プラントにいるデュランダルと連絡が取れたタリアは、現在のミネルバの状況を伝え、これからの作戦行動についてデュランダルに指示を仰いだ。
しかし、デュランダルからの返答はオーブでの待機であった。
無論、現在ミネルバは修理中であり、完全に修理が終わるまで動かない方が良いのは確かである。
が、オーブは友好国ではあるが、友軍ではない。
別命あるまで待機等と、常識では考えられない指示であった。
『いや。すまないね。タリア。今地球の状況は非常に危険な状態なのだよ』
「危険……?」
『あぁ。先のボアズ落下事件の犯人がコーディネーターだという噂が地球全域で広がっていてね。一応公式に否定はしているが、地球の各国で反コーディネーター意識が高まっている。テロリストがZAFTのモビルスーツを使っていた事が大きな証拠という事らしい』
「それは! しかし、テロリストが使用するモビルスーツの中には連合のモビルスーツもありました」
『あぁ。無論我々もそれは知っている。だが、それを明かしたとて水掛け論になるだけだ。それを続ければ前大戦の様に戦争が始まってしまうだろう』
「プラントの防衛は問題ないのですか?」
『そちらは問題ない。既にいくつかの部隊は防衛の為に出撃しているし。ミラージュコロイド対策も完璧だ。例の……ヤマト隊長から報告のあった機体は気になるが、常に目視での監視もしているし発見する事は可能だろう。君の大切な息子の事は大丈夫だ』
「……はい」
『ただ、ミネルバが地球で動き回るのは少し問題があってね。今は彼らをあまり刺激したくはない。何かが起きるまで……もしくは落ち着くまで、すまないが、そのまま待機で頼むよ』
「我々は承知いたしました。しかしオーブは」
『あぁ。オーブについても問題はない。既に代表と話は付いているよ。地球を壊滅的な被害から救った英雄には、ゆっくりとオーブで過ごして欲しい。との事だ。この機会に休暇を取ると良い。有休もたまっているのだろう?』
「そういう事でしたら。甘えさせていただきますわ」
『そうだね。ではまた。あぁ……オーブで何か良い土産があったら買ってきてくれ』
なんて冗談の様に言いながら通信を切ったデュランダルにタリアはため息を付いて椅子にもたれかかった。
「危機的な状況だというのに、なんて危機感のない」
そして、一度愚痴を言ってからもう一度ため息を吐いて、空の向こうに居る男を想い出す。
ギルバート・デュランダルという男がどういう男であったかという事を。
おそらくは、緊張状態に置かれている地球に送り込み、動けないタリアを気遣ったのであろうと、タリアはデュランダルの想いを正確に理解し、目を伏せる。
「まったく。やってられないわね」
デュランダルとの通信を終え、オーブへの上陸許可も出たため、タリアはミネルバのクルーへと交替での休暇を許可した。
それに、クルー達は前から行ってみたかったという場所へと仲の良い者同士でどこへ行こうかと明るい顔で語り合う。
その中には、当然の様にシンやルナマリア、レイもおり、キラは三人からの誘いを手を合わせて断っているのだった。
「ごめん! これからちょっと用事があってさ!」
「えぇー!? そうなんすかー!?」
「次の休暇には合わせるからさ。今日はみんなで遊んできなよ」
「ちぇー」
「キラさんも忙しいんだ。今日は諦めろ。シン」
「そうそう。今日は同期で楽しみましょうよ」
「はぁー。じゃ、俺達行ってきますねー」
「うんうん。楽しんできてねー」
肩を落としながらも去っていくシン達をキラは手を振って見送り、少し遅れてやってきたメイリンに首を傾げながら話しかけた。
「あれ? メイリン? 三人ならもう行っちゃったよ」
「えぇー!? あんなに待っててって言ったのにぃ! もー! お姉ちゃんのバカぁー!」
「今から走れば追いつくよ」
「はい! じゃあ、キラさん! 行ってきまーす!」
「行ってらっしゃーい」
フリフリと走って行くメイリンにも手を振り、キラは元気だなぁ。なんて言葉を零すのだった。
そんなキラに、ちょうど休暇で外へ出る予定だったタリアが声を掛ける。
「あら。貴女は行かなかったの? キラ」
「まぁー。オーブへ戻って来たので、この機会に色々とやりたい事がありますからねぇ。それに、フリーダムランドはまぁ、子供だけの方が楽しめるでしょうし」
「貴女も私から見れば十分に子供よ。大人ぶっていてもね」
「あーはは。そう言われると、困っちゃいますけど」
キラは乾いた笑いを浮かべながらも、話を逸らそうと呆れた様な顔をしているタリアへと別の話を向ける。
「そ、そういえば。タリアさんは遊園地行った事ありますか!? 色々アトラクションがあって、楽しいんですよ!」
「残念だけど。ウィリアムの身長がもうちょっと伸びるまではお預けね。でも、もうちょっと大人になったら来てみようかしら。貴女のおすすめの遊園地にね」
「は、はい! その際には、VIPチケットを用意させていただきます!」
「期待してるわ」
大人の余裕を見せながら歩いていくタリアを見送り、キラは大きなため息を吐いてから「さて」と呟いて、モルゲンレーテへと向かう。
