地球連合軍艦隊の切り札であるモビルアーマー『ザムザザー』が一機撃墜された事で戦況は一気にミネルバへと傾いた。
ザムザザーが居なければミネルバのタンホイザーを防ぐことは出来ないというのに。
二機のザムザザーはそれぞれ、キラとアスラン。
そして、シンとシュラによって完全に封殺されているからだ。
何とかキラ達を止めようとモビルスーツ部隊を向かわせても、ミラージュコロイドを使用した謎のモビルスーツが戦場には存在しており、モビルスーツは不可視の戦力によって一機、また一機と落とされてゆく。
ならば、とミネルバへとモビルスーツを向かわせても、ミネルバの火砲やミネルバの上に乗った二機のモビルスーツから狙い撃ちにされてしまい、近づく事すら出来ないのであった。
もはやここから逆転の手は打てない。
地球連合軍艦隊は現状の戦力のままでミネルバを沈め、オーブを占領する事は難しいと考えた。
しかし、他の地球連合部隊は宇宙から降下してきたZAFTの相手で手一杯であり、オーブへと援軍を送る事は不可能なのだ。
その結果。
ジワジワと戦力は削られてゆき、ザムザザーが二機、三機と順に落とされ……全てのザムザザーを失った瞬間、ミネルバより再びタンホイザーが放たれた。
もはや大勢は決した。
地球連合軍はこれ以上の戦力損耗を避けるべく、決死の撤退戦を行う事になる。
だが……既に時は遅く海中より何者かに砲撃され、艦は順に沈められ……さらにはいつの間にか展開していたオーブ護衛艦隊によって退路は完全に潰されてしまった。
この戦闘により、ミネルバ、オーブ連合首長国に人的被害はほぼ無いが、地球連合軍は壊滅状態という結果となったのであった。
戦闘の結果を受けて、オーブ連合首長国代表首長カガリ・ユラ・アスハはミネルバの修理補給をオーブで引き受け、地球連合軍に対するオーブ連合首長国への侵略行為を世界に訴える事とした。
オーブ行政府の放送部屋で、カガリはコホンと咳ばらいをしてから話を始める事とした。
そんなカガリに合わせていくつものテレビカメラがカガリの姿を追う。
「皆さん。こんにちは。私はオーブ連合首長国代表首長。カガリ・ユラ・アスハです」
「私はこの度、とても悲しいご報告をしなくてはなりません」
「先日、我が国へ。地球連合軍の艦隊が差し向けられました。その艦隊の目的は我が国への侵略と、私の妹『キラ・ユラ・アスハ』を自国へと連れ去る事でした」
「我が国は連合とは比べるまでもない小国です。その様な国へ突然の攻撃と侵略。それはあまりにも一方的で、国家を運営する者として信じられない行いでした」
「ですが、我が国の危機に対し、声を上げて下さった方々が居ました。それは先のボアズ落下事件に際し、地球を救うために命をかけてボアズの破砕作業を行っていたミネルバという戦艦です」
「皆さん」
「地球に生きる皆さん」
「今、ボアズ落下事件より、混乱する地上で多くの情報が行き交っています」
「その情報には正しい物と、間違っている物が混ざり合っております」
「皆さん」
「今、貴方が信じている情報は……本当に真実の情報なのでしょうか?」
「地球連合が訴えている事は、本当に真実なのでしょうか?」
「私の妹『セナ・ユラ・アスハ』は先日、アーモリー・ワンへと視察へ行った際に、ある者達に攫われました」
「そして、『キラ・ユラ・アスハ』もまた、連合によって狙われています」
「ボアズ落下事件の際には、キラを狙う者達の姿も確認されました」
「これはいったいどういう事でしょうか?」
「真実は、セナを連れ去った者達が握っているのではないかと私は考えています」
「そう! セナを連れ去った者達。その者達の正体は、地球連合軍第81独立機動群。通称『ファントムペイン』と呼ばれる者達で……」
「カガリ様!」
「なんだ。今は全世界へ配信中だぞ」
「それが……! 配信がジャミングされております」
「なんだと!?」
カガリは集まって貰った報道陣へと頭を下げて、急いで部屋を出て行った。
その様子に報道陣も、何が起きているのかとザワザワ騒ぎ始める。
そんな部屋を置き去りにして、部屋を飛び出したカガリは別室に駆け込むと、モニタ―を見ながら笑みを浮かべている男に状況を問う。
「どうだ?」
「あぁ。どうやら獲物が罠にかかったみたいだ」
「フン。やはり問題なのは国力だけか」
「その国力が厄介なのだがな」
カガリの言葉に、狭い部屋の中、壁に寄り掛かって腕を組んでいたロンド・ギナ・サハクが応える。
そして、そんな二人に笑いかけながらユウナ・ロマ・セイランはモニターを指さした。
「カガリの放送をジャミングしながら、大西洋連邦の大統領が話し始めたよ。あんまりにも必死だからおかしくなっちゃうけどね。これじゃカガリの主張が正しいって言ってるような物さ」
「所詮この男はジブリールの操り人形だろうからな。人形が人間に勝てる道理はない」
「確かにね」
ユウナはニヤリと笑って、必死に訴えている男を見やる。
まぁ、男が怖いのは自分の政治生命が失われる事であったり、物理的に命が狙われる事だろうが。
