ホープとセナという圧倒的な暴力によって、ヘブンズベース基地は平和的に陥落した。
犠牲者は一人も出ていない。
報道でも、その戦いを見守っていた全ての人も、セナという救世主に拍手を送り、喜びをあらわにしていた。
ただ一人、その報道を見ていたキラ・ユラ・アスハを除いて。
「……」
「キラ。怖い顔をしておりますわね」
「そりゃあね。こんなモノ見せられたら、そんな顔くらいするよ」
隣に座っていたラクスの言葉にキラはため息と共に苛立ちを口にする。
「確かにホープはシャアさんが操縦してるから危険なんか無いだろうけどさ。それでも敵基地の中心まで一人で行くなんて……」
「キラはこんな事態になってもセナ様の事が大切なのですね」
「当たり前だよ。可愛い妹なんだからさ」
「ふふ。そうですわね」
「でも……そっか。シャアさんはセナの味方になる選択をしたんだね」
「残念ですか?」
「そうだね。うん。残念。残念かな……。でも、僕よりセナの方がお母さんっぽいしなー」
「お母さん? ですか?」
「うん。なんかね。アムロさんが言ってたの。シャアさんはお母さんっぽい年下の女の子が好きなんだって」
「まぁ」
「だからさ。セナに協力しようって思ったのかなって」
キラは苦笑しながらラクスに語り掛け、二人がオーブの地下でよく喧嘩していた事を思い出す。
そして、ソファーに深く沈み込みながら息を吐いた。
「もしくは」
「うん?」
「その想いに共感したのではないでしょうか」
「セナの理想に? 無いと思うけどね。あの人の理想は、多分セナの考えとは遠い場所にあるだろうから」
「そうなのですか?」
「まぁ、何となくだけどね。あの人はもっとロマンチストな感じだった。人の可能性。希望とかを信じているタイプの人だよ」
「……では、やはり」
「うん。セナをお母さんにする為に……」
「おい。いつまで冗談みたいな事を言っているんだ。お前たちは」
「あ。カガリ」
キラとラクスでふざけた様な話をしていると、後ろから呆れた様な声のカガリは声をかけて来た。
そして、目はジトっと握り合わせられた二人の手に向けられている。
「この非常事態に。何をイチャイチャしているんだ。お前たちは。ったく」
「そんな。自分はそういう相手がいないからってひがみは良く無いんじゃない?」
「バカにするな! 私だって、それはもうモテモテなんだからな」
「それは知ってるよ」
「なに!?」
「国防軍でさ。最推し姫様投票! とかやってて。一位は断トツでカガリだったもんね」
「何ィ!? なんだ、その話は! 私は知らないぞ!」
「いや、知ってる訳ないでしょ。仮にも自国の王族に人気投票って……下手したら不敬罪だよ。不敬罪」
「あら? でも、キラもオーブのお姫様ですわよね?」
「僕は良いんだよ。僕は。お姫様権限で、カガリとセナの二人に千票入れたしさ」
「まぁ……!」
「何をやっているんだ! お前は! そういう企画をやっているのなら私にも声をかけろ! 今すぐ我が最愛の妹たちに一万票ずつ入れて来るというのに!」
「キラもカガリさんも、あまり皆さんを困らせてはいけませんよ」
「「……?」」
「自覚が無いのも、困りものですわね」
ラクスは天然姉妹に苦笑しながらため息を吐いた。
そして、カガリが来たという事で、ソファーから立ち上がり、移動を始める。
「ヘブンズベースが落ちた以上、デュランダルの次の狙いはオーブだ」
「あんまり考えたくないけどね。セナだっているんだし」
「だが、セナの力は見ただろう? アレが出来るならとオーブへの侵攻を許す物は多いだろう」
「確かにね。でも、オーブは僕やセナが居た国だから、ハッキングで制圧できなかった。とか何とか適当な事言えば焼く事も出来るしね。状況は最悪かな」
「しかし、逆に言えば、オーブ侵攻は、奴らの隙となる」
