カガリから聞いた情報を、プラント本国に居るギルバート・デュランダルへと伝えたタリアは、デュランダルからの返答を静かに待っていた。
半分以上帽子で目線を隠しているタリアの目は鋭く、デュランダルの薄笑いを捉えている。
『そうか。報告ありがとう。タリア。しかし、連合がオーブへと侵攻しようとするとは……思ってもみなかったな』
「はい」
『それで、ミネルバの行動方針だったね?』
「はい。このままカーペンタリアへと向かうべきか……」
『もしくは、オーブと共に連合と戦うべきか。かね?』
「……! はい」
タリアの言葉にデュランダルはしばし考えている様なポーズを取っていた。
が、デュランダルと長く付き合ってきたタリアには、既にデュランダルが答えを出しており、この思考する様なポーズは見た目だけである事を知っている。
「議長」
『……君はどうしたいね? タリア』
「私は……ミネルバの艦長としては、ここで連合と戦い、いたずらに戦力を削るべきでは無いと考えております」
『そうか……ではミネルバの艦長として、ではなく……タリア・グラディスとしてはどうしたいと考える?』
「私は……キラの母国を見捨てる事は……出来ません」
『ふむ』
「ですが……ミネルバは軍属であり、プラントの意向無しには戦えません。またオーブもプラントとの同盟は拒否する可能性が高い」
『だろうね』
タリアは言葉を並べながら、やはり冷静に考えれば、この様な事は不可能だと考えていた。
プラント側に何一つ利益がない。
ならば……。
『なら、こういうのはどうかな。オーブを出撃したミネルバであったが、カーペンタリアへ向かう途中、連合艦隊と接触。交戦に入った』
「……は?」
『もし、その戦いでミネルバが損傷しても、オーブはミネルバの修理をしてくれるだろうし。もしかしたら、これがキッカケとなって、友好条約の様な物を結べるかもしれない』
「議長!」
『どうしたんだ。タリア。その様な大きな声を出して』
「いえ……失礼しました」
『まぁ、君が驚く気持ちも分かるがね。だが、タリア。私はね。争うべきではない相手と争う必要はないと思っているんだ』
「……はい」
『ここでオーブを見捨てる事は容易い。だが、そうなればオーブは連合の一部となってしまうだろう。キラ君も姉君が人質とされれば逆らう事も難しい。最悪はセナ君も含めてプラントの敵となる。その恐ろしさは君ならよく分かるだろう?』
「えぇ。よく分かりますわ」
『それを考えるのであれば、ここはオーブへ力を貸す方が望ましいと思うよ。ちょうど、ジャスティスを、返還したいという連絡も来ていたしね。きっとジャスティスと共に無事であった彼も……ミネルバの力となってくれるだろう』
「……議長」
『だが、私はどちらでも良いとは思っているんだ。だから、最後は君が決めてくれ。タリア。どういう事態になろうと、責任は私が取ろう』
「分かりました。ありがとうございます」
タリアはデュランダルへと敬礼を向け、通信を切った。
そしてブリッジのメイリンに、格納庫へ全クルーを集めてもらうのだった。
タリアは軍帽を手で直しながら格納庫へと来ると、一番前に立っていたアーサーから報告を受ける。
「艦長! 全クルー招集完了しました!」
「ありがとう。アーサー」
タリアはアーサーへ礼を言うと、皆の前に立って、まずは敬礼をする。
「休暇中の所、呼び出して申し訳なかったわ」
「現在。オーブ連合首長国へ向けて、地球連合の艦隊が進撃中です」
タリアが最初に発した言葉に、格納庫のクルー達はみなザワザワと騒ぎ始める。
が、タリアはそれを静かにさせると、また言葉を続けた。
「彼らは、オーブ連合首長国に対し、キラ姫と本艦の引き渡しを要求しているとの事よ。そして、我々は代表にオーブからの即時離脱をお願いされたわ」
「……! カガリ」
キラはタリアの言葉に、驚愕を表に出しながら、同時に怒りも見せた。
それは、何も言ってこなかったカガリへの怒りと、突如としてオーブへと攻め込んできた地球連合への怒りである。
「無論、このまま逃げ出しても良いのだけれど。私はね。地球に住む人たちがコーディネーターを、プラントに敵意を向ける中で、たった一つ、世界の敵となろうとも、私達を英雄と呼び、守るという選択をしてくれた国を見捨てたくは無いの」
「それに、オーブは敵に回ったら厄介な国だわ。出来る事なら友好的な関係は維持しておきたい」
「以上の点から、ミネルバはオーブを出撃後、オーブ沖で展開していた地球連合軍艦と偶発的に接触。その後、これと交戦し、殲滅する作戦に入ります」
「艦長!」
「何かしら」
「オーブ軍と協力する事は出来ないのでーありますか?」
シンが手を上げながらタリアへと向けた質問であるが、タリアが答えるよりも早くシンの隣に立っていたレイが答える。
「難しいだろうな。表立ってオーブとプラントが手を組めば、今度こそ連合とオーブがぶつかる事になる。そうなればオーブは終わりだ。だから、艦長は、オーブではなく、あくまでZAFT所属であるミネルバが、偶発的に遭遇し、戦闘したという状態にしたいのだろう」
「なるほど」
「しかし、ある意味でコレはチャンスだ。オーブ連合首長国は頑なに中立を保ってきたが、地球連合は身勝手な理屈で二度目の侵攻をしようとしている。前回はオーブだけでも助かったが、今回はミネルバが助ける形だからな。オーブとプラントが同盟を組む事も可能だろう」
