インパルスの手に乗ったままミネルバへと着艦したキラは、大歓迎のままミネルバクルーに迎え入れられた。
「わ、凄い格好ですね。コレ」
「ね。ウェディングドレスってはじめて着たから。結構ビックリ」
「アハハ。まぁ、確かに人生で二度も三度も着る物じゃないでしょうしね」
「出来ればもう一回は着たいけどねぇ」
しかし、キラとルナマリアの会話に入り込む勇気がある男性クルーは居ないらしく、主にキラの周りに集まっているのは女性クルーばかりであった。
そんな中、周囲の視線などは気にしないレイがキラに近づき、話しかける。
「隊長」
「うん?」
「艦長が呼んでおります。これからのミネルバの進路について」
「あー。そうだよね。分かった。ありがとう。レイ」
キラはレイに微笑み、そのままの姿で駆けて行った。
おそらくは自室で軍服に着替えるのだろうと思うが……軍艦で花嫁姿というのは中々に刺激的である。
その為、キラは自室へ向かうまでの間、多くのクルーから注目を集めてしまうのであった。
そして、ZAFTの軍服に着替えたキラは、いつもの白服を鏡で確認し、長い髪を整えてまとめてからブリッジへと上がる。
「グラディス艦長」
「戻って早々に、悪いわね」
「いえ。任務ですから。それで、ミネルバの進路については」
「えぇ。現在本艦はカーペンタリアに向かっているわ。そして、それ以降はカーペンタリアで命令を受けるという事だけど……」
「はい」
「既にプラントと連合は戦争状態。だから……」
「オーブとも戦う事になる。ですよね?」
「えぇ!?」
タリアの言葉にキラが応えた時、副長席に座っていたアーサーが悲鳴の様な声を上げる。
その声に、キラとタリアから視線を向けられ、アーサーは両手で口を覆った。
「そう。オーブは新しい代表を名乗る男によって連合と友好条約を締結。その友好条約により、戦争に介入してくるわ」
「そうなるでしょうね」
「あなた……大丈夫?」
「大丈夫か? と問われると、まぁ難しい所ですね。ですが、やらねばならない事なら、やるだけです。それが僕の役目ですから」
「……そう。本当は、貴女がもし駄目だったら、オーブとの戦いでは出さない様にする事も考えたのよ」
「でも、それでは戦力が足りない。そうでしょう?」
「えぇ……その通りだわ。無論、敵の規模にもよるけどね。モビルスーツ隊の指揮はあなたに任せたい」
「そういう事なら安心して下さい。僕も、カガリも。覚悟は出来てますから」
「カガリって……代表は、生きていらっしゃるの?」
「えぇ。僕と一緒に救出されて。今はアークエンジェルに居ると思います」
「アークエンジェル……!」
タリアはキラの言葉に、ボアズ落下事件の際に目撃した戦艦を思い出した。
前大戦の時から、ZAFTでは何かと有名だった艦だ。
そして、現在は元代表と言うのが正しいかは分からないが、カガリ・ユラ・アスハをオーブより救出し、国外へと脱出した。
「……キラ。あなた達の目的は、何かしら?」
「その件については……デュランダル議長を交えてお話したい所ではありますね」
「議長と?」
「はい。僕とセナが議長に協力してインパルス計画を始めた理由。そして、彼らが遂にオーブまで手を伸ばしてきた。既に時間はそう無いかもしれません」
キラは真っすぐに海の向こうを見据えながら語る。
そんなキラに誰もが言葉を失ってしまうのだった。
それから。
ミネルバは特に戦闘らしい戦闘もないまま海を越え、カーペンタリアへと到着した。
オーブでギリギリまで修理をしていたお陰もあり、損傷は少ない。
それほどしないでメンテナンスも終わるだろう。という話だ。
そんな中、キラはタリアと共にカーペンタリアの施設を経由してミネルバから議長へと通信を行っていた。
話す内容は、キラがブリッジで語った言葉についてだ。
『やぁ。タリア。急に通信とは驚いたね。何かあったのかな?』
「はい。無事ヤマト隊長が帰還された為、その報告と……後、ヤマト隊長からお話があるとの事です」
『ほぅ。話か。いやしかし。その前に一つ労いの言葉を贈りたいな。よくぞオーブから無事脱出し、ミネルバへと戻ってくれた。あのまま君がオーブに居たら、我々は終わっていたかもしれないからね』
「どういう意味です」
キラへと向けられた言葉に、タリアが反応し、デュランダルへと言葉を向ける。
その問いにデュランダルは微笑みながら応えた。
『つい先日流れて来た情報ではあるのだが……どうやら連合軍はある新兵器を作っているらしい。そして、その開発を手伝わせる為に、キラ君やセナ君を誘拐しようとしていた事が分かったんだ』
「新兵器って!? でも、二人がその様な物の開発を手伝う訳がない」
『あぁ。普通ならそうだろうね。だからこそ、彼らは二人を攫う必要があった。という話さ』
困ったような顔で笑うデュランダルに、タリアは連合軍が考えたであろう最悪の考えを理解した。
キラとセナは互いを想い合う姉妹だ。
であるならば、キラの人質にセナを、そしてセナの人質にキラを置けば思うように動かせるのでは無いか……という考えだ。
「気分が悪くなる様な話ですわね」
『まぁ、そうだね。しかし、彼らもまた追い詰められているという事だね』
