エーゲ海を目前とした海域で行われた地球連合軍および、ZAFT軍との戦いは、第二次ヤキン・ドゥーエ攻防戦を思わせる様な激しい物であった。
一瞬の間にモビルスーツが爆散し、その命が散ってゆく。
そして、大火力で放たれた砲により、艦が爆散しその中にいた命が全て消えてゆく。
まさにここは地獄の様な戦場で会った。
そんな地獄の様な戦場にあって、地球連合軍艦隊がほぼ無傷のままで居るのは、艦の中に両軍にとって傷一つつけてはいけない存在が居るからだ。
キラ・ユラ・アスハ。
オーブ連合首長国代表首長カガリ・ユラ・アスハの妹にして、世界を幾度も救った救世主。女神。
その呼び名も称号も、為して来た事全てが容易く語れない少女は今……地球連合軍の旗艦J.P.ジョーンズの中でベッドに拘束されたままもがいていた。
オーブでアムロやシャアとの戦いで磨かれた彼女の直感は、既に戦場で起こる多くの死を感じ取れる領域に到達しており、彼女はベッドの上で死に際の意志を感じ取りながら、絶望に満ちた苦しみを味わっていた。
自分が原因として戦いが始まり、その中で多くの人が死んでいく。
ただ、平和を願う彼女にとってはこれ以上ない地獄の様な状況だ。
「ぐぅ……どうして、どうして、こんな争いをするんだ! もう、止めて……!」
彼女の中に届く叫びは、悪意よりもキラへの親愛の情が強く、それが余計に彼女を苦しめる。
だが、この戦場に居る者はその殆どが、そんなキラの想いをくみ取る事はなく、ただただ、己の意志を刃に込めて敵にぶつけているだけだ。
そんな中。
地球連合軍とZAFTの大部隊がぶつかるという報告を受けたアークエンジェルの中で、オルフェは正確にキラの感情を受け止めていた。
「……マズいな」
「どうした? オルフェ。確かにここまでの衝突は問題も大きいだろうが」
「いや、違う。この戦闘。原因はキラだ」
「なに!? どういう事だ」
オルフェの言葉に、アスランが激しく反応し、オルフェに問いかける。
その問いかけを無視し、オルフェはズキズキと痛む頭を押さえながら、遠くから聞こえてくるキラの嘆きを捕まえた。
「おそらく……だが、キラが地球連合軍に囚われている。そして、そのキラを助ける為にZAFTの大部隊が動いた様だ」
「まさか!? キラちゃんが!?」
「ラミアス艦長。俺達も急いで出撃を」
「いや……それは」
「ガタガタ言っている場合か! お前も行け! オルフェ! 私もルージュで出る!」
「バカを言うな! カガリ! ルージュで出る!? お前は待機だ!」
「こんな時にノンビリしていられるか! 私も出る! 私がキラを助けるんだ!」
オルフェは言い争いをしているアスランとカガリを見ながら、己の考えを変える。
最初は出撃しない方が良いと言おうとしたが、どのみち争いは止まらないのだ。
ならば、キラの様に。戦闘力を奪って消極的に争いを終わらせるしかないだろう。
そう結論を出して、オルフェは喧嘩をしているアスランとカガリを放置し、格納庫へと急いだ。
そして、戦闘空域に近づき、出撃する前に、マリューやアスランに言葉を遺しておく。
「キラは今、死者の感情を感じ取り精神的に追い詰められている。このまま戦闘が続けばキラの精神が持たない」
『なら、どうすれば良い!』
「無力化しつつ、戦闘を止める様に訴えるしか無いだろう。他に道は無い!」
『分かったわ!』
『了解した。ならば、急ぐぞ!』
「あぁ!」
アークエンジェルから出撃したフリーダムとムラサメは全速力で戦場へと向かうと、ZAFTと地球連合軍に警告をしながらその武装を破壊する。
「戦闘を止めろ! このままでは取り返しのつかない事になる!」
だが、そんなオルフェの元へ……漆黒の機体がビームサーベルを振り上げながら突っ込んできた。
『オルフェ・ラム・タオぉぉぉおお!!』
「シュラ・サーペンタインか!」
フリーダムのビームサーベルを抜き、シュラの一撃を受け止めたオルフェであったが、その勢いのまま海の中へと落ちてしまう。
すぐに浮上して離脱しようとするが、シュラはオルフェを逃がすまいとさらに追いかけて来るのだった。
「今はこんな事をしている場合では無いだろう!」
『キラ様の事は後でどうとでもなる! 所詮旧人類どもは彼女無しでは生きていけない! ならば、敵対する者を全て排除し! お助けするだけだ!』
「敵を! 見誤るな!」
『ほざくな! 貴様が俺の敵だ!!』
「チィッ!」
オルフェは舌打ちをしながら、まずはシュラを落とさねば駄目かと機体を動かしシュラを目標とする。
そして、そのままシュラのブラックナイトスコードに突っ込んでいくのであった。
オルフェがシュラと戦闘を始めた頃。
アスランもまた、厄介な機体に目を付けられていた。
ZGMF-X09A ジャスティス
旧世代のモビルスーツながら、その戦闘力は現代においても一切見劣りはしない。
『お前が居なければ!』
「っ! まさか、お前は……! 俺の偽物か!」
『違う!』
ジャスティスに乗るアスランは、ムラサメを駆るアスランの言葉に強い怒りを吐き出してゆく。
