ディオキアの港に停泊していたミネルバのブリッジで、タリアはアスランの着任挨拶を受けながら、キラとアーサーを含めて作戦の話し合いをしていた。
「本日より、ミネルバに配属となりました。アスラン・ザラです」
「……よろしくね。アスラン」
「はい。自分はフェイスですが、艦の事はグラディス艦長に、モビルスーツ隊の事はヤマト隊長の指示に従うつもりです」
「えぇー!? アスランが指揮やってくれないのぉー!?」
「当たり前だろう? 自分の隊の指揮くらい、自分でやれ」
「うぇー。アスランに見られながらやるの、緊張するなぁ」
嫌だ嫌だと口にしながら項垂れるキラに、アスランはフッと笑い、アーサーとタリアは意外そうな顔をしながら二人を見つめた。
そして、顔にでた感情のまま問いかける。
「えと、二人は知り合いなのかしら……あ、いえ。前大戦の時、一緒に戦っていたのは知っているんだけど」
「えぇ。自分とキラは幼馴染という物でして。月の幼年学校の時に、キラとセナに出会いました。それからプラントで一時は共に生活もしていました」
「アスランはもう、色々厳しくて、僕はいつも怒られてましたよ。ふぇーん」
「お前はやれば出来るんだ。甘やかす事はお前の為にならないだろう?」
「君は本当に。ほんとーに。変わらないね。昔から、ずっと」
「それはキラも同じだろ」
「僕は成長してますぅー! 今では立派に隊長さんやってるんだから!」
「ほー。じゃあ見せて貰おうか。立派な隊長さんの姿を」
キラの子供じみた言葉にアスランはクスリと笑って、キラの言葉をそのまま返した。
自身が放ってしまった言葉が原因で言い返されてしまったため、キラはそれ以上何も言えず、うぐっ……! と詰まってしまう。
そして、自らの言葉に苦しみながら、分かったよぉ。とふてくされた様に頷くのだった。
そんな幼い少女の様なキラの頭を撫でながら微笑みかけて、キラが恥ずかしいからとアスランの手を払いのけてから、キラと共にどこか呆れた様な顔をいているタリアへと顔を向ける。
「話を遮ってしまい、失礼しました」
「い、いえ……。もう大丈夫なら、こちらの話をするわ」
「はい。お願いします」
アスランはいつものクールな様子で頷き、キラもキリっとした顔でタリアの示すテーブル上の地図を見やる。
「司令部より入った情報では、スエズに増援が来るみたいなの」
「では、ジブラルタルが?」
「いえ。ジブラルタルを狙うつもりかこちらへ来るかはまだ判らないわ。でもこの時期の増援なら巻き返しと見るのが常道でしょう。スエズへの陸路は立て直したいでしょうし。司令部も同意見よ。もう本当に鬩ぎ合いね。ま、いつものことだけど」
「はぁ……」
「増援を含めた連合の部隊はどの程度の規模になるんですか?」
「数も相当だけど……アレがいるのよ。インド洋にいた地球軍空母が」
「……なるほど。戦力を集めて来ましたか」
「そうね。いよいよこちらを潰すつもり……って感じかしら」
「嫌ですねぇ」
「しかし、こちらにはヤマト隊長に、あのアスラン・ザラが居ますからね! 負ける事は無いでしょう!」
「それはどうかしらね」
「え? どういう事ですか。艦長」
「今度の地球軍の増援部隊として来たのは……オーブ軍ということなの」
「えぇぇえええ!?」
タリアがチラリとキラを伺いながら放った言葉に、アーサーが驚き、オーバーリアクションで叫んだ。
その様子にタリアはため息を吐きながら、アーサーではなくキラを見据える。
「……パイロットが一人増えた事で、貴女が出撃しなくても、まぁ、何とかなるとは思うけど」
「僕は……戦いますよ」
「キラ」
「アスラン?」
「俺もお前は戦うべきじゃないと思っている。別に無理してお前が戦う必要はないだろう」
「でも……そう言うのなら、君だって戦えないでしょ? オーブにはカガリも居るんだからさ」
「何を言っているんだ? カガリは既にオーブを脱出しているだろう。なら心配は要らない。まぁ、キラが姉を心配する気持ちは分かるけどな。戦場に出るのなら、中途半端な気持ちで出てはいけない」
「……」
キラはジッとアスランを見つめ、そしてフッと笑って「そうだね」と呟いた。
だが、しかしだ。
「僕もお姉ちゃんとの約束があるしさ。行くよ」
「約束?」
「うん。あれ? アスランは、忘れちゃった? 僕と君とラクスとカガリ。四人で約束したじゃない。『もし、オーブが……カガリがオーブを治める事が出来なくなったら、僕が代わりに代表になるよ』ってさ。ちゃんと覚えてる?」
「あぁ。覚えてるよ」
「なら、カガリがオーブを出た以上、オーブの代表は仮だけど僕なの。だから、オーブを止めなきゃ。もしかしたら説得で帰ってくれるかもしれないしさ」
「そうだな……確かに説得を試してみるのは良いかもしれないな」
アスランはキラの言葉に頷き、モビルスーツ部隊の動きをキラと共有してゆく。
そして、ミネルバとしての動きをタリア達と話し合い……黒海への地球軍侵攻阻止作戦の詳細を詰めるのだった。
それから。
全ての話し合いは終わり、キラは作戦前にディオキアの基地に居るラクスの元へと向かった。
議長と一緒にプラントへと戻る彼女に、最後の挨拶をする為に。
「ラクス」
「キラ……! 来てくださったのですね」
「うん。最後にラクスと話がしたくてさ」
ラクスを軽く抱きしめて……キラは微笑んだ。
