ガンダムSEED Re:   作:とーふ@毎日なんか書いてる

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第173話『PHASE-14『明日への出航1』』

 オーブに新しい朝が来た。

 その朝が、オーブ国民にとって良い朝かどうか、それは分からないが……。

 昨日までと同じ朝が来ない事だけは確かである。

 

『えー。オーブに住まう者達。おはよう。今日は諸君に良い報告がある』

『本日、我々オーブはめでたく、地球連合と友好条約を結ぶ事となった。とても良い日だ。そして、その良い日に、良い知らせがもう一つ、ある』

 

 ねっとりとした喋り方をするユウナの声を朝から聞かされたオーブ国民は、最低最悪の気分であるが、それでもこのニュースを見なければならない理由があった。

 それはオーブを照らしてきた光が今、どうなっているのか知るためだ。

 

「チッ……朝から気分悪いわねぇ」

「アライ。あんまり机を蹴るなよ。放送に要らん音が乗る」

「分かってますよ。ディレクター。でも、アイツ……! ユウナ・ロマ・セイランが国の代表面してるのに、それを正しいもの。みたいに放送しなきゃいけないなんて……虫唾が走るんですよ」

「分かったから。その顔止めろ。子供が見たら泣くぞ」

「ケッ」

「駄目だこりゃ」

 

 そして、ユウナの放送に苛立っているのはオーブ国営放送局も同じであり、美人お天気アナウンサーとして人気急上昇中のアライもまた、お茶の間には見せられない顔で苛立ちを示していた。

 

『それは、僕とキラが本日。このめでたい日に将来を誓い合うという事だ。ん~。なんて素晴らしい日なんだろうねえ』

『無論、この事はキラも同意している事であり、僕らは愛する者同士。ハウメアの女神の前で誓い合う事になるんだねぇ』

『あぁ、そうそう。カガリもようやく妹離れが出来た様で。キラとの結婚にも頷いてくれたよ。とてもめでたい事だ。まぁ、式には参加出来ないのが残念だけど、体調がすぐれないらしくてねぇ。仕方ないけど、仕方ないねぇ』

 

「……カガリ様はどこかに監禁されているという事ですかね?」

「おそらくはな。だがこっちにはまるで情報が流れてこない。セイランめ。どこまで手を伸ばしてるんだか」

「しかし、状況としては最悪です。おそらく、キラ様とカガリ様は互いに互いを人質とされているんでしょう。これではどちらも動けない」

「ある意味でチャンスは式の時だろうが……カガリ様の居場所が分からなきゃ、動くに動けんだろう」

「あの男は何をやってるんですか! アスラン・ザラは! カガリ様の護衛なんでしょ!? しかもZAFTのトップエリートだった!」

「まぁな。だが、例のボアズ落下事件の時に破片の破砕作業をやってて、そのまま行方不明なんだってよ。まぁ、その隙を突かれた感じだろうな」

「チッ。役に立たない男……! あぁ、カガリ様。今、どこで何をされていらっしゃるのかしら」

「ご無事なら良いが。こればかりは何とも言えん」

「くぅー。もう! イライラするぅ!」

「落ち着け。アライ。俺たちの仕事は報道だ。情報を正しく報道する。それが全てだ。時を待て」

「……ハイ」

 

 

 そして、無事放送を終えたユウナは、自宅へと戻り式の準備をしているキラの元へ向かう。

 

「キラ。準備はどうかな?」

 

 扉の外からノックをして、中の様子を聞き、許可が出てから部屋の中へ踏み込んだユウナは……キラのウェディングドレス姿を見て、完全に固まってしまった。

 普段の子供っぽい姿も完全に消え、淑やかな一人の女性として静かに佇んでいる。

 

「……綺麗だ」

「ふふ。ありがとうございます」

 

 微笑む姿は完全に今日幸せな結婚をする花嫁そのもので、ユウナはこれが夢か現実か分からなくなってしまった。

 だが、だがしかしである。

 

 今回の作戦はユウナが個人的に楽しむために作られた物では無いのだ。

 多くの者の決意と覚悟がここにはある。

 

 オーブという国を生かすために、その命や誇りを捨ててでも、作戦を完遂しようとしている者達が居るのだ。

 だから、ユウナは自分の頬を叩いて、気持ちを取り戻した。

 

「ん~。とっても良いと思うんだけど。もうちょっと嫌がった感じに出来る?」

「えー。綺麗な服着てると、楽しくなっちゃうから、自然とニコニコしちゃうんだけど」

「そこを何とか。国民には、キラ様は本当は嫌がってるんだよっていうのを見せるんだから」

「はぁーい。がんばりまーす」

 

 どこか緩い感じのキラに苦笑しつつも、まぁ、まさかキラが喜んでいるとは思わないだろうし、笑顔でも何とかなるかと随分と甘い結論を導き出した。

 そして、そろそろ行こうかとキラに手を差し出す。

 

 キラはユウナに手を重ねながら微笑み、ユウナもどこか嬉しそうな顔でキラに微笑みを向ける。

 だが、ユウナの護衛として来ていた国防軍のソガ一佐はいつまでも動かないユウナの足につま先で軽く蹴りを入れた。

 

「いだっ!? なにをするんだー! ソガ! 貴様ー!」

「申し訳ございません! 足を滑らせました!」

「う、うそぉ吐くなぁ! 貴様! 減俸だぞ!」

 

「……減俸で蹴り放題?」

「貴様! 何か言ったか!?」

「いえ! 何も! 大変申し訳ございませんが、そろそろお時間ですので。ユウナ様もお早く」

「分かっとるわ!」

「申し訳ございません。ソガさん」

「いえ! キラ様はどうぞごゆるりと」

「僕と一緒に行くのに、キラだけゆっくりできるワケ無いだろうが!?」

「式場へはユウナ様お一人で向かわれては?」

「作戦の意味が無いだろうが! なーにを考えてるんだ! 貴様は!」

 