ズンズンと通路を進んでいたカガリが不意に足を止め、振り返りながら告げた言葉に、キラは眉をしかめて怒りをあらわにした。
「まさか、国を囮にするって言うんじゃないだろうね? カガリ」
「そのまさかだ」
「カガリ!」
「なんだ」
キラは今にも飛び掛かりそうな勢いでカガリに迫り、カガリもまた強くキラを睨み返す。
二人の意志は互いに揺れず、変わらず、強くぶつかり合っていた。
「二人とも、争うべき相手を見誤ってはいけませんよ」
「でもさ! ラクス!」
「キラ。カガリさんが、オーブを巻き込むという決断を容易くしたと、本気で思っているのですか?」
「それは……! そうじゃないと、思うけど」
「であれば、その訳を知らねばなりません。感情的に否定してはカガリさんも可哀想です」
「う……うぅ……ごめん、カガリ」
「いや、良い。ラクスもすまない。だが、私はキラにどれだけ罵られても構わないと思っている。これはそういう決断だ」
「……なんで、オーブ侵攻を許すの? その前に止める事は出来るでしょ?」
「セナを、明確に私達の敵とする為だ」
「っ!」
「無論、オーブ侵攻前に止める事は出来るだろう。だが、今セナは世界の救世主として動いている。罪なき民の味方だ。ここでセナと敵対しても、最悪私達は世論に敗北する」
「だから……オーブへと侵攻させる」
「そうだ。オーブを攻める彼らの姿は、セナが世界の救世主として動いていない確たる証拠になるだろう」
「ですが、セナさんは確かに世界の為に動いています。その精神を見れば、民衆は例えオーブが焼かれたとしても、セナさんが正しかったと考えるのではないですか?」
カガリの計画に、ラクスは一つの疑念を返した。
だが、その疑問にはキラが応える。
「それは無いよ。ラクス」
「え?」
「セナはね。確かに世界の為に動いているかもしれないけどさ。セナは一人で動いている訳じゃない。セナの背後にはデュランダル議長がいる」
「あ……」
「そして、我々には要塞メサイアの情報もある。真実セナと共に世界の平和を目指す男が、ジェネシスを隠し持っていた。その事実を民衆が知った時、こう考えるだろう。もしや、セナ様は騙されているのでは無いか。とな」
「僕とカガリはラクス達と一緒に行動してるからね。比べっこする訳じゃないけどさ。前大戦の時から一緒の人は、僕らの方が多いから」
「……そう言えば、そうですわね」
「だからさ。確かにコレは隙になるんだよ。それは間違いない。だから……後は国を巻き込む事を、僕がしたくないってだけ」
「キラ……」
キラは拳をギュッと握りしめながら、その拳を静かに見つめた。
そして、今の状況を言葉にしながらまとめる。
「僕の新しい機体は完成した。イザーク達もオーブ侵攻が始まる前までには戻ってくる。宇宙からの降下部隊はギナさん達が抑えてくれる……けど、それだけだ。ZAFTも連合も層は厚い。数で押し切られたらどうしようもない。一人で一部隊を抑えられる様な人の数が……足りない。せめてアスランとか、オルフェ君とか……アークエンジェルが居てくれれば」
「なら、私が居るだろ」
「バカ言わないでよ。カガリの戦闘なんか絶対に許可しないからね。向こうは喜んでカガリを殺しに来るよ」
「だが! 私にも戦う力が……!」
「そういう話はもう何度もやったでしょ! 戦える事が重要なんじゃないの! 戦うべき人かどうかが重要なの! カガリは違う!」
「っ!」
キラは先ほど以上の剣幕でカガリを黙らせる。
そして、ハァとため息を吐いてから、部隊について悩み続けるのだった。
「侵攻を許せば、きっと向こうはオーブを滅ぼすまでやってくる。そうじゃなきゃ彼らは不穏分子を残す事になるから。徹底的に叩いて黙らせるだろうね」
「……そうですわね」
