オーブ連合首長国に一つの大きなニュースが流れた。
それは、長く行方不明になっていたアスハ家の姉妹が発見されたというニュースだ。
多くの報道陣がエアポートに集まり、少女たちの登場を待つ。
そして、エアポートに降り立ったシャトルから現れた二人の麗しき少女たちに、オーブの国民は歓声を上げるのだった。
オーブ連合首長国代表首長、ウズミ・ナラ・アスハの子。
カガリ・ユラ・アスハの妹である、キラ・ユラ・アスハとセナ・ユラ・アスハに、多くの報道陣が詰め寄って、マイクと共に様々な質問を向ける。
「キラ様! 実に五年ぶりの帰還となりますが、何かお気持ちは!」
「どこで生活をされていたのでしょうか!?」
「セナ様も妹君という事ですが! 何故、隠されていたのでしょうか!?」
キラやセナの護衛として立っていた者たちは、報道陣をキラたちから引き離そうと間に入ったが、それをキラが制する。
そして、セナと共に、報道陣の前に出て笑顔を向けた。
多くの目線に怯える様な事もなく。
「まずは、オーブの皆さま。お久しぶりです。長い間、オーブを離れていた事、まずは謝罪させて下さい」
「そして、まず、私の気持ちでしたね。私の気持ちとしては、オーブへ戻ってくる事が出来た事、とても嬉しく思っています。生まれ育った国。そして、同じ国で生きる皆さんの元へ戻ってくる事が出来た事は何よりも喜ばしい事です」
「この国が平和である様に、私が出来る事を為し、皆さまと共に生きる事が出来れば何よりも幸せです」
キラは丁寧に分かりやすい声と言葉で報道陣や国民に言葉を届けてから、胸に手を当てて、次なる言葉を紡いだ。
「次の質問は、どこで生活をしていたか。ですね。五年前、オーブを離れた私は、月で数年生活しておりました。理由としては、皆さまもご存じの事かと思いますが、オーブでブルーコスモスによるテロが過激化していたからでございます」
「私がオーブで生活する事で、国に住まうコーディネーターの方々への被害も広まってしまう」
「ですが、私がオーブを離れれば、テロは標的を失い、減少してゆく」
「苦渋の決断ではございましたが、皆さまの安全を考えれば当然の事。私はオーブを離れました」
「しかし、月で生活していた私は、やはりテロに狙われ……その時、私を救ってくれたのがセナでした」
「彼女はブルーコスモスの凶弾に倒れ、一時は命の鼓動が完全に止まってしまった程でした」
「しかし、奇跡は起き、彼女は戻ってきてくれました」
「その後、息を吹き返したセナに事情を聞けば、彼女は私やカガリの妹であると判明したのです」
「私とカガリがアスハ家へ引き取られた後に、生まれた子という事でした」
「ですが、彼女はもう帰る家もなく、私を庇った事で長時間歩く事が出来なくなってしまった」
「そこで、私は彼女をオーブへと連れてきたのです。申し訳ないとは思っていますが、彼女もまたオーブという国を愛してくれると言ってくれたのです」
「私は、セナと共に、オーブをこれから支えてゆきたいと考えています。どうか、よろしくお願いいたします」
キラは丁寧に事情を説明してから頭を下げて、続く記者の質問にも丁寧に全て答えていった。
そして、全ての質問が終わった事を確認してから、アスハ家へ向かう為の車に乗り、笑顔で手を振って報道陣に別れを告げるのだった。
それからアスハ家で到着したキラはひとまず、セナを護衛の男に預けて、黄金の襲撃に備えた。
キラの事が大好きな黄金の姫君は、キラを見つけると、どこからともなく飛んでくるのだ。
「キーラー!」
「うわっ! カガリ!?」
「お前! 急に居なくなって! 急に帰ってきて! もう! 何なんだよ! お姉様は怒ってるぞ!」
「はいはい。分かったから。暑いから。離れてよ。妹のカ・ガ・リ」
「何を言うか! 私が姉で、お前が妹だ!」
「もう! 帰ってきてすぐにこのやり取りなの? 少しは落ち着かせてよ」
キラは正面玄関を開けた瞬間に飛び込んできたカガリを抱きとめて、そのままヤレヤレとでもいう様な顔で家の中に入ってゆく。
少々歩きにくいが、子供の頃からスキンシップの多いカガリに慣れていた為、特に気にすることは無いのだった。
「そういえば、キラ! セナはどこだ!? キラの妹という事は、私の妹でもあるのだろう!?」
「さぁ? カガリのお姉ちゃんかもしれないよ?」
「セナ? セナはどこにいる」
カガリはキラから離れると、キラの後ろへ目をやって、護衛の男に抱きかかえられながら家の前の階段を上ってくる少女へと目を向けた。
キラによく似た、可愛らしい姿をした、キラやカガリよりも小さな少女だ。
「おぉー! セナ! お前がセナか! カガリお姉様だぞ!」
「あ、はじめまして。カガリさん」
「カガリお姉様、だ!」
「あ、はい……カガリお姉様」
「おぉー! そうだ! お姉様だぞー! セナとキラのお姉様だ!」
「僕の方がお姉ちゃん! ね!」
カガリは護衛からセナを預かると、そのまま家の中に運んで行く。
「キラもそうだが、セナももっと食べた方が良いぞ。軽すぎる」
