ガンダムSEED Re:   作:とーふ@毎日なんか書いてる

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第163話『PHASE-9『驕れる牙1』』

 レイとルナマリアが待機となり、シンが一人で休暇となった日。

 シンは久しぶりにオーブの実家へと戻っていた。

 そして、前に会った時よりも大きく成長したマユを抱き上げ、再会を喜び両親が待っているであろうリビングへと向かったのだが。

 

「な、なんで!? なんでアンタがここに居るんだよ! アスラン!」

「仕方ないだろう。お前はプラントでスパイをやっているんだ。お前と俺が直接会うワケにはいかない」

「っていうかアンタ。行方不明になってる筈だろ!?」

「あぁ。しかし、何とか先日無事オーブに救出して貰えてな」

 

 しれっとそんな事を言うアスランに、シンは心の中で絶対に嘘だと叫ぶ。

 口に出せば、どうせまたグジグジと嫌味を言われるだろうと考え、決して口には出さない様に、だ。

 

「でも、報告はしてるっスよね? なんで直接俺に?」

「お前に、新しい任務を与える為に……だ」

「新しい任務。なんですか?」

「シュラ・サーペンタインには警戒しろ。もし奴がキラに手を出そうとするのなら、俺に連絡をしろ。それが難しい場合、その時点で現状の潜入作戦を放棄。オーブへと帰投しろ。その際にはキラのセイバーを奪い戦闘は極力避ける様に」

「アスランさんは……副隊長を疑っているんですか?」

「奴は以前、キラを誘拐し自国へと監禁した男だ」

「えぇ!?」

「議長も何を考えてあの男をミネルバへ置いたのか分からないが……とにかくキラの身を第一に考えるんだぞ。シン。その為ならばあらゆる行動を許す」

「はい!」

 

 シンはアスランの命令に最後の部分で大きく同意しながら頷いた。

 そう。キラの身の安全。

 その点に関してはいけ好かないアスランとも意見があう所である。

 

 そして、綺麗に敬礼するシンに黙って話を聞いていたマユも、おぉーと感心した様に手を叩いた。

 そんなマユに、そう言えばと思い出したシンはアスランへと問いかける。

 

「そう言えば……ウチの家族にも作戦伝わってますけど、大丈夫なんすか?」

「アスカ夫妻は元々モルゲンレーテの社員であるし、キラとの親交も深い。お前の妹に関しては……まぁ、お前とは違い素直な子の様だ。何も問題は無いだろう」

「はぁー!? マユが素直で可愛いのは分かりますけど! 俺とは違ってって、どういう意味っすか!」

「そのままの意味だが」

 

 シンは澄ました顔で嫌味を飛ばすアスランにガルルと噛みつくような勢いで威嚇した後、もう一つ思い出した事があったと、少し落ち着いてから言葉を向けた。

 

「そういえば、レイは一緒じゃなくて良かったんっすか?」

「あー。まぁ、そうだな。いや。レイの事は気にしなくても良い。レイはお前と違って状況判断は早い。上手く合わせるだろう」

「そうっすか? なら良いっすけど」

「言っておくが、この場所以外で作戦の事をベラベラ話すなよ。どこで誰が聞いてるか分からないんだ」

「そのくらい分かってますよ! ったく……!」

「シン」

 

 イライラとしつつも、アスランが座っているテーブルの斜め前に座り、怒りながら母が出してくれたお茶を飲んでいたシンは、不意に酷く真面目な顔をしながらアスランが話しかけてきた事で視線をそちらへと向ける。

 

「何すか?」

「……お前の大事な物は、なんだ」

「家族とキラさんとオーブ。それにレイとかルナとかミネルバのみんなっすかね」

「そうか」

「……?」

 

「もしかしたら、お前にはツライ道を歩ませることになるかもしれない」

「え? どういう、事ですか」

「俺はな。かつて幼馴染で、誰よりも大切だったキラ、セナと戦った。お前もよく知っているだろうが……その結果、俺は生き残り、俺の手には二人を殺したという罪だけが残った」

