ガンダムSEED Re:   作:とーふ@毎日なんか書いてる

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第197話『PHASE-27『届かぬ想い1』

 傷ついたカオスとアビスを抱えながら、何とか逃げ出す事に成功したネオは、ガンダムと共に地球連合軍の旗艦J.P.ジョーンズに着艦し、苛立ちのままにリュニック近くの鉄柵を殴りつけていた。

 その行動はジンジンとした痛みをネオに与えるが、今の彼にとって痛みはそれほど重要ではない。

 

 迂闊な行動で、大切なものを二つも失ったのだ。

 セナとステラを。

 ミネルバへと連れ去られてしまったとあれば、救出する事は難しいだろう。

 

「おやおや。随分と荒れているじゃないか。ネオ・ロアノーク」

「……リボンズ・アルマーク……っ! キラ様!?」

「そう。世界を導くための鍵。ようやく捕まえる事が出来たよ」

 

 気絶しているのか。リボンズに抱えられたキラは頭から血を流しており、他にもいくつか暴行された跡が見える。

 それに気づいたネオは強い怒りを覚えるが、ここで暴れることは出来ないと怒りをグッと堪えた。

 

「キラ様はお怪我を去れている様だ。まずは治療を」

「必要ないだろう。これは躾けだよ」

「しかし……! 僅かな傷から命が失われる事もあります。どうか……!」

「フン。まぁ良いだろう。今度は逃がさない様に繋ぎとめておけ」

「ハッ」

 

 ネオはリボンズからキラを受け取り、リボンズが立ち去ってから抱きかかえているキラに小さく謝罪の言葉を落とすのだった。

 

「……申し訳ございません。キラ様」

 

 そして、キラを医務室へ運んでからネオはブリッジへと上がる。

 見張り……という名目でアウルやスティングをキラの傍に置いてから。

 

「お疲れ様です! 大佐」

「……あぁ」

「キラ様の容態は」

「今は寝ているだけだとさ。じきに目を覚ますとの事だ」

「それは良かったです」

「まぁ……そうだな」

 

「大佐の今回の功績にはジブリール氏も大変喜んでおります」

「そうか」

「よくステラ・ルーシェの損失のみでキラ様を奪い返す事が出来たと……セナ様の件は非常に残念ですが、またチャンスもあるでしょう。今はキラ様が戻られた事に……」

「損失……か」

「は?」

「そういう言葉になるんだろうがね、軍では」

「大佐?」

「いや、良い。気にしないでくれ。それで? ジブリール氏は何と?」

「はい。黒海の奪還作戦は中止し、すぐにでもキラ様をヘブンズベースへ連れて来る様に、との事です」

「了解した。では、ご命令通りに動くとしよう。ハッチの修理状況はどうなっているか」

「ハッ! 現在進行中ですが、今しばらくかかるかと」

「そうか……なら、死闘になるかもしれんな」

「え?」

「気にするな」

 

 ネオは部下の言葉を遮り、遠く海の彼方を見据えた。

 ミネルバはこちらを死に物狂いで攻めて来るだろう。

 キラを人質とすれば同盟国として共にいるオーブから攻撃されるだろうし。

 何なら地球軍の味方から撃たれるだろう。

 

 だから、ネオは……地球軍は正面から正々堂々と、怒りに満ちたZAFTと戦わなくてはならない。

 それでどれだけの被害が出ようとも……それが命令なのだから。

 

「嫌になるよ。ホントに」

 

 

 地球連合軍が北大西洋のアイスランドにあるヘブンズベースを目指して移動するべく艦の修復を行っている頃。

 医務室で体が重くなる様な疲労感と倦怠感の中、鈍い痛みを感じながら目を覚ましたキラは、自分のベッドの上でうつ伏せになりながら寝ている子供達を見つける。

 スヤスヤと眠る子供達は可愛らしくキラは二人を撫でようとしたのだが、ガチャっという音が聞こえ、キラの両手がベッドに拘束されている事に気づいた。

 

 そこで、そう言えばリボンズに捕まったんだったなという事をキラは思い出す。

 

「……はぁ」

「どうやらお目覚めの様だね。キラ・ユラ・アスハ」

「その厭味ったらしい声は、自称救世主さんですか」

「リボンズ・アルマークだ」

「はいはい。リボンズさんですねー」

 

「チッ。憎たらしい小娘だ。せっかく僕自ら様子を見に来てやったというのに」

「うわー。恩着せがましい。誰のせいでこうなったと思っているんですかね」

「君自身が招いた事だろう? 当然の報いだ」

「自分の行動に自分で責任が取れないのですか? 随分な救世主様ですこと。そんな事じゃあ家の平和だって守れませんし。水に溺れそうなアリだって導けませんよ」

「口の減らない小娘だ。この場で殺してもいいんだぞ」

「出来るものならどうぞ。あなた程度に殺される程弱くないので……ぐっ」

 

「口には気を付ける事だね。キラ・ユラ・アスハ」

 

 リボンズはベッドで寝ているキラの腹部に拳を突き刺し、無理矢理言葉を中断させる。

 しかし、キラは軽く咳き込みながらも、キッと強い目でリボンズを睨みつけた。

 

「言い負かされたらすぐ暴力、ですか。本当に弱い人間ですね! 貴方は!」

「なに……?」

「結局! あなた自身の言葉に、重みが無いから。そうやって暴力で人を従わせる事しか出来ない! 子供と一緒ですよ! あなたは!」

「もう一度! 言ってみろ……! この! 救世主たる僕に向かって!」

「うっ、ぐっ! また、それだ! 救世主、救世主って、何を夢見てるか知りませんけれどね! 誰もあなたに救われたいなんて思ってないんですよ! 可哀想な人だ! そうやって、誰かに押し付けられた役目に縋らないと生きていけないんですか!?」

