ガンダムSEED Re:   作:とーふ@毎日なんか書いてる

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本日2話更新しております。



第22.5話『お、俺は! カナード! カナード・パルスって呼ばれてた!』

 月面都市コペルニクスを離れ、地球へ向かったラウは、様々な場所を訪れ、ヴィアの痕跡を探していた。

 復讐か。もしくは引き金を引いてしまった理由を問いただす為か。

 ラウ自身にも行動の理由は分かっていなかったが、何かを求めてラウは世界を巡っていた。

 

 そんな中で、ラウはセナと出会ったユーラシアの地にも訪れ、懐かしさを感じながらも街を歩き……ふとした瞬間に何かの声を聞いて、立ち止まった。

 今にも消えてしまいそうなか細い声は、どうやらラウにしか聞こえない声で、頭の中に直接響いてくる様な声であった。

 

 ラウは自身も昔セナに救われた事を思い出しながらその場所へと向かい、小さな小屋の中でその少年を見つけた。

 ろくに食事もしていないのだろう。

 痩せた体で整えられていない少し長い黒髪の隙間から、ラウに鋭い目が向けられる。

 怯えている様な、今にも泣きだしてしまいそうな目だ。

 しかし、怯えながらも少年はまるで獣の様に勢いよくラウへと飛び掛かって来た。

 

「……!」

「ぐあっ!」

 

 だが、所詮は子供と大人。

 少年がラウに勝てる事はなく、少年は容易くラウに弾き飛ばされ、地面に倒れる事となった。

 

「コーディネーター。それも並のコーディネーターでは無いな。それにアメジストの瞳。メンデルの子か」

「なんだ……アンタは」

「別に君を追って来た訳じゃない。ただの通りすがりさ。しかし、その腕に付いた発信機。そのままではいずれ君を追う者に捕まってしまうだろう」

「っ! 殺せ……あそこに戻るくらいなら、もう……俺には」

 

「惜しいな」

「……?」

 

 ラウはかつての自分とよく似た少年を見据え、懐から一つの簡素な機械を取り出した。

 それはかつてラウに光を与えた子が作った機械の一つであり、あらゆる電子ロックを外す事の出来る端末だ。

 

 それを少年の腕に翳し、電子ロックを外すと少年の枷でもあった発信機を持って小屋から出て行くのだった。

 

 少年は何が起きているのか分からないままラウの背について行って、ラウが少年のつけていた枷を崖下の深く流れの早い川に投げ捨てるのを目撃した。

 

「……?」

「これで、お前を追っている連中はお前が川に落ちたと思うだろう。そのまま溺れて死んだと思うかもしれない。どうなるか、それは私にも分からないが……君は自由だ」

「じ、ゆう」

「何をしても良い。どう生きても、君を縛るモノは何もない」

「アンタ、は……! なんで」

「私にも分からぬよ。ただの気まぐれだ。だが、いつまでもこんな所に居ないで、逃げたらどうだ? また捕まりたくは無いだろう?」

「アンタは、どこに行くんだ」

「さて、な。どこへ行きたいのか。どこへ向かうべきなのか。ただ、何も分からぬまま、さ迷うばかりだ」

「なら!」

 

 少年は、生まれて初めて希望を見つけたという様な顔で、ラウを見上げた。

 そのキラキラとしたアメジストの瞳に、ラウはセナやキラを思い出してしまう。

 

「なら、俺も、アンタに付いて行っても……良いか?」

 

 少年の姿は、かつての自分の姿に似ていた。

 少年の瞳は、自分を兄と慕う妹たちに似ていた。

 その瞳で、その姿で問われては、ラウに断る事は出来なかった。

 

 かつての自分を救済したいと考えたからか。

 もしくは、セナを救えなかった悲しみを癒す為か。

 ヤマト家で知った、他人を慈しむという感情に突き動かされたからか。

 

「……良いだろう」

「っ! ありがとう! ありが、とう!」

 

 ラウの返事に涙を流して感謝する少年に、ラウは、これが正しい選択だったのだと思い、笑みを零した。

 そして、サングラスを取りながら透き通る青空の様な瞳で少年に語り掛ける。

 

