デュランダルに呼び出され、タリアと共に衝撃的な話を聞かされたキラは、デュランダルの好意でディオキアの最高級ホテルに泊まる事となった。
正直、キラとしてはミネルバに帰りたい気持ちであったのだが、是非にと言われてしまえば断る事も難しい。
そして、キラが最高級ホテルに泊まったという話を聞いたルナマリアはシンやレイと共にキラを迎えに行く為にホテルへと向かったのだが……。
『隊長ー! 隊長ー!!』
外からドンドンと扉を叩く音に目を覚ましたキラは寝ぼけ眼のままベッドの上で手を動かし、何やら柔らかい感触に触れた。
それは、キラにとって酷く知る感触であったが、触れてはいけないモノでもあった。
「ん?」
「……キラぁ」
「んん!? なっ! 何で、君が」
キラはすぐ近くから聞こえて来た声に飛び起きて、同じベッドの上。自分のすぐ隣で寝ていた少女に目を見開いた。
そして、居る筈のない人間。ある筈のない姿。その名を叫ぶ。
「ミーア! 何やってるの!」
「んん~? きらぁ?」
寝ぼけているミーアを、キラは話にならないと切り捨てて、まずは玄関の方からドアをドンドンと叩いている部下の対応に走る。
「お、おはよう! ルナ! あぁ、それにシン君とレイ君も居たんだね」
「き、キラさん!? なんて格好してるんですか!?」
「え? あぁ、ごめんごめん。寝てる時の姿のままだったね」
キラはミーアの件で動揺していたが、自分の格好を見て少しばかり冷静さを取り戻す。
そういえば、なんかホテルに置いてあった服を着たな。と。
服というにはあまりにも薄く、ほぼ肌が透けているネグリジェにルナは叫び、シンとレイは咄嗟に手で自分の目を隠す。
まぁ、隠しても指の隙間から見えているのだが……。
年頃の男の子ならば仕方ないだろう。
しかし、ルナマリアにとっては許しがたい行為であり、何故か事故の様に見せられてしまったシンとレイへと強い視線を向ける。
「ちょっと! キラさんの裸、見てないでしょうね!?」
「み、見てないよ!?」
「あぁ。当然だ」
手で目を隠している二人を見て、ルナマリアは二人の言葉を真実と受け入れた。
そして、未だに裸とほぼ変わらない煽情的な恰好をしている天然ボケ上司に向かってキッと視線を向けた。
さっさとちゃんとした服を着てこいと言い放とうとしたのだが……。
危機感もなく、ポヤポヤとしているキラの向こう側に何やら動くピンク色の何かを見つけ、ルナマリアの気分は一気に怒りという感情で燃え上がった。
「キラぁ? お客様ですの~?」
「アレは……!」
「っ!? だ、駄目だよ。出て来ちゃ。ルナ! とりあえず、僕はすぐに行くから! 食堂で待ってて! シン君とレイ君にもご馳走するからさ。バイキングだって! 美味しい物いっぱいあるから、楽しんでね!」
キラは一気に言葉をまくしたてると、ルナマリアをドアから引き離し、その勢いで扉を閉めた。
まるで見せられないモノが部屋の中にあるかの様に。
その行動にルナマリアの怒りは頂点を突き抜けて、更に上空へと舞い上がり、核爆発を起こすのだった。
「ちょっと!! キラさん! どういう事ですか!! 説明をして下さい! 説明を!!」
しかし、ドンドンドンと扉を叩いても、キラが出て来る事は無かったのである。
結局、どれだけ呼んでもキラは出てこなかったため、ルナマリアはシンとレイの説得もあり、素直に食堂でキラが来るのを待つ事にした。
怒りは全て、後からやってきたキラにぶつけるつもりである。
「お、見ろよ。レイ。うまそうな料理が並んでるぜ?」
「このクオリティで食べ放題とは。おそろしいホテルだな」
「確かに。どれから食べる?」
「キラさんから楽しめと言われている。端から順に食べて行くべきだろう」
「確かに。じゃあそうするか」
呑気にバイキングの料理を見ながら言葉を交わすシンとレイを見て、ルナマリアはハァと大きな声で溜息を吐いた。
衝撃的な隊長の姿を見ても何も変わらない二人を見て、先ほどまで感じていた怒りがバカらしくなったのだ。
「気楽で良いわね。アンタたちは」
「あん? どういう事だよ。ルナ」
「隊長のあんな姿見て。何も感じなかったの?」
「いや! 俺らは何も見てないぞ!? なぁ、レイ」
「あぁ。咄嗟に目を塞いだからな。何も問題はない」
本当は指の隙間から見ていたが、二人は平然と嘘を吐いた。
無論、それはルナマリアが恐ろしかったからなのだが……ルナマリアはその件じゃないと首を横に振る。
「どういう意味だ?」
「ほら。体調の部屋にラクス様が居たでしょ。ラクス様が」
「あぁ。そう言えばキラさんの後ろに誰か居たなぁ」
「そう。キラさんは一人で泊ってるって話だったのに! もう!」
「別に良いんじゃないか? 恋人同士なのだろう? ならばそういう事もするだろう」
「キラさんはそういう事しないの!」
「えぇ……?」
「キラさんだって人間だ。性欲くらいはあるだろう」
「いーやー。聞きたくない聞きたくない。キラさんはその辺の男とは違うんだからー!」
「駄目だこりゃ」
「重症だな」
両耳を手で塞ぎながら叫ぶルナマリアを、シンとレイはどこか憐れむ様な目で見て、言葉を零す。
