ガンダムSEED Re:   作:とーふ@毎日なんか書いてる

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第214話『PHASE-36『アスラン脱走1』

 デュランダルとの話し合いが終わってから、シンとレイは格納庫で自らの機体のチェックを始め、アスランは、ラクスに誘われるまま彼女の部屋に足を踏み入れる。

 当たり前の様にアスランを招き、アスランもまた当たり前の様に部屋へ入る様子から、警護に立っていた兵士たちは二人の関係を噂するが、当然の様に二人はその様な関係ではないし。

 二人に相手を思いやる様な感情は無かった。

 

「俺に何か用か? ラクス・クライン」

「あら。用が無くてはお話出来ないのかしら。フェイス様は」

「煩わしい。そういう物言いは止めろ」

「ふふ。つれないですわね。まぁ良いですわ。では単刀直入にお聞きしましょう。貴方……ZAFTを離れるつもりですね?」

「あぁ」

「理由を聞いてもいいでしょうか」

「キラを探しに行く」

「ふぅん」

 

「驚かないんだな」

「それは当然でしょう。私と貴方が唯一共感できるコトはキラの事だけなのですから」

「……確かに。それもそうか」

「えぇ。それで? どこを探すおつもりですか?」

「ひとまずは、アークエンジェルを沈めた場所だ。キラが彼らを見捨てるとは思えない」

「あら。でも報告では全滅したのでしょう?」

「ふっ……本気でその報告を信じているのか?」

 

 アスランが嘲るようにラクスへ笑みを向けると、ラクスはそんなアスランへとラクスらしい笑みを返す。

 ふわりと妖精の様に、花のように笑う、一般的に可愛らしいと言われる様な笑みだ。

 しかし、その柔らかい唇から放たれるのは、優しい香りのする毒だ。

 

「まさか。デュランダルの様な無能では無いのですよ、私は。旧人類と一緒にしないで欲しいですわね」

「フン。ならば理解出来るだろう。アークエンジェルに乗っていたクルーは生きている。そして……アスラン・ザラも」

「ふふ」

「何がおかしい」

「いーえ。既に敗北した相手に……まだ拘るのだなと思いまして」

「……」

「貴方は結局、本物に勝てなかった。そうでしょう?」

「だから、なんだ」

「別に。大した意味はありませんわ。己の存在全てをかけて挑み。敗北した男は、こういう顔をするんだなと思って見ているだけです」

「っ……!」

「キラの傍に立てるアスラン・ザラは、彼だった。それが証明された今、貴方はどういう気持ちなのでしょうか」

「ラクス・クラインに挑む事すらしていないお前に……言われる筋合いはない!」

「していない。のではありません。する必要が無いのです。結果として、ラクス・クラインが(わたくし)ただ一人となれば、(わたくし)がラクス・クラインなのですから」

「……お前の様な邪悪な女をラクス・クラインだとキラが勘違いするワケが無いだろう」

「またその様な小さな事にこだわって……」

「なに……?」

「別に(わたくし)が本物である必要は無いのですよ。ただ、(わたくし)しかキラが選べない状況になれば、それで良いのです。恋は情熱的に相手を求めるモノですが。愛は諦めの果てにあるモノですから」

「チッ……」

「愛する者を失い、孤独の中で心を傷つけたキラにとって(わたくし)はまさに甘露。手放せない甘い果実。そうなれば、ラクス・クライン以上にキラは(わたくし)を愛するでしょう。失った傷が深ければ深い程に」

「毒婦め……」

「何とでも。(わたくし)は世界の聖女になどなるつもりはありません。ただ、純白の姫(キラ)を堕とす毒リンゴとなれば良いのです」

 

 心底気が合わないという様な顔をしながらアスランは舌打ちをし、これ以上同じ空間に居たくないと部屋を出ようとした。

 だが、そんなアスランの前にラクスが一歩足を踏み出し、行く手を遮る。

 

「なんだ」

「本物。などという物にこだわるのはお止めなさい。その呪いはいつか貴方を殺しますわ」

「ご忠告ありがとう。だが、俺は自らが生まれた意味をそこに置いた。アスラン・ザラとして生まれた俺は、誰よりもアスラン・ザラにならなければいけない。完璧に。アスラン・ザラとなる」

 

 アスランはラクスを睨みつけながらハッキリとそう宣言して、部屋を出て行った。

 そんなどうしようもない程に真っすぐな男を見送ってからラクスはハァとため息を吐いた。

 腕だけは確かな為、何かに利用できないかと声を掛けてみたが……相も変わらずアスランは生まれた時からアスランであった。

 おそらくは本物以上に。

 

「本当に。面倒な性格をしていますわね。あの方は。本物も同じくらい面倒なのかしら」

 

 ラクスは腕を組みながら、フーと息を吐く。

 一回や二回のため息で消える疲れではない。

 

「生まれた意味。役目。その様なものに囚われても意味など無いでしょうに。意味は自分で作るものですわ」

「そう……(わたくし)のように」

 

 ラクスはホテルの窓からジブラルタル基地を見下ろす。

 ここに居るのは既に役目が終わったジブリールを殺す為の部隊だ。

 

 ヘブンズベースという場所に追い込んだジブリールを叩き潰し、地球にある国家を全て掌握する。

 全てはあの御方の計画の為に。

 

「ふふ。でもキラは計画を止める為に動いてるのでしょうね。貴女は愚かな民衆も愛していらっしゃるから。ふふふ。それがさらに民衆を苦しめると知りながらも、自由を胸に、貴女は飛び続ける」