「では、まずは自己紹介といこうか。私はラウ・ル・クルーゼだ」

「お、俺は! カナード! カナード・パルスって呼ばれてた!」

「そうか。ではカナード。共に行こうか。あてのない旅へ」

 

 かくしてラウは、少年カナードと共に、地球の様々な場所を巡り、情報を集め、旅を続ける。

 しかし、やはりというべきか。

 何を知っても、何を求めても、ラウが生きる意味や目的は見つからず、ただ世界をさ迷うばかりなのであった。

 

「しっかし。人が多いな。ここは」

「大西洋連邦の首都だ。それなりに人が多いのも当然だろう」

「たいせーよーれんぽー?」

「あぁ。再構築戦争と呼ばれる戦争で誕生した国家の一つだな。西暦世界で世界の中心とも言える様な国が中心となって出来た国である為か。現在においても強大な力を有している」

「ふぅーん」

「興味無さそうだな」

「まぁな。別に知らなくても生きていけるし」

「まぁ、間違いではないが……何も知らずにいると、誰かに利用されるだけだぞ」

「ま。それに関しては問題ないだろ。ラウがこうやって教えてくれるしさ」

 

 カナードはカラカラと笑いながら、露店で買ったホットドッグに大口で噛みつく。

 美味いなと喜びながら、口の端にソースを付けて咀嚼する姿は子供そのものであり、ラウは教育を間違えたかとため息を吐くのだった。

 

 キラとセナはあんなに素直に育っていたというのに。

 何が違うのか。性別か。環境か。

 やはりヤマト家のカリダさんとハルマさんが重要だったのか。

 等、色々な事を考えながら子供の様な笑顔で食べ続けるカナードに向かって口の端に指をさし、汚れているぞ。と教えた。

 

「んぐ。んぐ。でもよ。利用って言っても、俺に出来る事なんて大した事ねぇぞ? ラウじゃねぇんだからさ」

「私の様に出来る必要は無いだろう。お前にはお前にしか出来ない事がある。お前の人間離れした身体能力は、私には無いしな。今回アズラエル氏の護衛が出来たのも。お前のお陰だ」

「まー。あの金髪。俺の事嫌いだったみたいだけどな」

「お前がコーディネーターだと気づいたからだろう」

「別に俺がコーディネーターだからって何か迷惑をかけたワケでも無いだろう? 面倒な奴だぜ」

「ふっ。誰も彼もがお前の様に単純ではないという事だ。色々あるのさ」

 

 ラウは、あれから日々悪化していく世界情勢を見据えながら、自分がどうするべきか考えていた。

 カナードの事もあるし。一度月へ戻るのも良いかもしれない。

 

 しかし、ヤマト一家はおそらく月を離れているだろうという事も予測していた。

 娘が、セナが殺されたのだ。キラだって深く傷ついているだろうし。

 そのまま悲しみが残る場所に居続けるとも思えない。

 

 そう考えれば、自分もあのまま月へ残り、キラを支えるべきだったとラウは今更ながら後悔してしまうのだった。

 衝動的に、憎しみのままヴィアを追ってしまったが、大切にするべきだったのは残されたキラだ。

 ……セナが居なくなってしまった世界で、ラウに残されたことは何か。

 それは、キラを守る事なのでは無いだろうか。

 

 ラウは移り変わる世界情勢の中、そんな事を考える様になっていた。

 

「……ふむ。カナード。オーブへ行ってみるか」

「オーブぅ? どこだ? 飯は美味いのか?」

「さてな。私も食べた事はない。オーブで住んでいた人たちの食事は、涙が出るほどに美味かったがな」

「そうなのか。じゃあ良いんじゃねぇか? あー、でも金髪はどうする?」

「アズラエル氏は、まぁ大丈夫だろう。システムへの侵入や、殺害予告も無くなった様だしな。契約は解除しても大丈夫な筈だ」

「なら良いんじゃねぇか? 俺は断る理由なんかないぜ。オーブの飯も食べてみたいしな」

 

 