「……レイに全て言われてしまったけれど。まぁ、そういう事よ。今回の話はオーブにだけ利益がある話じゃない。プラントも、当然ながら利益があるわ。ここでオーブを助けた事が、私達の危機に返ってくる事もあるでしょうしね。いざ戦闘になったら『見えない形』で援護もあるだろうし。助けておいて得ってワケよ」
タリアが苦笑しながら告げた言葉に、クルー達はなるほどと頷きながら、オーブ救出に対して前向きな気持ちで考え始める。
そして、大きな反対意見もないまま皆が次の戦いに納得し……ミネルバはオーブ防衛の為の作戦を行う事となった。
タリアはこの報告をプラントへと行い、キラにオーブ行政府への連絡を行ってからドックの者達へと事情を伝える為に艦を降りるのだった。
「マリューさん」
「あぁ。タリアさん。お話は伺いました。オーブから出立されるそうで……貴女とはもう少し喫茶店巡りを楽しみたかったのだけれど」
「えぇ。こんな事態になってしまったんですもの。仕方ないわ。でも、もしかしたらまた、ここに戻ってくる事もあるかもしれないから。その時はよろしくお願いね?」
「……まさか」
マリューはタリアの言葉に、やや驚きながら言葉を漏らす。
同じ艦長として、親交を深めた相手として。
タリアが多くを語らずとも、彼女が何をしようとしているのか察したのだ。
「まぁ、無事に戻ってくる事が出来たら……っていう話でもあるんだけど……」
「グラディス艦長」
「……! 何かしら」
「地球連合軍艦と戦う際には……あまり敵艦に接触しない方が良いかもしれません」
「え?」
「もしかしたら、水中から、何かが飛んでくるかもしれませんから」
「マリューさん……あなた」
「『大天使』のご加護がある様に、願っていますわ」
マリューは意味深な微笑みを浮かべながら唇に人差し指を当てた。
そして、タリアは想像よりも大きな援護が来そうだと笑みを零しながら頷く。
「そうね。大天使様には、感謝したいところだわ」
それから。
全ての準備を終えたミネルバは、夜明けと共にオーブのドックを出撃する。
「FCSコンタクト。パワーバスオンライン。ゲート開放」
「前進微速。ミネルバ発進する!」
「前進微速。ミネルバ発進!」
ミネルバはタリアの指示で長き沈黙から目覚め、海へと動き始めた。
そして、格納庫ではキラを中心として作戦の共有がされる。
「まずは、地球連合軍艦隊の側面からミネルバがタンホイザーを打ち込むから、僕らの出番はその後。まずは僕とシン君とシュラ君が出撃して、敵の部隊を順次殲滅。僕らが出撃した後はレイとルナがミネルバの艦上からミネルバに近づく敵機を狙撃。良いね?」
「えぇー?」
「なぁに。ルナ。不満ありそうだね」
「そりゃ不満ですよ。ミネルバからの射撃戦って、私、殆ど用なしじゃないですか」
「いや、ガナー装備なんだから適切な配置だよ。適切な配置」
「しかし、地球連合の総戦力を考えると、三機では難しいのでは?」
「まぁね。だから、援軍は来るよ。ひとまずはジャスティス。ちょうど、オーブ近海でモビルスーツが見つかってね。デュランダル議長に確認したら使っても良いって話だったから、このまま使わせてもらう」
「パイロットはどうするんですか?」
「まぁ、オーブの人で強い人が居るから、その人に乗ってもらうかな」
「へー。でも、それなら私達で使った方が良いんじゃないですか?」
「それはそうなんだけど。一応ミネルバが核動力のモビルスーツを使うのはマズいからね。所属不明のよく分からない奴が使った方が良い。ってワケだよ。正義って名前の機体だし。正義の心で参戦ってね」
「色々と無茶な……」
「こういうのは言ったもん勝ちみたいな所があるからね。そして、ジャスティスの他には、まぁオーブから、色々来るよ」
「色々って何すか? キラさん」
「うーん。色々は、色々かなぁ。オーブの機密でもあるから、あんまり大きな声では言えないんだけど。ミラージュコロイドのある機体って感じ」
「キラさん……それって、条約違反って奴じゃないんですか?」
「いやーアハハ。まぁまぁ。ほら、みんなやってる事だから」
「あーあ。オーブは綺麗な国だと思ったのに」
「綺麗だよ! 綺麗だからね! ただ、まぁ。表面だけっていう問題があるんだけど」
「それが駄目なんですよ。キラさん」
ルナマリアにチクチクと突かれ、キラは「そうですね」と言いながら、しょぼんとした顔をした。
しかし、キラを責めても仕方ないかと皆気持ちを切り替える。
「シュラ君は問題ない?」
「えぇ。何一つ。隊長殿の期待に応えて見せましょう」
「おぉー心強い。じゃあシュラ君にはアスランみたいに頑張って貰おうかな。僕も居るし。シン君も居るし。概ね問題は無いでしょ」
「……」
「姫様。姫様。駄目ですよ。シュラの前でアスラン・ザラの名前を出しては」
「あ。そうだった……!」
「イングリット!」
「そう騒がないで下さい。叫ばなくても聞こえてますから」
「ならば!」
「もう少し、アスラン・ザラを見習ったらどうですか? 彼なら無様に叫ぶ事は無いと思いますよ」
「イングリット!!」
「はいはい。聞こえてますから」
いつも通り、ワイワイと騒がしいパイロット達を見ながら、キラは微笑みを浮かべる。
こんな事に巻き込んでしまったが、頼もしい仲間たちだ。
誰も死なせずに、戦いを終わらせようと、キラは強く心に決意するのだった。