ジブラルタル基地に到着してから基本的にシンの部屋で、シンやレイと共に遊んでいるステラとセナであったが、そんな二人もシャワーの時間だけはルナマリアと共にシャワー室へと向かう。
最初はシンと一緒が良いと言っていたステラも、ルナマリアからの二時間に渡る淑女とは!
という話にようやくの納得を見せ、大人しくセナの手を握ったままルナマリアと共にシャワーを浴びているのだった。
「じゃあ俺達もシャワーに行くかぁ」
「そうだな」
「しっかし。最近はすっかり二人で行くことが多くなったな」
「まぁ、ステラやセナを部屋で待たせるワケにもいかないからな。二人がシャワーを浴びている間に行くのがちょうどいいのは確かだろう」
「そうだなぁ」
シンとレイは軽く話をしながら、通路を歩いていたのだが……ふと通路の先で何やら騒がしい気配を感じ互いに顔を見合わせる。
そして、野次馬根性を丸出しにしながら二人で現地へと向かう事になったのだが……。
「シン!」
「え? ステラ……っ!? って、ステラ! 服は!」
「シン! ステラが、ステラが! 街を壊して!」
「分かった。話は聞くから! だから、服!」
シンは片目を手で覆いながら抱き着いて来たステラを受け止めつつ手をレイに向ける。
レイは長くシンの親友をしている為、シンの意図を察して大きなタオルをシンに手渡すのだった。
サンキュと短く礼を言いながらステラの背中をタオルで覆い、周囲から見えない様にしてから再びステラへとシンは顔を向けた。
「どうしたんだ。ステラ。そんなに慌てて」
「っ、シン。ステラ、怖い物に乗ってるの」
「怖い物って、確かにミネルバは、軍艦だけど……今はジブラルタル基地だし」
「ちがうの。ステラじゃない、ステラが……これから、いっぱい、いっぱい……壊して、殺す……!」
「ステラじゃない、ステラ?」
「壊して、殺す?」
よく分からない言葉と、物騒な言葉を向けるステラにシンとレイは互いに顔を見合わせながら、首を傾げた。
しかし、このまま話をしているというのも良くない為、まずはステラに服を着てもらおうと正面にある女性用のシャワー室へと戻って貰おうとしたのだが。
その前に、シャワー室から髪を濡らし、軽く服を羽織っただけのルナマリアが飛び出してきて……。
「ステラ! 裸でどこにいくつもり! って、あ」
「あ」
シンは、先ほどまでシャワーを浴びていたのだろう。
上気した姿のルナマリアを見ているのが、どこか気恥ずかしく感じてしまった為、視線を逸らそうとしたのだが。
思わず下に向けてしまった為、服で軽く隠しているだけの大きく膨らんでいる胸をみて、頬を朱色に染めてしまった。
「っ! どこ見てんのよ!」
「ご、誤解だ!」
「ルナマリア。これは事故の様な物だ。暴力は止めて貰おう」
「~~! だったら! さっさと! ステラを離しなさい!」
「は、はい!」
「フン!」
ルナマリアは怯えているステラをひょいッと抱き上げて、そのままシャワー室へとさっさと戻っていった。
その背中を見ながら、シンは安堵か疲れか……ため息を一つ吐きながら天井を見上げる。
「とりあえず、シャワーを浴びるか? 頭を冷やしたいだろう」
「あぁ。そうだな」
「話なら、後で聞く事にしよう」
というワケで。
さっさとシャワーを浴びて、部屋に戻ったシンとレイは、疲弊した様子のルナマリアと共に戻って来たステラとセナを見据える。
ステラは先ほどまでと同様に怯えたような顔をしていたが、セナもどこか不安そうな顔をしていた。
「二人とも、何かあったのか?」
「分かんないわ。いつもみたいにシャワー浴びてたら、突然暴れだして。いっぱい死ぬって」
「なんだろう。なんか怖い夢でも見たのかな」
「そういう感じじゃなかったけどね。どこかここじゃない場所を見ているような……?」
ルナマリアの言葉に、シンとレイは腕を組みながらうーんと考え、ステラは不安から逃げる様にシンに抱き着いて震えていた。
そんなステラの背中をシンは撫でながら微笑みかける。
ここは怖くないよ。という様に。
「セナ。セナは何か感じているのか?」
「レイ……?」
そして、シンは隣のベッドに座っていた親友がセナに語り掛けた事で、再び顔を上げる。
「私は……ステラさんほどハッキリと見えている訳ではありませんが。あの機体に搭載されたサイコフレームから見えるものがあります」
