エンジェルダウン作戦。
それはミネルバを含めたZAFT部隊が、アークエンジェルを撃沈させる為に始まった作戦である。
しかし、シンはかつての仲間を撃てという命令に苦悩を見せるが、レイの助言により一つの希望を見出した。
そして、希望に向かってシンは飛び始めていたのだが……シンが動き出すよりも前に、激しい戦闘を始めていた者達が居た。
フリーダムのオルフェとブラックナイトスコードのシュラである。
「待ちわびたぞ! こうして正面からお前を打ち倒せる日をな!」
『……シュラ!』
「今日はどんな言い訳も通用しない! 負けて! 落ちて! 砕けろ!! 裏切者がぁああ!!」
『まだ、こんな所で落ちるつもりはない!!』
試作機として開発されていたブラックナイトスコードを、ジブラルタル基地にて、より近接戦で強く出られるようにと各部の改修を行って、遂にはフリーダムを圧倒し始めた事で、シュラは高笑いをしながらオルフェを追い詰めていた。
足りない戦闘技能をミネルバでの戦闘経験で埋め。
届かないモビルスーツの性能を、近接特化とする事で手を伸ばす。
そしてようやくここまで届いたのだ。歓喜の感情は膨れ上がり、止まらない勢いである。
「やはり正しいのは俺だったのだ! 間違っていたのはお前だ!」
『力だけで、正しさを語るな!』
「力が無ければ何も語ることは出来ない!」
シュラは振り下ろしたビームサーベルで雪を蒸発させながら、ビームサーベルをかわしたフリーダムを追う。
どこまでも、どこまでも。
決して逃がさないとでもいう様に。
「諦めて投降したらどうだ!? お優しいセナ様なら裏切った貴様であっても、許して下さるだろう!」
『ふざけるな! 彼女にこれ以上の重荷を背負わせてどうする! こんな世界の! 憎しみを!』
「それこそ世界が救われる道だ! そうでなければ! キラ様がその命を賭して、セナ様をお助けした意味が無いだろうが!!」
『っ!』
「役目を果たさねばならない!! この身に与えられた役割を! 果たせなければ、我らは!! 世界はー!!」
噴き上がる様な感情をその身に宿して、シュラはただひたすらにフリーダムを攻めた。
その刃はフリーダムの武装を破壊し、翼も傷つけて、雪面にフリーダムを叩きつける。
その猛攻は、その苛烈さは、まるでシュラの中にあるどうしようもない感情を叩きつけている様でもあった。
そして、オルフェとシュラが激しい戦闘を繰り広げている頃。
ミネルバは再びアークエンジェルへと接近し、砲を向けながら言葉も向けていた。
「メイリン! 国際救難チャンネルを開いて」
「はい」
「こちら、ザフト軍艦ミネルバ艦長、タリア・グラディスです。アークエンジェル聞こえますか?」
『艦長! ミネルバから!』
『え?』
その声は、アークエンジェルにも届いており、マリューは少しの驚きと納得を受けながら、ミリアリアの声に頷く。
「本艦は現在、司令部より貴艦の撃沈命令を受けて行動しています」
「ですが、現時点で貴艦が搭載機をも含めた全ての戦闘を停止し、投降するならば本艦も攻撃を停止します」
『艦長!』
『えぇ。本当に、貴女は……素晴らしい人だわ。グラディス艦長。でも……そうね。ミリアリアさん、向こうと同じチャンネルを開いて』
『はい』
『アークエンジェル艦長、マリュー・ラミアスです』
「……ラミアス艦長」
『貴艦の申し入れに感謝します。ありがとう。ですが、残念ながらそれを受け入れることは出来ません』
「えぇ!?」
「……っ! どういうこと」
『本艦にはやらねばならぬ事があります。そして、その為には本艦を沈めたい者達に抗う必要があります』
「……沈めたい、者達?」
マリューの物言いに、タリアは強くモニターを睨みつけながら呟いた。
『だからこそ……今ここで消えるわけにはいかないのです。願わくば脱出を許されんことを』
そして、その言葉を最後に通信は切れ、アークエンジェルは今まで以上に加速しながら海へ向かって進み始めた。
「アークエンジェル! 加速します! 海へ逃げる様です!」
「っ! 追って!」
「間もなく海岸線です! 逃げられます艦長!」
「……! タンホイザー起動!」
「っ! それは……!」
「威嚇よ! アークエンジェルが潜ろうとしている先に撃って!」
「艦長! アークエンジェルより熱源! ミサイル! きます!」
タリアがタンホイザーを撃とうとした瞬間、ミネルバの前部に向かってミサイルが放たれ、油断していたミネルバはそれを被弾してしまう。
そして、ミサイルの影響で姿勢が揺らいだミネルバのブリッジで、驚愕の報告が続いた。
「これは……! 上空より、巨大なエネルギー!」
「なんですって!? かわして!!」
「いえ、これは……目標、アークエンジェルです!!」
その言葉に、タリアは状況をすぐに理解して、叫んだ。
「総員! 衝撃に備えて!!」
