多くの人が寝静まった深夜。
オーブの海岸沿いにあるセイラン家の近くにある砂浜にいくつかのモビルスーツが侵入していた。
それはZAFTが開発した水陸両用の可変MS『UMF/SSO-3 アッシュ』であったり、地球連合の水中用量産型モビルスーツ『GAT-707E フォビドゥンヴォーテクス』であったりした。
何の偶然か、それぞれの部隊はほぼ同時刻にオーブへと侵入しており、やや離れた場所から互いの部隊を目視する事となった。
『隊長! 連合のモビルスーツが!』
『あぁ。その様だな』
『こちらから仕掛けますか』
『いや、待て……どうやら向こうも積極的に仕掛けようという気はないようだ』
アッシュ部隊を率いていた隊長のヨップはフォビドゥンヴォーテクス部隊の動きを見ながら部下たちを抑える。
そして、光通信で自分たちの目的を伝えるのだった。
『我々は、あくまでキラ様を救出しに来ただけだ。オーブのセイランから解放する為に』
ヨップが連合へと送った光通信に連合の部隊も隊長と思われる者がそれに応える。
『我々も、貴君らと同様にキラ様を開放する為に来た。ジブリールやらセイランやらにキラ様を奪われてはたまらん。彼女はアイドルなのだ』
『地球の同志。それは行幸だ。では共に作戦を遂行するとしよう』
『承知した。ちなみに、一つ伺いたいのだが、プラント限定で発売されたというキラ様のアイドル映像ディスクの入手は可能か?』
『無論だ。今布教用を持っている。そちらに渡そう。友好の証だ』
『それは素晴らしい。では、こちらは地球での活動をまとめた映像ディスクを渡そう。プラントでは入手が難しいだろう?』
『助かる。地球の同志よ』
ヨップはフッと笑い、フォビドゥンヴォーテクスへ向けてアッシュを向かわせる。
あまりにも無防備な行動に部下たちは焦り声を上げるが、ヨップは問題ないと部下たちを制した。
『隊長!』
『構わん。彼らはナチュラルではあるが、同時に我らの同志だ』
そして、フォビドゥンヴォーテクスの部隊でも向かってくるアッシュに対し部下たちがザワザワと騒ぎ始めた。
『隊長。敵モビルスーツが接近してきます! 迎撃を』
『駄目だ! 彼は友好の証を所持している』
「しかし敵はコーディネーターです!」
『だからなんだ! 貴様らは、種族の違いだけで同じものを愛する友を敵だと認識するのか!?』
『し、しかし……! 連中は隕石落としを』
『確かにコーディネーターは隕石落としを仕掛けた。だが……私は思う。キラ様を愛する同志が、キラ様が悲しむ様な事をするだろうか、と』
『た、隊長……!』
『見ろ! 彼はたった一人で我々に向かってきている。しかも武器は一切構えず、こちらを信頼して……だ。これこそ、キラ様が望まれた理想の姿では無いのか』
『キラ様の……理想』
『そうだ! もし、彼に攻撃してしまえば、我らはキラ様の理想を汚す事になってしまう。心せよ。ここにあるのは我らの未来だ』
『……みらい』
隊長は部下たちを押さえ込んでからゆっくりとアッシュへ向けてフォビドゥンヴォーテクスを歩かせ始めた。
しかも、自分たちの意思を明確に見せる為、コックピットハッチを開いて、進む。
その姿にアッシュのパイロットもコックピットハッチを開いたまま進むのだった。
そして、隊長たちは互いのモビルスーツをゼロ距離まで接近させると、砂浜へと降りて、それぞれが手に持っている友好の証を差し出した。
ナチュラルとコーディネーター。
種族は違えど、確かに通じ合うものがここにはあった。
平和とは、こういう事の積み重ねなのかもしれない。
そんな思いが二人の間で……そして、部隊の間で通じ合ってゆく。
今、この瞬間に、ここに居る彼らは一つだった。
主義も主張も、種族も関係ない。
ただ同じアイドルを愛する同志であった。
そして、二人の男は互いに布教用としてもっていた映像ディスクを渡し合う。
「はじめましてだな。コーディネーター。幼い頃から平和を願い、言葉を尽していたキラ様はまさに天使であったぞ。セナ様と共に行動していてな。セナ様を撫でている姿など、最高だ」
「はじめましてだ。ナチュラル。そして、ありがとう。幼い頃の姿はプラントでは少なくてな。非常に助かる。部下たちも救われる事だろう。そして、私からはこれを贈ろう。先ほどプラントで売っているアイドル映像ディスクと言ったが、これは違う」
「何!?」
「そう。これは、限定ディスクなのだ。非売品であり、ZAFTでもトップエリートしか所持していない物だ。非公開映像が大量に収録されている。アイドルにまだ慣れていないキラ様の姿が映っており、大変愛らしいぞ」
「……そのような貴重なものを」
「相手に惜しみなく愛を与える。それこそがキラ様の理想だ」
「感謝する……! 宇宙の友よ」
「地球の友。今日の出会いに感謝を……!」
「あぁ! キラ様に自由を!」
「キラ様に自由を!」
二人の男は大事に大事にディスクを抱えながら手を握り合った。
そこに憎しみはなく、あるのは信頼と敬意だけ……なのだが、この状況を面白く思わない人物が居た。