『俺が本物なのだ! 俺こそが!』
「何を言おうと! 変わらない!」
『選ばれた癖に! キラを手にする事が出来た癖に! それを手放したお前が本物である筈がない!』
『「 アスラン・ザラは! 俺だ!」』
ぶつかりあう二機はそのまま超高速戦闘へと移行し、周囲のモビルスーツを一切近寄らせないまま全力の殺意をもって、飛びまわっていく。
元々混乱していた戦場に、アークエンジェルが介入した事でさらに事態は混沌へと突入していった。
ミネルバのブリッジでタリアは悲鳴の様な声を聴きながら、理解しがたい状況に眉間に深く皺を寄せていた。
「艦長! アークエンジェルとフリーダムの攻撃により、我が軍に損害が!」
「どういうつもりなの!? アークエンジェルに通信を繋げて!」
「駄目です! 通信繋がりません!」
「っ! この状況では仕方ないわ! ただいまより! アークエンジェルを敵艦と認識します!」
「えぇ!? し、しかし!」
「このままでは逃げられる! キラを失っても良いの!? 私達の問題だけじゃない! あの子が、どれだけ苦しむか……分かるでしょう!?」
「りょ、了解……! アークエンジェルを敵艦と認識!」
「これ以上好きにさせないで! 主砲照準! アークエンジェル!! てぇー!」
タリアの指示により放たれたビーム砲はアークエンジェルに向けられるが、アークエンジェルはそれを難なく避けると、主砲の照準をミネルバへと向けた。
それを見ながらタリアは厳しい顔をしながら更なる指示を出すのだった。
「回り込んで! 本艦がモビルスーツ部隊の盾となる!」
「トリスタン! イゾルデ! てぇー!!」
ミネルバはアークエンジェルからの攻撃と、地球連合軍からの攻撃で大きく艦体を揺らしながら、それでも必死に戦場にしがみついて、砲を放ち続けた。
一歩も引くワケにはいかないと。
その背には、あまりにも多くの物を背負っているのだと。
プラントに住まう一般市民たち。
そして、地上で暮らす罪なき者達。
それら全てが、この一戦により大きく運命を変えるのだ。
それに……彼らが共に戦ってきた愛すべき仲間。
前大戦の時も、そのずっと前からプラントを守り続けて来た少女を。
悪意ある者達に奪われ、利用されてしまう。
そんな事態には決してさせてはいけないと……!
ミネルバで戦う者達の気持ちは一つとなり、ただ、キラを救うべく必死に今出来る全力に挑んでいた。
だが、しかし。
悲しいかな、彼女たちの苦労は、彼女たちの想いは……本当の悪意には届かないのだ。
ミネルバの中にあるシンの私室で、キラと同じ様に多くの汗を流しながら胸を押さえ苦しんでいた少女が、小さな声を漏らしながら首を振る。
すぐ近くに居る少女。ステラに支えられながら。
「だめ……それでは……なにも、かえられない」
「セナ。セナ。だいじょうぶ? セナ……!」
「あぁ……! 空から! 来る! 光が!!」
「セナ……?」
「それは、撃ってはいけない……! 憎しみの光……!」
セナが目を見開き、空を見上げた……まさにその時。
空からソレは落ちて来た。
光の柱とも言うべきソレは、上空にあった雲を貫き、地上に展開していたZAFTのモビルスーツ部隊へと落とされた。
そして、ゆっくりと部隊を破壊しながら移動してゆき、地球連合軍の進行方向先……オーブ軍艦隊の沿岸に現れた艦隊を全て圧倒的な熱量と、質量によって焼き尽くし、押しつぶした。
直後、大爆発が起こり、戦場に居た誰もが、たった今起こった絶望的な光景に言葉を失う。
キラも、セナも、この一瞬で失われた命を受け止める事が出来ず、そのまま意識を失ってしまった。
それが良かったのか。悪かったのか。
それは誰にも分からない。
分からないが……この悪意ある一撃を放った者だけは、コックピットの中で嗤いながら、この『戦果』を喜んでいた。
「ハハハハハ! 最高じゃないか! 素晴らしい力だ。これが衛星兵器『メメントモリ』か!」
白銀のガンダムという名の機体に乗るリボンズ・アルマークは戦場からやや離れた場所より、メメントモリの一撃で半壊しているZAFT部隊を見て、声を上げながら笑う。
リボンズが使用した『メメントモリ』という兵器は、地球軌道上にビーム砲とミラージュコロイドを装備した無数の軍事衛星を飛ばし、ビーム砲のエネルギーを月からサテライトシステムで供給する事により、理論上地球上のどこに目標があっても、即時狙撃出来る兵器であった。
開発当初の予定では、隕石に対抗する手段として開発されていたのだが、セナの試射により、地上の部隊を狙撃する事も可能であると照明された為、広義において『地球を守る』為により強化された兵器だ。
それをリボンズは、かつてセナがやった様にセナの作ったハッキングシステムを用いて今、使って見せた。
最も悪意ある使い方を。
「やはり。僕は運命に選ばれている。ギルバート・デュランダルでも、ムルタ・アズラエルでも、ロード・ジブリールでもない! この僕が! この僕こそが世界を導く存在! 救世主なんだ!」