シンとキラがキラの部屋で話を始めて一時間が経過した頃。
キラの部屋に来客を告げる通知が届いた。
「ん? あー。シン君」
「はい? なんでしょうか」
「レイ君とシュラ君が遊びに来たみたい。部屋に入って貰っても良いかな?」
「はい。俺は大丈夫です」
キラはシンに許可を取り、部屋の扉を開く。
モビルスーツ隊の隊長であるキラの部屋はかなり広く、レイとシュラを招いてもかなりの余裕がある。
という訳で、キラはレイとシュラにもハーブティーを出し、お話を聞く事にするのだった。
「二人が来た理由を聞きたいところだけど……」
「はい。キラさんの考える通り、シンの事で部屋に来ました」
「っ!? 俺の?」
「あぁ。シンの様子がおかしくてな。悪いがインパルスの戦闘データを見せて貰った」
「それは、別に構わないけど」
「それで、だ。シン。お前が基地の事で何か悩んでいるんじゃないかと考えてな。俺とレイで探していたんだが……どうやら隊長の部屋にいるらしいと聞き、ここまで来たというワケだ」
「副隊長……!」
「シュラで良い。同じ飯を食べ、同じ戦場で戦っている仲間だ。俺は己の役目を全うしている人間を下に見る事はない。お前は戦士として十分に役目を果たしている」
「でも……俺が迂闊に近づいたから……あの島の人たちは」
シンは唇を噛みしめながら言葉を漏らす。
だが、そんなシンにシュラはフッと笑ってから口を開いた。
「何を言う。シン・アスカ。お前が居なければあの島の住人達は、連合軍に利用され、いつ終わるとも分からぬ地獄の中にいたのだ。それを解放したお前が責められる事はどこにもない」
「……」
「ただ、まぁ。しいて言うならば、だ。これからお前が基地を完全に制圧すると告げれば、彼らは逃げなかったかもしれん。そうなれば犠牲は出来なかった可能性がある。だから、そういう風に彼らに告げても良かったかもしれんな」
シュラが言った言葉に、シンはかなり驚いた顔をして周囲を見渡す。
レイは静かに頷いており、シュラは笑みを浮かべたままだ。
そして、キラもやや苦笑しながら頷いている。
シュラの言うコトが正しいのだと。
シンがやった事は間違っていないのだと。
より良い方法はあったかもしれないが……少なくともシンの行動自体は間違えていないのだと。
「シュラさん。俺……!」
「誇れ。シン・アスカ。お前はあの場所に居た民間人にとって救世主だ」
「はい……!」
「あー。でも、シン君。一個だけ注意してね?」
「あ、はい! 何でしょうか!」
「確かに苦しんでいる人を助けるのも大事なんだけど。軍人として作戦も大事だから。まずは軍人として頑張って、その他に余力があったら、そういう方にも目を向けるんだよ。でないと仲間が大変な事になるからね。報告漏れの件もそうだけど。作戦中は作戦に集中するコト。良いね?」
「はい!」
「じゃあ、分かったら今日の報告書をしっかりと書く事。良いね?」
「はい!」
「では解散!」
キラはシンを送り出してから、部屋に残ったシュラとレイへと視線を向ける。
彼らはまだキラに話があるからと部屋に残ったのだが……。
「悪いね。二人とも。部屋に残って貰って」
「いえ」
「姫様はまだ我らに伝えたい事がある様に見えましたので」
「うん……まぁ、そうだね。二人は多分分かってるとは思うけど、一応伝えておこうとは思って」
「シンが救出した民間人の事ですね?」
「うん。シン君は彼らを解放したけど……彼らがあのまま幸せになれるかは微妙な所だなって」
「えぇ。連合軍が再びあの近辺に基地を作る可能性はありますからね。そうなれば、彼らは最悪裏切者として殺される可能性もあります」
「レイは……まぁ、分かってたか」
「はい。ですが、シンにそれを伝える事は難しいかと考え、今回は伝えずに隊長の方針を伺おうかとこちらへ」
