エンジェルダウン作戦は無事完遂され、アークエンジェルの撃沈が確認された。
海中の捜索には時間がかかったが、アークエンジェルの残骸も発見されフリーダムもまた胴体が貫かれた状態で発見されている。
だが、コックピット付近は損傷が激しくパイロットを発見する事は出来なかったが、あの状態では助からないだろうという事で結論が出され、報告はそのままデュランダルの元へと送られる事になった。
「そうか……アークエンジェルは確実に沈んだか」
「はい。まず間違いないかと」
「分かった。報告ご苦労。下がってくれ」
デュランダルは、微笑みを浮かべたまま報告を受け、そして人を下がらせてから深く息を吐く。
キラ・ユラ・アスハがヘブンズベースで命を落とし、カガリ・ユラ・アスハもアークエンジェルと共に沈んだ。
そして、おそらくはカガリ・ユラ・アスハと行動を共にしていたアスラン・ザラもまた。
「少しばかり順調すぎて恐ろしいね」
「それが……あの御方の力。ですわ」
「だからこそ、恐ろしいという話なのだけれどね」
デュランダルが冗談のように、ソファーに座っていたラクスへと語り掛ける。
その言葉にラクスは、ラクスらしい姿で立ち上がりながら微笑みをデュランダルへと向けた。
「どこに恐れる物があるというのでしょう。あの御方は慈悲深い。逆らわなければ、永遠の安寧を得られますよ」
「君は忘れている様だけど、キラは、あの御方の考えに反対すると思うよ」
「ふふ。だから良いのではないですか」
「……」
「そうキラは自由なのです。自由こそがキラに相応しい。数多のまがい物とは違い、キラだけは完成した『人間』なのですから。キラが為す事は正しいのです」
「随分と矛盾した話に聞こえるね。それじゃあの御方と、キラと、どっちが正しいんだい?」
「さぁ」
両手を広げ、分からないというポーズをするラクスにデュランダルは苦笑する。
この盲信者はいつもこうだな、と思いながら。
「
「まったく……君は見た目以外、何も彼女に似ていないね」
「彼女? あぁ、ラクス・クラインですか。それはそうでしょう。私は
「なるほど」
「ですから。本物だとか、偽物だとかに拘るつもりはありません。ただ、この体でこの名、この声を持っていれば、キラが
「だが、キラはラクス・クラインを愛している」
「えぇ。分かっておりますわ。だから……そろそろ彼女には退場していただきたいのですけれど。アークエンジェルと共に沈んだという可能性は?」
「薄いだろうね。何せ、月の近くでエターナルが動いているのを月面の監視部隊が捕捉した」
「あら。単独行動という可能性は?」
「無いと考えて良いだろう。あの艦はラクス・クラインの艦さ。彼女無しでここまで動き回る事はない」
「という事は、この艦を動かしている
「まぁ……そうだね。そろそろ彼女も邪魔になってくる頃だ」
「では。部隊を動かしましょうか。アレを排除する為に。どなたが良いかしら。あぁ、ラウ・ル・クルーゼ様をお借りしても?」
「いや……それは難しいね」
「難しい……? どういう事ですか?」
「ラウは……ミーア・キャンベルと共に地球へ向かったという報告が上がっているからね」
「まぁ」
ラクスは驚いたとでもいう様に口を手で覆った。
そして、ラクスとデュランダルが話をしている頃、地球へ向かうという事になっていたミーアことラクス・クラインは、クルーゼと共にナスカ級『ヴェサリウス』で、地球近くの宙域をウロウロとしていた。
「しかし……エターナルを探せとは。中々無茶を言って下さいますなぁ。ラクス様も」
「姫とはそういう物さ。キラも中々に我儘だっただろう?」
「まぁ、確かに……。キラ様を思い出すと姫君とはそういう物なのかもしれませんな」
「あぁ。旧世紀……中世の時代からな。変わらぬモノだ。人も世界も。宇宙へ飛び出してみても、やっている事は人殺し。そして我ら軍人は、お姫様の我儘に振り回されて、あちらこちらへと駆け回っている。ツライものだな。アデス」
「確かに。まったくです」
どこか和やかな空気のブリッジで、クルーゼは戦友であるアデスと共に軽口を叩きながら、終わりの見えない任務の愚痴を吐いていた。
だが、クルーゼがただの少女の……為に分かりましたと動くワケもなく……彼には彼の目的があった。
「しかし、まぁ、そんな我儘も我々にとっては非常に都合の良い話でもある」
「……隊長。そろそろ教えていただけませんか? ラクス嬢の依頼を受け、地球へ向かった理由を」
「あぁ……まぁ、そうだな。我らもそろそろ道を選ばねばならない時だ。皆も、『真実』を知るべきだろう」
「……真実、でありますか」
アデスはいつも通り勿体ぶったクルーゼの言葉に訝し気な顔をしながらも、どうせキラやセナに関する事なのだろうと心の中で笑う。
何だかんだ、怪しい挙動をしつつも、前大戦の時からクルーゼは溺愛する妹の為にばかり行動していたのだ。
