荒れ始めた暴風雨の中、ジャスティスを強奪し、ジブラルタル基地の外へと逃亡しようとしていたアスランであるが、ジャスティスの奪還……もしくは撃墜の為に出撃してきたモビルスーツによって中々時間を取られていた。
それでも、何とかモビルスーツ部隊を無力化し、外洋へと向かったジャスティスの前に二機のモビルスーツが現れる。
「チッ、間に合わなかったか」
「あれは!?」
「デスティニーとレジェンド。シンとレイだ!」
「えぇっ!?」
アスランの悔しさを噛みしめた様な声に、メイリンは悲鳴を上げた。
しかし、そんなメイリンの悲鳴が聞こえる筈もなく、デスティニーとレジェンドからビームが飛んでくるのだった。
今までの部隊とは違い、歴戦のパイロットのソレである鋭いビームをシールドで受けながら、アスランは仕方ないかと一つの切り札を切る。
ジャスティスでデスティニーとレジェンドの攻撃を受けながら、通信を繋いだのだ。
「待て! 攻撃を止めろ! こちらはミネルバ隊所属。フェイスのアスラン・ザラだ」
『えぇ!? アスラン!?』
「そうだ! 俺はフェイスの権限である極秘任務を行うべくジャスティスを動かした。しかし、何らかの誤解があり、この様な事態となっている! こちらに攻撃の意思はない!」
アスランは冷や汗を流しながら通信の向こうに居る仲間へと語り掛ける。
そして、シンは聞きなれた声にデスティニーのビームライフルを下ろした。
だが、そんなシンとは違いレイはビームライフルを下げないままアスランに鋭い声で問いを投げる。
『残念ですがね! アスラン! 我々はそんな命令を受けていない!』
「だから誤解なんだ! 俺は……!」
『そもそも! 議長は貴方にその様な命令を出してはいない! いくらフェイスと言えど、一大作戦の前に勝手な行動は敵前逃亡と同じだ!』
「それは……!」
『言い訳はそれで終わりですか!? アスラン! ならば、ここで落とす!』
『レイ!? 待てよ! アスランは!』
『敵前逃亡は死罪だ! ましてや地球連合軍とも協力し、ロゴスを討とうという、このタイミングに! この様な騒動を起こすとは! 許しがたい!』
『でもさ、まだ間違いだったって事に出来るだろ!? アスランが、基地に戻れば』
アスランを落とそうとジャスティスへ襲い掛かろうとするレイに対し、シンはレイを説得しようと言葉を尽くす。
その姿は対照的であり、そこに活路を見いだせないかとアスランは考えていたが、レイの視線は鋭く、レジェンドのビームライフルもジャスティスに向けられたままであった。
そして……この状況にアスランは一つの覚悟をする。
「悪いが、シン……。俺は基地に戻るつもりはない」
『え!?』
『……アスラン! 裏切るんですか!? セナの護衛を議長から任されているというのに!』
「……セナは、セナに俺は必要ない」
『アスラン!?』
アスランが呟いた言葉に、シンは驚き声を上げた。
そして、その言葉に強い違和感を覚える。
『セナを捨てて、どこへ行くつもりなんだ……! アスラン!』
「キラの元へ! 俺は行く!」
『っ!』
『議長はあなたにそんな事を命じてはいない! 自分勝手な行動は許されませんよ! アスラン!』
シンがアスランの言葉に飲まれてしまった為、レイはこれを機とみてアスランへと襲い掛かった。
ビームサーベルを抜き、ジャスティスへ向けて振り下ろす。
それをアスランはビームシールドで防ぎながら叫んだ。
「そうだとも! これは俺の、俺自身の意思だ!!」
『その様な考えが通るものか! まがい物が! 偽物が! 何を言おうと!』
「あぁ、そうだ。俺は偽物だ。お前やシン・アスカが知るアスラン・ザラじゃない! だが、それでも! 俺はそれでも! キラを護ると、誓い! その役目と共に生きる事を決めたのだ! 他でもない! 俺自身に! 誰よりも! アスラン・ザラとしてある為に!」
『戯言を!』
レイはアスランの答えに激昂し、背中に取り付けられてたドラグーンシステムからビームを一気にジャスティスへと放つ。
ジャスティスはそれを受けながら、うまく海上へ……基地から外れた場所へと逃げようとするのだった。
しかし、レイはその動きに気づきジャスティスを追う。
そんな二人のやり取りを見ながらシンは……誰もいないコックピットの中で一人、呟いた。
「……アスランが、偽物で、キラさんを……?」
そして、スッと目を細めてから小さく頷いた。
全てが理解出来たとでもいう様に。
「それでも、俺は……平和を作らなきゃいけない……そうだよな。ステラ」
シンはキュッと唇を強く締めて……決意を瞳に宿らせるのだった。
自らの役目を……果たす為に。
アスランとレイの戦いは激しさを増してゆき、荒れ狂う海の上でビームライフルを撃ち合い、ビームサーベルで斬り合う。
その戦いに明確な優劣はなく、レイはどこか攻めあぐねている様であり、アスランは逃げる隙を見つけられずにいる状態だった。
拮抗状態ともいう様な状況の中、その拮抗を崩したのは基地の方角より高速で飛来する一機のモビルスーツ……デスティニーであった。