「そっか。いつも気を遣ってくれて嬉しいよ。情けない隊長で申し訳ないくらいだ」
「いえ。その様な事はありません」
「そう言ってくれるのは嬉しいけどね。アスランの様には出来ないからさ。アスランなら上手い事シンにも言ってくれるかもしれないけど」
キラはソファーに体重を預けながらため息を吐く。
そんなキラにレイは苦笑しながら告げた。
「キラさん。おそらくキラさんはアスランさんの事を買い被り過ぎです」
「そうかな?」
「えぇ。アスランさんでしたら、おそらくはシンに『戦争はヒーローごっこじゃない』と言って殴りつけるか。もしくはシンが駄目だった点を一個ずつ丁寧に話し、シンを正論で叩き潰しただけでしょう」
「いや、それでもさ。大事な事は伝えられている訳じゃない?」
「どうでしょうか。シンがそれを受け止める事が出来たかは微妙です」
「うーん」
キラはシンとアスランの仲の悪さを思い出しながら唸る。
確かにレイと同じような結果になる可能性は大いにあり得た。
「姫様。心配されずとも、シンは力の責任を理解していますよ。そして、自分の役目もね。だから、彼が暴走する心配は無いと思います」
「そうかなぁ? 少し心配だけど」
「問題は無いと自分も考えています。シンの目標は常にキラさんです。貴女が対話による平和を求めていた。であるならば、シンもそれが理想である事は分かっている。自分から火種を投げる事はありませんよ」
「基地を一方的に破壊した件についても、連合軍基地は稚拙ながらインパルスへと攻撃をしているし。連合軍から何かを言われる事は無いでしょう。何も気にする事はない」
レイとシュラから交互に投げられる言葉に、キラは自分が間違っていた様な気分になり、うーんと再び考え込んでしまった。
そんなキラにレイは笑いながら言葉を向ける。
「キラさん。心配せずとも、連合軍にあの場所を再占領する事は無いと思います。前大戦の時とは違い、彼らには余裕が無い」
「それはそうだけど……」
「それに、カーペンタリアもキラ様の部隊が救済した人々を放置はしないでしょう。だから、キラ様が危惧する様な事は起きませんよ。今回の話はあくまで、シンが苦しめられていた人々を助け、解放した。ただそれだけの話なのです」
ハッキリと告げたレイの言葉に、キラはひとまずの納得を示す。
そして、どこかでシンに今回の事を伝えなくてはいけないなと考えるのだった。
どこかで、シンを追い詰める様な悲劇が起きる前に……。
それから。
ミネルバは先ほどまでの戦闘が何だったのかという程に穏やかな海を超え……無事マハムール基地へと到着した。
「マハムール基地より誘導ビーコン捕捉しました」
「ビーコン固定。入港準備」
「ビーコン固定。入港準備開始します」
『ナブコムオンライン。コンタクト。メリットファイブ。LHM-BB01ミネルバ、アプローチそのまま』
「コントロール、BB01了解」
「入港完了。各員速やかに点検、チェック作業を開始のこと。以降、別命あるまで艦内待機。ヤマト隊長はブリッジへ」
「ふぅ。何とかここまで無事来る事が出来ましたね」
「そうね。地球連合軍も以前の様な大部隊は動かせないという事かもしれないわね」
「確かに。そうですね」
「でもその分。拠点には多くの戦力が集まっている可能性が高いわ。注意してね」
「はい!」
タリアの言葉にアーサーは頷き、敬礼を返した。
そして、タリアやキラと共にマハムール基地の司令官の元へ向かい、そこで作戦についての話を聞くのだった。
「ミネルバ艦長、タリア・グラディスです」
「副長のアーサー・トラインであります」
「ヤマト隊の。キラ・ヤマトです。よろしくお願いします」
「キラ・ヤマト。あぁ。今はそう名乗っておられるのでしたね。キラ様」