そう考えれば、今回の奇妙な行動も、その一環なのだと言うコトが分かる。
「つい先日の事だ。地球より二つの小さな熱源が宇宙へと飛び立ったのをZAFTの監視衛星が捕らえた。まぁ、その機体は宇宙へと上がるとすぐに消えてしまったがね」
「消えた……? という事は、ミラージュコロイドですか」
「そうだ。つまり、その二機のモビルスーツ……またはモビルアーマーは、単機で大気圏を離脱出来る機体という事になる」
「それだけの推力を出せる機体となると……限られてきますね」
「あぁ。さらに言うのであれば、ミラージュコロイドも搭載している。ミラージュコロイドを搭載した、大気圏を離脱出来るだけの推力を持った、二機のモビルスーツ。私はこの情報からある国のモビルスーツを思い浮かべた」
「それは……」
「エクリプス。オーブ連合首長国が開発した、核を搭載したモビルスーツだ。そして、ちょうど、このモビルスーツが飛び立った場所を調べると……直前までODRが活動していた記録が残っていてね」
「……!」
「さらに言うのであれば、その場所はキラが消息不明となった、ヘブンズベースに酷く近い場所であった様だ。点と点が繋がってくるとは思わないか?」
アデスはクルーゼの話にハッとなり、顔を上げた。
そして、それは二人の話を聞いていたヴェサリウスのブリッジクルーも……ちょうどブリッジに入って来たミゲル・アイマンも同じである。
「つまり、隊長は……オーブが秘密裏に絶体絶命のキラを救出し、宇宙へと運んだ……と?」
「私には、そう見えるな」
「で、ですが……! ならば、何故キラ様は自身が生きていると……!」
「言えない理由があるという事だ。それこそが、ここから話す話にも繋がってくるワケだが……来たか」
「え?」
「っ! ほ、本艦に急速に接近する熱源! これは……! 熱紋照合! エターナルです!」
「どうやら本物のお姫様が登場した様だぞ」
クルーゼが仮面越しに笑みを浮かべながら呟いた言葉に合わせるように、白と青の色を纏った機体が一機、宇宙と同じ色をしたコートを外し姿を現した。
そして、ヴェサリウスに触れながら通信を繋げて来る。
「す、ストライク!?」
『こちら、キラ・ユラ・アスハ。こちらに戦闘の意志はありません』
「隊長!」
「分かっている。通信を繋げろ」
「は、はい!」
「こちら、ラウ・ル・クルーゼだ。久しいな。キラ」
『え!? ラウ兄さんだったの!?』
「なんだ。既に知っていると思っていたが……私の部隊と知らずに声をかけたのか。不用心だな」
『あ、いやー。それはそうなんですけど。ネオさんが、あの艦は敵じゃないって言ってたので……』
「ふむ。先ほどから妙な気配を感じると思っていたが……そうか。まだ生きていたか」
「隊長……?」
「いや、気にするな。さて、キラ……積もる話もある。まずはヴェサリウスへ招待しても構わないかね?」
『あ、いえ。そういう事なら。このままヴェサリウスをファクトリーにご案内しますね』
「良いのか?」
『はい! だって、ラウ兄さんとラウ兄さんが信頼する人達ですもんね! 全然大丈夫です!』
無邪気に笑いながら言ったキラの言葉に、アデスを含むヴェサリウスのクルー達は、この信頼を絶対に裏切らない様にしようと心に誓うのだった。
そして、キラの言うファクトリーへと向かう事となった。
そのファクトリーはデブリ帯の中に隠されており、エターナルとヴェサリウスはその基地に到着すると、隕石で外装を隠し、クルーゼ達はファクトリーの工場区へと向かうのだった。
「ラウ兄さん!」
「キラ……! 心配したぞ」
「ごめん……! でも、生きている事がバレると駄目だったから」
「良いさ。君が生きているのなら、それ以上の喜びはない」
相変わらず妹にはべた甘のクルーゼに苦笑しつつ、アデスは工場の中で開発されているモビルスーツに目を向けた。
それは、前大戦の時から酷く見慣れた機体であり、キラがここに居る事も相まって、その機体がどういう機体なのかすぐに理解してしまう。
「き、キラ様……? 感動の再会の所、申し訳ないのですが……この機体は」
「あぁ、新型のモビルスーツですよ」
「新型のモビルスーツ……ねぇ。でも、コレは……条約違反の機体だろ? 核動力の」
「えぇ。よく分かりましたね。ミゲルさん」
「そりゃ……分かるだろ。この見た目じゃあ、なぁ」
ミゲルは二機のモビルスーツを見上げながら苦笑した。
キラが保有していると分かっているから笑っていられるが、これが違う勢力の基地なら今すぐ攻撃を仕掛けている所である。
「ふふ。ラウ兄さんと皆さんに紹介しますね! これが、DSSDの方々と、ハインラインさん達に協力して貰って作った! 僕たちの新しい剣! 新型のフリーダムとジャスティスです!」
どうだ。とばかりに微笑みながら胸を張るキラに、アデスたちは早速どっと疲れてしまうのだった。