戦闘も無事終了し、ミネルバへと帰投したパイロット達であるが……。
シンだけは何とも浮かない顔であり、キラはそれが気になってシンの元へと向かうのだった。
「シーン君。どうしたの?」
「あ……キラさん」
「聞いてくださいよ。キラさん! シンの奴! 報告漏れがあったんですよ!」
「あら! いけない子だねー。何を忘れたのかな?」
「ガイアですよ! ガイア! シンがこっちに言わないで、奥の方に行っちゃったから、私のグゥル落とされちゃったんですよ!」
「む。その報告漏れは駄目だよ。シン君。ルナが強かったから上手く攻撃を避けられたけど、もしかしたら撃墜されちゃったかもしれないんだよ?」
「は、はい! そうですよね……ごめんなさい。ルナも……ごめん」
「まー。今回は許してやるわ。基地を制圧したのはシンだしね。その代わり。ジブラルタルに着いたらなんか奢りなさいよ」
「あぁ。分かった!」
いつも通りのやり取りの様に見えるルナマリアとシンのやり取りであるが……キラはどこかシンの様子がおかしい事に気づいていた。
ルナマリアへの報告ミスの件以外にも何かありそうだ……。とキラはシンに再び言葉をかける。
「シン君」
「き、キラさん……!」
「何か僕に言いたいことがあるんじゃないのかい?」
「いや、そんな事は……無いですけど」
「そう? なら良いけどね。別に何を言っても怒らないし。何か悩んでいる事があるなら聞くけどさ」
「……はい」
「ま、シン君が大丈夫だって事なら、良いでしょ。じゃ! とりあえず解散。僕は報告に行くから。何かあったらいつでも来てねー」
キラはパイロット達にそう告げるとさっさと着替えに向かってしまった。
そして、シンの肩を軽く叩きながらレイたちも着替えに行く。
残されたシンは複雑な顔をしたまま、整備されているモビルスーツを見上げるのだった。
それから、格納庫を離れブリッジへと向かったキラは艦長であるタリアに早速報告をするべく艦長席の近くへと移動した。
「ただいま戻りました」
「おかえりなさい。それで? どうかしら、敵の状況は」
「あまり良くは無いですね。ウィンダム部隊は全て落としましたが、敵の本隊は無傷です」
「例の部隊ね?」
「まぁ、母艦は違うでしょうが、例の部隊ですね。しかも、ボアズ落下事件の時に居た機体も一緒に居ました」
「っ!? あなたが襲われたという、あの!?」
「えぇ。そうです。その機体です」
キラは驚き声を上げるタリアに冷静な言葉を返す。
冷静なキラの様子に、タリアはひとまず落ち着いて言葉を返したが……それでも心の中の動揺は消えていなかった。
やはり、あの機体はキラを狙っているのだと。
確信した様な思いもある。
「ただ、まぁ。今回はうまく撃退する事が出来ました。これで汚名返上という所ですかね」
「……貴女からの報告を聞く限り、撃墜されなかったというだけでも驚く様な話だけれど。汚名返上というからには、今度は勝ったという所かしら」
「えぇ。完全勝利です! と言いたい所ですが……逃がしてしまいましたね」
「圧倒しただけで十分化け物よ。貴女」
冷や汗を流しながら呟く様に言ったタリアの言葉に、キラは苦笑して言葉を返す。
「ですが、こうなった以上、敵は僕以外を狙うかもしれません。それが厄介ですね」
「そうね……あえて貴女と戦う理由はない物ね」
「はい。なので、ミネルバも警戒していただきたいなとは考えております」
「……わかったわ」
頭を抱えながらタリアは頷き、ため息を吐いた。
色々な心労が重なり、タリアは悩む事ばかりである。
そして、戦いが終わったから全て終わりという事はなく、むしろミネルバの戦いはこれからである。
「しかし、この戦いが本番ではありません。本艦は現在マハムール基地へ向けて進行中です。現地に着き次第。貴女にも作戦会議に参加して貰うわ」
「はい。了解です」
「それまでは休息。あなた達も今は体を休めてちょうだい」
「了解しました! では失礼します。グラディス艦長」
キラはタリアに敬礼をしてからブリッジを出て行った。
それからすぐにアーサーが口を開く。
「いやー。しかし、凄かったですねぇ。ヤマト隊長も。シンも!」
「えぇ。そうね。例の機体を迎撃したキラも驚異的だけど、単独で基地を発見したシンも流石だわ」
「うんうん。もしかしたら、とんでもないパイロットに成長するかもしれませんね! シンも! いやー。ヤマト隊長の指導は凄いんだなぁー。ルナマリアも、レイもかなり活躍してましたし。サーペンタイン副隊長も安定して強いですし。ミネルバは安泰ですね!」
「そうね。と言いたいところだけど。いくらパイロットが強くても、私達が気を抜いて良い理由にはならないわ。警戒は怠らないで」
「はい! 承知いたしました!」
アーサーはタリアに敬礼を返し、再び自分の職務へと戻るのだった。
だが、アーサーが言うように、パイロットが強ければ母艦が安泰なのは確かであるし。
彼らが活躍すれば、皆、自分もと奮起している為、非常によい環境であるのは確かだった。
しかし、だからと言って戦場が容易いという事もない為、やはりタリアは気合を入れるのであった。