「議長。その新兵器はどの様な物か既に分かっているのでしょうか?」
『いや。残念ながらそこまでは分かっていない。だが……名称は知る事が出来た』
「名前……?」
『そう。その兵器の名は『メメントモリ』という名前らしいよ』
「メメントモリ……ですか」
「ラテン語で『死を想え』とか『死を忘れるな』という様な意味の様ね」
タリアの捕捉にキラはうーんと腕を組みながら考える。
どの様な平気か分かれば対処もしやすいと考えたためだが……名前だけでどの様な兵器か知るのは難しい様だった。
『しかし、キラ君がこちらに居る以上、開発は遅れるだろう。であるならば……』
「今はロード・ジブリールの捕縛が最優先、ですね」
『あぁ。証拠がなんだと言っていられる状況ではなくなってしまったからね。まさか、オーブまで彼の支配下になってしまうとは』
「ですが、オーブはまた取り戻す事が出来ます。カガリは無事脱出する事が出来ました」
『そうか。代表が無事であるならば、確かに希望はあるね。では、彼を捕縛する事さえ出来れば』
「えぇ。オーブは再びカガリを代表として中立国へと戻ります」
『分かった。では、ジブリール氏の情報を手早く集める事としよう』
「ありがとうございます」
『しかし、その為にも、彼の支配する領域を減らさなくてはいけない』
「はい」
『その為に、ミネルバにはまずマハムール基地へと向かって貰う』
「マハムールですか? ではスエズへ?」
『いや、そのままガルナハンを抜けてディオキアへのルートを作って貰いたい』
「ガルナハン……ですか」
『詳しい事情は現地で聞いてもらいたいが。少々厄介な場所の様だ。すまないが、頼むよ。ミネルバには期待しているんだ』
「承知いたしました!」
「僕も出来る限り頑張ります」
デュランダルの言葉にタリアとキラは敬礼で応えた。
そして、通信も終わろうかというタイミングに、デュランダルからキラへと言葉が向けられる。
『そういえば。キラ』
「何か?」
『代表はアークエンジェルで脱出されたと伺っているが……アークエンジェルと連絡を取る事は可能なのかな?』
「それは……まぁ、可能ではあると思いますが」
『ふむ。そうか』
「何か、アークエンジェルにあるのですか?」
キラはデュランダルの真意を見ようと目を細めながらデュランダルに問う。
だが、デュランダルはいつもの胡散臭い笑顔を浮かべたまま手を振るばかりだ。
『いや、それほど大した話では無いんだよ。ただ、もし、彼らが我々に協力してくれるなら……と思っただけでね』
「それは難しいでしょう。彼らはあくまで中立です。プラントと同盟を組む事は出来ません」
『まぁ、そうだろうな。だが……もし、世界的な危機と、我らが戦う事になれば、彼らは手伝ってくれるのだろう? ボアズ落下事件の時と同じ様に』
「えぇ。それは間違いなく」
『そうか。それが分かれば十分だ。いやすまないね。君を不安にさせたかな?』
「いえ。その様な事はありませんよ」
『それは良かった。では君たちの奮闘を期待する。以上だ』
それからデュランダルとの通信は切れ、キラとタリアは大きなため息を吐いて、少しだけリラックスした状態となる。
「ガルナハン……また厄介な場所へ向かわされることになったわね」
「それほどの場所なんですか?」
「らしいわ。噂で聞いた程度だけどね」
「タリアさんの言う噂じゃあ、信憑性は高そうだなぁ」
やれやれ。なんて言いながらキラは肩をすくめてタリアの部屋を出て行こうとしたのだが……その手をタリアが掴んで足を止めさせる。
「タリアさん?」
「ブリッジで聞いた事。まだ答えを貰ってないわよ」
「あぁ。そういえばそうでしたね」
キラは軽く息を吐いてからタリアに向かって口を開く。
「僕らがインパルス計画に参加した理由。それは地球を陰から支配する組織、ロゴスと戦う為です」
「……ロゴス?」
「はい。大きな資産、大きな権力。大きな発言力。こういうのを持ってて、地球の国家は彼らに従うしかない訳ですね。そして、今回の戦争も彼らが起こしている」
「まるで信じられない話ね。そんな前時代的な」
「人は、皆さんが信じる程、革新もしていなければ、進化もしていないんです。どれだけ凄い武器を発明してもね。宇宙へと生活拠点を移してもね。人は何も変わらない。言葉よりも武器を選び、平和よりも争いを望む。それが前大戦を引き起こした。そうでしょう?」
「それは……そうね」
「だから、人は……変わらなければいけないんですよ。本当の意味で。他者を排除して利益を得ようという考えから……他者を慈しみ、共に生きて行く事を最大限の利益と考える様に」
「……」
「おそらく。僕らが本当に戦わなければいけないのは……僕ら自身の中にある制御できない感情という物なのかもしれません」
キラはタリアを真っすぐに見ながらそう語った。
そして、小さく息を吐いてからタリアに背を向ける。
「それを克服する事が出来れば……きっと、世界は……」
「キラ……」
「なんて。夢物語ですけどね?」
最後にタリアへと振り向いたキラの笑顔はどこか儚げで、タリアは思わずキラに手を伸ばしてしまいそうになるのだった。