 ぜぇぜぇと息を荒げながらユウナはソガ一佐にツッコミを入れるが、ソガ一佐は何も気にせず平然とした顔で立っていた。

 そして、キラとユウナの先を歩き、車のドアを開ける。

 

 ユウナは紳士らしく、しかしカメラがあるため時にいやらしくキラを車の中へと誘導した。

 そして自身も乗り込もうとしたのだがユウナがまだ地面に立っているというのに、ソガ一佐はドアを閉めようとグイグイ押してくる。

 

「やめんか! 貴様!」

「これは失礼いたしました。モタモタとしているなと思いまして」

「やかましいわ!」

 

 ユウナはテレビの前である為、小声でソガ一佐に怒りをぶつけ、鼻をならしながら車に乗り込んだ。

 

「まったく。僕の晴れ舞台にどういう了見だ」

「ふふ。ソガさんも落ち着かないんですね」

「いーや。アレは絶対僕に嫌がらせをして楽しんでいる顔だ」

 

 走り出した車の中、ようやく嫌がらせが終わったとユウナは一息つき、キラはそんなユウナにクスクスと笑いかける。

 なんだかとてもそれらしい姿であったが、前の咳の助手席に座っていたアマギ一尉が後部座席へと振り向きながら、ユウナの顔目掛けてクラッカーを鳴らす。

 パァンという音が車内に鳴り響き、ユウナはキラとの甘い時間を中断させられ、前に居たアマギ一尉へと視線を向けた

 

「うわぁ!? な、なんだ?」

「きゃっ」

「申し訳ございません。キラ様」

「おい! なんで僕じゃなくてキラに謝ってるんだ! おかしいだろ! アマギ! ぶつけられたのは! この僕だぞ!?」

「これは、申し訳ございません。ユウナ様」

「ついでの様に言って……! くそっ」

「まぁまぁ。落ち着いて下さい。ユウナさん。アマギ一尉も悪気があった訳じゃないと思うんですよ」

 

「えぇ。悪気などありません。先ほどソガ一佐より、全軍へユウナ様へ何をやっても減俸のみで許されるとの連絡がありましたが、悪意は決してありません」

「悪意しか無いだろうが! 貴様!」

「さて? 何のことやら」

 

 アマギは何言ってるんだ。コイツみたいな目でユウナを見て、心にもない言葉を吐くのだった。

 そして、キラにクラッカーで撒き散らされた紐や髪を取って貰いつつ、アマギへと確認をする。

 

「それで? 状況はどうだ」

「ハッ。既にタケミカヅチ以下オーブ海上護衛艦隊が出動しております。そして、アークエンジェルもまた出航の準備は万全であると」

「フン。そうか。それは良いことだね」

「申し訳ございません。アマギさん」

「いえ。これが我らの役目ですから」

 

 キラは少し寂しそうな顔でアマギを見やった。

 彼はオーブ国防軍の大型航空母艦タケミカヅチの副官であり、これからの情勢次第では地球連合の一員として戦わねばならないかもしれない立場である。

 

「キラ」

「……ユウナさん」

「彼らは軍人として国の為に、オーブの命を長らえさせる為に、命をかける覚悟をした。それを貶めてはいけないよ」

「……はい」

「ほら、花嫁が泣いてちゃ駄目じゃないか……って、いや、状況的には良いのかな」

「……ごめんなさい」

「良いさ。君もカガリも。少しばかり優しすぎる。僕らは命を捨てる為じゃない。君たちに未来を託して行くんだ。それだけは忘れないで」

「……はい」

 

 はらはらと涙を流すキラは美しく、ユウナは自然とキラに顔が近づいてゆき……。

 再び車内にパァンという音が鳴り響いた。

 

「アマギィ!」

「カガリ様はそこまで許可しておりません。我々も」

「お前はどういう立場なんだ!」

「幼い頃よりキラ様とカガリ様を見守っていた立場ですが?」

「その、心底何を言って居るかわからないという顔をやめろ!」

 

「ふふ。もう……ほんとうに」

 

 キラはアマギとユウナのやり取りに涙を流しながら儚い笑顔を浮かべた。

 

 おそらくこれは最期の別れだ。

 

 ユウナはもし、地球連合がオーブに作戦に参加する様に命じた場合、タケミカヅチでトダカやアマギと共に出撃するつもりである。

 そして、オーブはプラントとの戦いで敗北する予定だ。

 そうしなければ、プラントと繋がっているキラとカガリを生かす事が出来ないから。

 

 ユウナはタケミカヅチと共に全ての責任を取って死に、カガリは代表としての地位を取り戻して、地球連合との友好条約を不当な物として破棄。オーブを再び中立として取り戻す。

 

 キラ達のするべき事は、それまでの間にデュランダルたちと協力し、ジブリールを捕縛して戦争を止める事であるが……おそらくは、どれだけキラが上手くジブリールを捕らえる事が出来たとしても……ユウナは死ぬだろう。

 ジブリールは追い詰められなければ尻尾を掴ませないだろうし。オーブが居る限り、追い詰められる事はない。

 

 つまり……どうあっても、いつかユウナは死ぬ。

 キラの知らないどこかの戦場で。

 助ける事は出来ず、失われた命の事を、後で聞く事になるのだろう。

 

 そして、おそらくはトダカ達もユウナ一人に全ての責任を負わせる事は無いだろう。

 タケミカヅチを失った責任を取り、艦と共に沈む選択を取るだろう。

 

 それが、キラにはどうしようもなく悲しかった。

 どうしようもなく無力な自分が……苦しいのだった。

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