キラと別れ、地球連合軍の大部隊から何とか逃げ出してアークエンジェルへと戻って来たカガリであったが、酷く憤慨した様子で足で強く地面を叩きながら歩く。
その様子にやや呆れながらアスランはカガリに声を掛けた。
「落ち着けよ。カガリ」
「これが落ち着いていられるか! キラの奴! こちらを偽物などと! 曇ってるんじゃないか! アイツの目は!」
「その様な事はございませんわ」
「ラクス!」
「ですが……どうやら考えていた以上にキラは危険な所に居る様ですね」
「そうですわね」
「どういう事だ?」
「事情はブリッジで話す。それに……すぐにでも確認しなきゃいけない事もあるみたいだしな」
アスランはキラから託されたロボット鳥『トリィ』を見つめながら言葉を零した。
そして、アスランとラクス、カガリ、ミリアリアは急いでアークエンジェルのブリッジへと向かい、託された物を見るのだった。
アスランが託されたトリィにはこれまでにキラがプラントで集めた情報の全てが入っており、デュランダル議長が秘密裏に開発を進めている要塞の情報まで収められていた。
「どこを探しても見つからない新型ジェネシスが……まさか移動要塞に搭載されていたとはな」
「やはりデュランダル議長は黒か」
「しかし、メサイアは既に完成しているんだろう? なら、これで地球を撃てば全て終わりなハズだ。議長が本気でナチュラルを滅ぼすつもりならもう撃ってるだろう」
「そこは民意があるからでは?」
「プラントに核が放たれた時点で、プラント市民はジェネシスによる報復も認めただろう。滅ぼさなければ、滅ぼされる状況だったからな。しかし、それでも撃たなかった。議長の狙いは別にあるんじゃないか?」
「でしたら……やはりバルトフェルド隊長が見つけて下さった、メンデルのデータが本命なのでは?」
「デスティニープランですか……しかし、どうやって施行するというのですか? プラントはともかく地球に住まう者達はこの様なモノ、許容できませんよ。遺伝子で職業や地位を決めるとなれば、コーディネーター優位な未来が待っているだけですからね」
「そうよねぇ。ナチュラルの私達がそれを素直に受け入れる訳がないわ」
ラクスの言葉にナタルとマリューは続けて異を唱える。
二人の冷静な意見にラクスは確かに、と納得しながら再び思考の海に沈んだ。
それによりブリッジに沈黙が落ちたのだが……今まで黙って聞いていた男がここで口を開く。
「あぁ、だからキラとセナの嬢ちゃんが欲しいのか。プラントは」
「ムウ? どういう意味?」
「そのまんまの意味だよ。前大戦の時も、俺たちはキラやセナの理想を信じて戦ってただろ? なら、今回も同じだ。あの二人が正しいんだって言えば、結構な奴が信じるんじゃないか?」
「いやそれは……確かにそうかもしれないけど。どこまで信じるかしら」
「俺は全人類って言っても、驚きゃしないがね」
「いえ! 私は……!」
「まぁ、一部は……ナタルみたいに反発する人もいるだろうけど。確かにそうよね。私だって何も知らなければ信じてしまいそうだわ」
マリューが冷静に返した言葉に、ナタルはグッと言葉を飲み込んでしまった。
しかし、カガリはムウの言葉に疑問を返す。
「しかし、そんな計画にあの二人が乗るか? とても信じられないが」
「でも、ほら。偽物は作れるワケだろ? なら、偽物に喋らせる事だって出来るってわけだ」
「だが、そういう選択をするのなら、偽物をさっさと作って排除する方が良いだろう。だが、プラントはわざわざラクスやアスランの偽物を作ってまでキラを確保しようとしている。おかしいじゃないか」
カガリのもっともな指摘に、アスランもムウも完全に黙ってしまった。
言い返す言葉はない。
確かに言われてみれば、議長を黒幕とした場合行動が何やらおかしいのだ。
どういう事か。
「もしかして。議長が黒幕じゃないんじゃないか?」
「でも、メサイアを作ってるのも議長だし。デスティニープランも議長が発案者なんでしょう?」
「そりゃそうだろうけどさ。議長だって、デスティニープランがそのまんま世界で使えるとは思ってない訳だろ? だからキラやセナをどうにかしようとしてる。でも、そんな事をする意味って何だよ。何でそこまでデスティニープランを施行させたい」
ムウの言葉に、マリューは少し考えて……言葉を零す。
「もしかして……デュランダル議長は……黒幕の正体は知っていて、協力もしているけれど……乗り気じゃない?」
「かもな」
「でも……デュランダル議長をある意味で利用できる人って……どんな人かしら」
「まさかとは思いますが、父かもしれません」
「ラクスさんのお父さんっていうと」
「シーゲル・クライン元議長ですね。前大戦で死亡したという事になっていますが」
「いえ。父は生きています。そして、パトリック・ザラ氏もまた」
「まさか! 父上が!?」
「はい。
「デュランダル議長はクライン派。そしてクライン派の元締めはシーゲル・クラインか。確かに分かりやすい構図だな」
