ギルバート・デュランダルが全世界へ行った演説を始まりとして、世界は大きくその姿を変えようとしていた。
世界を平和とする為に、東アジア共和国を中心とした地球連合内の反ロゴス勢力がZAFTと合流し『対ロゴス同盟軍』を結成。
対ロゴス同盟軍はヘブンズベース基地へと侵攻し、基地を包囲。
ヘブンズベース基地の武装解除と、ロゴスメンバーの引き渡しを要求した。
「要求への回答期限まであと5時間」
「やはり無理かな。戦わずに済めばそれが一番良いのだがね」
そして、対ロゴス同盟軍に中心人物であるギルバート・デュランダルは、旗艦であるミネルバのブリッジで未だ動きのないヘブンズベース基地を見ながら静かに呟いていた。
「全軍。いつでも攻撃は可能ですが」
「いや、こちらから撃ってはいけないよ。我々は正義の味方なのだからね」
「は、はぁ……」
「世界が我々を見ている。セナ姫の意志を実行できるものなのかどうか。それをどうか忘れぬ様。皆に徹底してくれ」
「はい」
「しかし、向こうから仕掛けて来る事があれば」
「無論。即時応戦だ。セナ姫にはその際に全世界へと言葉を向けていただく予定だ」
「おぉ……」
「それは素晴らしい」
「では、どの様に転んでも、これで世界は平和となりますな」
何処か呑気な顔をしながら笑うZAFTの高官たちを見ながら、デュランダルは目を細めて笑う。
実に愚かな物だと、心の中で吐き捨てながら。
そして、準備は全て完了しているとでも言う様な対ロゴス同盟軍に対して、ヘブンズベース基地は現在慌ただしく戦闘の準備を行っていた。
『C18から31ゲートはこれより閉鎖されます。各員……急いでください』
『最終チェック急げ!』
『全区画、Fクラス施設の地下退避を開始する。防衛体制オメガ発令』
『第七機動軍、配置完了』
『ニーベルングへのパワー供給は30分後に開始する』
「ふん、通告して回答を待つか。デュランダルはさぞや今、気分の良いことでしょうよ」
「だがこれで本当に守りきれるのか?ジブリール」
慌ただしく兵士たちが動き回るヘブンズベース基地の中で、指令室の奥に座ったロゴスメンバーたちは不安そうな顔でジブリールを見ていた。
だが、ジブリールはそんな彼らに鼻を鳴らし、吐き捨てる様に言葉を向ける。
「守る? 何を仰ってるんですか! 我々は攻めるのですよ。奴らに、今日! ここから! 我々を討てば戦争は終わり平和な世界になる? そんな言葉に易々と騙されるほどに愚かです。確かに民衆は。だが、だからこそ我々が何としても奴を討たなければならない!」
「むぅ……」
「本当に取り返しの付かないことになる前に、この世界は奴とコーディネイター共のものになる前にです」
「確かにの。我等を討ったとてただ奴らが取って代わるだけじゃわ」
「正義の味方や神のような人間などいるはずもないということを我々は知っていますがね」
「しかし、それを自称する事は出来る。人間の世界は人間で守らねばな」
「そういうワケです。これは我々人間が! あの化け物共から自由を取り戻す為の戦い! いわば聖戦なのです! それをお忘れなきよう!」
「……あぁ、そうだな」
「では準備が出来次第始めます。議長殿が調子に乗っていられるのも、もうここまでだ。格好を付けてノコノコと前線にまで出てきたことを奴にたっぷりと後悔させてやりましょう。あの世でね!」
そして、ヘブンズベース基地へと攻め込む為の切り札として、ミネルバへ来たある機体を見上げながらシンは一人思考を巡らせていた。
ジブラルタル基地へと、パイロットもなしに突如として舞い降りた白亜の機体を。
「シン君。どうしたんですか?」
「セナか。まだ時間はあるけど、もうパイロットスーツ着たんだ」
「そういうシン君も着てるじゃないですか。同じですよ」
「俺はほら……パイロットだしさ。いつでも出られる様にするのが大事だから」
「そういう事でしたら、私も平和を求めて戦う人なので。いつでも出られる様にする必要があると思っています。ホープと一緒に」
「……」
朗らかに笑うセナに、シンは一度口を開き……言葉を発しようとしたが、出来ず飲み込んだ。
そして、大きく息を吐いてから再びセナへと話しかける。
「セナはさ。この戦いが終わったら世界は平和になると思う?」
「なると思います。争いを起こす人が居なければ、世界は自然と平和になっていくと」
「居なくなれば……か」
「シン君?」
「いや。大事な事だなって思ってさ。俺も」
「シン君……!」
「『倒すべき相手』を倒して、世界を平和にする。俺もそうするべきだって信じてる。だから、その為には、きっと躊躇しちゃいけないんだな」
「……ステラさんの事を、気にしているんですか?」
「っ!」
「それなら心配は要りませんよ。ステラさんの言った様に。ステラさんのクローンはもう居ません」
「……セナ」
「それに。あの基地に居る可哀想な子達も……みんな。私が『助けますから』」
強い意志の込められた瞳に。
輝くような虹の虹彩に。
シンはゴクリと唾を飲み込んで、目を伏せた。
そう。セナの言う通り、これから行われるのは戦争ではない。救済だ。
あの基地に居るステラと同じ様に改造され、戦いを強要された子供達は救出される。
そして、連合兵もまた、誰一人として殺される事はない。
何故なら、彼らも戦う事を強要された人間でしか無いのだから。
「ならば。俺たちがやるべき事は、セナを守る事だな。シン」
「……レイ」
