遂に静寂の時が破られ、連合とプラントの戦争が始まった。
その事で、カガリは日々オーブの在り方について悩んでいたのだが……遂に、その決断を急がねばならない事が起きる。
「代表。ご報告が」
「どうした。ウナト」
「ジブリールより直接通信が来ました。オーブに連合へと参加する様に。そして、キラ様をお連れする様にと」
「……遂に、来たか。すまない。皆を集めてくれ」
「ハッ」
カガリの指示で、行政府へと集まった五大氏族とオーブの関係者は、重々しい顔つきでテーブルを囲む。
「しかし、予想よりも早かったな」
「それだけ追い詰められているという事だろう。宇宙での戦いもプラント側の圧勝であったし。プラントは積極的自衛権の行使という名目で地上へ部隊を下ろす準備をしているしな」
「ミネルバはどうなっている?」
「何も変わらず沈黙しているよ。まぁ、地上部隊も睨み合っているし。この状況では動けないだろう」
「それもそうですか」
「この状況で、自ら火種になりたい者などそうは居ませんからな」
ひとまず状況を確認し合い、皆沈黙の中で思考を巡らせる。
現在世界の情勢は非常に微妙なバランスの上に成り立っており、ここで妙な行動を起こせばそれが火種になり、大火となる可能性が高い。
そうなってしまえば後悔しても遅いのだ。
常に慎重な対応が求められているのが現状であるのだが……そんな中、世界の情勢など何も考えず好き勝手しているのがジブリールという様な状態であった。
「代表。オーブのこれからについてですが」
「……そうだな」
「既に道は一つしかありますまい。オーブという国を残す為には……! 例えコウモリと罵られようと、連合とプラント。その両陣営に繋がりを作る他無い」
「だろうな」
カガリは己の力不足を嘆き、はぁとため息を零す。
どうにかこれ以外の道は無いかと模索し続けてきた日々であったが、既にカガリの選べる択はこれ一つしか残っていなかった。
それだけ世界の情勢は最悪の方向へと突き進んでいるのだ。
「では予定通り、我々セイラン家は連合……というよりはジブリールと手を組みます。状況によっては諸外国への部隊派遣もあるでしょう。その際にはユウナがその任を」
「我らサハク家とマシマ家はオーブに残り、防衛戦力の強化に努める。アメノミハシラを経由し、月のコペルニクスにも戦力を送り込む予定だ」
「私達は変わらずODRとして世界各国を動き回るけど……状況次第で援護に行くわ」
「そして、私はアークエンジェルと共にオーブを離れ、ミネルバからプラントの動き方を監視する。護衛にはアスランを連れて行く予定だ」
五大氏族がそれぞれ、それぞれの役目を示してから、互いに視線を送り合い、静かに頷く。
そして、話はどうやってカガリを国外へ脱出させるかという方向へと転がり始めた。
「当初の予定通り、僕がオーブを手に入れようとして、カガリと結婚しようとするって話で良いんじゃないの? 後は、キラにカガリを攫ってもらう。良いパフォーマンスにもなると思うけど」
「我は反対だ」
「……何故?」
「理由が薄い。ユウナ・ロマ・セイラン。貴様がキラに執着しているのは周知の事実だ。それを権力の為に投げるとは思えん。裏切者を自称するのなら、キラを手に入れ、カガリを殺す計画を立てるくらいの方が自然だ」
「まぁ、確かに。そうか」
「しかし、流石に私の暗殺計画まで立てていたら軍部が黙って従う訳がない。国内外でも軍部と私の繋がりは有名だしな。ユウナに軍部が黙って従っていては、誰も騙せんぞ」
「確かにね」
「それに、国民の反感も痛い。ユウナに何かしら重い罰を下さねばならん」
「なら……ユウナが暴走したって事にすれば良いじゃないの」
「どういう事だ? ミヤビ姉さん」
カガリの問いにミヤビはニヤッと人の悪い笑みを浮かべてから、一つの提案をする。
ある意味でユウナにとって最悪な提案を。
「ユウナは、キラと結ばれたくてオーブという国を乗っ取ろうとするのよ」
「しかし、私の暗殺計画を立てた時点で」
「違う違う。前にも話があったけど、周りは未だにオーブではキラとセナの影響力が一番強いと思ってるんでしょ? だから、そこの正当性をユウナが訴えるってワケ」
「なるほどね? カガリ・ユラ・アスハが首長となっているのは、権力の簒奪である! みたいな事を僕が言って、キラが正当なウズミ様の後継者だって訴える感じか」
「そ。それで、強引にキラと結婚しようと進めるワケ。これで国民は『ユウナ様がキラ様と結婚したいばっかりに暴走してるなぁ』って思うだろうし。周りの国は素直にユウナの言葉を信じるでしょう? それがどれだけオーブにとっては無茶苦茶な話でも」
「なるほど」
ミヤビの話は色々な問題を解決出来るものであり、最も良い作戦の様に思えた。
だが……。
「それではいくつか問題が残るな」
「ん? そう?」
「あぁ。まず、カガリ・ユラ・アスハが国外へ逃亡する理由がない」
「あ」
「そして、ジブリールの要求はキラの受け渡しだろう? ユウナが手を出せば、奴が怒り狂う可能性がある」
「え。ジブリールって奴、キラと結婚したいってこと?」
「我が知るか」
「えぇー。気持ち悪ーい。まだ十八の可愛い女の子に手を出そうとか……汚いオッサンの考える事って最悪ね」
「ミヤビ姉さん」
「何よ。カガリ。心配じゃないの? 貴女の大切な妹が、どっかの気持ち悪いオッサンに狙われてるのよ?」
