シンがセナとステラをミネルバへと連れ込んだことで、医務室では大きな騒ぎとなったが、セナが目覚めた事と軍医が騒ぐなら外でやれと言った事で、ひとまずシンはステラをミネルバの外へと連れて行く事にした。
しかし、ステラはセナと離れる事を嫌がった為、結局セナもまた軍医と共にミネルバの外へ向かう事になってしまう。
「ハァ……それで? 状況を一から説明して貰えるかしら」
「はい……」
そして、タリアは額に手を当てながらため息と共にシンへと事情の説明を求める。
「地球軍のモビルスーツが攻めてきて、俺はインパルスで出撃したんですけど、カオスと交戦している時に、ガイアから攻撃されて、その時キラさんがガイアにセナが居るからガイアを捕獲して欲しいって言ってて、ガイアを捕獲したら中にステラが居たんです。ステラはディオキアで会った女の子で……でも地球軍なんて知らなくて」
「……意味が分からないわね。それで? キラはどこに居るの?」
「分かりません……。でも、通信は敵機から聞こえてました」
「敵機から……どういう事?」
タリアは何一つとして情報が増えていない中、ひたすらに考えていた。
が、そんなタリアの疑問に答える様に、一人の警備兵がタリアの元へとやってきた。
「艦長。艦長に話があるという男が」
「今度は何!?」
「申し訳ございません。キラ様の件ですぐに話したい事があると言っておりまして」
「キラの件? 良いわ。通して」
タリアは次から次へと起こる意味不明な事態にため息を吐きながら警備兵に言葉を返し、そして現れた一人の男に目を細める。
どこからどう見ても怪しい男であった。
白衣に、顔を隠す仮面をしている。
不審者ここに極まれりという風貌である。
「私はメンデル仮面」
「……それで? そのメンデル仮面さんが私に何の用かしら」
タリアは言いたい言葉を全て己の中にしまい込んで、今は情報が欲しいと冷静な顔で男に尋ねる。
男は自己紹介以外はふざける事なく淡々とタリアに言葉を向けた。
「キラは、敵に囚われてしまった」
「なっ!?」
「そしてキラはそんな中でもセナを助ける為に、行動した。その結果がコレだ。そこの地球軍の少女はココ。ロドニアのラボで調整された兵器だよ。ただし、キラとセナは兵器である彼女を否定し、『ステラ』という名前を与え、普通の少女として生きられる道も示した」
タリアはメンデル仮面の言葉に、ステラを見やるが、ステラは自分の話をされている状況でも気にせずセナの手を握ってニコニコとしているのだった。
そして、セナはようやく自分でも分かる話が出て来たと、口を開く。
「はい。メンデル仮面さんの言う通りです。ステラは地球軍として戦ってはいましたが、彼女の意志ではありません。そうしなければいけないから、そうしていただけです。無論、それが許せないという方も居るでしょうが……彼女はかつてZAFTが行った侵攻作戦で民間人であった両親を殺されています。もしそれが無ければ、彼女は孤児とならず、彼女を利用しようとする者も居なかったでしょう」
「……ステラ」
「シン?」
シンはステラの境遇に心臓を鷲掴みにされた様な苦しさを覚え、ステラを抱き寄せる。
そんなシンの行動にステラはニコニコと微笑みながらシンに寄り掛かった。
そして、セナもついでとばかりにギュッと抱き寄せる。
「わ」
「……ふふ。いっしょ」
「な、なので……! 色々と思う所はあるでしょうが、ステラに悪意をぶつける事は止めていただきたいです。記憶を奪われ、兵器として使われた少女に憎しみをぶつけても、得られる物はありません」
セナの訴えに、タリアを始めとして、アーサーやメンデル仮面、そして警備兵の者達も目を伏せながら小さく息を吐いた。
セナに言われるまでもない。
彼らはナチュラルとはいえ……戦争による被害で苦しんできた子供を殺す為に軍人となったワケでは無いのだ。
こういう少女を利用している者達に対する憎しみはあるが……少女に向ける想いなど何もない。
「分かったわ。艦長として約束します。その少女には危害を加えない。けれど……自由に歩かれると困るの。それは分かるわよね?」
「はい」
「なら良いわ。じゃあシン」
「は、はい!」
「その子の面倒は貴方が見なさい。良いわね?」
「分かりました!」
「セナも、シンが困ってたら協力してあげて」
「はい。お任せください」
タリアはとりあえず一つの問題は解決したと、心を落ち着かせてから、より大きな問題に向かう事とした。
「地球軍の追撃に向かったサーペンタイン副隊長とアスラン・ザラはどうしたのかしら?」
「ハッ。先ほど帰還しました」
「何か報告は?」
「まだありません」
「分かったわ。じゃあ、ここに呼んでちょうだい」
タリアは、おそらく駄目だろうなと思いながらシュラとアスランを呼び出す。
そして、二人から地球軍の追撃は失敗したという報告を聞き、胃が締め付けられる様な想いを味わうのだった。
「……そう」
「申し訳ございません。ミラージュコロイドや例のジャミングで機体を見失ってしまい」
「いえ。良いわ。あの状況では仕方がないものね」
「はい。せめて昼であればと……ところで隊長は」
「地球軍に連れ去られたわ」