「サイコフレームって」
「フリーダムやジャスティスに搭載されていた物だ。そして……ホープにも」
「はい。そうですね。そして、遠く……どこかの場所で、サイコフレームが搭載されたモビルスーツにステラさんとよく似た誰かが乗った様です」
「ステラとよく似た誰かって……」
「その機体って何なんだ」
「いえ。私もハッキリとは」
『コンディションイエロー発令。コンディションイエロー発令。パイロットはブリッジへ』
「なんだ……?」
「もしかしたら、その……ステラやセナが見た機体かもしれないな」
レイが冗談の様に言った言葉に、シンはゴクリと唾を飲み込んでから、怒られるかもしれないと思いつつ二人をブリッジへ連れて行く事にするのだった。
そして、シンとレイとルナマリアがブリッジへと到着した頃。
既にブリッジにはシュラとイングリット、アスランが到着しており、シュラはシンが連れてきたセナとステラに、僅かな驚きを示す。
「シン。二人は?」
「それが……ちょっと気になる事があって」
「気になる事か。まぁ、良いだろう」
シュラはひとまずシンの言葉を飲み込み、タリアへと顔を向けた。
タリアもセナとステラが登場した事に少しだけ驚いていたが、追い出そうとはせず、話を始める。
「先ほど、司令部より緊急通達が入りました。ユーラシア中央より地球軍が侵攻。既に3都市が壊滅。ザフト全軍は非常態勢を取れとのことです」
「三都市が壊滅? 相当な大部隊という事ですか?」
「えぇ、おそらくは。そして、本艦は撃退の為に出撃する。という事になったのだけれど……シン。何か言いたいことはある?」
「いえ……俺は」
「タリアさん」
「何かしら。セナ」
「現在、ミネルバで動かせるモビルスーツはどれくらいありますか?」
「モビルスーツ……? は、インパルス、ジャスティス、セイバーの三機ね。後は、一応ガイアもあるけど、その子用にカスタマイズされたまま、まだ何もしてないわ」
「であればモビルスーツをどこかで調達するという事は可能でしょうか? 出来ればセカンドステージクラスの機体を」
「無理ね。既にミネルバはジブラルタル基地を飛び立つ準備を終えているし。改めて搬入となると、地球軍を止められなくなる」
「そうですか……」
どこか暗い表情で呟きセナに、タリアは酷く嫌な予感を感じながら、再度セナに問いかけた。
「セナ。貴女……何を知っているの?」
「知っているという程ではありませんが、この進行速度。そして、道中の街が壊滅的被害を出している事。そこから考えられる予想が一つあります」
「良いわ。話して」
「GFAS-X1 デストロイ。前大戦の際に試作型として投入された機体です。ZAFTにも記録は残されていると思います」
「デストロイ……? っ! まさか! ヤキン・ドゥーエの戦場に投入された!?」
「そうです。あの機体がおそらくは完成し、その圧倒的な火力によって駐留のZAFT部隊ごと街が焼かれたのでしょう」
「……!」
セナの言葉に、タリアを始めとしてブリッジの者達の誰もが息をのんだ。
そして、セナの言葉はそれで止まらず続く言葉を口にする。
「デストロイには、陽電子リフレクターが搭載されています。ミネルバの武装ではデストロイに傷一つ付ける事は出来ないでしょう」
「ならば、モビルスーツの火器も通用しないという事ですかね? セナ姫」
「はい。ですが、ビームサーベル等の攻撃であれば通用すると思われます。以前ミネルバが交戦したモビルアーマーもその様に撃退したと記録に残っていました」
「確かに。しかし、そうなると……なるほど、確かに機体が足りないか……インパルスはシン。俺がジャスティス……イングリットがセイバーかな。やはり」
「アスランは?」
「戦えるのであれば……ですが、どうなんだ?」
シュラは一応ブリッジに居たアスランへと問いかけるが、アスランはどこか落ち込んだ様子のまま何も話さない。
すっかり覇気の無くなってしまったアスランに、タリアは先日議長から受けた言葉を思い出すのだった。
キラの死亡。
もしかしたら、フェイスとして艦に乗っている彼もそれを聞いたのではないだろうかとタリアは考察し、小さくため息を吐いた。
「良いわ。今回の戦いはかなり厳しい物になると予想される。そんな状況で、今の貴方を出撃させる訳にはいかない」
