メイア達が、アルバート、キラ、セナの手を借りて作り出したモビルスーツ『ジン』を見たパトリック・ザラとシーゲル・クラインはその完成度に驚き、更なる改修案の話を聞いて即座に許可を出した。
メイアは二人の反応に納得と驚きを同時に感じつつも、自分たちの努力が認められた事に大きな喜びを感じた。
そして、彼女たちが完成させた『ジン』は、パトリックとシーゲルが率いる『黄道同盟』に多くの人を導き、その勢力を大きくさせていった。
「という訳で! ザラ閣下とシーゲル・クライン同志の許可も下りた! これからジンの正式な増産前に完璧な改修を行う! 良いか!? やるぞ! 諸君!」
「えぇ」
「はぁーい」
「わかりました」
パトリック達に認められたと、やる気満々という様子のメイアに、どこかやる気のない返事を返しながらキラ達は頷いた。
そして、作業開始だ! と高らかに宣言するメイアをそのままに、キラはセナを連れて、アルバートと共に工場の端へと向かった。
そこは中央に置かれたジンからは離れた場所であり、ジンとは関係無さそうな大きな箱が置かれている。
箱の大きさはだいぶ大きく、余裕をもって人が入れそうな物であった。
「む? お前たち。どこへ行くんだ?」
「どこって。開発ですよ」
「そうそう。まだ途中でしたからねー」
「開発? 途中?」
アルバートとキラの言葉にメイアは疑問符を浮かべながらキラ達の後ろに付いて歩き、その箱の中を見た。
箱の中には、大きめのシートとジンの中にあった様な操縦桿や計器があり、まるでコックピットだけを外に持って来たかの様だ。
「これはなんだ?」
「これはシミュレーターですよ。モビルスーツのシミュレーター」
「は? いや、ジンの改修はどうした!? あれだけ完成した時に熱く語っていたじゃないか!」
「だから、ジンの改修案として、一番有用な物を決める為に、まずはシミュレーターでデータを作ろうというワケです」
「……理解出来る様な、出来ない様な話だな?」
メイアはキラがもっともらしく言った言葉に怪訝そうな顔で返すが、キラはこれで話は終わり。とばかりにPCを取り出して、シミュレーターの調整を続けるのだった。
そんなキラに、メイアはまだ終わってないぞ、と話を続ける。
「いや、そもそも、ザラ閣下もシーゲル・クライン同志もそこまで派手な改修を求めてはいない! ジンだって素晴らしい性能なんだ! 無理に改修する必要も無いんじゃないか? もう少しエネルギー効率を上げるとか、安定性を高くするとか。そういう案だってあるだろう?」
「……なるほど。メイアさんは安定した性能を求めていると、そういうワケですね。ではシミュレーターで勝負しましょう。勝てばメイアさんが正しい」
「どうしてそうなるんだ!? というか、勝てば、というのはどういう事だ。シミュレーターはまだ未完成なのだろう!?」
「えぇ、未完成ですよ。僕の案が最高だって事を証明する為に、僕のデータを、僕の『スーパーライジングジンカスタム2号』を調整しているんです」
「は!? シミュレーターを作っているという話では無いのか!? シミュレーター自体は出来ているのか!?」
メイアはキラの意味不明な発言に当然の様な疑問をぶつけるが、キラは何を当たり前の事を言っているんだ。という様な顔でメイアを見つめ返し、はい。と小さく返した。
そんなキラの反応に、メイアはアルバートへも視線を向けるが、アルバートは冷めた顔で。
「たかがシミュレーターを作るのに、それほど時間は掛かりませんよ。重要なのはこれからです。高めた機動性と装甲のバランスが難しい」
「調整をするのなら、全員でやれ! 全員で!」
「だから、その方向性を決める為に、僕らは調整しているという訳です」
「だー!! 時間が! 無いんだ!! 理想やロマンは良いが! まずは完成させないと話にもならないんだぞ!!」
「ふっ、メイアさん」
「なんだ!」
「理想やロマンではありません。僕らなら実現出来るんです。キリッ」
自信満々という様な顔で決め顔をしつつ、メイアの神経を逆なでする様な発言をするキラに、メイアは一瞬で怒りが沸騰したが、何とか気持ちを抑え、自分を落ち着かせる。
しかし、メイアの事など知った事かとばかりにPCへ集中するキラとアルバートに、また沈静化した筈の火山が噴火しそうになるのだった。
「申し訳ございません。メイアさん。こんな事になってしまって」
「いや、良い……本当は良くないが、良い。セナはまだ私の味方だと分かったからな……話を聞いてくれるだけ、良い。あの問題児どもよりは、遥かにマシだ」
「本当に、申し訳ないです」
「あぁ……それで、あの二人はどうすれば止まるんだ?」
「自分の意見が通ったら……でしょうか。もしくは他の機体の方が良いと感じるか」
「無茶苦茶だな。しかし、分かった。解決方法があるのなら、分かった。やろうじゃないか! あのバカ共に目に物を見せてやる!」
メイアは怒りを噴出させたまま、しかし丁寧にセナの車イスを押すと、シミュレーターから離れた場所へセナを連れて行こうとした。