『我々は、オーブ連合首長国と友好条約を結ぼうとした立場であり、おそらくは、その為に向かった艦をコーディネーターの部隊が沈めたのでしょう! そして、その言い訳として、先ほど代表が仰られた様な事を言ったに違いない!』
『我々は地球に住まう同志として、味方へと銃口を向ける事はありません!』
『我々の敵はただ一つ! 宇宙に住まうプラント! コーディネーターだけなのです!』
「代表」
「何か動きがあったか? ウナト」
「えぇ。本命が動きました。今すぐオーブとしての正式発表をしろと、ジブリールから」
大西洋連邦の大統領の発表を聞いていたカガリたちであったが、ウナト・エマ・セイランが部屋に来た事でようやく来たかと顔を上げる。
そして、モニターの前で座っていたユウナがよっこいしょ。なんてわざとらしく言いながら立ち上がるのだった。
「さて。ようやく僕の出番みたいだね」
「……ユウナ」
「そんな顔をしないでくれよ。カガリ。これは僕の役目だ。君もよく分かっているだろう?」
「しかし……お前の立場が」
「こうでもしなきゃオーブは生き残れない。連合は正義を捨ててでもオーブを潰す事は出来るんだからね。あの狂った戦争をもう一度やろうなんて連中だ。手段を選ぶとは思えない」
「……」
「カガリ。僕はね。何も失っちゃいないし。これからも失う事は無いんだよ」
「ユウナ……」
「僕の事を世界は……オーブ国民は悪と断じるだろう。お前のせいでと憎むだろう。でもね。良いんだ。僕がそうやって言われる事で守れるものがあるんだから」
ユウナはグッと右手を握りしめながら緩やかな笑みを浮かべる。
これから死地へと向かうというのに、その目は何一つ死んではいなかった。
「本当の僕の事を知る人が居る。そして、その子たちの為に、こうして生きる事が出来る。それ以上の喜びはないさ」
そして、ユウナはゆっくりと歩きながら部屋を出て、小さく息を吐きながら廊下を進んでゆく。
この道は、処刑台へと続いている道だと言うのに、ユウナの歩みに迷いはない。
全ては、あの日。
キラとセナに出会った日に得た火を。
カガリやギナ達とオーブの未来について語り合う中で得た燃料を元に燃え上がらせる。
モビルスーツにも、戦艦にも乗れないユウナが出来る唯一の戦い。
それがこれから始まる。
「ふぅ……やぁ。すまないね! カガリは体調が悪くなってしまった様だ! ここからは僕が変わろう!」
先ほどまでのキリっとした顔はどこへやったのか、へらへらと軽薄そうな笑みを浮かべながらユウナは部屋に入った。
そして、報道陣の前に立つと、オーブの軍人へと言葉を掛けた。
「あぁ。そこの君。すまないね。大西洋連邦の大統領へと繋いでくれないか?」
「は……? いや、しかし」
「これは僕の命令だよ! 僕はオーブ連合首長国五大氏族のユウナ・ロマ・セイランだぞ! 良いから繋ぐんだ!」
「はっ、はい! 承知いたしました!」
ユウナの事をよく知っているその軍人は、ユウナが自身の名を呼ばず、傲慢な振る舞いをしている事から、作戦が始まった事を察知した。
そして、あらかじめそうと決まっていた通り、ワタワタと通信を大西洋連邦の大統領へと繋ぐ。
その様子に、報道陣たちは、これから何かが始まると興味深そうにユウナの姿を全世界へと配信するのだった。
「あー。大西洋連邦の大統領殿。僕の声は聞こえているかな?」
『あ、あぁ……! 聞こえているとも』
「僕はユウナ・ロマ・セイラン。オーブの代表だ」
『は?』
ユウナの発言に、大西洋連邦の大統領ジョゼフ・コープランドも、報道陣も、誰もが疑問の声をあげる。
それはそうだろう。
オーブ連合首長国の代表はカガリ・ユラ・アスハであり、ユウナ・ロマ・セイラン等と言う男の名前は誰も聞いた事が無いのだから。
そして、皆の反応が悪かったからか、ユウナはやや荒々しく声を上げた。
「なんだい? その反応は! ロゴスの! ジブリールから! 僕の話は聞いてなかったのか?」
『あ、いや! すまない! いや。大丈夫だ。君の事はよく知っているとも。それで、オーブの代表が、どの様な用件かな?』
「先ほど、カガリが大西洋連邦に対し、非常に失礼な事を言っていた様だ。それについて謝罪しようと思ってね」
『え、いや……あ、あぁ。なるほど』
「そして、ちょうど良い機会だから、公式な声明として、ここで発表したいと思う! オーブ連合首長国は、地球連合と正式に同盟を結び、敵国たるプラントと! 共に戦う事をここに誓おう!」
「なっ!? ユウナ様! それは」
「僕の決定に逆らうというのかい? 五大氏族である。僕の命令に」
「い、いえ……そうではありませんが」
ユウナの傍に居た軍人が咄嗟にユウナを止めようとするが、それは叶わず、ユウナはどんどんと話を進めてしまう。
その様子に、報道陣も、世界中でこの放送を見ていた者達も、一つの答えを頭の中に思い浮かべた。
そう。
カガリ・ユラ・アスハは、この男によって代表の地位を奪われたのだ……と。
そして、キラやセナの姉であるという事実や、プラントの独立を手助けしてくれたカガリが、今危機に陥っているという事実を、世界は知るのだった。
「さぁ。新しい時代の、幕開けだ」
ユウナは全世界の注目を集めながら、両手を大きく広げた。