そして、ミネルバがアークエンジェルと言葉を交わしている頃。
アスランもまた、ジャスティスでムラサメへと攻撃を仕掛けていた。
だが……。
「また、またか! 何故だ。何故届かない! 俺とお前で何が違う!」
『お前に構っている暇はない!』
ジャスティスはムラサメに向かって飛び、ビームライフルを放つがかわされ、ビームサーベルも容易くいなされて雪の積もった斜面に蹴り落とされてしまった。
まるで大人と子供が戦っている様なそれは、ジャスティスを駆るアスランにどうしようもない程の絶望を与えていた。
「俺とお前の何が違うというんだ! 同じ、アスラン・ザラだというのに!」
『そんなにその名前が大事か?』
「なに!?」
『生憎と、俺の名前は、カガリたちに呼ばれる事以外に価値など無い!』
「っ!」
『お前が弱いのは、そんなことに拘っているからだ!』
ムラサメに乗ったアスランは、ジャスティスの左腕をビームサーベルで切り落とし、そのまま変形するとアークエンジェルの援護に戻るのだった。
そして、残されたジャスティスの中では、アスランが憎しみに染まった目で、飛び去って行くムラサメを見ていた。
ジャスティスをアッサリと落としたアスランはアークエンジェルへと向かいながら押し寄せるZAFTのモビルスーツを撃ち落としていた。
だが、落としても、落としてもその数は減らず、少しずつではあるがアークエンジェルも追い詰められていた。
「この状況では……! ラミアス艦長!」
『アスラン君!?』
「ミネルバだけならまだしも、この状況ではどうにも出来ません。撤退を! 体勢を立て直しましょう!」
『……そうね』
「俺が道を開きます! トール・ケーニッヒ!」
『お、おう!』
「少しの間、アークエンジェルを頼む!」
『分かった! っ!? わぁ!』
「っ! どうした!?」
アスランは突如聞こえた悲鳴にストライクルージュを見やるが、そこには白いザクからの攻撃で被弾したストライクルージュがおり、アスランはその向こうに見える三機のモビルスーツに目を細めた。
先頭に居るのはインパルス、そして、その後ろからグゥルに乗った赤と白のザクだ。
「アレは……! シンか!」
『レイ! カガリ様に!』
『大丈夫だ。直撃はさせていない。戦場でチョロチョロ飛ばれても逆に危ないからな。アークエンジェルの中にいた方が安全だ』
『それはそうだけどさ!』
『それよりも、来るぞ!』
『っ! ムラサメ! アスランか!』
『え!? アスラン!? アスランって……』
『アスラーン!!』
シンはムラサメに通信を繋げながらシールドを構えてムラサメに突っ込む。
そして、向けられた通信にアスランは応えた。
「どういうつもりだ。シン!」
『説得しに来たんすよ!』
「説得……?」
『投降して下さい! そうすれば、みんな助かる! 誰も死ななくて済むんです!』
シンから向けられた言葉に、アスランはやや驚きながら目を見開いた。
そして、少し思考してから……シンに向かって口を開く。
「……それは、出来ない」
『出来ない!? なんで!』
「ZAFTの狙いは、カガリをオーブへと戻さない事だからだ」
『なっ……!』
「このまま俺たちが投降しても、殺されるだけだ」
『で、でも……そんなの条約違反で……!』
「前大戦の事はお前も知っているだろう。ヤキン・ドゥーエの戦い。あの場所で、おぞましい兵器がどれだけ使われたか……そして、憎しみにかられた兵たちが、敵兵に対して何をしたか!」
『うっ……! で、でも! アークエンジェルは何も!』
「アークエンジェルは何もしていない。あぁ、そうだな。だが、そのアークエンジェルがこうして攻撃されている。警告も何もなく、突如として攻撃を仕掛けられた。これが全てだ。シン。悪いがお前の願いには……! っ!」
シンと話をしていたアスランは、シンの仲間だと思っていた白いザクにビームライフルを撃たれ、シンのインパルスを弾き飛ばしながら、シールドを構えた。
そして、そんなレイに、シンが吠える。
その目には明らかな動揺があった。
「レイ!? 何をしてるんだ!」
『悪いな。シン』
「レイ!?」
『え!? なに!? どういうこと!?』
『その動き! レイか!』
『えぇ、そうですよ! アスラン!』
『くっ! やるっ!』
『この時を、俺はずっと待ってました。貴方を殺せる……! この瞬間を!』
「レイ!?」
『レイ……!』
『あの日! アカツキ島で! 貴方がキラさんとセナを殺した!! あの日から!!!』
激情のままにミサイルポッドからミサイルを放ち、それを囮としてビームライフルを放つ。
実力はシンよりも上であるレイは、巧みにアスランの逃げ場所を奪いながら攻撃を重ねていた。
そして、その殺意と、強さに、アスランは汗を滲ませながら攻撃を捌こうとするが、ウィラード隊のモビルスーツからも攻撃を向けられ、いくらアスラン用にカスタマイズされたムラサメとはいえ、避けきる事が出来ず被弾してしまう。