デスティニーは一瞬で戦場へと飛び込むと『MMI-714 アロンダイトビームソード』を構えながらジャスティスへと襲い掛かった。
「……アンタは、ここで落とす!」
『シン!?』
『シン! 挟み撃ちにするぞ!』
「いや、レイは向こうの相手をしてくれ!」
『向こう……? これは!?』
レイがシンの言葉に疑問を抱きながらレーダーを見れば、敵の反応をした光が続々とこの空域に集まっていた。
そして、肉眼でそれを捕らえてみれば、それは地球連合軍とZAFTの混成部隊であり、中の人間の事など考えていない無茶苦茶な軌道でレイに襲い掛かる。
『これは!?』
「モビルドールシステムだ! 誰かが、ジブラルタル基地のモビルスーツを操っている!」
レイの問いにシンは短く答えながらジャスティスへとなおも襲い掛かった。
無論、その間にジャスティスを援護する様に襲い来るモビルスーツも切り捨ててゆく。
その圧倒的な力に、アスランもまた追い込まれていくのだった。
シンの刃には迷いがなく……真っすぐにジャスティスのコックピットを狙っている。
そのことに恐怖を覚えたメイリンは、幾多のモビルスーツを操りながら通信でシンに叫んだ。
『シン! 私達はただ、キラさんを探しに行きたいだけなの! だから!』
「……メイリン」
『ZAFTもプラントも攻撃する気はない! ただ……』
「そうか」
シンは短くメイリンの言葉に頷くと、再び攻撃を再開した。
その刃にも、やはり迷いはない。
ジャスティスを撃墜する。
アスランとメイリンを殺そうと刃を振るっている。
戦士として、ただ敵を排除する為に戦っていた。
『『シン!?』』
「関係ないんだよ! もう! ロゴスを討って! 世界を平和にする。それはキラさんの願いだ。セナの祈りだ。だから……! それを邪魔する奴は……誰であろうと俺の敵だ!」
『止めろ! シン! 俺は!』
「終わりだ……! アスラン!!」
『シン!』
「メイリン!!」
そして。
デスティニーを迎撃するべくビームライフルを乱射したジャスティスであったが、デスティニーはアロンダイトビームソードを構えながら分身を繰り返し……雷鳴の中、ジャスティスへと突撃しながら、その体を貫いた。
デスティニーはアロンダイトビームソードを手放しジャスティスは海へと落ちてゆく。
それから少しして海中より大爆発が起こり……ジャスティスがレーダーから信号を消すのだった。
それだけでなく、レイを襲っていたモビルスーツも糸の切れた操り人形の様に海へと落ちてゆく。
『やったのか? シン』
「あぁ。コックピットを貫いた。生きている筈がない」
『そうか……よくやったな。シン』
「当然だ。これ以上……平和を邪魔されてたまるか」
シンはそう吐き捨てて基地へと帰還する事にした。
そしてモビルスーツハンガーにデスティニーを戻してから機体から飛び降りる。
ドクドクと早い心臓の鼓動は、戦闘が終わってからも止まる事はなく、流れ落ちる汗は雨で洗い流されているが、それでも異常な量が流れ落ちていた。
「シン! レイ!」
「……ルナ」
「ちょっとミネルバで寝てたらさ。なんか大変な事になってるじゃない。どうしたの?」
「この非常時に寝ていたのか」
「しょうがないでしょうが! 私、今日非番だったんですからね!?」
いつもの様に、言い争いをするレイとルナマリアを見ながらシンは小さく息を吐いた。
酷く緊張している。
「ちょっと、どうしたの? シン。酷い顔してるわよ?」
「ルナ」
「う、うん。なに?」
シンの様子がおかしいことに気づいたルナマリアが土砂降りの雨の中、立ち尽くしているシンの頬に降れるが……シンはそのままの体でルナマリアを真っすぐに見据える。
その赤い瞳に込められた強い想いに、ルナマリアはドキリと心臓が跳ねるのを感じたが……シンの口から放たれた言葉に、まったく別の意味で驚愕を覚えてしまうのだった。
「メイリンが、死んだ」
「……え?」
最初はシンが言っている言葉の意味が理解出来ず、ルナマリアは意味のない言葉を零しながら手をさ迷わせた。
だが、シンはそんなルナマリアに強く現実を向ける。
「アスランがジャスティスを奪って逃走した。そして、アスランを助けて共にメイリンも逃亡した」
「いや、待って。待ってよ」
「核動力の機体が、奪われた場合。連合とZAFTの同盟が壊れる可能性がある……せっかく見えた平和が……消えるかもしれない。だから、俺は……ジャスティスを撃墜した」
「それって……え?」
「ジャスティスに乗っていたアスラン、メイリンは……」
シンはゴクリと唾を飲み込み、ルナマリアを真っすぐに見据えながら口を開く。
「アスランとメイリンは、俺が殺した」
ザァザァと振り続ける雨が、立ち尽くすシンとルナマリアとレイを濡らしていた。
理解出来ない現実を彼女たちに突きつける様に。
この世界の絶望を再度見せつける様に。
世界の冷たさを、教える様に。
ただ、ただ降りやまぬ雨が……いつまでも彼らの前に、降り続いていた。