インド洋にて始まったキラとリボンズの戦いは、両者以外誰も立ち入れない領域での戦いとなった。
ビームサーベルをぶつけ合い、一瞬離れてまたぶつかる。
少し距離をとってはビームライフルで撃ち合い、また距離を詰めてビームサーベルでぶつかり合う。
機体の性能か、パイロットの腕か。
両者の力は完全に拮抗しており、その戦いに終わりの気配は見えない。
だが、それでも二人は戦い続けた、そうあるのが必然であるかの様に。
「見える様にはなったけど! それでも! 強い!」
ガンダムは、昔キラが乗った機体とよく似た姿をしているシンプルな機体だ。
持っている武装はビームライフルとビームサーベルのみ。
多彩な武装などは無いし。ビックリどっきりなシステムも存在しない。
しいて言うならば、謎の粒子により機体が見えなくなったり、空を飛んだり出来るくらいか。
だというのに、セイバーに対してここまで強くあれるのはパイロットがそれだけ強いからだろう。
キラはそこまで思考が至り、舌打ちをしながらガンダムが振り下ろしてきたビームサーベルをシールドで受け止めて、機体を蹴りつけた。
それによりガンダムは勢いよく水面に叩きつけられる。
『この……! 小娘がぁああ!』
怒りに染まったままリボンズが水中から飛び出してセイバーへとビームサーベルを突き刺そうとするが、セイバーは一瞬の間に変形し上空から腰に『M106 アムフォルタス・プラズマ収束ビーム砲』を展開し、それをガンダムに向けて放つ。
その様な攻撃は当たり前の様にかわされてしまうが、キラの狙いは無論直撃させるコトでは無かった。
海に超高エネルギーのビーム砲がぶつかった事で海面が爆発し、大量の水蒸気が生まれ、ガンダムの周囲を白い霧で覆い隠した。
リボンズはすぐさま機体を上昇させ上空に居るであろうセイバーの元へと向かおうとした。
だが、既に全てが遅い。
何故なら既に上空からセイバーが変形しながらガンダムの元へと降りてきていたからだ。
『なっ!?』
セイバーは一瞬で変形し、ビームサーベルを振り下ろしてガンダムの右腕を斬り落とす。
「これでっ!」
キラはガンダムの右腕を斬り落とし勝ちを確信していた。
しかし、シンから基地を発見したという報告が入った事で一瞬、意識をそちらに向けてしまい、ガンダムに海中へと蹴り落とされてしまうのだった。
キラとリボンズが一対一の戦いをしていた頃。
地球軍の基地ないし、母艦を探していたシンは、小島の上で戦闘にも参加せず立っているガイアを見つけた。
そして、もしかしたらそこに基地があるかもしれないと急降下してガイアに交戦を仕掛ける。
「あいつ!」
『っ!? 敵!?』
一瞬で交戦状態へと移行したインパルスへとガイアであったが、空中から突撃する様な勢いで突っ込んできたインパルスにガイアはパワーで負け、押し込まれてしまう。
そのまま体勢を立て直しながらインパルスへとビームライフルを撃ち返していたのだが、インパルスは再び空へと上昇し、それを交わしていくのだった。
そして、ガイアの動きを見ながら、ガイアが動く方とは逆方向に索敵を向けてゆく。
ガイアが基地防衛の為に配置されたモビルスーツだと考え、そのガイアがインパルスを基地から遠ざける為に、基地とは逆方向に動くと思ったからだ。
「……! 反応あり! 基地だ! 読み通り!」
シンは急いで基地の情報をシュラに送りながらその場所へと向かった。
基地さえ制圧してしまえば、あえてモビルスーツと戦う必要はないからである。
モビルスーツがバッテリーで動いている以上、拠点を失えばモビルスーツは撤退するしかない。
だから、先に拠点を叩く。
そういう軍の教本通りに行動したワケだが……。
そこにはシンの想像以上に最悪な光景が広がっていた。
「な、なんだよこれ……? 基地じゃないのか? 建設中……? いや、でもあれは、民間人……だよな?」
シンがインパルスから見た光景は、フェンスで覆われた連合軍の基地と思われる場所で働かされている島の人たちと思われる人々。
そして、フェンスの向こうから中を見守っている民間人。
おそらくは家族なのだろう。
しかし、インパルスが接近した事で、基地内では警報が鳴っており、インパルスを迎撃する為の部隊が出てきて、インパルスの方へと向かって行った。
それを好機と見たのか民間人がフェンスの方へと走っていく。
そのままフェンスをくぐり家族と思われる人々の元へと逃げようとしていたのだが。
……その背中を地球連合の兵士が銃を向け、撃っていた。
シンは平和の国と言われたオーブの出身である。
オーブは強国であるし、キラやセナの存在もあって戦争を仕掛けられた事などない。
だが、一度。
たった一度だけ、シンはそれを見た事がある。
無論、当時の指導者であったウズミ・ナラ・アスハのお陰で民間人への被害などはほぼ皆無であった。
しかし、シンは見たのだ。
戦争の理不尽により殺されていく人々を。
そして、何よりも。
シンの奥深くに刻まれたトラウマ。
キラとセナが殺されたあの小島へ行って……破壊されたモビルスーツを見て、もう二人は帰ってこないのだと嘆き、悲しみ、空へと咆哮したあの時の感情を……シンは蘇らせていた。