「レイ! なんで! 投降を呼びかけるって!」
『あぁ。アークエンジェルにはそうしよう! だが、コイツは違う! コイツだけは!!』
「レイ!」
『忘れたのか! シン! あの日の絶望を!! 俺達が希望を奪われた! あの日を!!』
レイの叫びに、シンはドクンと心臓が跳ねるのを感じた。
忘れた事はない。
豪雨に打たれながら、キラを探し……ボロボロのストライクを見つけたあの日の事を。
一瞬だって、シンは忘れたことは無いのだ。
「で、でも……! でも……! アスランはキラさんの幼馴染で、俺達だって」
『……偽物だ』
「え?」
『以前、キラさんとアークエンジェルに会いに行った事があっただろう。その帰り道、キラさんが言っていたんだ。『前大戦の時から、アスランの偽物は居た。あの島で、僕とセナは偽物に殺されかけたんだ』とな。お前にも伝えて欲しいと言われていた』
「そ……んな」
『あの戦いの前、アスランとキラさんの話はお前も聞いていただろう。間違いなく、あのアスランは、俺たちが知るアスランは! キラさんと共に平和を目指していた。だが、コイツは! そんなキラさんの想いを踏みにじって、殺そうとしたんだ!』
「……! おれ、俺は……! 俺は」
動揺し、震える手で操縦桿を握るシンは、何が正しいのか分からず視線をさ迷わせてしまう。
インパルスの動きも止まり、シンはもはや自分が何をすればいいのかすら分からない状況になってしまった。
だが、そんなシンに……強く言葉を向ける者がいた。
『シン』
「アス……ラン」
『かつて、オーブでお前とした約束を覚えているか』
「やく、そく」
『それを、果たせ』
『これ以上シンを惑わせるのはやめて貰おうか!』
『シン! お前が守らなければいけない物はなんだ!』
アスランの叫びに、シンは……アスカ家であった事を思い出していた。
《シン》
《お前にもう一個だけ、頼みたい事がある》
《もしも。俺とキラ。どちらかしか助けられない時は、迷わず俺を捨てろ》
《シン。セナの事を頼む》
「あぁぁあああああ!!!」
シンは涙を浮かべながら叫び、インパルスのビームサーベルを抜いてムラサメへと迫った。
そして腹部にビームサーベルを突き立てると、そのまま向こうに見える海へ向かって突き進む。
その最中、アスランはインパルスに触れてシンにだけ聞こえる声で言葉を残す。
『すまないな。シン……セナを、頼む』
「……! アスラン!」
『レイには、気を付けろ』
その言葉を残し、ムラサメは暗い海へと落ちて行った。
シンがムラサメへと攻撃を仕掛けた時とほぼ同時刻。
シュラは遂に、フリーダムのビームサーベルを除くすべての武装を破壊し、海上へと追い詰めていた。
「アークエンジェルへと逃げるつもりか! だが、させん!!」
『くっ!』
「お前はここで……! 終わりだ!!!」
そして、この時の為にと用意した『近接対装甲刀 ディス・パテール』を構え、フリーダムに向かって突っ込む。
既に射撃武器を全て失っていたオルフェはビームサーベルでそれを迎撃しようとしたが、それも叶わず、胸部を貫かれてしまうのだった。
既に抵抗する力を失っていたフリーダムは海へと落ちて……直後、海水を全て噴き上がらせる様な爆発が海の中で発生し、同時に機体が真っすぐに保っていられない程の衝撃がブラックナイトスコードを襲った。
「……! この衝撃はなんだ!」
「おそらくは上空より降り注いだ砲撃が原因だと思われます」
「砲撃、だと……?」
「エーゲ海で目撃した物ですね。アレがアークエンジェルを撃ったようです」
「そうか。フリーダムの反応は」
「……完全に消失。アークエンジェル、ムラサメの反応もありません」
「ふっ、ははははは! そうか! これで、分かっただろう! オルフェ。我らを裏切るからこうなるのだ! 裏切者は殺さなくてはならない! 死ななくてはならないのだ!」
「……シュラ」
「なんだ」
「泣いて、いるのですか?」
「っ! だれが……! 誰が涙など、流す物か! 俺は戦士だ! 涙など流すはずがない! 裏切者を討ったたのだ! 喜ぶべきだ! これで、平和に一歩近づいたと! 喜ばねばならない!」
「……そうですね」
イングリットは、ヘルメットを外し目元を拭っているシュラを見ない様にしながら、暗く、荒れた海を見やった。
オルフェが浮き上がってくる様な気配はない。
……オルフェは死んでしまった。
その事実がイングリットには酷く苦しい事だった。
そして、大爆発に巻き込まれ……。
ボロボロの状態となったインパルスの中でも……一人の少年が自分を守る様に丸くなりながら涙を流していた。
「キラさん……おれ……どうすれば」
誰にも届かない言葉を呟きながら……。
「おしえてください……キラさん」
シンは、ただ……絶望の中、道しるべを失ってしまっていた。
「……キラさん……アスラン」