「そう考えると、デスティニープランは穏健派なりの戦争回避の手段なのかもしれないわね。過激派と違って、ナチュラルを全て滅ぼす事はしないけど、二度とプラントと戦争しない為に、ナチュラルを管理するつもりかしら」
「しかし、シーゲルおじさんがここまでやるだろうか」
「アスラン。お忘れかもしれませんが……地球にニュートロンジャマーを落としたのは父なのですよ」
「……ラクス」
「可能性としては十分にあり得ます。ですが、もし父がこの様な事を考えているのなら……
「父を止めるって……まさか」
「はい。
「危険だ!」
「このまま、ただこうして何もしないまま時を過ごしていても事態は悪くなっていくばかりです。動ける時に動かねばなりません」
「しかし」
「それに……貴方も前大戦の際、お父上を止める為に危険を承知でプラントへ向かったのでしょう? ならば私も同じ事です。父が暴走しているのなら、
「ラクス……!」
「心配すんなって! 坊主! お姫様は俺が無事に宇宙まで届けてやる!」
「ムウ!?」
「アークエンジェルには坊主たちが残るんだろ? なら、戦力としては十分だ。俺はちょっくら宇宙に行って虎と一緒に姫様の護衛をするさ」
「ムウ様。よろしくお願いいたします」
「おう。任せとけ!」
ムウが頼りになる笑顔を浮かべながらアスランの背を叩き、当然の様にラクスもムウの言葉に頷く。
こんな状況になってはアスランがこれ以上言える事は何もなく、ただ分かりましたと小さく頷くのだった。
そして、話の続きはラクスが宇宙で情報を集めてからとラクスは早々に宇宙へと飛び立つ事になった。
「アークエンジェル発進。海面に浮上後、艦首上げ20。ローエングリンを発射し、ムラサメを出撃させます」
「了解。アークエンジェル発進。速度上げ……海面より浮上します」
順調にアークエンジェルは海中から浮上し、艦首を上空へ向けようとしたのだが……。
「艦長! 上空に強大なエネルギー!」
「何!?」
「回避!!」
マリューが叫ぶよりも早くノイマンがアークエンジェルを全力で動かし上空から落ちて来る巨大なエネルギー砲をかわす。
だが、その巨大なエネルギーは海を爆発させ、巻き上げられた海水が雨の様に降り注ぎ、アークエンジェルを一瞬だが、水の壁で隠した。
「今よ! 艦首上げ20! ローエングリンスタンバイ!」
「カタパルト発進スタンバイ!」
「てぇー!!」
「フラガ機発進。どうぞ!!」
一瞬の間に宇宙への道を開き、アークエンジェルのカタパルトで飛び出したムラサメはローエングリンによって作られた道を驚異的な速さで駆け抜けて上空を目指した。
ムラサメの中ではラクスが強すぎるGに耐える様にシートにしがみついていたが、上空から感じる悪意にムウへ叫んだ。
「ムウ様!」
「くぅんのぉぉおおおお!!」
そして、アークエンジェルでもまた、緊急の報告が入る。
「上空より再び強大なエネルギー!!」
「アークエンジェルの全ての推進装置を切って!! 更にローエングリン! 再び発射!!」
「はい!」
推進装置により空中に浮いている事が不可能となったアークエンジェルは、その巨大な質量を海中に向けて落としてゆく。
「総員衝撃に備えて!!」
そして、大きな水柱を立てながら、ローエングリンを発射した事による影響もあって勢いよく海中へと落ちていった。
上空より落ちて来たエネルギー砲は、アークエンジェルのローエングリンによって勢いが僅かに削がれ、アークエンジェルへとぶつかる前に海面に激突し、再び爆発と海水を蒸発させるだけで終わるのだった。
「艦の状況は?」
「装甲に僅かなダメージ。航行に問題はありません」
「そう……ムラサメは?」
「信号消えておりません。無事回避した様です」
「良かったわ。間一髪って所ね」
マリューは海中から空を眺めながら深いため息を吐いた。
先ほどの攻撃が何だったのか分からないが……どうやら敵は既にアークエンジェルを捕捉しているらしいと。
アークエンジェルが狙撃された地点から遠く離れたある施設で、『メメントモリ』の砲撃による報告を受けていた金髪の男はその結果を聞き、フンと鼻を鳴らした。
「失敗しましたか。前大戦の時同様に……かなりしぶとい様ですねぇ」
「申し訳ございません」
「いえいえ。サザーランド少将が謝る様な事ではありませんよ。こればかりは衛星兵器からの砲撃をかわすなんて異常な行動が出来るあの艦の方が悪い」
「ハッ。ありがとうございます」
「ジブリールを焚きつけて、キラとカガリ・ユラ・アスハを外に追い出した所までは良かったんですけどねぇ。いやはや。本当にしぶとい。厄介な国だよ。オーブは」
「左様ですな」
「しかし、それももう時間の問題だ」
「では?」
「あぁ。プラントのギルバート・デュランダルとも話が付いたよ。アークエンジェルには沈んでもらう。カガリ・ユラ・アスハと共にね」
「承知いたしました」
「さぁ。キラ。君が落ちるのもあと少しだ。セナと共に僕の手に堕ちて来ると良い」
静かな部屋の中で男は口角を上げて笑う。
前大戦の時から、何も変わっていない悪意をその身に宿しながら。