そんな会話がブリッジで行われている頃。
キラは自室へ向けて歩いていたのだが……部屋の前でウロウロとしている少年を見つけ、クスリと笑みを零す。
「シン君」
「うわぁ!? キラさん!?」
「はい。キラさんです。どうしたのかな?」
「あ、あの、その……いや、やっぱり……」
ブツブツと言葉を零しながら、やっぱり止めたと言おうとしているシンに、キラはフッと笑ってその手を掴んだ。
そして、驚いているシンをそのまま部屋に連れ込む。
「き、キラさん!?」
「良いから。僕は少し話したい気分なんだ。付き合ってくれない? シン君」
「そ、それは……はい。大丈夫です」
シンはおそるおそるキラの部屋に入り、キョロキョロとシンプルで広いキラの部屋を見ながら、ソファーに座った。
そして、キラが入れてくれた飲み物を手に取り、ホッと一息つく。
「ハーブティーなんだけど。どうかな? 口には合う?」
「あ、はい。美味しいです。これ……オーブのお店のお茶ですよね?」
「正解。よく分かるねー」
「はい。前大戦の時、キラさんがよく行っていたお店でしたから」
「なるほど。いい目をしているね。女の子にモテそうだ。あんまり女の子を泣かせちゃ駄目だよ。シン君」
「いやいやいや! 俺、そういうの何も無いんで! 全然! これっぽっちも!」
「ふぅん。シン君はあんまりそういうのに興味はない感じかな? ルナとか、可愛いでしょ? お付き合いしたいなー。とか思わないの?」
「ルナは……まぁ、正直付き合いたいとかよりも、なんか友達って感じの方が強くて」
「ナルホド。じゃ、メイリンは?」
「メイリンは、どうなんでしょう? 考えた事ないですね」
「ほー。ルナよりメイリンの方が女の子女の子してる感じだけど、興味なしと。シン君は自然体な女の子が好きなんだねぇ」
「え!? いや、え!? なんで!?」
「なんでって。ルナは女の子として意識した事があるけど、メイリンには無いんでしょ? ならそういう事じゃないかな。僕に言われるまでメイリンの事、女の子として考えた事、無いでしょ? あくまでルナの妹ってだけで」
「あー、確かに」
「しかし、ルナは確かに好みだけど、ちょっと弱め……な事を考えると。シン君の好みは自然体だけど、守ってあげたい系の女の子……か?」
「分析しないで下さい!」
「アハハ。ごめんごめん。ついね。面白くて」
「だいたい。俺の話ばっかりじゃなくて。キラさんはどうなんです? そういう人って居ないんですか?」
「あぁ、僕? 僕はラクスと付き合ってるよ」
「え!? えぇー!?」
「知らなったの? オーブでもプラントでも何回か報道されてたでしょ」
「いや、それは、そうだったんですけど。なんか解説の人が、外交的なパフォーマンスだって言ってて」
「まぁーた勝手な事言ってるなぁ。悪いけど、僕は本気でラクスと付き合ってるよ」
キラがジト目でシンに言った言葉にシンはポカーンとしながら受け止めてから、ややして、なるほどと頷くのだった。
その反応が何だか面白くてキラはクスリと笑った。
「ガッカリした?」
「え!? いや、そんな事は無いです!」
「えー? そうなのー? それは残念」
「えぇ!?」
「シン君から付き合いたいお姉さん。みたいに思われたら嬉しいなー。って思ってたからさ。ざーんねん」
笑ながら、どこまで本気なのか分からない言葉を放つキラに、シンは苦笑しながらコップを両手で包み込んだ。
そして、ハーブティーを見つめながら言葉を零す。
「でも、俺……嬉しいんです。本当に。キラさんがこうして幸せだって思える場所に居て」
「シン君……」
「前大戦の時、俺……キラさんが撃たれて……もう死んじゃって、もう話せないんだって思ったら、辛くて……だから」
「うん。そうだね。今、生きていて……こうしてシン君とお話が出来る。それはとても素敵な事だと思うし。幸運な事だと思うよ」
「……はい」
落ち込んだまま頷くシンに、キラはなるほどと理解した。
帰還した時から様子がおかしかったのはコレか、と。
「連合軍の基地で、何かあった?」
「っ! なんで……!」
「これでもシン君達の隊長をやってるからね。何となく分かるよ。……嫌な物を見たんだね?」
「はい……連合軍が、基地を民間人に作らせてて……でも、俺が行ったら、警報が鳴って、民間人の人たちが家族の元に逃げたんです。でも……そのせいで、撃たれて……死んじゃって」
「そっか」
ZAFTの基地があるすぐ近くで、前線基地を作ろうとした連合軍が、大規模な人の移動をZAFT側に悟られない様に、周辺の住民を利用した。
しかし、強制的な徴用であり、それが露見する事を恐れて射殺した。
言葉にすればたったそれだけの事だ。
しかし、それがシンにとってどれだけの事か。キラには察する事しか出来ないが、何となく分かる。
キラが前大戦で死にかけた時の事を思い出す程度には、心にダメージを受けたのだろうとキラは心の中でため息を吐いた。
シンは軍人をするには優しすぎる。
そうアスランが言っていた事を思い出して、キラはどうしたものかな、と辛そうな顔で涙をかみ殺しているシンを見て考えるのだった。