ミーアが突撃してきた為、ミーアがミネルバのクルーに迷惑を掛けないようにと自室へ連れ込んだキラであったが。
ディオキアの基地から聞いた情報では、ミーアは本日ライブの予定があったという事で、キラは何をやっているんだとミーアをライブ会場までセイバーで送り届けるのだった。
ステージ衣装でミネルバに来たから何事かと思っていたが、とキラは心の中で文句をいう。
『みなさ~ん! ラクス・クラインで~す!』
『うぉー!!!!』
「はぁ……ったく。気楽なモンだよ」
そして、キラはセイバーの中でため息を吐きながら、ミーアのライブが終わるまで待っていようと思ったのだが……。
『みなさーん! 今日はー! とっても素晴らしいゲストがいますよー!』
「ん?」
『
セイバーへと振り返り、満面の笑みで早く出てこいと手を振っているミーアにキラは深い深いため息を吐いた。
だが、既に観客はキラの名前を聞いて興奮し、叫んでいるし、出ないワケにはいかない。
というワケで、キラは微妙な笑顔を浮かべたままセイバーのコックピットハッチを開き、ラクスが踊っている手の上に飛び移るのだった。
「……ミーア」
「
「分かったよ。ラクスね。はいはい。ラクスラクス」
心底嫌がっているという顔を隠さないままミーアの名前を呼ぶキラに、ミーアはラクスらしい笑顔を浮かべたまま注意し、キラと共に躍ろうとセイバーの手の上でステップを踏むのだった。
そして、ラクスの歌を聞きながらキラも踊り、ふと下の方を見ると、ミネルバで見た時よりも酷い顔をしたルナマリアとメイリン。
それに、食べ歩きをしていたのか。酷く珍しい物を見た様な顔で食べ物を手に持ちながらキラを見上げているシンとレイとシュラを見つけてしまうのだった。
キラは心の中で再度ため息を吐いて、ミーアとパフォーマンスを続け、ライブが終わってからはミーアを基地の人へ預け、自分はさっさとセイバーでミネルバへと帰投するのだった。
それから艦内で色々な仕事をこなし、夜になってからタリアと共にデュランダル議長からの使いを迎える。
「グラディス艦長。ヤマト隊長。お迎えにあがりました」
「……誰が来るのかと思ったら」
「うん? どうしたんだ。キラ。俺じゃ不満か?」
「別に不満は無いですよ。ヴェステンフルス隊長」
「おいおい他人行儀な呼び方は止めてくれよ。俺とお前の仲だろう? それに、俺は自分の隊を持った覚えはないぜ」
「え? そうなの? 君の真似して肩をオレンジにしている子達が居たけど」
「アレは俺のファンさ」
「へー。ファンなんているの。有名人は凄いねー」
「貴女に言われたら嫌味にしか聞こえないわよ。キラ」
「えー!?」
「そうそう。俺には良いがな。他の奴にはやるなよ。可哀想だからな」
「はー!? いやいや、えー!?」
キラは意味が分からないと叫んでいたが、ハイネ・ヴェステンフルスはそんなキラお無視して、ミネルバが停泊しているドック近くに止めていたエレカの後部ドアを開き、タリアを中に招き入れる。
そして、キラに乗らないのか? と問いかけそのままキラも乗せるのだった。
タリアとキラを乗せたエレカは、最高の乗り心地でディオキアにある最高級ホテルに到着し、ハイネはエレカのキーをホテルマンに預けると、そのまま二人を最上階にあるレストランへと案内するのだった。
最高級ホテルの最上階にたどり着いたキラとタリアは、最上階全てを使ったホテルが貸し切りになっているという事実に、少しばかり気分が下り坂になる。
「じゃ、行きますか。タリアさん」
「そうね」
そして、キラはタリアの手を取り、レストランの中へと足を踏み入れて……窓際の席に座っていたデュランダルの元へと向かう。
「デュランダル議長」
「やぁ。キラ。タリア。時間通りだね」
「仕事ですからね」
「ハハハ。これは冷たいな。しかし、真面目なのは良いことだね」
キラやタリアに冷たくされても、めげずに明るい雰囲気を保とうとするデュランダルは、まるであまり家に帰れない父親の様でもあった。
母と娘に嫌われている父親だ。
しかし、この場に居る三人は家族ではないし。
あくまで仕事上の関係と言えば、仕事上だけの関係だ。
各々の心の内にはそれぞれへの色々な想いがあるとはいえ。
「それで? 僕たちを呼び出したのはどういう理由なんです? タリアさんとの甘い時間に僕を添え物にしたという事でしたらすぐに席を移りますけど」
「ちょっと、キラ」
「それも魅力的ではあるけれどね。今日は少しばかり真面目な話さ」
「……?」
デュランダルが別のテーブルへと目くばせをすると、顔まですっぽりと隠れる様なフードを被った少女がキラ達の座っている場所へと近づいて来た。
その姿に……まだどういう人物か分からない内からキラはハッとした顔になり立ち上がる。
「……ラクス?」
「え?」
キラの歓喜の言葉に応えるように。
タリアの困惑する様な声に応えるように。
その人はフードを外し、穏やかで落ち着いた雰囲気の少女の姿を晒すのだった。