「お前らぁぁあああああ!!!」
それは怒りだ。
連合兵に対するモノではない。
『戦争』という物に対する怒りだ。
民間人を無理矢理働かせ、逃げようとしたから殺す。
そんな理不尽を平然と行ってしまう『戦争』という狂気その物への怒りがシンの中で燃え上がった。
その結果、シンは基地へと降り立って、その全てを破壊してゆく。
ただし、民間人には危害を加えない様に、基地そのものだけを狙うのだ。
戦争を象徴する、ソレを。
そして、モビルスーツすらない地球連合軍の戦力をインパルスで徹底的に奪ってから、基地を覆っていたフェンスをインパルスで掴み、家族の間を阻む障害を取り除いてため息を吐いた。
既に周囲で戦闘音はしていないが、先ほどまでガイアと交戦していたのである。
何故か敵は襲ってこないが……何かあった時に対応しなくてはと、ふわりと浮き上がった。
しかし、インパルスの足元に民間人と思われる人たちが集まってきてしまったため、シンはどうすれば良いかとオロオロしてしまうのだった。
そんなシンの動揺を知ってか知らずか、シンの基地発見の報に、ウィンダムの相手をレイとシュラに任せ、シンの元へ急いでいたルナマリアは途中ガイアから攻撃を受けてグゥルを破壊されてしまう。
「はぁっ!? なんで、こんな所にガイアが!」
そして、ビームサーベルを抜きながら迫ってくるガイアに、ルナマリアもビームトマホークを抜いて応戦する。
「シンの奴! ガイアが居るならいるって、言いなさいよ!」
ルナマリアは機動力の劣るザクで、素早く動き回るガイアの相手をし、そのまま倒そうとした。
しかし、ルナマリアと戦っていたガイアの元へと地球連合軍の司令官であるネオから通信が入る。
『そろそろ限界か。ステージが悪かったかな? ジョーンズ! 撤退するぞ! 合流準備! アウル! スティング! ステラ! 終了だ! 離脱しろ!』
『おわり?』
『そうだ。帰ってこい』
ステラは撤退の指示を聞いて、ザクのシールドを踏みつけながらモビルアーマー形態に変形し、走り出した。
その突然の動きにルナマリアは何事かと走り去っていくガイアを目で追うが、特にそれ以上攻撃を仕掛けてくる様子は無かったのである。
スティングも命令に従って素直に撤退しており、カオスと交戦していたシュラはその背中を静かに見ていた。
だが、素直に撤退したステラやスティングとは違い、アウルだけは不満を口にしながら戦闘を続けようとしていた。
『なんでだよ! まだこれからだろ!?』
『借りた連中が全滅だ。拠点予定地にまで入られてるしな。これ以上は無駄だ』
『えー、何やってんだよー!』
『しょうがないだろ。強化されてないパイロットならこんなモンだ。向こうの方が一枚上手だったって事だな』
『情けないんじゃねぇの!?』
『そう言ってもな。お前だって大物は落とせて無いだろ?』
『っ! なら、やってやるさ!』
アウルはアビスを変形させると、すぐ近くで水中に落とされたセイバーへと向かう。
何だか知らないが、ネオに偉そうな口を利いている奴が落としきれなかった機体だ。
アレを落とせば、間違いなく自分は活躍していたと言えるだろう。
そう考えて。
だが、その考えは少々……いやかなり甘い物であった。
何故ならビームランスを構えたまま水中を恐るべき速さで進みセイバーへと突き刺そうとした攻撃が……あっさりと最小限の動きでかわされてしまったからだ。
『なに!?』
『やめろ! アウル! そいつはお前じゃ勝てない!』
『うるさい! 僕に勝てる奴なんかぁぁああ!!』
『チッ! 私の機体を用意させろ! リュニックで出る!』
突撃では駄目かと今度は変形してからビームランスを持ってセイバーへと突き刺そうとした。
しかし、セイバーは容易くアビスの腕を掴むとそのまま海中から急上昇し、空中へと飛び出して……まるで陸揚げされた魚の様にアビスを空中へと放り投げた。
『な……に、が!』
そして、冷静に、冷酷にビームライフルを抜くとアビスの武装を一つずつ撃ち落とし、最後にトドメとばかりにビームサーベルを抜いてアビスへ向けて突き出した。
その攻撃は……セイバーの搭乗者がキラである以上、コックピットを狙う事は無いのだが、それを知らない地球連合軍の者達はこれがアウルを殺す為の一撃と考え、アウルの終わりを覚悟した。
しかし、驚異的な速さで戦場へと突撃してきたリュニックにより、セイバーの攻撃は防がれてしまう。
『ね、ネオ……』
『ったく。帰還するぞ!』
『う、うん』
セイバーに貫かれた右腕をパージし、いつかの時に使ったジャミング弾をセイバーに向けて放ち、リュニックは撤退していった。
しかし、その様な攻撃をしなくても、キラは追撃などをするつもりは無かった。
何故なら、キラにとってリュニックの行動は思考が止まってしまう程に意外なものであったからだ。
彼は、ジブリールと同じ様に……アウルたちを使い勝手の良い道具程度にしか考えていないと思っていたから。
「……ネオ・ロアノーク。あなたは、いったい」
キラは空中で静止し、何処かへ消えた彼の名前を静かに呟くのだった。