「あのさ。カガリ。もう少しデリカシーって奴を持ってほしいんだけど? 失礼でしょ? 僕にも、セナにもさ」
「あ、いえ。私は」
「ほら。セナは気にしないと言っているぞ」
「セナは優しい子だから言わないだけだよ!」
キラは頭を抱えながら、まったくもう! と言って、カガリやセナと共にリビングへと向かい、綺麗なソファーに座る。
そして、テレビを点けて、ため息を吐くのだった。
「久しぶりにオーブに戻ってきたけどさ。いやー、肩こった」
「お疲れ様です。キラお姉ちゃん」
「んー! ありがとう。セナだけが僕の癒しだよー」
「そうか。疲れているのか! キラ!」
「何。カガリ。その広げた両手は」
「お姉様の胸に飛び込んできてもいいぞ。の合図だ」
「飛び込むワケないでしょ」
キラは両腕を広げるカガリに手を軽く振りながら拒絶して、呆れた様な目を向ける。
そんな冷たいキラにカガリはショックを受けた様な顔をしながらソファーに座るセナを抱き寄せた。
「セナぁー。キラは冷たいなぁー。カガリお姉様の事を慰めてくれ!」
「はい! カガリお姉様。よしよし。です」
「ははっ! セナは本当に素晴らしい妹だな!」
「あんまりセナで遊ばないでよ? カガリ」
「分かっているさ」
「それとさ」
「うん」
「随分と、乱暴なやり方でプラントから僕らを呼び寄せたね」
キラは満面の笑みを浮かべているカガリの真意を確かめる様に、鋭い目でカガリを射抜く。
プラントに居たキラにかなり乱暴なやり方で接触してきたオーブの関係者。
そして、プラント防衛網を強引に突破して、そのまま地球へと向かったシャトル。
全てが異様であった。
だから、キラは当然の様に、その行動の理由をカガリに問うた。
「まぁ、少々強引であったのは確かだな」
「少々。なんてレベルじゃなかったけどね。向こうが何故かシャトルを撃たなかったから無事だっただけで、下手したら僕もセナも死んでたよ?」
「かもな」
「あのね……かもな。じゃないんだよ」
「だが、私たちはそんな万が一が無い事を知っていた」
「うん?」
「キラ。お前は気づいてなかったかもしれないが、プラントはお前たちを監禁していたのさ。いや、監禁というのも違うのかもしれないけどな」
「知ってたよ」
「っ! 知ってたのか!?」
「まぁ、どこからそういう決定になったのかは分からないけどさ。いつの頃からか。僕とセナの周りには常に人が居る様になったからね。そりゃ嫌でも気づくさ」
「そうか……しかし、連中は何を考えていたんだ!? オーブから正式にキラを返せと言ったのに、キラはもう居ないとしか言わなかったんだぞ!? 信じられるか?」
「うーん。そうねぇ」
キラはどう言った物かとしばし考えてから、侍女が出してくれたお茶を一口飲んで、小さく息を吐いた。
そして、唐突にとんでもない爆弾を投げ込んだ。
「実はさ。僕とセナはプラントで兵器の開発をやってたんだよね」
「なんだと!? まさか、プラントは戦争を始めるつもりなのか!?」
「可能性は高いね。相手は理事国かな」
「……そうか。もうそんな所まで来ていたのか」
「僕とセナもなるべく時間稼ぎはしたんだけどね。特に必要のない改修の検証とかやってさ。それでも限界はあった。多分来年にはモビルスーツが完成して、量産体制に入るんじゃないかな」
カガリはキラの話に深いため息を吐いた。
いつの頃からか始まったコーディネーターとナチュラルの争いは、遂にここまで来たのだ。
兵器の生産と、増産。
何かの切っ掛けがあれば、戦争になる可能性が高い。
そしてそれが起こるのは十年後か、五年後かもしれない。
まさか、とは思うが……現実として戦争の足音はすぐそこまで来ていた。
「でも、さ」
しかし、キラの顔は何一つ諦めてはいなかった。
厳しい現実を受け入れながらも、戦う意思を示している。
「まだ、止められると思うんだ」
「止められるって、お前」
「プラントは無理でも、理事国の方を止めれば……あるいは」
「そうは言うがな。理事国も問題だろうが、ブルーコスモスの問題もあるんだぞ?」
「だからさ。理事国と、ブルーコスモス。両方を止める方法を僕らは遂に見つけたってワケ。ね? セナ」
「はい」
キラに話を振られ、セナはカガリに抱きしめられたまま小さく頷いた。
そして、カガリよりも一回り小さな体の小さな唇で、キラとセナが見つけた真実の一つを語る。
「ロゴスという物を知っていますか? カガリお姉様」
「ロゴス? なんだそれは」
「都市伝説の一つさ。でも、地球でかなり大きな影響力を持っている事は確かでね」
「……」
「そんなロゴスの一人……地球の経済を裏から支配している。なんて言われるくらいの財団。アズラエル財団の次期当主にして、ブルーコスモスの盟主。ムルタ・アズラエルさんに会ってみようかなって思ったワケ」
自ら反コーディネーター組織の親玉が居る場所へ行くなんて言う妹に、カガリは烈火のごとく怒りを示したが、キラははいはいと軽く流して、話を終わらせてしまうのだった。
しかし、カガリはいつまでもキラに反対だからな! と言い続け、こんな話をするんじゃなかったとキラは後悔するのだった。