「レイ君!」
「二人とも早いな。俺はルナマリアの小言に付き合わされて、随分と遅くなってしまった」
「誰の何が小言だって言うのよ! アンタは!」
「……ルナ!」
「シン。ウジウジ悩むのも、アンタ達にソレをぶつけるのも今は終わり。私は、こんな事が二度と起こらない世界が欲しいの。だから、戦う。あの子の分まで」
「ルナ……俺は」
「だから、アンタも……気にするなとは言いたくないけど。戦場にソレを持ち込むのは止めなさい。それで死んだら、私、今度こそ駄目になっちゃいそうだから」
「ごめん」
「謝って何かが生まれるワケじゃない。そうでしょ? だから……今度こそ、何かあるのなら、相談して」
「あぁ」
「じゃあ、話は終わり。後の話は全部、戦争が終わって、平和になってから。良いわね?」
「あぁ」
「問題ない」
沢山泣いたのだろう。
目を真っ赤にしながら、それでも強く言葉を向けるルナマリアにシンとレイは静かに頷いた。
そして、そんな三人を見ながらセナは自らの機体『ホープ』へと向かい、ミネルバから静かに出撃した。
『こちらヘブンズベース上空です』
『デュランダル議長の示した要求への回答期限まであと3時間と少しを残すところとなりました。が、未だ連合軍側からは何のコメントもありません』
『このまま刻限を迎えるようなことになれば自ら陣頭指揮に立つデュランダル議長を最高司令官としたザフト、及び対ロゴス同盟軍によるヘブンズベースへの攻撃が開始されることになるわけですが、ここは基地施設の他にも軍事工場を擁する連合軍の一大拠点です』
『開始されればその戦闘はどちらにとっても熾烈なものになることが予想されます』
未だ戦闘が開始されていないその場所では、ヘリコプターがヘブンズベース基地から離れた空域より、ヘブンズベース基地を囲む艦隊やヘブンズベース基地を映しながら報道をしていた。
そして、その緊迫した空気を全世界に伝えていたのだが……。
ヘブンズベース基地の中では既に悪意が動き出そうとしていた。
「全軍、配備完了しました」
「では始めましょう」
「しかし……よろしいのですか?」
「問題はないでしょう。おおよその予定通り、セナ・ユラ・アスハは自らの機体で出撃をしている。アレさえ傷つけなければ後はどうなっても良い。そういう状態となっている」
「それは……確かにそうですが」
「それに……先手必勝と言うでしょう? どうせ戦うのです。向こうは追い込んだつもりかもしれないが、実際そうではないのだから」
「……承知いたしました」
ヘブンズベース基地の司令官は帽子を深く被りながらジブリールの命令に頷いた。
そして……。
「全軍攻撃開始!」
遂に、その命令が放たれたのである。
ヘブンズベース基地が動きを見せた事で、ミネルバのブリッジではその報告が即座に上がった。
「敵軍ミサイル発射!」
「ええ!?」
「まさか、本当に撃って来たというの!? 世界中の人間が見ているというのに!」
『……では、デュランダル議長。ホープ出撃します』
「あぁ。よろしく頼むよ。セナ」
『はい』
そして、急激な事態の変化に、予測はしていても気持ちが追いついていなかった者達を置いて、セナもデュランダルも淡々と物事を進めてゆく。
ふわりと上空に舞い上がったホープは衝撃的な速さで空を駆けながら、最前線を超えて、誰よりも前に立ち、ホープの両手を広げた。
「ではシャアさん。操縦をお願いします。私は基地を」
セナが呟きながら高速でキーボードを叩き、画面上に広がる基地を赤く染めながら飛来するミサイルを全てその場で自爆させる。
そして、セナが最前線まで来ているという事で、慌てて飛び出して来たヘブンズベース基地のモビルスーツやモビルアーマーも全て機能停止に追い込んでゆくのだった。
「無駄な抵抗は止めて下さい。私は犠牲を望んではいません」
『隊長! 機体が動きません!』
『えぇい! 緊急マニュアル始動! セナ様を確保するのだ!』
『敵モビルスーツ前面に展開! 来ます!』
『くそ……! コーディネーターめ……! セナ様を利用するとは……!』
『生体CPU、リンケージ同調率87%。システムオールグリーン』
『X1デストロイ、発進スタンバイ』
『けっ……ようやく出番かよ』
『スティング! 僕らでやっつけるんだろ!』
『あぁ! 行くぞ! アウル!』
『ステラとネオとキラの仇だ!!』
「来ましたか」
セナはコックピットの中で小さく呟きながらヘブンズベース基地の地下より上昇してきた機体を見やる。
それはベルリンで現れた黒い破壊の化身であった。
だが……。
「外部とのシステムを切っていても、私には関係ありません」
ホープは急激に加速し、デストロイへと接近するとホープの手で触れて、システムの内部へと侵入する。
俊敏に動き回りながら、それを繰り返して……ホープに触れられた順にデストロイは何も出来ぬまま機能を停止させていった。
更に、それでホープの動きが止まる事はなく、ホープは基地の中心部へと降り立って外部から切断した筈のシステムへと入り込み、そのシステムを全て掌握していった。
「戦いは必要ありません。武器も、憎しみも」
「もうこれ以上の悲しみは必要ないのです」
「私は皆さんの命を奪う様な真似はしません」
「願う事はただ一つ」
「共に、平和の世界へ参りましょう」
ホープはヘブンズベース基地に居る全ての者へと語り掛け、戦う術を奪われた彼らは一人、また一人とセナの元へ投降するのだった。