そして、地下の秘密施設へと向かい、一部の人間を除いて誰も入る事の出来ない奥の奥で、厳重に隔離された扉を開いた。
その中にあるのは二機のモビルスーツだ。
一機は、前大戦でオルフェが最後に乗っていた『ガンダム』。
そしてもう一機は、前大戦でセナが乗っていた『ホープ』である。
キラはそれぞれの機体と繋がっているサイコモニターを起動させ、ホログラムに映像を直接投射する。
「お久しぶりです」
『キラか。戻ってきていたんだな』
「えぇ。何とか生きて戻ってくる事が出来ました」
『それは良かった。が……世界はまた面倒な事になっている様だな』
「分かるんですか?」
『あぁ。俺の意識はサイコフレームと繋がっているからな。この世界にサイコフレームが広がれば、そこから世界を見る事は出来る』
「なるほど……便利ですね」
『それほど便利ではないが……まぁ、今の君の立場からは欲しいものかもしれないか』
「そうですね。世界がどう動くのか分かれば、戦争を止める事も出来るでしょうから」
『そうか……しかし、その感じ。今日は世間話をしに来たという訳ではないんだな?』
「はい。セナが攫われました。そして、僕はその関係者と思われる人との戦いで負けてしまって……」
『力が欲しい、か』
「はい」
『セナの件はひとまず置いておいて、まずはその戦った相手の情報が知りたいな。どちらにせよセナを助ける為にはそいつに勝つ必要があるんだろう?』
「はい……」
『それは随分と短絡的ではないか? 救出するだけなら別にモビルスーツ戦で勝つ必要はないだろう』
『キラは今俺と話をしているんだ。少し黙っていろ』
『そういう訳にはいかん。戦うべき者ではない者を戦場へ引き込めば何が起きるか。お前もよく分かっているだろう!』
『お前がそれを言うのか! シャア!』
『アムロ!』
キラは目の前で始まったホログラム同士の殴り合いを見ながら、また始まったとため息を吐く。
どうにもこの二人。ガンダムとホープの中に居る人たちは仲が悪く、すぐに喧嘩をしてしまうのだ。
同時に繋げたのは失敗だったかと思いつつも、キラは自分よりも強いであろう二人に意見を貰うべく、二人の仲裁をするのだった。
「色々と考えがあるのは分かるんですけど、僕にも僕の事情があるんですよ。そして、その事情の為に僕は強くなりたいんです」
『だ、そうだぞ』
『しかし、私は君が戦う必要を感じないな。例の彼が居るだろう? アスラン・ザラ。彼はアムロと同じ、戦いに生きる男だ。彼に頼れば良いのではないか?』
「まぁ確かにアスランなら何とかしてくれるとは思うんですけど。まずは僕が出来る限りの事をやりたいんです」
『……』
そして、キラはひとまず二人に先日ボアズの上で戦った機体の情報を渡した。
無論、機体の情報だけでなく、キラが実際にぶつかった時に感じた事なども、だ。
『この機体……似ているな』
『しかし、この粒子は少なくとも我々の世界の技術でも、この世界の技術でもない』
『ならば、俺達と同じ様に……流れて来た?』
『可能性はあるだろうな。そうなればパイロットも』
先ほどまで喧嘩をしていた二人は、それが幻であるかの様に落ち着いた様子で意見を交わし合っていた。
そして、その様子にホッとしつつもキラは二人が話す言葉からヒントを探してゆく。
あの機体を打ち倒す為の、ヒントを。
『少なくとも、この機体が手に入らない事には、この機体がレーダーに映らない原因は分からないと思う』
「まぁ、そうですよね」
『しかし、この機体を倒す方法なら、いくつか思いついた』
「そうなんですか!?」
『あぁ。その為にも……キラ。まずは俺達と模擬戦をしようか』
「模擬戦?」
『そう。この世界の通信や索敵技術は俺たちの世界よりも進んでいる。だが、だからこそ。君には足りない所がある』
「それは……!」
『敵機体の殺気に反応する力だ』
アムロから聞かされた言葉に、キラはなるほど? と首を傾げながら頷く。
その様子にアムロはフッと笑いながら「実践してみれば分かりやすいさ」と、近くに用意していたシミュレーターを指さすのだった。
ただし、キラの機体にはいくつかの条件を付けながら。
「フェイズシフトは無し。機体はストライクで……メインカメラは死んでいる状態でスタート、か」
『不安かい? キラ』
「いえ。体感型とはいえ、シミュレーションですし。強くなりたいという気持ちは、今も変わらずありますから」
『そうか。じゃあ、まずは私と共に宇宙の広さを感じる訓練だ。無論アムロは攻撃してくるだろうが……焦らず、落ち着いて』
「はい」
キラはシャアの言葉に大きく深呼吸をして、強く操縦桿を握りしめた。
ただひたすらに、強くなる為に。
キラは人間という領域を超える為の戦いを始める。
「キラ・ユラ・アスハ! ストライク! 行きます!」
そして、キラはそれから時間を見つけてはシミュレーターで戦い方を学んで行くのだった。
それが、少しずつではあるが、キラの中にある『可能性』を芽生えさせてゆくことになる。