第一回ジン改修案決定大会が開催されてから半年ほどの月日が経った。
あれから、親からの命令もあり、秘密工場へと入り浸っているアスラン、二コル、イザーク、ディアッカであるが、何だかんだと長い時間を一緒に過ごしていた為、キラたちともかなり親交を深めていた。
まぁ、定期的に子供の様な言い争いがキラとイザークの間で起こる事もあるのだが。
「だいたい貴様。こんなピーキーな機体を仕上げてどうするつもりだ」
「どうって、プラントに隕石が迫ってきた時に、バビューンと現地に向かって、打ち落とすんだよ」
「いやいや。この機体、マジでキラちゃん以外には使えないぜ? 大人しく妥協した方が良いんじゃねぇの?」
「ディアッカの言う通りだ。少しは大人しくする事を覚えろ。だからいつまで経っても淑女らしくなれんのだ。大人になれ。大人にな」
「……へっ、ママにいつまでも甘えているイザークちゃんに大人になれ。とか言われてもなぁ。それもママに言われたんでちゅかー?」
「貴様ぁ! そこになおれ! その根性! 叩きなおしてやる!」
「ぼーりょくはんたーい」
キラはイザークを煽った後、さらにバカにした様に笑う。
そんなキラにイザークはやはり苛立ちを加速させるが、母であるエザリア・ジュールの教えと、キラとの親交を深めろという命令により、何とか怒りを飲み込んだ。
「またイザークと喧嘩をしているのか。キラ」
「別に喧嘩してたわけじゃないけどさ。イザークちゃんが、我儘だから」
「誰が我儘だ。誰が!」
「えー。我儘じゃん! 機体のスペックを低くしろってさ!」
「仕方ないだろう。キラ。お前の機体は普通の人間に使える物じゃない。皆が皆俺やお前の様に使える訳じゃないんだ」
「ちぇー。面白くないの―」
第一回ジン改修案決定大会が終わってから、パトリック、シーゲルから争ってないで協力しろ。という命令が下された為、キラは大人しく、アルバートやセナと協力しながらジンの改修を続けていたのだが。
やはり、というかジンを速く動かす事を諦めきれないらしく、定期的にそういった改修案を出してくるのだった。
しかし、アスランの言う通り、キラの提出する改修案はキラにしか使えない物ばかりで、いつも駄目だしをされてしまう。
そんなワケで、今回もうまくキラの意見を丸めたのだが、アスランの発言はある人物の地雷を思い切り踏みつける事となった。
「まて、アスラン」
「なんだ? イザーク」
「貴様、黙って聞いていれば。誰が凡人だと!?」
「別に凡人だと言った覚えは無いが」
「貴様とキラにしか動かせない機体だと言っていただろう!」
「あぁ。確かに言ったが……事実だろう?」
「良い度胸だ! シミュレーターに入れ! 叩きのめしてやる!」
イザークは勢いよくシミュレーターの中に飛び込むと、戦いの準備をはじめ、アスランもため息と共にシミュレーターの中に入るのだった。
そして、二人が入ったのを確認してから、ちょうどいいとばかりにアルバートが様々な改修が施されたジンのデータを二人のシミュレーターに反映させて、戦闘データを取っていた。
それから、イザークは何度も何度もアスランへと挑むが、結局勝つ事が出来ずに、苛立ちを増やしてシミュレーターから出る事になった。
しかし、キラがお疲れ様とタオルや飲み物を貰った事で少しだけ落ち着く。
「すまんな」
「いやいや。僕らとしては、データが集まるのは助かるからね。ありがと。イザーク」
イザークは飲み物に口を付けながら、イザークとアスランの戦闘データをPCで取り込みながら、システムの調整をしているキラをジッと見つめた。
出会いは非常にアレな物であったが、イザークは別にキラの事が嫌いでは無いのだ。
アスランは嫌いだが。
伸ばしているという長い栗色の髪も、PCを見つめる柔らかいアメジストの瞳も、イザークは美しいと感じる物であるし。
本人には絶対に言わないが、自分には出来ないモビルスーツの開発をしている所も尊敬していた。
セナと話す時の姉らしい姿も、見ていて心が安らぐ物もある。
嫌いではない。
イザークは自分の感情をそう呼んでいたが、この言葉をあえて変える気は無かった。
変えてしまう事が恐ろしかったのかもしれない。
しかし、言葉を変える気は無くても、もう少しだけ友好を深めるのは悪くないと思い始めている自分が居た。
だから……。
「キラ」
「んー? なぁに? イザーク」
いつもの何でもない話だと思っているのだろう。
キラはイザークの覚悟など知りもせず、PCを見つめたまま、長い髪を耳にかけて、聞いてますよーという様なポーズを取った。
しかし、いつまで経ってもイザークからの返事が無いため、どうしたのか? とキラはイザークの方を向きながら名前を呼ぶ。
「どうしたの? イザーク」
「いや……あのな。実は、母上から。この近くにある、美味いケーキ屋の話を聞いてな」
「うん」
「それで……貴様を誘って来いというので、まぁ、なんだ。誘っている訳なんだが」
「ふーん。良いけど。いつ行く?」
「いつ!?」
「いや、行く日を決めないと駄目でしょ? それとも今から行く?」
「き、貴様は、それでいいのか!?」
「良いのか。も何も、良いから頷いてるんだけど?」
当たり前だろ。と言わんばかりに腰に手を当てながらやれやれと言う様な表情をするキラに、イザークは何とも言えない顔になりながら、ならば今すぐ行くぞ! とキラの手を取った。
そのやや乱暴な仕草に、アスランと、機材の向こうから二コルの視線が飛んできていたが、イザークは気づかない。
