セイバーとインパルスの加速力で、現地へと向かったキラはコックピットから降りてアークエンジェルから来る人達を待とうとしたのだが……。
「自分はこのままセイバーで待ちます」
「良いの?」
「はい。万が一敵が来た場合には迎撃の必要がありますし。直接の護衛はシンに任せようかと」
「いや、護衛って……会うのはアークエンジェルの人たちだよ」
「キラさん」
キラの言葉を遮って、レイは真剣な眼差しでキラを射抜く。
その目の鋭さにキラは言葉を詰まらせてしまった。
「な、なに……?」
「ラクス・クラインの偽物が現れたと聞きました。瓜二つの見た目をしていると。そう考えれば、彼らの偽物が現れてもおかしくはありません」
「それは……まぁ、そうかもしれないけど……でもアークエンジェルが」
「キラさん。同型艦を作るのはさほど難しくはありません。前大戦の時にもアークエンジェルの同型艦は居たでしょう?」
「でも、オーブの回線を」
「オーブは、本当に信頼出来ますか?」
「何を、言って……」
「俺は、前大戦の時に見ました。裏切者を。キラさんとセナの理想を汚し、己の欲望で二人を危険に晒した奴を」
「……レイ君」
右手を強く握りしめながらキラに強い視線と言葉を向けるレイに、キラは酷く申し訳ない気持ちになっていた。
何とか無事に生き残る事が出来たが、前大戦はまだ幼い子供に深い傷を残してしまったのだと。
だから、キラはあえて言葉を飲み込んで、微笑みながらレイに小さく頷いた。
「分かった。ありがとう。レイ君。心配してくれて」
「いえ……」
「じゃあ、もし何かあったらレイ君にお願いしようかな?」
「はい。必ずお守りします。シン。聞こえているな」
『あぁ。聞こえてる』
「見えているモノが真実とは限らない。お前も気を抜くな」
『分かってるよ』
シンは通信でレイに頷きながら持ってきた銃の確認をして懐に忍ばせる。
もし何かあった時には、必ずキラを護ると心に誓って。
そして、心配性な二人に見守られながらキラは海岸沿いの崖に降り立って、アークエンジェルから来るであろう人々を待った。
キラ達が降りてからそれほどせずに、フリーダムとムラサメが崖に降り立ってコックピットからキラにとって良く見慣れた人々が現れた。
まず真っ先に飛び出して来たのはキラの姉を自称するカガリで……。
「キラぁぁああ!」
「っ! カガリ! 久しぶり……って程でも無いけど、元気してた?」
「あぁ! 元気だったぞ! キラのお姉ちゃんは元気だ!」
「はいはい。今日も可愛い妹だね」
いつものやり取りをしつつ、キラはカガリを抱きとめたまま、その背中の向こうに居る二人を見つめる。
藍色の髪をした青年、アスラン・ザラと、ピンク色の髪をした女性ラクス・クラインを。
そして、視線を動かしてムラサメのコックピットからチラッと顔を出しているミリアリアを見つけてため息を一つ吐いた。
「初めましての方が良い? それとも久しぶりって言った方がいいかな?」
「キラ! 俺は……!」
「言わないで。言葉には何も意味が無いから。だって、君たちはアスランとラクスの記憶を持っているんでしょう?」
「記憶!?」
キラの言葉にアスランは大きく目を見開いた。
しかし、ラクスはスッと目を細めてキラの言葉に意識を向けている。
「そんなバカな! 記憶!? どうやって」
「分からないフリが上手いなぁ。でも良いよ。説明してあげる。プラントでさ。実施してる健康診断。アレで記憶を抜き出す事が出来るみたいだよ」
「そんな事出来る訳が……! いや、出来るとしても許されるわけがない!」
「よく言うよ。僕とセナが初めてプラントに行った時、何をされたか。僕はよく覚えてるよ?」
「「っ!」」
キラの突き刺すような言葉に、アスランとラクスは今度こそ完全に言葉を失ってしまった。
それは、遥かな昔。
セナが月で撃たれた後、プラントへ向かったキラとセナが健康診断という名目で体を調べられたのだ。
その能力や、子供を作る為の相性やら、彼女の子供がどの程度優秀になるか等。
ハッキングによりその事実を知ったキラは、深い失望を覚えたが、それでもセナを救ってくれた恩で何も言うコトは無かった。
今日までは。
「僕はね。今、何も信用するつもりは無いんだ。ZAFTも連合も、君たちも」
「そんな」
「では……何故、今日はここに?」
焦るアスランを制して、ラクスはあくまで冷静にキラへと問いかけた。
そのラクスの柔らかい眼差しにも微笑み返す事はなく、キラはあくまで冷静に言葉を向ける。
「コレ、返そうと思ってさ」
キラは持ってきたバッグの中からかつてアスランに貰ったロボット鳥を取り出しアスランに向ける。
電源が切られ、動かないソレに、アスランは心の中をかき乱される様な気持ちになった。
「電源を付けると、僕の居場所がバレるからさ。ずっと電源を切ってたんだ。利用されたくは無いからね」
「キラ……! 俺は」
「言ったでしょ? 言葉は不要だって。でもね。直接会ってみて、僕はやっぱり君が偽物だって確信が持てたよ」
「キラ!?」
キラの言葉に抱き着いていたカガリが驚き声を上げる。
が、キラは何も気にせずカガリを軽く突き放した。
「カガリの偽物まで用意するなんてね。本当に用意周到だ。アークエンジェルで介入してきたのも、分かりやすいアピールだったよ」
「……!」