「……で、でも! 二人は生きていたじゃない、ですか」

「あぁ。だが。そんなモノは結果論だ。俺があそこで二人と敵対したという事実は消えない。変わらない」

「だから、なんだって言うんですか」

「お前も、これから状況次第ではミネルバと……友と敵対する事になるかもしれない」

「っ!」

「その時の、覚悟はしておけ」

「覚悟って……殺すって、事ですか……?」

「違う」

 

 アスランは整った顔をシンに向けながら目をスッと細める。

 そこに感情の色は見えないが、確かな意志がある様に見えた。

 

「友に何を言うか、だ」

「何を、言うか……」

「道を違えた以上、お前とその友は敵対するしかない。しかないが……それでお前たちの時間が消える訳じゃない。関係が、全て無くなるわけじゃない。だから、その上で。お前の想いをぶつける覚悟をしておけ」

「……はい。今はまだ、よく分かんないですけど。分かりました。何となく」

「あぁ。今はそれでいい」

 

 アスランは満足そうに笑うと話は終わりだとばかりに椅子から立ち上がる。

 そして、アスカ家から出て行こうとしたのだが、そんなアスランの腕を掴んで、シンはアスランの足を止めた。

 

「なんだ? 話はもう終わったぞ」

「いえ。その……! ウチのから揚げは美味いので、どうせなら食べていかないかって」

「それは魅力的な提案だが、これから別の打ち合わせがあるんだ」

「な、なら! お土産! 持ってってくださいよ! 母さん! から揚げ! お弁当に入れて! アスランが持って行くから!」

 

 シンはアスランの返事を待たぬまま台所の方へ駆けて行って、そんなシンを見ながらアスランは苦笑して言葉を零すのだった。

 

「こちらの話も聞かず、しょうがない奴だな」

「……あの。アスランさん」

「ん? どうした? マユちゃん」

「お兄ちゃん……もしかして、アスランさんに迷惑をかけてますか? 失礼な事とかしてないでしょうか?」

 

 両手を胸の前で握り合わせながらマユが問うた言葉に、アスランは笑顔でしゃがみながら応える。

 

「大丈夫。心配しなくてもお兄ちゃんには俺もキラもいっぱい助けられているよ」

「本当に!?」

「あぁ。マユちゃんのお兄ちゃんは、真っすぐだから。凄く頼りになるんだよ。みんな、シンに期待しているし。シンも俺たちに応えてくれる」

「そうなんだ……!」

 

 マユのキラキラとした笑顔にアスランは微笑みながら、ドタバタとから揚げが大量に入った弁当箱を持って戻って来たシンを見やる。

 まだ若い。

 戦場の恐ろしさも、本当の意味ではまだ知らない。

 

 だが、アスランはシンに多くの物を残してやりたいと考えていた。

 出来る限りの、多くの物を。

 

「シン」

「なんすか!? 今準備してるから、待ってください!」

「お前にもう一個だけ、頼みたい事がある」

「頼みたい、こと……?」

 

 先ほどまでよりも、ずっと、ずっと重い口調でアスランの口から語られる言葉にシンは訝し気な顔をしながらアスランを見る。

 

「もしも。俺とキラ。どちらかしか助けられない時は、迷わず俺を捨てろ」

 

「っ! い、いや! そんなの当然じゃないっスか! 言われるまでも、無いっすよ!」

「そうか。まぁ、そうだな……いや。すまない。妙な事を言ってしまった」

「まったくですよ! だいたい。アンタなら! 別に一人でもうまく助かる方法を見つけるでしょ! なら、俺が助けるのは当然キラさんです!」

「あぁ。その通りだ。お前の言う通りだよ。シン」

 

 何故だろうか。

 シンは薄く笑うアスランに、あの時……前大戦の時、オーブを離れてアークエンジェルと共に旅立って行ったキラが重なった。

 あの島で行方不明になる前のセナと……見た目はまるで、似ても似つかないのに。

 

 既に終わりを覚悟している様な。

 何かを受け入れている様な……そんな恐怖を感じた。

 だから……。

 

「で、でも! アンタにはカガリ様を護るっていう義務があるんっすから! 無駄死にとか! しないで下さいよ」

「あぁ。分かっている。カガリにまた怒られてしまうからな。分かっているさ」

 