オーブに侵入した時から彼らの動きをずっと監視していた少女……キラ・ユラ・アスハである。
彼女は自らの恥ずかしい映像が収められた映像ディスクが出回っている事を聞き、急いでセイラン家からも行く事が出来るオーブの地下施設へと飛び込んだのだ。
そして、驚異的な速さで封印していたフリーダムを起動させると、ビームライフルで外側隔壁を破壊しながら空中へと飛び出した。
そう。アッシュ部隊とフォビドゥンヴォーテクスの前に。
「な、なんだ!?」
「何が起きている! 報告しろ!」
『オーブの地下より、モビルスーツ!』
『隊長! フリーダムです! フリーダムが出てきました!』
「「なにぃ!?」」
ZAFT、連合両部隊の体長は声を揃えながら空に飛びあがったキラ様の機体を見上げた。
そして、既に彼女の手には自由が戻っていたのかと感動しつつ、その声を聞いて身を震わせる。
『話は聞いてたよ! 僕の映像ディスクを持っていて! それを交換しただって!? しかも極秘映像とか、隠し撮りとか! 絶対に壊してやる!!』
「ま、まずい!」
「同志! 我らは撤退する! 君も!」
「あぁ、急ぎ撤退する。貴君も無事で!」
隊長たちはそれぞれのモビルスーツへと乗り込んで、撤退命令を出しながら海へと向かって走り出した。
しかし、キラが逃がすワケもなく、ビームライフルで狙撃しようとフリーダムを動かす。
だが。
『逃がすかー! な、なにを!?』
『隊長! 逃げて下さい!』
『ここは俺たちが!』
『お、お前たち……!』
『無事、基地に戻れたら……俺たちにも見せて下さいよ! 行くぞー!』
『っ! お前たちの事は、忘れないぞ……!』
両部隊の隊長を護るために、アッシュとフォビドゥンヴォーテクスは協力しながらフリーダムへと総攻撃を始めた。
そして、アッシュはキラの気を逸らす為に突撃し、フリーダムが放つビームライフルを防ぐために、フォビドゥンヴォーテクスはゲシュマイディッヒ・パンツァーを展開し、隊長機二機への攻撃を防ごうと奮闘するのだった。
しかし、その程度の攻撃。
その程度の防衛で防げる程、キラ・ユラ・アスハは甘くない。
キラは遠距離での攻撃は無駄かと、ビームサーベルを抜いて、一気に突撃した。
近づくモビルスーツを切り捨て、真っすぐに隊長機二機へと迫る。
そして、流石に陸上では動きも遅い二機にあと少しという所までフリーダムは迫った。
『これで、終わりー!』
『くっ!』
『ここまでか!』
隊長たちが終わりを覚悟した瞬間、既に下半身を斬り落とされたアッシュと、ゲシュマイディッヒ・パンツァーと腕を破壊されていたフォビドゥンヴォーテクスがスラスターを全開にしてフリーダムへとぶつかったのだ。
命がけの、特攻。
キラは咄嗟にぶつかった二機を振り落とすが、その直後、逃げていた二機は大きな水音を立てながら水中へと飛び込んでいた。
その姿にキラも急いで水中へとフリーダムを向かわせるが、時すでに遅く、二機の姿は完全に消えていた。
空中から追うにしても、どこへ行ったかも分からないし、海に囲まれたオーブでは探す事など不可能だろう。
『あーもう! もうー!!』
キラはフリーダムの中で地団太を踏みながらオーブの地下へと戻っていった。
その姿に、殺されなかった事に、ZAFTと連合兵は安堵しつつ、機体から脱出して機体を爆破させる。
そして、コーディネーターとナチュラル。
その壁を取り払い、共闘した彼らはそのままオーブの飲み屋街へと向かい朝まで語り合い、飲み明かすのであった。
世界は平和へと向かっている。そう思わせる光景だ。
約一名の心の中を除いて……。
戦闘も終わり、帰還したフリーダムから降りたキラは、格納庫で待っていたユウナへと声をかける。
「ごめんなさい。つい」
「いやいや、どちらにせよ。フリーダムで迎撃するのが正解だったし、問題ないよ」
「そう言ってくれると助かります。頭にカーっと血が上っちゃって」
しょんぼりとしてしまったキラに、ユウナは心の中でキラは怒らせない様にしようと誓った。
そして、計画は何も問題ないと告げつつも、遂に明日実行する予定だとキラに告げた。
「遂に、明日ですか」
「うん。アークエンジェルの準備も終わったし。カガリもアークエンジェルへと連れて行く準備が出来た。それに……」
「それに?」
「ちょうど昼にフリーダムのパイロットが見つかってね。彼にお願いする事にしたんだ」
「彼って……」
キラはユウナが顔を向けた方に自分も向けて、そこに現れた金髪の少年を見やった。
前大戦において、キラと共に戦い、共に死地を潜り抜けて来た戦友。
「オルフェ君!」
「久しいな、キラ。元気にしていたか?」
「うん! オルフェ君も!」
「あぁ。僕は十分にね」
オルフェとキラは再会を喜び、共にフリーダムを見上げた。
「じゃあフリーダムは、オルフェ君が?」
「あぁ。アスラン・ザラの代わりというのは気に入らんが……キラを強奪するのは面白そうだ」
「ふふ。悪い顔してる」
オルフェに微笑むキラを見て、ユウナは安心して任せられると笑みを深めた。
そして、オーブから再び旅立つキラに、心の中で静かに別れを告げるのだった。