「ちょ、ちょっと、待って!」
「な、なんだ!? 行くんじゃないのか!?」
「いや、行くけどさ! 外に行くのなら、セナも一緒! 前から言ってるでしょ!?」
「あ、あぁ……そうだったな」
キラの言葉に動揺するイザークは、慌てた様に視線を彷徨わせながら頷いていたが、キラは気づかず、やれやれなんて言いながら、セナの元へと走るのだった。
いつも通り。
そう、いつも通りだ。
キラにとっては。
「フラれたな。イザーク」
「やかましい!」
そんないつも通りなキラであるが、ハッと今思い出したかの様に手を叩きながら笑顔でイザークや、アスラン……そして、メイアを含めた工場のメンバー全員に聞こえる様な声で一つの提案をした。
「そうだ! ねぇねぇ。みんなで写真撮ろうよ! すっかり忘れてた!」
「写真だと?」
「そう。折角だしさ!」
「何が折角だ。意味が分からんぞ」
「良いから良いから!」
キラは文句を言っているイザークの背中を押して、ジンの前に押してゆく。
そして、メイア達にも声を掛けて皆で集まり、カメラを構えた。
「お姉ちゃんは写らないんですか?」
「写るよ。ただ、タイマーかけてからね!」
キラはカメラを近くにあった機材で固定し、タイマーをセットするとセナのすぐ隣に走ってゆき、そこで満面の笑みでピースをした。
それから何枚か写真を撮って、満足したのか。カメラを大事そうに懐にしまって、イザークに向き直る。
「じゃ、デートに行こうか!」
そして、何事もなく、キラとセナはイザークと共に外へと向かい。
エザリアのオススメというケーキ屋に入って、紅茶とケーキを頼むのだった。
それは確かに勧められるだけあり、とても美味い物で、キラとセナは満面の笑みで、少しずつ大切に食べていた。
そんなキラとセナを見ながら、イザークはこれで良かったと安心しつつ、紅茶に口を付けた。
「でもさ。ちょうど良かったよ」
「……? 何がだ?」
「どうやって言おうかなとか、どうやって出ようかなって考えてたからさ。イザークが誘ってくれて嬉しかったよ」
「何の話をしている」
「……」
イザークの問いに、キラは少し困った様な笑みを浮かべた。
そして、セナと見つめ合った後、ゆっくりと口を開く。
「本当はね。このまま、しばらくは、ここに居ても良かったんだけど。そうも言ってられない状況になっちゃったんだ」
「……キラ?」
「セナの怪我も治ったし。オーブもさ。そろそろ戻ってこいって、言っててね」
「オーブ?」
「そ。僕の母国。僕たちはさ。色々あってプラントに着たけど、プラントの住民じゃないんだ。だから、ね。母国に帰る必要があるの」
「何故だ。お前は、お前もセナもコーディネーターだろう? ならば、プラントに居る方が安全だ」
「そうかもしれないけどさ。僕にはセナの他にもう一人。大切な妹が居るんだ」
「なら、その妹も、プラントに!」
「妹はね。ナチュラルなの。だから、プラントには連れて来られない」
「っ!」
「それに、僕のお父さんもお母さんもナチュラルなんだ。だから、プラントに住むのは無理だよ」
「それくらいなら、俺が母上に頼んでやる! だから……!」
「キラ様」
イザークがキラへ向けて放とうとした言葉は、キラのすぐ近くに現れた黒い服の男によって遮られた。
そして、キラは男の言葉を聞いてから静かに目を伏せて、「分かりました」と呟く。
その様子に。
いつもの天真爛漫なキラとはかけ離れた姿に、イザークは怒りのままに立ち上がろうとしたが、キラがイザークの手を握って、その動きを制する。
「イザーク」
「っ! キラ、お前は、それでいいのか!? それで……!」
「当然だよ」
ハッキリと告げたキラの言葉に、イザークは出かかっていた言葉を飲み込んだ。
「前に言ってたよね。イザーク。僕が庶民だって」
「あ、あぁ……」
「でもね。違うの。僕は普通の家の子じゃない。僕の名前は『キラ・ユラ・アスハ』オーブ連合首長国。代表首長の娘。オーブのお姫様って奴なんだよ」
儚げな笑みを浮かべるキラに、イザークは力なく椅子にもたれかかった。
そして、そんなイザークに、キラは別れの言葉を告げる。
「ごめんね。こんな中途半端な所で」
「……ごめんなさい。イザークさん」
「キラ様。セナ様、お急ぎを」
「はい。では行きましょうか」
「っ! ジンは!! ジンはどうなる!? 俺たちは、お前は! 仕事を中途半端にして、何処かへ消えるのか!?」
「大丈夫。あの子はもう完成しているよ。後は設計通りに作り上げるだけ。アルバートさんが上手くやってくれる。だから、サヨナラ。イザーク」
「キラ!」
キラはその言葉を最後に、半ば押し込まれる様にして、車の中に放り込まれた。
そして、車は急発進をして、そのままイザークの視界から完全に消えてしまうのだった。
もはや手の届かぬ場所へ行ってしまったキラに、イザークは天を仰ぎながら、右手で顔を覆った。
キラは連れ去られた様に見えた。
しかし、抵抗はしていなかった。
家族を守る為だと言っていた。
もしかしたら、家族が人質に取られているのだろうか。
いや、それなら助けを求めてくれれば。
しかし、ナチュラルの為に動くコーディネーターがこの情勢でどれだけ居るだろうか。
分からない。
イザークには何も分からなかった。
ただ、分かっている事は、大切な友人が突如として消えてしまった。
それだけだ。
もう会えないかもしれない。
ただ、それだけなのだ。