そして、いつもラクスとそうしている様に、柔らかい言葉を向ける。
「ごめんね。本当はプラントまで送りたいんだけど」
「いえ。
「うん。カガリとの約束もあるしね」
「はい。そうですわね。カガリさんがオーブを離れた以上、キラはオーブの代表として動かねばなりませんからね」
「覚えててくれたんだ」
「当然ですわ。忘れるハズなどありません」
「そっか……ありがとう、ラクス」
キラはギュッとラクスを強く抱きしめて、その体温を感じる。
そして、しばらくそうしていると、やや軽い調子の声が近くから聞こえた。
「キラ。そろそろ時間だ」
「あぁ、ハイネ。ごめん。待たせちゃって」
「良いさ。少しばかり輸送機に頑張って貰えば予定通り着くだろうからな。お姫様同士の美しい友情も見せて貰った事だし。皆喜んで働くだろうよ」
「ふふ。アリガト。ハイネも気を付けてね」
「あぁ。議長とお姫様の護衛は任せておけ。傷一つなく、プラントへ届けてやる」
「うん。信頼してる」
キラはハイネに微笑みかけ、ラクスから離れた。
そして、微笑みながらキラとラクスを見ていたデュランダルに一礼し、彼らと別れる。
それから、輸送機が空へと飛び立っていく姿を見ながら、静かに目を閉じて……祈りの言葉を口にした。
「どうか無事で……ラクス」
キラが飛び去ってゆく輸送機を見送っている頃、ミネルバに居たアスランは格納庫でシン達に作戦情報を伝えていた。
「作戦は以上だ」
「「「……」」」
「返事がないが、理解したという事で良いのか?」
二度続けて放たれたアスランの言葉に、シュラはチッと舌打ちをしながら、アスランを睨みつける。
「なんだ、その態度は」
「これは失礼。フェイスのアスラン・ザラ様には少々失礼だったかな」
「何……?」
「元々、ヤマト隊は自由がモットーでね。俺も隊長も自由にやっていたんだが。どこの誰とも知らない奴が、急に偉そうな顔をして来たから苛立っているだけですよ。フェイス殿!」
「シュラ・サーペンタイン。それは挑発か?」
「さて。何のことやら」
シュラはへッと笑いながらアスランから視線を逸らした。
が、アスランはそれを挑発と受け取り、正面からシュラへと軍人とは。規律とは。という軍隊として当たり前の言葉を向けるのだった。
そんな二人をよそに、シンはアスランから告げられた言葉に顔を蒼くしていた。
「オーブが……増援」
「シン。大丈夫?」
「無理はするな。シン」
「あぁ……悪い。ルナ、レイ」
「良いわよ。シンは元々オーブの出身だもんね。辛いわよね。あ、って、それはレイもか」
「あぁ」
「……レイは、大丈夫なのか?」
「無論だ。いずれこうなる事は分かっていた。俺は俺の任務をこなすだけだ。それが軍人としての正しい姿だと俺は思う」
「そっか。そうだよな」
「だが、無理はするな。シン。戦場に迷いを持ち込めば、死ぬことになる」
「あぁ……分かってるさ」
「なら、良い」
シンは、ルナマリアやレイの言葉を受け、右手を強く握りしめると小さく息を吐いて心の中に故郷を思う。
戦いたい訳がない。
訳はないが……自分が戦わなければキラがその分、無理をするだろう。
ただでさえオーブと戦う状況に心を痛めているだろうに。
無理をすれば余計に傷つく事になる。
それだけは絶対に駄目だと、シンは弱音をかみ殺して、戦う覚悟を決めるのだった。
そして。
彼らの様々な想いをよそに、世界は加速的に状況を進めてゆく。
予定よりもかなり遅れて到着したオーブ艦隊に、ネオは呆れた様なため息を零しながら、通信を繋ぐように指示した。
地球連合軍の旗艦J.P.ジョーンズのモニターに映ったのは薄く笑みを浮かべた一人の男だ。
「随分と、時間がかかりましたなぁ。ようやくご到着ですか」
『すまないね。我々は国防ばかり行っていたモノで。遠征は初めてなんだ』
「それはそれは」
『だから、こればかりは許して欲しい。まぁ、慣れない遠征で艦も人員もボロボロだが……ここまで来ることが出来たのは行幸だったよ』
「なるほど。しかし、戦場にさえ来ればもう安心でしょう。噂に聞くオーブ艦隊の勇猛さ。期待しておりますよ」
『えぇ。無論ですとも。しかし、我らは守ってばかりでね。戦いはそれほど。まずは地球連合軍艦隊の力強さを見せていただきたい物ですなぁ』
「それは……」
『ユウナ様。随伴艦が遅れています』
『なに? それでは格好がつかないだろう。速度を上げる様に指示しろ』
『しかし、それでは……』
『今ここは外交の場なのだ。見た目は何よりも大事だぞ? うん? っと、失礼。身内の恥を見せてしまった様だ。また、こちらより通信を繋げましょう』
ユウナは言うだけ言って、通信をサッと切ってしまう。
その横暴な振る舞いに、ネオの副官として立っていた男は、微妙な顔でネオを見やった。
「大丈夫でしょうか。アレは」
「さて。どうだろうな」
「いや、どうだろうなって……!」
「ハァ……ユウナ・ロマ・セイラン。相当なタヌキの様だな。まったく、どいつもコイツも……」
「え?」
「いや、こちらの話だ。気にするな」
ネオは仮面の下で笑みを深めながら、的確に指示を出してゆく。
既に監視の部隊からミネルバがディオキアの基地を出発したという報告は受けているのだ。
なれば、やれる様にやるしかない。
今ある物を全て使って、うまく戦場を動かしてゆくしかないのだった。