「は」
「艦長? 今のは」
「先ほど入った情報だけどね。セナを奪還する為に、自らを囮としたそうなの。そして、敵はキラを連れて離脱」
「っ!」
シュラとアスランはタリアの話を聞いた瞬間、顔色を変えて走り出そうとしたが、既にタリアから命令を受けていた警備兵によって行く手を遮られる。
「通せ! 姫様が!」
「無駄よ。あなた達も見失ったんでしょう? 今更どこを探すというの」
「そ、それは……!」
「今は戦力を少しでも削りたくないの。分かるでしょう? キラが居なくなった以上、我が隊の損失はあまりにも大きすぎる。ここで不用意な行動は取れないわ」
「しかし!!」
「今、メイリンが地球軍のモビルスーツが来た方角から敵の本隊が居る場所を探っているわ。それが判明次第、総攻撃を掛ける。それまで待ちなさい」
「……はい」
タリアの一喝で、アスランとシュラは動きを止める事となった。
しかし、その心で煮えたぎる思いは何一つ消えてはいない。
怒りも、憎しみも、ただ真っすぐに地球軍へと向けられていた。
タリアの合図で解散となったシンは、ステラを連れてセナと共に改めてミネルバを訪れていた。
しかし、地球軍の制服は目立つのかチラチラと視線を向けられてしまう。
「とりあえず服を着替えましょうか」
「そうだね。ステラ。着替えようか」
「うん」
セナの提案でまずは服を着替える事となったワケだが、流石に現状のステラを連れまわしてミネルバの中を歩き回ったらタリアが激怒するだろうと考え、まずは自室へと向かう。
中にはレイが居て、セナとステラがシンと共に入って来た事で僅かに驚き、眉を少しだけ上げていた。
「レイ! ごめん。実は色々な事情があって」
「あぁ。その様だな」
「とりあえず服を借りに行かないといけなくて、ごめんだけど、少し二人の事、見ててくれるか?」
「構わない」
「ありがとう! 今度飯を奢るからさ! じゃあ、頼む!」
シンは慌てたままレイに言葉を向けると、そのまま部屋を飛び出して行ってしまった。
その慌ただしい様子に、レイはクスリと笑みを零してから改めて少女達へと顔を向ける。
「レイ君。お久しぶりです」
「あぁ、そうだな。無事だったか」
「はい。何とか」
「そうか」
「それで、こちらはステラさんと言います」
「そうか。俺はレイ・ザ・バレルだ。よろしく頼む」
「レイ?」
「そうだ。レイだ」
「ステラと同じ?」
ステラは自分の髪を弄りながらレイに語り掛け、レイはフッと笑ってから「あぁ」と言葉を返した。
「……確かに。俺とお前はよく似ているな」
自室を飛び出したシンは急ぎ女性服を手に入れるべくミネルバの艦内をは知っていた。
が、そうは言っても、シンが頼る事の出来る女性は少なく、まずはルナマリアとメイリンの部屋を訪れる事にする。
外から呼び出しをすれば、ちょうどシャワーを浴びた後のルナマリアが顔を出した。
「はぁい。何? どうしたの? シン」
「ごめん。ルナ! 服を貸してくれないか?」
「は? え? 嫌なんだけど」
いきなり何を言い出すんだ。このすっとこどっこいはとルナマリアは目を細めながら、シンにジトっとした目を向けたのだが、何故かシンは折れない。
「頼むよ! ルナ! ルナだけが頼りなんだ」
「嫌よ! だいたいアンタ。私の服なんて、何に使うつもりよ!」
「そりゃ着るに決まってるじゃないか」
「はぁあああああ!? うわっ! アンタ! そういう趣味があったの!?」
「趣味も何も、別におかしなことじゃないだろ!?」
「おかしな事でしょうが! だいたい何で私なのよ! アンタ! 私が頼めば何でもしてくれるとか思ってるんじゃないでしょうね!」
「いや、そういうワケじゃないんだけどさ」
「じゃあ何なのよ! 同じお願いが隊長に言えんの!?」
「隊長……。そうだ! キラさんだ。ありがとうルナ! キラさんの部屋に行ってみる!」
「は? いや、ちょっ、ちょっと待ちなさい! シン!」
シンはそれからキラの部屋に向かい、キラから聞いていた緊急時のパスワードを入れて部屋の中に入る。
そして、キラの私服はどこにあるのだろうと部屋の中をウロウロしてから、クローゼットを開き、間違えて下着を取り出したところをルナマリアに目撃されてしまった。
その際、ルナマリアの怒りは凄まじく、アカデミー時代ナイフ戦及び近接格闘技でほぼ負けなしであったシンが「動く事すら出来なかった」と後に語る程の速さと鋭さで迫るルナマリアの拳を受ける事になる。
しかし、幸運な事にシンは殴られた事で冷静さを取り戻し、ルナマリアに事情を説明していなかった事を気づく事となった。
そして、改めて事情を説明し女性服が必要である事をルナマリアに伝えたのだが……それはそれ。これはこれである。
シンは必死にルナマリアへ言い訳をしている間も可愛らしい下着を握りしめており、冷めたルナマリアの目に気づく事は無かった。
結果。
シンは「正直、モビルスーツが殴ってきたかと思った」と後に語る一撃を受け、地に沈む事となったのである。
これ以降、シンはミネルバでスケベ野郎。ラッキースケベ等と呼ばれる様になり、不名誉なあだ名を得る事となってしまったのであった。