「それに、そこにまさかミリアリアまで連れて来るなんて……よくやるね。でもさ。こういう事を重ねれば重ねる程疑わしいって感じるよ。だって本物ならもっと堂々としてるべきじゃない?」
「しかし、自分という存在が奪われそうになっているのなら、焦ると思いませんか? そうして色々な手を尽してしまうという事もあるでしょう?」
「うん。君の言いたいことは分かるよ。でもさ。僕の知っている本物のラクスなら『名前も姿も欲しいのならあげる』って言うんじゃないかな」
「……!」
「だから、その名前に縋る時点で……」
「違うぞ! キラ!」
「……カガリ」
「アスランもラクスも、自分の名前が大事なんじゃない! お前の事が」
「だからさ……言ったよね。口では何とでも言えるって」
「ではキラ。何があれば貴女は私達を信用して下さるのですか?」
「さて……どうだろうね。僕はきっと何を持ってきても、信用なんかしないと思うよ。だって、僕から見れば全てが疑わしいもの。全てが……さ」
キラは言葉を向けながらジッと彼らを見て、フッと笑う。
もはや何も言い返す事は出来ないのだろう。
ならば、話は終わりだとシンに向きなおって、帰ろうと言おうとした。
しかしそんなキラをアスランが呼び止めようとして……セイバーからレイの声が響いた。
『キラさんから離れろ!』
「っ! その声! レイか!」
「どうしたの!? レイ君」
『レーダーに熱源。こちらに複数の機体が向かってきています。熱紋照合……地球連合軍です!』
「そっか。じゃあ、シン。逃げるよ」
「で、でも……! アスラン達は」
「よく考えて。シン。僕たちがここに居るのは誰も知らない。そして地球連合軍もZAFTもこの付近に基地は無い。偶然発見する可能性は薄いだろう。となれば?」
「誰かが……俺たちの情報を流した」
「そういう事。さ、早く逃げるよ」
「待て! キラ! 俺たちは」
「『アスラン』」
「っ!? キラ?」
「これは僕の予測だけど……偽物は、より深い記憶を知る事は出来ないんじゃないかな。移せたのは経験とかより鮮明な記憶とか、そういうのだけで……多分。感情は移せない」
「なにを言って」
「カガリってさ。実は結構少女趣味なんだよね。だから、プロポーズするなら……もっとロマンティックな場所が良いよ」
「キラァ!? おまっ! 私がそんなワケ無いだろう! そんな私が……!」
「……なるほど。そうか」
「お前も! そうかじゃない!!」
「ふふっ。じゃあね。カガリ……それに『ラクス』」
「えぇ。キラもどうかご無事で」
「うん」
キラはセイバーの手に乗り、短く彼らと会話をしてからセイバーのコックピットに飛び込んだ。
そして、目じりに浮かんでしまった涙をすぐに拭い、インパルスに合図をしてからセイバーを高速で飛び立たせる。
流石にここで戦闘を行うつもりは無いようで、キラは急いでインパルスと共に海の向こうへと飛んでいくのだった。
地球連合軍の部隊はそれなりに早く動けるようだが、本気で逃げるインパルスやセイバーに追いつける筈もなく、しばらくして、レーダーから完全に姿を消した。
完全に安全な空域まで移動してからキラは大きくため息を吐いて、バッグから一つの装置を取り出し、空中で静止しているセイバーのコックピットで装置を起動する。
「キラさん? それは」
「盗聴器を見つける奴」
キラはしばらくセイバーのコックピットを調べていたが、何も見つける事は出来なかった。
「どうやら、盗聴器とかは無いみたいだね」
「もしやZAFTに裏切者が?」
「分からないけどね。可能性はどこにでもある、でしょ?」
「……そうですね」
キラはレイと話しながらセイバーの通信装置を全て消し、レイにだけ聞こえる声で呟く様に告げた。
「レイ君。アークエンジェルのみんなは、本物だ」
「まさか、分かったのですか?」
「うん。まぁ、それなりに長い付き合いだからね」
「しかし、疑っている様な口調でしたが……」
「それはほら。僕らを監視している人がいるなら、あぁ言っておけば安心するでしょ? だからさ」
「なるほど」
「でも、シン君も勘違いしちゃってるかもしれないから、レイ君からどこかで伝えて欲しいな。僕は監視されてるだろうけど、レイ君ならそこまで厳しくないと思うから」
「承知いたしました。お任せください」
「ありがとう。本当に頼りになるよ」
安心した様に微笑むキラに、レイもまた薄く微笑みを浮かべる。
「しかし、キラさんの言葉から推察すると、偽物は……やはりミネルバのアスラン・ザラですか」
「うん。そう。ホント、よく出来てるよ。何度も本物かもーって思っちゃった」
「確かに。自分もシンも、完全に信じていましたね」
「厄介な相手だよ。でも、そう考えるとデュランダル議長も怪しいのかなぁ……」
「キラさん」
「うん?」
「議長はおそらく敵ではありません」
「そうなの? でも、あのアスランとラクスは議長から紹介されたんだけど」
「無論、可能性は捨てきれませんが……本物そっくりの存在が現れれば、誰でも信じてしまいます。特に議長は彼らとの繋がりも薄いですから」
「……まぁ、確かにねぇ」
「ですから。まだデュランダル議長まで疑うのは早計かと」
「確かにね。他でもないレイ君の言葉だ。信じるとするよ」
「ありがとうございます」
「いえいえ」
「じゃあ、ミネルバに帰ろうか」
「はい」
そしてキラはレイやシンと共にミネルバへと戻り、シンの事はレイに任せ、キラ自身は艦長であるタリアの元へ向かうのだった。