アカデミー時代から、ルナマリアの様な……キラを理想の王子様の様に見て、疑似的な恋愛ごっこをする者はルナマリアを含め、それなりに居た。
普段は、どこか抜けているが無垢な少女の様な輝きを見せながら、モビルスーツ戦になると見せる圧倒的な実力や格好いい姿に夢を見る様になってしまった哀れな生き物たちである。
酷い者など、あまりにも理想を描き過ぎて、キラは食事をしない、トイレに行かない等、人間ではない何かだと思い込む様な者すら居た。
かなりの重症である。
そして、ルナマリアも病的になってしまった者達程ではないが、アグネスと共に、キラの神聖を心に描いていた。
まぁ、シンやレイから見れば虚像も良い所ではあるのだが……。
それを言ってしまう程、彼らは人でなしでは無かったという話だ。
いや、同じ男子たちがやっていたキラの隠し撮りを見ていた罪悪感から口にはしなかったという話もあるが。
「とにかくさ。ルナも朝飯食べようぜ? 好きな様に食べて良いって話なんだからさ」
「その通りだ。健全な精神は健全な肉体に宿る。ならば、健全な肉体を保つ為にも食事は重要だ」
「はいはい。分かったわよ。アンタら性格はデコボコな癖に、妙な所で気が合ってるわね」
「まぁ」
「ぞれなりに昔から共に居るからな」
「あー。二人ってオーブから一緒なんだっけ」
「そうだ。俺が一人でオーブで居住する事になった時、俺を受け入れてくれたのがアスカ家であり、アスカ家へと俺を誘ってくれたのがシンだ。シンには大きな恩がある」
「いやいや。恩とか大袈裟だって」
「お前にとってはそうかもしれないが、俺にとっては違う」
レイは静かな眼差しでシンを見つめ、そしてシンの向こうに居るであろうアスカ家を見た。
「だから、俺は……『どんな手段を用いたとしても』、平和を作るつもりだ。永遠に終わらない。平和を」
「レイは大げさだって」
「シン」
「それにさ。平和なら俺達で頑張って作ろうぜ。誰も泣かない世界をさ。それはキラさんやセナが望んでた事だろ?」
「……あぁ、そうだな」
レイは俯きながら微笑んで、小さく言葉を落とした。
そんなレイにシンはニカッと笑って、背中を叩く。
シンとレイの関係は、二人だけ世界を作っている様で……ルナマリアは何だかそれが羨ましくなってしまった。
「ちょっと。二人だけで完結しないで、私も混ぜなさいよ!」
「ルナ……!」
「私だってヤマト隊の一員なんだからね。のけ者にはしないで欲しいわ」
「いや、別にのけ者にしたつもりは無いんだけど」
「よく言うわ。二人だけの空間作ってたくせに」
ルナマリアはいじけた様な声を出しながら、シンからの言葉をふわりふわりと避けるが、慌てた様な顔をしているシンとは違い、レイはあくまで冷静にルナマリアの名を呼ぶ。
「ルナマリア」
「うん? 何よ。レイ」
「お前の事は信頼している。もしもの時はシンを頼む」
「いや、もしもの時、って何よ」
「もしもの時は、もしもの時だ」
レイはルナマリアの追及から逃れ、バイキングの方へと向かって行った。
そして、そんなレイを追いかけてシンとルナマリアもバイキングへと向かうのだった。
三人が朝食を楽しみ始めてそれなりに時間が経った頃。
一人の少女がコソコソと隠れながら食堂に姿を見せた。
その背中にはピンク色の髪の少女が抱き着いている。
「どうしたの? キラ」
「いや、ちょっとね」
キラは怒り狂っていたルナマリアがどこに居るのか姿を探しているのだが、奥のテーブルに座っているのか姿が見えない。
結局コソコソと隠れながら時間ばかりが過ぎてしまっていたのだが……そんなキラの背中から声をかける者が居た。
「何をしているんだ。キラ」
「わっ! わわ! あ、アスラン!?」
「いかにも、俺はアスラン・ザラだが? それで? キラは何をやっているんだ」
「いやー。ちょっとねー」
「また何かやらかしたんじゃないだろうな?」
「そ、そんなワケ無いじゃん! 僕はいつだって真っ当に生きてるよ!」
「なら、良いんだがな」
疑う様なアスランの目からキラは逃れるように、サッと視線を逸らす。
そんなキラに、アスランはさらに疑いの気持ちを強めて、視線を強くするのだった。
だが、いつまで経ってもキラが何も言わない為、アスランは小さくため息を吐いてキラの手を取った。
「あ、アスラン!?」
「ほら。朝食を食べるんだろう? 早くしないと時間が無くなるぞ」
「いや、早くしないとって……どういう」
「どういうもこういうも無い。昨日言っただろう? 俺もミネルバに乗るんだ。キラには案内を任せたいって」
「いや、聞いてないですけども」
アスランに手を引かれ、キラはわたわたとしながら食堂へと足を踏み入れた。
が、ちょうどそのタイミングに奥から食事を取りに来たルナマリア達と、別の入り口から食堂に入って来たシュラとイングリットの視線がキラに向けて放たれる。
「「「あ」」」
しかし、瞬間、ルナマリアの目も、シュラの目も鋭くなり、アスランとキラ、そしてキラの背中に居るミーアへと強い視線を投げつけるのだった。