「いや。ジブリールがどんな奴かは知らないけど。どちらにせよだろ。キラが望まない相手と結ばれる事など私が許すものか」
「あらまぁ。流石はシスコンお姉ちゃん」
カガリはコホンと一つ咳ばらいをして、空気を入れ替える。
そして、再び真剣な顔で口を開いた。
「要するに、私が国外に脱出出来れば良いワケだ」
「まぁ、そうだね」
「であるならば、キラと結婚しようとしたユウナを出し抜く為、私がキラに変装すれば良い。そして結婚式の会場で正体をばらし、騙したなと激昂するユウナから逃げる為にストライクルージュで国外へ脱出。これで良いだろう」
「それだとカガリの悪評が立っちゃうんじゃない?」
「何も問題はない」
「問題だらけだ、馬鹿者め」
「しかし、これが最も問題なく進められる作戦だろう? ユウナに悪評が残れば何かしら罰が必要となるし、それは他の者でも同じだ。私ならば、誰も罰する事無く終わる」
「……」
「とにかく! 話はこれで終わりだ! ユウナは結婚式の準備をしておけよ!」
「カガリ……!」
カガリの強行的な姿勢に、ユウナがカガリへと言葉を向けようとしたのだが……そこに荒々しい物音と共に、一人の軍人が駆け込んできた。
「ご報告します!」
「なんだ! 今は会議中だぞ!」
「いえ、それが……!」
「なんだ。何が起きた」
「オーブ沿岸に多数の地球連合軍艦が現れました! そして、我が国への入国、及びキラ様とミネルバの引き渡しを要求しています。これを拒否した場合……攻撃を開始すると」
「バカな!?」
「ジブリールめ……。数日すら待てないか」
「最悪な一手を打ってきたな。ここで反撃に出れば、我らは連合と敵対する道を選ばされる事になる」
「でも、受け入れたらオーブは連合の支配下となる」
最悪の二択。
カガリは苦悶の表情を浮かべながらユウナ達へ連合の対応を任せ、まずオーブ連合首長国の代表として。
地球に住まう一人の人間として。やらねばならない事をする事にした。
それは……ボアズの破壊に最後まで命がけで挑んだ英雄。
オーブ連合首長国に停泊中であるミネルバを無事国外へと逃がす事である。
ひとまず連合との交渉をギナ達に任せたカガリは、ミネルバの元へと向かい緊急で話があるとタリアに面会を申し入れた。
ちょうど艦内で待機をしていたタリアはこれに応え、すぐさまカガリをミネルバへと迎え入れた。
これは、カガリとタリアがそれなりに長い時間をかけて信頼関係を作って来たからこそ出来た事である。
そして、艦内へと招かれたカガリは警備兵に案内され、タリアの私室へと向かい、部屋に入って一息吐いてから、まず頭を下げた。
「すまない」
「えっ! 代表。どうされたのですか。頭を上げて下さい」
カガリを迎え入れるにあたり、コーヒーの準備をしていたタリアはカガリの突然の行動に驚き、声をあげる。
そして、カガリをソファーへと案内してからテーブルの上に出来立てのコーヒーを置いた。
「何か問題が発生したのですか?」
「あぁ。すまないな。グラディス艦長。我が国の問題で、現在オーブ沿岸に地球連合軍艦が多数向かっている。連中はキラとミネルバの引き渡しを要求。そしてオーブを連合へと参加させるつもりだ」
「それは……!」
「すまんな。外交的な失敗という奴だ。もう少しミネルバにはゆっくりとして貰おうと考えていたんだが……そうも言って居られなくなった。ミネルバは準備が出来次第、オーブを出国してくれると助かる。キラの事も……すまんが任せるよ」
「いえ、代表。それは……!」
「何かな? グラディス艦長」
カガリの顔には一つとて怯えの色はなかった。
これから行われるのは、地球連合による侵略だ。
前大戦の時の様に、オーブは激しい戦場となるだろう。
そして、おそらくオーブは敗北する。
プラントですら地球連合の物量に対抗するのは大量破壊兵器無しでは不可能だったのだ。
その様な物を所持していないオーブは、おそらく地上から消えてしまう可能性が高い。
タリアは為政者でありながら、どこか人の良いカガリの笑顔を見て右手をギュッと握りしめる。
どこか諦めた様な笑顔は、キラともよく似ている所があった。
見捨てられない。
タリアの中で、軍人ではなく一人の人間として、叫ぶ声がする。
だが、軍人であるタリアにはミネルバを動かす権限はない。
だから、タリアは今できる最良の選択肢を掴む事にした。
自らの感情よりも、まずは軍人としての責務を果たす為に。
「承知いたしました。代表。ですが、ひとまずは本国に確認をさせて下さい」
「あぁ、そうだったな。すまない急な話を」
「いえ。お気にせずに。私も代表の無事を祈っておりますわ」
「ありがとう。では、出立の準備が出来たら教えてくれ」
カガリはタリアへ敬礼をするとそのままタリアの私室を出て行った。
その背中を目で追いながら、タリアは小さくため息を吐く。
「子供の癖に。まったく、嫌になるわね」
タリアは小さく己の中にある感情を呟いた後、ブリッジへと通信を繋げた。
「メイリン。全クルーに召集命令。後、本国に通信を繋いで頂戴」
あの男がどの様な命令を出すか、それはタリアにも分からない。
だが、あの男は……ギルバート・デュランダルという男は、どこか自分やキラに甘いのだ。
きっと、良い答えをだしてくれるだろうとタリアは祈る様に宇宙の向こうに居る面倒だが、愛情深い男を想った。