ミーアとよく似たピンク色のふわふわとした髪と、理知的な表情で静かな笑みを浮かべている少女……ラクス・クラインの姿を。
「お久しぶりですわね。キラ」
「うん。本当に……! 本当に、久しぶりだ」
キラはゆっくりとテーブルから離れ、女神の様な慈愛に満ちた微笑みを浮かべるラクスを抱きしめる。
だが、ラクスから重要な話があるのだと言われ、大人しくテーブルへと戻るのだった。
「いや、感動の再会をしている所。悪いね」
「いえ。構いませんよ。ラクスが居るという事はそれだけ重要な話なのでしょう?」
「あぁ。そうなる」
デュランダルは改めて話をしようとしたのだが、その前にと何やら不思議そうな顔をしているタリアへと視線を向けた。
「何か気になる事でもあるかな? タリア」
「いえ……昼間お会いしたラクス様とは随分と雰囲気が……」
「あぁ。それは当然だろう。昼間君が見たラクス嬢は、彼女の影武者だからね」
「影っ!?」
「言っておくが、私が彼女に命じたワケではないよ。彼女自身がそれを望み、現在もそれを続けている。ただそれだけの話さ。我々プラントに住まう者として、ラクス・クラインとキラ・ユラ・アスハは失ってはならぬ人材だからね。ありがたい話ではある」
「そうですわね……」
「議長」
タリアとデュランダルの間で交わされる言葉に、少々嫌な物を感じたキラは咎めるようにデュランダルへと言葉を向けた。
その言葉に、デュランダルは笑みを返しながら謝罪をする。
「あぁ。すまないね。ではそろそろ本題に入ろうか」
デュランダルはタリア、キラ、ラクスと順番に顔を向けながら静かに口を開いた。
「ジブリール氏の居場所だが、候補がかなり絞れてきたよ。もう少しで彼を捕まえる事も可能だろう」
「そうなんですね!」
「あぁ。だが……少々面倒な事もあってね」
「面倒なこと?」
「そう。月面で、ある古い施設が見つかったんだが……調査の結果、そこにロゴスが大きく関わっている事が分かってね。しかも、その施設にオーブの軍人が出入りしているという事が分かったんだ」
「オーブの軍人が?」
「あぁ。近づこうとした我々に発砲したという報告も入っている」
「そんな……! 何かの勘違いでは無いのですか?」
「私もそう思ったのだがね。しかし、今のオーブは君や君の姉君が治める国ではない。地球連合の一部だ。我々コーディネイターを敵視していてもおかしくはないだろう?」
「それは……そうかもしれませんが」
デュランダルも、タリアもラクスも事情を知らない中、実はオーブの自作自演で、代表は未だにカガリとして国は動いているんですよ。
なんて事を言うことも出来ず、キラは大人しくデュランダルの言葉に頷く事しか出来なかった。
そして、そうこうしている間に、デュランダルの言葉は続く。
「無論、私もオーブの全てが敵だとは思っていないよ。だが、現状のままでは、いつかオーブと我々が戦う事になる可能性もあるだろう。それはキラも分かっているだろう?」
「……はい」
「デュランダル議長」
「何かな? ラクス嬢」
「そのオーブの軍人という方は本当にオーブの軍人だったのでしょうか?」
「というと?」
「
「ふむ。確かにその可能性も十分にあると思う」
「であれば、調査はしっかりとお願いいたします。
「そうだね。確かに。ラクス嬢の言う通りだ」
ラクスの言葉にデュランダルは静かに頷き、キラはラクスに感謝の言葉を告げながら首を縦に振る。
そんなキラの様子に、ラクスの前だと普段よりも子供の様な状態になるんだなとタリアは変な所で感心していた。
「しかし、偽物か。その可能性は失念していたね。彼の事もあるのだから、その可能性は考えておくべきだったというのに。すまないね。キラ」
「いえ……しかし、彼というのは」
「俺の事だ。キラ」
「っ!? その、声は」
キラはすぐ後ろから聞こえて来た声に、椅子からバッと立ち上がり、目を見開いた。
ここに居る訳がない。
だって、彼は……アスラン・ザラは、今、キラの姉であるカガリ・ユラ・アスハを守る為にアークエンジェルに居るのだから。
その言葉を必死に飲み込んで、キラはジッとアスランを見据えた。
そこに何か違和感は無いか探す為に。
「なんだ。そんなにジロジロと見て。どこかおかしいか?」
「……ううん。全然」
キラは静かに首を横に振って、苦笑するアスランに否定を返す。
間違いなくここに居るのはアスランである。
キラの記憶が、体が、心がそう叫んでいた。
しかし、少し前にオーブでアスランとかわした言葉が、キラの感情をグチャグチャにかき回していた。
「キラ。ボアズ落下事件の時、地上へ向かう俺に襲い掛かって来た奴が居たんだ」
「……」
「そいつは俺の機体を撃墜させ、ジャスティスを俺から奪っていった」
ドクンドクンとキラの心臓が早くなる。
「そしてソイツは……俺と同じ姿をして、オーブへと向かって行ったんだ」
キラは言葉を無くし、ただアスランの言う言葉を受け、立ち尽くしているのだった。