「黙れと言っているだろう!」

 

 リボンズは銃を抜き、キラの頬すれすれを撃つ。

 それによってキラは頬に熱を感じ、血が頬からベッドに零れ落ちるが、瞳の強さは変わらない。

 ただ、真っすぐにリボンズを見つめていた。

 

「怖いんですか?」

「……!」

「僕が、怖いんですか!? セナが怖いんですか!? あなたに従わないから! あなたの言う救済なんか無視して、動く、僕らが……! 怖いんですか!?」

「黙れと言っているだろう!」

 

 リボンズはもう一度銃を撃とうとした。

 しかし、銃声で目を覚ましたスティングがリボンズに飛び掛かり、キラに向けていた銃口を天井に向けさせる。

 それによって、銃弾は天井を撃ち抜いたが、キラは焦った様にベッドから起き上がれないままスティングの名を呼んだ。

 

「スティング!? 大丈夫!? 痛くない!?」

「あ、あぁ。俺は当たってねぇよ」

「……良かった」

「んん? なんだぁ? なに騒いでるんだ?」

「アウル! キラを撃とうとしてる奴が居る! キラを護れ」

「え!? は!? いや、待って、どこだよ!」

「俺が押さえてる! が……っ、うわっ!」

 

 リボンズは圧し掛かっていたスティングを弾き飛ばすと、先ほどよりは冷静になった顔で再び銃口をキラに向けた。

 しかし、キラは怯まない。

 

 その顔を何とか歪ませてやりたいと、リボンズは銃口をキラの上に覆いかぶさっているアウルに向けた。

 

「僕に服従しろ。キラ・ユラ・アスハ」

「今度は人質ですか」

「分かっているのか。別にコイツは要らないんだ。オーブに核を落としたって良い」

 

 キラは必死に訴えるリボンズを見て、酷く悲し気な顔をした。

 その瞳が哀れみに満ちている事に、リボンズはさらに強い怒りを感じる。

 

 憐れまれる様な人間では無いのだ。

 自分は望まれて、救世主となるべくして生まれた。

 

 この愚かな人類を導く、その為に生まれた自分が、この様に蔑まれる様な覚えなど無いと。

 リボンズは引き金を引こうとした。

 

 キラを屈服させるために。

 

 だが、一発目の銃弾を聞き、ブリッジから駆けて来たネオが医務室に飛び込んだことで緊迫した空気は霧散し、リボンズも流石に冷静さを取り戻した。

 

「何事だ!? アウル。スティング。何があった。キラ様は、ご無事ですか!?」

「ネオ! アイツが、いきなり撃って来たんだよ!」

「リボンズ・アルマーク……!?」

 

 ネオは何があったのかと事情を聴きたい所ではあったが、とにかく医務室から全員出て行く様にと指示して、キラのベッドの隣にある椅子に座る。

 深い、深いため息と共に。

 

「……はぁ、次から次へと」

「ふふっ」

「キラ様? その様に笑われる覚えは無いのですが?」

「あっ、いえ。ごめんなさい。ちょっとおかしくて」

「む?」

「あなたは、思っていたよりも、面白い人なんだなと思いまして」

「面白い人に、なりたいワケでは無いんですがね。中間管理職という奴は大変なんですよ」

「そうなのですか? では、辞めてしまえば良いのに」

「そういうワケにはいきませんよ。これも必要な事ですから」

 

 苦労人のため息を聞きながらキラはネオを見上げた。

 そして、小さな声で礼を言う。

 

「ありがとうございます」

「……キラ様に礼を言われる様な事をした覚えはありませんね」

「ステラの事。アウルの事。スティングの事。大切にしてくれているのでしょう? 通信で、ステラの名を呼ぶ声を聞いた時も、先ほども。貴方は本当に。僕が想っている様な悪い人では無いのかもしれませんね」

「悪人ですよ。子供を利用して、そして、貴女方を捕まえようとしている。どうしようもない悪人です」

「でも、それでも……僕は嬉しいんですよ。あの子達を大切にしてくれる人がいるのは」

「……そうですか。では私はもう行きます。医務室には警備の者を置きますので、何かあればその者に」

「はい」

「では」

 

 キラは去っていくネオの背中にこれだけは、と声を上げた。

 

「ステラは無事ですよ!」

「っ!」

 

 キラの言葉にネオは振り返って、キラをジッと見つめた。

 仮面がある為、表情は分からないが、その姿は何か希望を見つけた様な姿でもあった。

 

「セナは記憶を取り戻しています。あの人の腕は確かですから。そして、セナが記憶を取り戻して居るのなら、ステラを守ろうとする筈です。だから、安心して下さい」

「……本当に、貴女方は」

 

 ネオは震える様な声で呟いた後、その感情を吐き捨てる様に深く、息を吐いた。

 

「世界がキラ様やセナ様の様な方ばかりなら……私達も苦しまなかったでしょうに。それが今ほど悔しく感じた事はありませんよ」

「……?」

「しかし、この世界は何も変わらない。私もまた、争う以外の道は選べない」

「……それでも、いつか。いつか、貴方が共に歩んでくれると、僕は信じています」

「その様な未来はありませんよ」

 

 ネオはキラの言葉に、どこか悲し気な雰囲気を纏わせたまま部屋を出て行くのだった。

 その背中は、かつてヤキン・ドゥーエで戦った兄と同じもので。

 キラは、天井を見つめながら声を漏らしてしまうのだった。

 

「あぁ、まったく。嫌になるなぁ」

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