「キラ様は止めて下さい。私も一人の軍人ですよ」
「確かに、書類上はそうなっておりますが、我らの気持ちとしては違いますよ。キラ様。前大戦での核ミサイルの迎撃や、ミラージュコロイド用のレーダー開発など。キラ様の御心でプラントは守られております。あぁ、無論、セナ様も同様に」
「ありがとうございます。ですが、プラントが守られているのはZAFTの皆さんが日夜戦っているからだと私は考えておりますから」
「そう言っていただけますと、本国より遠く離れた地球での日々が無駄では無かったのだと、救われる様な想いです」
基地の司令官と握手をし、言葉を交わしながらキラは微笑んだ。
そんなキラに笑みを返しながら基地の司令官は落ち着いた様子で口を開く。
「いや。キラ様に会えた喜びで失念しておりましたが。私はマハムール基地司令官のヨアヒム・ラドルです。遠路お疲れ様です」
「いいえ」
「まずはコーヒーでもいかがです? ご覧の通りの場所ですが、豆だけはいいものが手に入りますんでね」
「ええ、ありがとうございます」
それからヨアヒムはコーヒーを用意し、タリア達に差し出しながら、作戦説明の為に地図を机に映し出すのだった。
「状況はだいぶ厳しそうですわね、こちらの」
「ええ。流石にスエズの戦力には迂闊に手が出せませんでねぇ」
「はぁ……」
「どうしても落としたければ前の大戦の時のように、軌道上から大降下作戦を行うのが一番なんですが。何故かその作戦は議会を通らないらしい」
「こちらに領土的野心はない。と言っている以上、それは出来ないってことかしらね」
タリアの言葉にヨアヒムはコクリと頷き、言葉を続けた。
「いたずらに戦火を拡大させまいとする今の最高評議会と議長の方針を私は支持していますが。……こちらが大人しいことをいいことにやりたい放題もまた困る」
「と言うと? 何かあると言うこと? スエズの他に」
「地球軍は本来ならばこのスエズを拠点に一気にこのマハムールと地中海の先、我等のジブラルタル基地を叩きたいはずです。だが今はそれが思うように出来ない。何故か。理由はここです」
「ユーラシア西側地域か」
「ええ。インド洋、そしてジブラルタルがほぼこちらの勢力圏である現在、この大陸からスエズまで地域の安定は地球軍にとっては絶対です。でなきゃ孤立しますからね、スエズ。なので連中はこの山間、ガルナハンの火力プラントを中心にかなり強引に一大橋頭堡を築き、ユーラシアの抵抗運動にも睨みを利かせて、かろうじてこのスエズまでのラインの確保を図っています。まあおかげでこの辺りの抵抗勢力軍は、ユーラシア中央からの攻撃に曝され南下もままならずと、かなり悲惨な状況になりつつもありましてね」
「しかし逆を言えば、そこさえ落とせばスエズへのラインは分断でき、抵抗勢力軍の支援にもなって間接的にでも地球軍に打撃を与えることが出来ると、そういうことですか」
「おぉ!」
「そういうことですね。だが向こうだってそれは解っている。となれば、そう簡単にはやらせてはくれないというワケですな。こちらからアプローチできるのは唯一この渓谷ですが、当然向こうもそれを見越しておりましてね。ここに陽電子砲を設置し、周りにそのリフレクターを装備した化け物のようなモビルアーマーまで配置している。前にも突破を試みたが結果は散々でした」
「化け物モビルアーマーと言えば……」
「オーブ沖で戦った機体ね。こちらの陽電子砲を撃ち返した」
「つまり……私達の役目は」
「この化け物モビルアーマーを撃破し、陽電子砲を破壊すること……ですね」
ヨアヒムはタリアとキラの会話にその通りとコップを向けながら微笑み返す。
その様子にキラとタリアは厄介な事になってきたなとため息を吐くのだった。