「まぁ、そうですね。なら、俺とシン、とイングリットで出ましょう。レイは一応ザクを動かせるかどうか調整しておいてくれ。もしかしたら、何かの役に立つかもしれん」
「分かりました」
「では、シン。イングリット。良いか?」
「勿論です!」
「はい」
「かなり危険な任務となる。任務失敗というのは軍人として許容出来んが……無駄死にはするなよ」
「「ハッ」」
そして、シュラの言葉を最後にして、ブリッジに集まったパイロットはそれぞれの機体へと向かって行った。
ブリーフィングを終わらせたシンは、自分の愛機であるコアスプレンダーの最終調整をコックピットで行っていたのだが。
不意にメカニックの一人であるヨウラン・ケントから話しかけられる。
「お客さんだぞ」
「客?」
「そう。可愛い恋人だ。羨ましい奴め。爆発しろ」
「恋人って……ステラ! それにセナも!」
「あ、私は付き添いです。ステラさんがどうしてもシン君に会いたいと言ってまして」
「ステラが?」
「うん。ステラ。シンに話したい事。ある」
両手を胸の前で握り合わせながらシンを見上げるステラに、周囲からの視線が集まるが、シンは野次馬に散れ散れ! と手を振って追い払う。
そして、セナが野次馬を連れて離れてくれることに心の中で感謝を告げながらステラを見つめるのだった。
「あのね。シン。ステラ。シンにあげたい物があるの」
「あげたい物? なにをくれるんだ? ステラ」
「……これ」
おずおずとステラが差し出して来た指輪のついたネックレスにシンは大きく目を見開いて、そっとステラから受け取った。
「ルナマリアがね。シンに何を贈ったらいい? って聞いたら、指輪が良いって言ってて……わぷ」
「嬉しいよ。ステラ。ありがとう。大事にする」
シンはステラから受け取ったネックレスを付けて、笑った。
そして、ステラの優しさに感謝しつつも、コッソリと作ってコアスプレンダーに隠していた物を取り出して、ステラに見せた。
「ステラから貰った物と比べると、ちょっと微妙なんだけどさ」
「……?」
「ほら、ディオキアでさ。出会った時に、なんか体にくっついてたらしくて! その貝殻が綺麗だったから、ネックレスに加工したら喜ぶんじゃないかってレイが……!」
「きれい……!」
ステラはシンから受け取った薄い桜色の貝殻が付いたネックレスを両手で壊れ物の様に大切に持って、光にかざす。
その目はキラキラと輝いており、喜びの感情が全身から出ているかの様だった。
そして、無邪気に喜ぶステラを見ながらシンは微笑みを浮かべていたのだが……。
「ステラと、シン、こいびと?」
「は!? え!? いや、どうなんだろう!?」
「ルナマリアにね。ステラ、シンが好きって言ったら、じゃあ恋人になれば良いって言ってて」
「ルナの奴……」
「だめ?」
「いや、駄目じゃないけどさ。ステラは恋人、ってどういうのか知ってる?」
「ううん。よく分からない。けど……ルナマリアが、ずっと一緒に居るんだって言ってた。ステラはシンと一緒に、いたい。ずっと」
「……そっか。なら、うん。そうだね。いつか、ステラが本当に好きな人が出来るまで。恋人になろうか」
シンはステラに優しく笑いかけて頷いた。
そんなシンに、ステラはルナマリアから聞いた事を次から次へと話すのだった。
「わ……! 恋人。なら、なら……! 最初はキスをするんだって」
「キスぅ!?」
「ルナマリアがね。やり方はシンが教えてくれるって」
「ルナの奴……!」
「だめ?」
「……良いよ。キスくらいなら。まぁ、俺も初めてだけど」
シンを見上げたまま目を閉じるステラをシンはそっと抱き寄せて唇を重ねた。
シンは気恥ずかしさもあり、すぐにステラから離れてしまったが、ステラは唇に指で触れながらふわりと微笑んだ。
「これが、恋人のキス……」
嬉しそうにしているステラに喜びは感じるが、強い疲労感も覚えた為、シンはステラを部屋に戻そうとセナを探し始めた。
が、ステラの要求は次へ、次へと伸びていった。
「ね。ね。シン。次はね。次は……恋人同士になってからベッドで」
「ルナマリア!!! ステラに何を教えてんだ!!」
しかし、シンはステラが危険な場所に踏み込んでいこうとしている気配を感じ、ステラの手を引いたまま、格納庫でやべっ、という顔をしているルナマリアを追い回すのだった。