、カガリはウナトたちを引き連れて行政府へと向かい、既に集まっているメンバーへと視線を向けた。
ロンド・ギナ・サハク。
ミヤビ・オト・キオウ。
そして、アスラン・ザラ。
「さぁ。始めようか諸君。オーブ連合首長国の今後についての、話し合いを」
カガリがオーブ行政府にて重大な話し合いを行っている頃。
ボアズ落下事件の終わった宇宙では、いつも通りの静寂が広がっていた。
その中で、地球軌道上をゆっくりと航行する艦が一隻。名をガーティ・ルー。
ミラージュコロイドを使わずとも、地球で起こった大騒動の影響で、ガーティ・ルーが他の艦と接触する心配はない。
そんなガーティ・ルーの中で、一人の少年がブリッジに入り、艦長であるイアンと、部隊長であるネオへと言葉を向けた。
「状況はどうだい?」
「どこも酷い有様ですね」
「そうだろうな。あれだけの質量が落ちたんだ。削られたとは言え、被害は甚大だろう」
「まぁ、そうでしょうな。全ては貴方の計画通り、ですか」
「あぁ。そうなるね。混乱した世界を一つにまとめ。僕が救世主として世界を導く、計画だ」
「支配する。の間違いでは?」
「同じことさ。ネオ・ロアノーク。人は強者によって支配されたがっているんだ。だから、僕が導いてやろうという話だよ」
「なるほど。なら、私はセナ様こそが世界の支配者となるべきかと思いますが」
「彼女が? まさか。ゆりかごは失敗したんだろう? なら、君の計画はそこでおしまいだ」
「……」
「そう苛立つなよ。ネオ・ロアノーク。別に僕は彼女を害そうとはしていない。彼女には姫の位置があるんだろ? ならば王である必要はない」
「まぁ、貴方がセナ様を害さぬという事であれば、我々は従いますよ。デュランダルでも、アウラでも、ジブリールでもなく……貴方に」
ネオは軽く頭を下げながら、不遜な態度で腕を組んでいる少年を見やった。
そして……。
「リボンズ・アルマーク」
その名を、口にするのだった。