「嗚呼! 貴女の絶望する顔が(わたくし)は見たい。誰か一人を失っても、貴女は進む。それが二人、三人と増えても、失った人の願いを捨てられないから、貴女は進む」

「傷ついて、傷ついて! ボロボロになっても……!」

 

 ラクスは興奮しながら窓に手を当てて外を見つめながら呼吸を荒くしていた。

 そして、熱くなった体を冷ます為に、服を脱ぎ……うっとりと暗闇に浮かび上がった幻影に想いを馳せた。

 

「キラ。貴女は勝っても負けても全てを失う。貴女がどれほどの力を得ようとも……極大の希望には勝てない。そして、後悔する。こんな事になるのなら……と」

「その時が、私の出番。傷つき壊れた貴女を、(わたくし)が甘く受け入れましょう。母の様に」

「……母。それは良いですわね。キラと同じ遺伝子の赤子を作り、そこにキラの記憶を移し……(わたくし)が、生む」

「とても良い考えですわ……!」

 

「あら……」

 

 ラクスが妖しい笑みを浮かべながらガラス窓に寄り掛かり吐息と言葉を漏らしている頃……ピピピと電子音が鳴りラクスの持っている一つの端末が着信を告げていた。

 それに気づいた瞬間、ラクスはテーブルにある端末の元へやや早足で動き、その端末を手に取る。

 

「はい。(わたくし)ですわ。貴女様のラクス・クラインでございます」

『……相変わらず個性的な挨拶だな。ラクス』

「そうでしょうか。(わたくし)にとっては何よりも大切な事なのですが」

『そうか。まぁ良い。ところで……何やらアスラン・ザラがどこかへ消えようとしている様だが、何か知っているか?』

「はい。彼はキラを探しに行くと」

『……キラを?』

 

「えぇ。彼はアスラン・ザラ。キラの騎士として並び立つ者ですから。その役目を果たしたいのでしょう」

『その様な命令を下した覚えはないがな』

「彼自身の意志でございます。気に食わぬという事でしたら、(わたくし)の方で始末しますが」

『いや……良い。あの子の定める運命は、個々人の意志を優先するものだ。それがアスラン・ザラの意志であるのなら、それを私に止める理由はない』

「寛大な御心に感謝を」

『必要ない。私はあの子の意志を尊重しているだけだ』

「ふふ」

『……何を笑っている』

 

「いえ。クリスタ様は、セナ様をとても愛していらっしゃるのだなと思いまして。少々嬉しくなってしまいました」

『それで喜ぶ感性が私には分からないが……世界が否定した私を、護り、愛し続けてくれた子だ。愛さぬ理由がない』

「ふふ……そうですわね」

『ニタニタと、気色の悪い笑い方をしているな』

「ふふ。コレは申し訳ございません。ご不快の様でしたら、今すぐその苛立ちを消す為に馳せ参じますわ。どうぞ、その柔らかく小さな御足で私の体を……!」

『止めろ。セナが汚れる。貴様の様な毒婦が触れて良い存在ではない』

「あぁ……!」

『……無敵か。コイツは』

 

 ラクスは通話向こうの罵る声に、体を震わせながら悦び、笑みを浮かべる。

 

『貴様。役目は果たせているのか? しっかりとラクス・クラインを演じる事が出来ているのだろうな? 私は不安になってきたぞ』

「それに関しては何一つ問題ございません」

『会話をしている限り、そうは思えんがな』

「貴女様の前だけでございます」

『特別扱いをされて、これほど気持ちが悪く感じたのは初めてだ』

「あぁ……!」

 

『チッ。これ以上話をしていると頭がおかしくなりそうだ。とにかく。貴様とアスラン・ザラの役目は、ラクス・クラインとアスラン・ザラを排除し、キラを争いの無い場所に置く事だ。分かっているな?』

「えぇ。無論ですわ」

『ならば良い。しかし……貴様と共に居たら、キラも汚れそうだ。少し考えるべきか?』

「ク、クリスタ様! それだけは……! それだけは、ご慈悲を! 私はセナ様とキラの座る椅子でも、足ふきマットでも構いませんから……!」

『だから! それを止めろと言ってるんだ! 少しは淑女らしくしろ! ラクス・クラインが貴様の様な変態なワケが無いだろうが!』

「そうでしょうか? 彼女も相当なモノだと私の遺伝子が言っておりますが。具体的には、愛を感じ、興奮していたら人が来る可能性のある砂浜であっても全裸になる様な……」

『適当な事を言うな! セナの中から見ている限り、奴は淑女だったぞ!』

「演技派なのですね。ラクス・クラインも」

『……もういい。貴様と話をしていると頭が痛くなってくる。とにかくだ。役目を果たせ。以上だ』

「承知いたしました。では、おやすみなさい。良ければ私がベッドになりますが」

『チッ。通信終わり!』

 

「あら。切れてしまいましたね。恥ずかしがり屋さんなのでしょうか」

 

 ラクスは通話の終わった通信機を見つめながらホッと息を吐く。

 嬉しさと寂しさが入り混じった様な感覚だ。

 

 しかし、どちらかと言えば喜びの感情が強い。

 

「久しぶりにお話をしましたが、やはり……クリスタ様は純粋ですわね。どこまでも白く。誰も足を踏み入れていない雪原のよう」

「ですが……その様な御方を傷つけた世界……ですか」

 

 ラクスは暗闇が広がるガラスに手を付け、先ほどまで浮かべていた笑みを消し、酷く冷たい顔で外の世界を見据えた。

 

「やはり、全て滅びるべきではないかしら。こんな世界」

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