「だからオーブを完璧に守り切るだけの戦力が必要なんだけど……デュランダル議長はこっちの動きを読んで、先手先手を打ってきてるからね。アークエンジェルを逃がせなかった事が本当に悔しいよ」
「キラ……」
カガリは気分に少し影を落としながらキラに問いかけた。
「ラウ・ル・クルーゼはどうなんだ」
「無理。ラウ兄さんには宇宙に居て貰わなきゃ。ラウ兄さんが地上に降りたって分かったら、デュランダル議長は喜んで宇宙を攻めて来るよ」
「では、ネオ様も」
「ネオさんにはやって欲しい事があるから、動かせない」
「そうだ! ミネルバにはシンとレイが居ただろう! 二人に戻ってきて貰おう!」
「出来るワケが無いだろ? 二人はセナと凄く仲が良いんだよ? セナを裏切れるわけがない」
「だがな!」
「それに、僕はさせたくないよ。大切にしている子と敵対するなんて事はさ……」
「キラ……」
親しき人に銃を向ける辛さを知っているからこそ、その決断を大切な子達にさせたくはないとキラは考える。
だが、そうなればもう戦力が存在しない事は確かだった。
「では。
「……っ!? ラクス!? でも、君は!」
「えぇ。
「でも……危険だ!」
「ならさ。ラクス様が二人になれば、向こうもどっちを狙えば良いか分からなくなるんじゃない?」
キラがラクスの肩を掴みながら、何とか説得しようと言葉を重ねていた時、通路の向こうからラクスとよく似た声が響いた。
その声にキラが反応して顔を上げれば……そこにはラクスとうり二つの少女。『ミーア・キャンベル』が壁に寄り掛かりながら立っているのだった。
「ミーア……!」
「ちょうどさ。話が聞こえたから。声かけちゃった。ごめんんね」
「いや、それは良いんだけど……でも、ミーアの話。どういうつもり?」
「どういうも、こういうも無いよ。ラクス様が地上に降りるなら、私は宇宙で活動を始めれば良いって話。地上でラクス様が演説してても。私がエターナルで戦闘してたら、向こうはどっちが本物か分からないでしょ?」
「それはそうだろうけどさ! 危ないよ!」
「分かってるよ。でも、それはキラだってラクス様だって、そっちの子だって同じでしょ。私だけ守られてるだけなのは納得できない」
「ミーアさん……」
「それにさ。デュランダル議長に私、仕返ししてやりたいの。後、あの性悪女に!」
「性悪女って、偽物のラクスの事か?」
「そう! ホント正確悪くて! 最悪だったんだから! だから、アイツを騙して、それで、ざまぁみろ! って言ってやるの!」
「……ミーア。君って奴は」
「だから、これは私の復讐でもあるわ。ラクス様が上に立ってないと、私もライブとか出来ないしね。やりたい事が出来ないっていうのは、凄いストレスなんだから!」
腰に手を当てながら、胸を張って、命を懸けるにはどこか遠い理由を並べるミーアにキラはため息を吐いた。
そして、分かった。と呟く。
「じゃあミーア。エターナルをお願い」
「私に任せなさい!」
「バルトフェルドさん達を困らせちゃ駄目だよ」
「大丈夫。大丈夫」
ミーアは軽く手を振りながら、キラの心配をよそに安請け合いをするのであった。
そんな新たな心配も生まれてしまったが、ラクスが地上に降りるメリットは大きい。
何故なら彼女はコーディネイター達にとって大きな存在なのだ。
そんな彼女がオーブを攻めるべきではないと言えば、その言葉はZAFT兵にとって大きな意味を持つだろう。
彼らの侵攻が弱くなれば、護れる可能性もあがる。
「後は……何とか戦力をかき集めて……世論を動かすまで耐えるしかないか」
「頑張りましょう。キラ」
「世界を護るんだ。私達の手で」
「そうだね。そして、全部終わったら、セナにうんとお説教してあげなきゃ」
そして、キラはラクス、カガリと手を重ね合い。
ここに新しい誓いを立てた。
これから始まる最後の戦いの為に。