 アスランはシンからから揚げの入った弁当箱を受け取り、そのままアスカ家を出て行った。

 その背中をシンはいつまでも見つめ……何か、嫌な事が起きようとしているのでは無いか。という恐怖に身を震わせているのだった。

 

 

 そして。

 そんなシンの予感が当たったのか。

 オーブ行政府では、腕を組み、眉間に皺を寄せるカガリの前で、ウナト・エマ・セイランが難しい顔をしながらカガリに一つの通告書を読み上げていた。

 

「間違いだと思いたいが……」

「いえ、間違いではございません。先ほど大西洋連邦、ならびにユーラシアをはじめとする連合国は、以下の要求が受け入れられない場合は、プラントを地球人類に対する極めて悪質な敵性国家とし、コレを武力を以て排除するも辞さないとの共同声明を出しました」

「連中め……もう始めるつもりか」

 

「先ほどアメノミハシラのミナから報告が入った。既に連合は地上のマスドライバーから宇宙へと部隊を送り込んでいる」

「月にあるオーブの戦力は?」

「話にならん。連合の物量の前には、押しつぶされて終わりだ」

「しかし、幸いという様な言い方が正しいかは分かりませんが、かつての大戦よりは戦力が落ちています。少なくとも終末戦争の様になる事はないかと思います」

「そうだな。だが、この争いをキッカケとしてより大きな争いへと変わっていく。憎しみを巻き込み、世界は再び分断されるだろう。コーディネーターとナチュラル。プラントと地球に」

 

 カガリの言葉に、この場に居た全員が悩ましいという様な顔をしながら腕を組み、考える。

 だが、既に放たれた。

 賽は投げられてしまった。

 

 プラントも一方的な通告を受け入れる事など出来る筈もない。

 起こるのは正面衝突だ。

 

「でもまぁ……とりあえず第一波は失敗するだろうね」

「分かるか? ユウナ」

「ま。資料から見た机上の計算だけど。アメノミハシラから観測した部隊と月の部隊。合わせてもプラント防衛軍は抜けない」

「核攻撃部隊はどうだ? ユウナ・ロマ・セイラン」

「ん-。例の新兵器が完成していなかったとしても……プラントにはラウ・ル・クルーゼが居る。それに核ミサイルを撃たれたら、言い訳はいくらでも出来るからね。フリーダムか。それに準ずるモビルスーツが出てきて終わり。だと思うよ」

「しかしミラージュコロイドがあるだろう?」

「それはほら。我が国との共同開発。ミラージュコロイド用の探知レーダーが活躍するだろうさ。どうあってもこの戦力じゃ抜けないよ。プラントは」

 

 ユウナの言葉にギナとカガリはふむと言いながら手元の資料へと目を通してゆく。

 

「ならば、この失敗でジブリールがどう動くか。それが問題か」

「それよりも、デュランダルがどう動くかの方が分からん。カガリ・ユラ・アスハ。貴様はアレを直接見てきたのだろう? どう見る」

「どうもこうも。見ての通りの穏健派だ。そのまま地球へ大侵攻! とはしないだろうさ。やるにしても積極的自衛権の行使。みたいな形でジワジワと地球連合の戦力を削ぐだろうな」

「そうなると次は地上戦だな。宇宙も戦いはあるだろうが、前大戦の事もある。マスドライバーの奪い合いが始まるだろう」

「そうなれば、またカグヤが狙われますな」

「厄介な事だ」

 

「でも、こうなった以上……やっぱり僕は例のプランを推したいけどね」

「我は構わん。後手に回れば前大戦と同じ結果になる。先手を打つべきだ」

「私は賛成。ODRが世界中を駆け回って来たのは、この目的もあったからでしょ? カガリ」

 

「……分かってはいる。だが……」

「既に軍本部は志願者の募集を終わらせたよ。タケミカヅチも動かせる。後はカガリの決断だけだ」

 

 カガリは周囲の声に考え続け……プラントの動きが決まるまで決断を待ってくれと残し、今日の話し合いを終わらせるのだった。

 まだ猶予はある。

 焦って決断した結果。最悪の結果を招く事もある。

 

 こと、国民が巻き込まれるかもしれない事にカガリは非常に慎重であり、皆もそれは理解していた為、ひとまずプラントと連合の動きを見てからという事に決まったのであった。

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