流石にセナが離れるとなってはキラも慌てて作業を中断した……が、メイアの反応は冷たかった。
「なんだ! 勝負をしているのだろう? 私はセナと共に、新しい開発案を作る! ならば、情報漏洩の対策をするのは当然だと思うが!?」
「くっ、セナ! なら、お姉ちゃんと一緒に開発しよう! お姉ちゃんの『スーパーライジングジンカスタム2号』は速いし、強いし、格好いいよ!?」
「ごめんなさい。お姉ちゃん。私は、装甲を薄くして、俊敏性を上げる案には賛成出来ません」
「そ、そんな!」
「パイロットの方には、怪我をして欲しくないですから」
「待って! セナ! 僕なら、全部避けるよ!? 全部避けるからー!! セナ―!!」
キラの悲痛な叫びがセナに届く事はなく、セナはそのままメイアと共に去って行った。
そして、セナはメイア達と合流し、開発を進めながら、一つの提案をメイアにするのだった。
「メイアさん。一つ提案があるのですが」
「なんだ?」
「パトリックおじ様と連絡を取る事は出来ますか?」
「あ、あぁ、それは構わないが……」
「であれば、お願いします。出来れば、アルバートさんやキラお姉ちゃんにはバレない様に」
セナの自信満々な顔にメイアは少しだけ困惑しつつも、秘密工場の中にある会議室へとセナを連れてゆき、パトリックへとすぐに通信を繋げた。
評議員として非常に忙しいパトリックであったが、セナからの連絡というメッセージが有効だったのか、それほど待つことなく通信が繋がる。
『ふむ。私に用事という事だが、どうかしたのかな? セナ君』
「それが、お願い事がありまして」
『願い、か。それは最近遊んでいるオモチャに関する事かな。新しいオモチャも欲しいみたいだが』
「えぇ。そうなんです。実は、最近キラお姉ちゃんとオモチャで遊んでいるのですが、私ではキラお姉ちゃんの相手が出来なくて、アスランお兄ちゃんなら、キラお姉ちゃんの相手が出来るかなって思っていたんです」
『アスランはまだあのオモチャで遊んだことは無いと思うが、それでも良いのかね?』
「はい。アスランお兄ちゃんはとても器用なので、大丈夫だと思います」
『そうか。分かった。なら、アスランをすぐにそちらへ向かわせよう』
「ありがとうございます!」
『いや、いいさ。あのオモチャをプラントの皆に配れば、皆、喜ぶからな』
「……はい」
『ふむ。要件はそれだけかな?』
「はい! ありがとうございます」
『いやいや。構わないさ。あー、いや、最後に一つ良いかな?』
「何でしょうか?」
『キラ君は、器用なのかな? オモチャで遊ぶのに。メイアから少しは聞いたのだが』
「はい。おそらくは、誰よりも」
『……そうか』
「でも」
『うん?』
「キラお姉ちゃんは優しいですから」
『分かっているさ。キラ君には酷い事はしないよ』
「ありがとうございます」
メイアは初めて見るパトリックの慈愛に満ちた優しい微笑みに驚いていたが、すぐに顔を引き締めて、背筋を伸ばした。
そして、話は完全に終わった為、通信は切れ、アスランが来た際の対応をメイアに頼む事となった。
「しかし、何故ザラ閣下のご子息を?」
「キラお姉ちゃんに勝つためです。私が知る限り、キラお姉ちゃんに勝てる人は、アスランお兄ちゃんしか居ませんから」
「なるほど」
「それに。アスランお兄ちゃんはとても器用ですからね。きっとどんな機体でも上手く動かせると思います」
「それは楽しみだな」
「はい!」
それから、さほど時間はかけずにアスランが秘密工場へ来て、驚いているキラをそのままに、セナはアスランへとお願い事をするのだった。
「アスランお兄ちゃん。実は私たちは今、モビルスーツの開発を行っているのですが」
「あぁ、前にも工場へは来たし。父上からも聞いているよ」
「それでですね。第一号は完成したのですが、第一号の改修案でキラお姉ちゃんやアルバートさんとぶつかってしまいまして」
「ふむ」
「私は、自分の案を通したいのですが、キラお姉ちゃんが凄く強いので、アスランお兄ちゃんに手伝って欲しいんです」
「それは構わないけど、僕は何をすれば良いのかな。開発かい?」
「いえ。アスランお兄ちゃんにはパイロットをやって欲しいのです! シミュレーターの!」
「ほぅ……」
「キラお姉ちゃんはとても、とても強いのですが、お願いできますか?」
「勿論だ。セナは僕の妹みたいな子だからね。お願い事は聞くし、叶えるよ」
「ありがとうございます!」
「ただ、練習はさせて欲しいかな」
「はい! 勿論です! シミュレーターは三台ありまして、私達用の物がありますので、そちらを使ってください! 遠慮なく!」
「分かった。じゃあお言葉に甘えて、遠慮なく使わせてもらうよ」
アスランは笑みを浮かべたまま、セナからの説明を聞き、シミュレーターの使い方まで聞いて、モビルスーツの操縦シミュレーションを始めるのだった。
最初は懐疑的であったメイアも、回数を重ねるごとに上手くなってゆくアスランに、これならと瞳を輝かせた。
そして、そんな光景を見ていたアルバートは、ふむと頷きながらどこかへ通信を繋げるのだった。
波乱はまだまだ終わらない。