 それから。

 ラウとカナードはムルタ・アズラエルと契約に関する話をして、惜しまれながらも大西洋連邦を離れた。

 そしてオーブへと渡り、エアポート近くの料理屋で、食事を注文しながら、やけに混んでいる人込みの中で行儀の悪いカナードにため息を吐いていた。

 やはり、教育の失敗か。と思いながら。

 

「だー! 人が多い! 前の所以上じゃねぇか!」

「そうだな。何かイベントでもあるのか」

 

 ラウも人がやけに多いなとは思っていた為、ひとまずカナードに頷く。

 

「おい。お嬢ちゃん」

「あ! はい! ご注文でしょうか!?」

「いや、ご注文はさっきしたんだけどよ。そうじゃなくて。なんでこの辺りはこんなに人が多いんだ?」

 

 カナードはラウが自分の意見に肯定した事で、この場所は何かがおかしい。何かがあるという事に気づき、近くを通っていた店員に話しかけて事情を伺った。

 店員はカナードのやや乱暴な問いかけにも笑顔で頷き、テレビを指さしながら事情を語る。

 

「あぁ、その事ですか! 実は先日政府から発表があったんですが! 五年ぶりに姫様が帰還されるんですよ」

「姫様ぁ?」

「そう。アスハ家のお姫様です! あ、とは言ってもカガリ様じゃないですよ。キラ様と、キラ様とカガリ様の妹君であるセナ様だそうです!」

 

 その名を聞いた瞬間、ラウは思わず椅子から立ち上がって、店員の少女を見つめていた。

 サングラスをかけている為、その表情は分からないが、驚いているという事は何となく少女にも伝わる。

 

「詳しいお話は、テレビを見て下さい! ここからでも大型モニターは見えますから!」

 

 少女はラウの反応に驚きはしたものの、笑顔で近くにある大型モニターを指差して仕事があるからと去って行った。

 そして、ラウは……モニターの向こうで、酷く懐かしい少女たちの姿を目撃する事になる。

 

『今! キラ様とセナ様を乗せたシャトルがエアポートに到着しました! あぁ! 見て下さい! キラ様です! 五年前と変わらない美しく凛々しいお姿はまさに月の姫君と呼ばれる神々しさがあります。そして! 見えますでしょうか。キラ様と共に居る車イスの御方こそ! キラ様とカガリ様の妹君、セナ様です! キラ様に似て、とても可愛らし……コホン! 失礼しました! 天使の様なお姿をしてらっしゃいます。私どもが入手した情報によりますと、セナ様も正式にアスハ家の養女となるというお話が……』

 

 ラウには、テレビの声も、キラたちを見て歓声を上げる周囲の声も聞こえては居なかった。

 サングラスを外し、幻ではないのだと確認する様に、モニターの向こうに居るキラとセナを見つめる。

 

「生きて、いたのか」

 

 一度は完全に命が失われた筈だった。

 しかし、生きていた。

 これ以上の幸福は無いだろう。

 ラウは数年の間に乾いてしまった空虚な心が満たされていくのを感じた。

 

 愛しい妹たちが生きていたのだ。

 ならば。

 ならば!!

 もはや意味もなく、世界をさ迷っている事など出来る訳がない。

 

「カナード」

「ん? どうしたんだ? ラウ。まだ飯は来てないぜ」

「プラントへ向かうぞ」

「は? いや、飯は!?」

「急げ。今は少しでも時間が惜しい」

「お、おい! 待てよ!」

 

「あれ? お客さん!? ご飯できましたけど!」

「金は置いてある!」

「くそっ! なら、皿ごと貰っていくぜ! ほれ! 金!」

 

 ラウは群衆をかき分けて、前に進む。

 目指す先はプラントだ。

 ブルーコスモスも、ナチュラルであるヴィアも。

 キラやセナを害する者が何も居ない場所で彼女たちを守るのだ。

 

 その為に、まずはプラントで生活する為の基盤を作る必要がある。

 コーディネーターにすら二人を自由にさせない為に。

 力を手に入れるのだ。

 

「その為なら……利用させて貰うぞ。パトリック・ザラ」

 

 ラウがプラントで力を手に入れるまで、オーブにキラたちを託し、ラウは進むのだった。

 今度こそ、何も失わぬ為に。

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